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「個性」を煽られる子どもたち




「『個性』を煽られる子どもたち 親密圏の変容を考える」(土井隆義、岩波書店・岩波ブックレットNo,633、2004)


 教育や現代の子どもに関することを考え、文章にするのはとても難しい。考えても答えの出ないことばかりだし、考えれば考えるほど目をそらしたくなることばかりでだんだん落ち込んでくる。だから教育関連のものはあまり読みたくないと思いつつも、やっぱり手が出てしまう。避けていても気になる相手。気がつけば教育関係のニュース記事をブックマークしていたり、本を読んでいたりする(でも金八先生とか女王の教室とかのドラマはパス。どうも受け付けない。もともとドラマは観ないという理由もあるのだが)。そんな複雑なことを考えつつも、この本を読んでみた。



 まず、今ここを見ている皆様へ質問したい。「個性」と聞いて、あなたはどちらが「個性」だと考えますか?
1、個々人が元々持っているもの。あらかじめ持って生まれてくるもの。
2、成長していく過程で伸ばしてゆき、変化するもの。社会の中で作り上げてゆくもの。



 この本によると、本来は2と考えられるものが、今の子どもたちは「個性」を1のようなものだと考えているのだそうだ。つまり、個性は自分の奥底にあって見つけ出すもの。そして、その個性は人と比較して判断するものではなく、絶対的なものと考えられている。社会の中で自分を作り上げてゆく個性は個性的ではないのだそうだ。その「個性」は誰にでもあるはずなのに、閉じた自分の中でしか確認することが出来ないのでよくわからない。個性的であることは良いことだと思うのに、個性が何か分からないのだ。

 また、今現在の感覚・そのままの感情を大切にしようとする。だから社会的ルールよりも自分の事を優先させたり、一つ一つの行動が結びつかないこともこれに由来する。ここで、「自分らしさ」とは自らの内発的な衝動であるはずなのに、例えば人によって態度を変えてしまうようにコロコロと変化する自分がいる。そんな変化するものは「自分らしく」ない。「本当の自分が分からない」と時々耳にする言葉はこういう理由から発せられるものなのだ。

 そこで、「本当の自分」を確認するにはどうしたらいいのだろうか…と出てくるのが他者の存在。「個性」は内から出てくるものだけれどもきわめてあいまいなもの。だからいつも誰かに認めてもらっていたい。ところが、現代は価値観や欲求が多種多様にわたっている。仲よくなれそうな人を見つけることが出来ても、その価値観や欲求の違いで傷つけてしてしまっては自分の存在まで危うくなってしまう。そこで、「優しい関係」というお互いの心の奥底には触れずその瞬間の感覚だけを共有する関係であり続けようとする。身近な人々に対して異常なほど敏感になり、過剰な配慮をし合って相手を、そして自分自身を守ろうとする。自分が考える「素の自分」を隠し、「装った自分」であり続けることを苦しいと感じていてもどうすることも出来ない。だからと言って一人になることも出来ない。常に誰かとつながっていないと、自己を保っていることが出来ないからだ。


 長くなって分かりにくくなってしまったが、大体こんなまとめになる。短くまとめると、

人は皆それぞれが特別な存在だ!作っていった個性なんて偽者だよ。
自分が変わっていくなんてありえない。
今感じていること、自分の中から湧き上がってくるものこそ「自分らしい」ものなんだ。

でも、自分らしさって何?コロコロ変わるんだけど?よくわかんない

このままじゃ個性的になれないよ。誰か助けてよ…

友達がいる。でも、変にキャラ出して気まずくなったらどうしよう…

当たり障りのない関係でいいじゃん。

でもそれって寂しくない?やっぱり個性的でなきゃ…

以下無限ループ


 これでは辛いのは当然だ。



 私の考えを述べると、まず、「個性」は伸ばすものではなく元からあるものという考え方がいつ頃から、どこから来たのかと疑問に思った。私は2だと考えていたから余計疑問に思う。しかし、これは今の教育にも原因があるようだ。この本の中で筆者は「心のノート」にそれが現れていると指摘している。
「自分の心に向き合い、本当の私に出会いましょう」
という部分だ。この本でも例としてあげているヒット曲「世界に一つだけの花」でも、「もともと特別なオンリーワン」とある。つまり、子どもたちがジレンマに陥る考え方を大人自らが普及しているのだ。「世界に一つだけの花」のこういう見方があったとは。教育だけじゃなく、社会全体の個性に対する考え方が変わってきている。

 現代の子どもたちに関する本とは言え、私自身や大人にも当てはまるものが多いとも思った。大人も子どもも、誰もが個性的でありたいと思う。でも、それを大人たちが勘違いしていないか。そして子どもたちに押し付けていないか。具体的な解決方法は提示されていない。でも、解決するヒントはこの辺にありそうだ。

 今まで見たことも無い社会の部分を見ることが出来た、そして自分を省みることも出来た本でした。難しいですが岩波ブックレットは薄いのでオススメです。



<追記>
 何故個性をもともと持っている絶対的なものと考えるようになってしまったのか、ちょっと考えた。個性は相対的なものである、つまり、誰か比較することで個性を知ることが出来る。誰かと比較することは今の教育の風潮ではあまりよくないことと考えられている。他の子どもと比べるよりも、個々人のいいところを見つけるほうが良い、と。つまり、個性も誰かと比較するのは良くないことで、もともと持っている(はず)のものを見つけ出すのが良いことと考えられるようになったのではないだろうか…と推測してみた。

 疑問に思ったのは、海外では個性はどう考えられているかということ。民族性や宗教による違いもあるかもしれないけど。
by halca-kaukana057 | 2006-10-15 23:00 | 本・読書

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by 遼 (はるか)
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