根をもつこと、翼をもつこと

「根をもつこと、翼をもつこと」(田口ランディ、新潮文庫、2006、単行本は2001年晶文社より刊行)


 いきなりで申し訳ないが、私は強い論調の毒舌女性作家が苦手だ。誰に対しても物怖じせず自分の言いたい事をはっきりと主張とする。その姿勢に異論はないのだけれども、ただ気合がいいだけで何だかなぁと嫌になってくる。また、インターネットを中心に活動している作家の作品もあまり読まない。それで、田口ランディもそういう作家だと思って敬遠してきた。名前も変わっているし、よくあるティーンエイジャーに人気の、私が苦手とする作家なのだろうと勝手に思っていた。先日、本屋をうろうろしていてこの本が目に留まった。帯の「世界は複雑だけど、それでも希望はある!わかったことにしないで考え続けたい。」という一文におや?と思った。田口ランディってどういう作家なの?ちょっと立ち読みしてみて、思い違いをしていたことに気がついた。と言う訳で、先入観を払拭するべく読んでみた。



 原爆やその被害者、原爆を題材とするアーティスト、水俣病、放射能事故、屋久島ルポ、身近な人のこと…とにかく題材が多岐に渡っている。日本中、時には海外へもあちらこちらへ歩き、人と出会い、考えて考え抜いて、思考が及ばず落ち込んでも深く深く考える。自分がどんなことを書きたいのかわかっていて、考えの偏りも自覚しているがそれでも書く。まずその姿勢に共感。自分の感情や想いを細やかな言葉で表現していく。作中の「船送り」というタイトルの作品の中で、内藤礼さんというアーティストのことを紹介している。彼女の作品の一つを見たランディ氏は、真っ白な紙の中にやっととても淡い円が描かれているのを見ることができた。「半端な覚悟では見ることすらかなわぬ」(45ページ)作品。ランディ氏も色鉛筆で淡い線を描いてみたが、どうやっても簡単に見えてしまう。ランディ氏は色鉛筆では淡い線を描くことは出来なかったけれども、文章では淡い世界を描いていると私は感じた。この本も「半端な覚悟」では読むのが大変だった。取り上げる問題は深刻であり考えも深すぎて、頭がついていけなくなる。それでも諦めずに読んでいくと、ハッと思う部分がいくつも出てくる。あまりにも多くて、ここじゃすべて書ききれない。

 「あの世の意味、この世の意味」の一節で精神科医・加藤清さんの言葉が書かれている。 「じっと、その事象を観続けていると、だんだんと、事象の背後にある意味が観えてくるものです。」(219ページ)「背後の意味」を探し続けるランディ氏。私ももっと考え続けたい。私は作家ではないし、文章に関しては全くのアマチュアだけれども、思考する人間として考え続けたい。そう思う。「文庫版あとがき」にある、「がんばらない、あきらめない、わかったことにしない」(329ページ)。この姿勢で「背後の意味」をじっと観続ける。簡単に出来ることではない。こういうことに挑んでいる人をすごいと思う。

 この本1冊で田口ランディの見方が大きく変わってしまった。エッセイだけじゃなく、小説も沢山書いているのだそうだ。こうなったら読むしかない。



 と思ったのだが、公式サイトを見てみようと検索したら、小説の盗作事件に関するサイトのほうが出てきた。盗作で2つの作品が絶版になってしまったのだそうだ。さっきまで先入観無しでいいなと読んでいたのに、何かその感動が壊れてしまった思いだ。

 ランディ氏の人間性を問うサイトも多い。この本の中にも猫を虐待したとか、部屋はゴミだらけという記述があった。それは問題である。でも、彼女が自分の弱さを表に出して葛藤する姿を文章にしていくのなら、むしろ私はそれを読みたいと思う。自分の弱さに妥協せず、開き直らずに自己を見つめていくのなら。私はこの本しか読んでいないので、ランディ氏の考え方や価値観をまだよく知らない。盗作や問題とされている人間性だけで判断するのは、まだ早いと感じるのだ。

 だからこそ、自分の言葉で語って欲しいと思う。たとえ売れなくても、受けなくても。自分が追求したいテーマがあるのだから、それを自分なりに見つめていって欲しい。「自分の言葉」を出すのは凄く難しい。私も時々ブログの記事で困ることがある。自分の意見を、思ったことを適切な言葉で表現できているか。素人でもこんなに困るのだから、物書きを職業とするプロなら尚更のことだ。一方でプロなんだからちゃんと書いてくれとも思う。プレッシャーはあるだろう。それもプロゆえだ。今じゃ素人でも人気ブログともなれば、毎回の記事に注目が集まる。その期待に押しつぶされてブログをやめてしまった人もいる。プロであれアマであれ、文章には悩む。それは皆同じ。だからこそプロならプロなりの文章を磨いて欲しいと思った。
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by halca-kaukana057 | 2006-08-15 20:41 | 本・読書


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