小さき者へ

 久々に重松清を取り上げます。何年も前に単行本で読んだのが文庫化されていたので再読。と言っても、ストーリーはほとんど忘れていた…。



「小さき者へ」(重松清、新潮社・新潮文庫、2006 単行本は毎日新聞社、2002)

 親子・家族にまつわる物語6篇を収録。息子(孫)と母(祖母)の複雑な関係に迷う「海まで」、離婚した両親の間にいる子どもたちの試行錯誤「フイッチのイッチ」、荒れる息子へ父が手紙を書く表題作「小さき者へ」他。


 この6篇にはすがすがしい作品もあれば、どう感想を書いたらいいのか分からないほど重いものもある。全てに共通するのは、皆本当に不器用に生きていること。身も心もズタズタで、迷い立ち止まってばかりばかりいて、すれ違ってばかりいる。でも、そこに私は現実を感じる。日本のどこかにこういう問題を抱え、今も奔走している家族がいるのかもしれないと感じる。


 この本を読んで励まされるとか、問題解決の役に立つ…というのを期待する本ではない。泣ける・感動するとも違う。厳しい現実に耐え切れず泣くのはある。私も「海まで」や「小さき者へ」のどうしようもない現実に耐え切れず涙が出そうになった。でも、その厳しい現実に目を背けない、ごまかさない姿勢がいい。「文庫版のためのあとがき」にもあるように、全6篇の問題は何も解決していない。だが、目的は結果じゃないと思う。問題に向き合う過程だけを描くところに「現実」への近さを感じる。現実にある問題は、すぐに解決できるもののほうが少ない。解決したと思っても、その後何年かしてからまた蒸し返されることだってある。時には現実を忘れて楽しいものだけを求めていても、いつかは現実に戻ってこなければいけない時が来る。だから、厳しい現実の真っ只中だけを描いたこの作品は、ちょっと貴重じゃないかと私は思う。


 以下は6篇それぞれの感想。
「海まで」
 重い…。この作品が一番重いんじゃないかと思う。祖母に嫌われた孫と、仲を取り持とうとする父。無邪気な弟の言動が、複雑な関係をますます際立たせているから嫌だ。

「フイッチのイッチ」
 イジメとシカトを勢いよく跳ね返す転校生・朋美と、僕・圭祐の共通点は両親が離婚していること。離婚しても子どもにとっては母も父も変わりない存在。でも、変わりつつある今に思い悩む2人。不一致が一致する矛盾に納得。たくましくも繊細な朋美に共感。

「小さき者へ」
 これまた重い。荒れる息子へ手紙を書き続ける父。そして父は自分の父(つまり祖父)のことを思い出す。祖父もまた息子とどう向き合ったらいいのか分からずにいた。すれ違いぶつかり合ってばかりで、家族はこんなにも悲しいものなのかと思う。悲しい存在だからこそ、側にいて欲しい・側にいたいと思うのかもしれない。

「団旗はためくもとに」
 一番すがすがしさを感じる。「なんとなく」高校を辞めようとする娘と元応援団長の父。「『押忍』の心」と応援することの意味がいい。

「青あざのトナカイ」
 経営不振でピザ屋を辞めた父。負けることは格好悪いけど、負けを認めることは格好悪いのだろうか。一番共感した話だと思う。

「三月行進曲」
 少年野球の監督をしている「僕」は、小学校を卒業しチームを引退した3人の少年を春の選抜が行われる甲子園に連れて行こうとする。中学受験に失敗したことを仲間に言えずにいるキャプテン、強いが意地っ張りで人の失敗を許すことの出来ないピッチャー、そのピッチャーの幼馴染で最後の試合でエラーを出しピッチャーに事実上絶交を言い渡したショート。その監督自身も父から離れつつある娘に思い悩む。
 個人的に、母親と娘の態度に嫌悪感。女同士のこういうところが嫌だ。キャプテンの父親が監督の子どもは女の子でいいですねと言うように、人は無いものねだりばかりして別の立場ならどうするかという視点を広げることをしようとしないのかも知れない。視点を広げようとしていても、結局は無いものねだりに戻ってきてしまうような。
 「青あざのトナカイ」に共通するものがあると思う。負けを認めることは格好悪いことではない。負けても終わりではないんだ。



 以上。まとめ切れていないのは消化し切れていない証拠です。こんな重苦しい話を消化することの方が難しいと思う。
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by halca-kaukana057 | 2006-11-12 16:15 | 本・読書


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