薄紅天女

 「薄紅天女」(荻原規子、福武書店、1996)
 

「勾玉」シリーズ第3作。そしてシリーズ最終作。


 武蔵の国に住む17歳の少年・籐太(とうた)と、謎の死を遂げた彼の兄の息子である同い年の甥・阿高(あだか)は、いつも一緒にいることや二人とも容姿がいいことから「二連」と呼ばれ、周囲の女性たちの話題にいつも上っていた。その阿高は、夜中に突然誰かに憑かれたかのように別人になって予言をする不思議なことがあり、それを知っているのは藤太だけで阿高自身も知らなかった。ある日、藤太はその別人になった阿高から「坂上将軍に阿高を会わせてはならない」と言い、自らを「ましろ」と名乗った。その翌日、閲兵式の予行の手伝いをしていた藤太は、蝦夷討伐の長に抜擢されたという坂上田村麻呂に出会い、ましろの言葉を思い出す。閲兵式の予行の夜、藤太と阿高はましろのことでけんかになり、阿高は外に飛び出してしまう。藤太の兄である父のことも分からず、母が誰であるのかはそれ以上に分からない。混乱した阿高は、彼のことを「巫女姫」と呼ぶ不思議な男たちに出会う。彼らは蝦夷で、陸奥で儀式を受ければその謎が解けると言い、阿高もついて行くことにする。一方消えた阿高を探す藤太は、坂上田村麻呂に会い阿高のことを告げる。すると、田村麻呂は阿高が伝説の勾玉の巫女の化身であり、その巫女が元は蝦夷にいたため巫女を取り戻すために蝦夷が阿高を連れ去ったと推測し、阿高を取り戻すために共に陸奥へ向かう。阿高の父が陸奥で死んだ後、武蔵の家の戸口の前に置かれていた赤ん坊の阿高が手にしていたという、半透明の勾玉を手にして。



 時代はさらに進み、奈良時代の設定。しかも、物語の最初の方は藤太の恋わずらいに重点が置かれているため、全くあらすじが飲み込めなかった。しかし、阿高が蝦夷について行った後からようやく謎が解け始める。蝦夷の女神・チキサニと阿高の父のこと、田村麻呂が帝から言い渡された密命、そして都に出て帝の一族を襲う怨霊。シリーズの中で一番入り組んだ話だと思う。でも、読み進めて行くうちに明かされる謎に惹かれ、ミステリーを読んでいる気分で見事にはまってしまった。途中から阿高と共に物語の鍵を握る天皇の娘・苑上も登場し、全部読まないとどういう話なのか全て明かされない。なんて巧い物語なんだ。

 物語自体はこれまでの日本神話が基になっているのとはちょっと違い、これまでの「空色勾玉」「白鳥異伝」の延長上の話に、「更級日記」に出てくるという「竹芝伝説」をベースにしているのだそうだ。「竹芝伝説」とは、あとがきによると帝の娘が彼女の部屋の庭を掃いていた青年を見初め、彼に「あなたの故郷に連れて行って欲しい」と言いそのまま武蔵の国の竹芝で幸せに暮らしたという伝説なのだそうだ。それを「更級日記」の作者・菅原孝標の女が常陸から上京する途中、武蔵の国でこの伝説を聞いたのだそうだ。これまでの2作とは雰囲気が違うのもそのせいか。


 さらに、奈良時代の設定なので仏教の影響も色濃く出ている。日本神話を信仰して来た倭人たちは、外来の仏教を信仰するようになる。しかし、帝の一族は日本神話と切っても切れない縁であるし、蝦夷たちも日本神話にあたるものを信仰していたようだ。この物語から話はずれるが、漫画「ヴィンランド・サガ」でヴァイキングたちが信仰していた北欧神話から離れキリスト教を信仰するようになったのと同じように、倭人も日本神話から仏教を信仰するようになる。でも、北欧(スカンディナヴィア諸国)で現在はキリスト教が国教になっていて北欧神話は信仰の対象ではなくなってしまったのに対して、日本では今でも日本神話をルーツとする神道を信仰する人はいるし、仏教を信じる人でも八百万の神を意識したりする。仏壇と神棚がある家も少なくない(我が家にも両方ある)。この違いは何なのだろう。外来文化を日本に合うようにうまくアレンジして、ミックスして取り入れてきた日本人だからこんな宗教概念・文化を作り出してしまったのだろうか。ここからは民俗学とかそっちの世界か。


 あと、前2作と雰囲気が違うのは、主人公が男だからかも。これまでは闇の一族の血を引く少女が、輝の一族の血を引く少年と出会い、共に行動し成長して、だんだんお互いに惹かれあい…という流れだったのが、今作では立場が逆になってしまっている。しかも物語の大半は阿高と藤太の「男の友情」がメイン。阿高が自分自身が何なのかと問い、迷い、不器用ながらもまっすぐ目的に進んでゆく姿がたまらなくかっこいい。前2作とは違うたくましさを感じられる。


 「勾玉」3部作を読み通して、日本神話がこんなに魅力的で面白いものだとようやく分かった。古典文学は難しい、読みにくいと感じていたけどこれからはそれらに対する考え方が変わったと感じる。某首相の例の標語ではないけれど、日本再考にもなったと感じる。3部作まとめてオススメします。


<<これまでの「勾玉」シリーズ感想>>
「空色勾玉」シリーズ第1作。
「白鳥異伝」シリーズ第2作。
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by halca-kaukana057 | 2006-12-19 20:58 | 本・読書


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