牧場の少女カトリ 感想まとめ


 20世紀フィンランドを舞台にしたアニメ「牧場の少女カトリ」をようやく見終わった。長い道のりでした。でもとても面白かった。感想をまとめてみます。





<少女・カトリの成長物語>
 まずはカトリの物語として考えてみる。幼い頃に父を亡くし、貧しい家計を助けるためカトリの母は出稼ぎに出る。しかもドイツへ。まだ飛行機は珍しく、簡単に海外に行ける時代ではない。カトリも家計のため、祖父母のもとを離れ家畜番として働くことになる。まだ8・9歳の少女にとっては大変なこと。
 しかし、カトリは持ち前の粘り強さと努力で仕事をこなし、屋敷の人々に信頼されるようになる。母や祖父母のことを思い、懸命に働くカトリ。さらに、向学心も強く学校へ行かなくともアッキにもらったフィンランドの民族叙事詩「カレワラ」を読んだり、クウセラ屋敷のロッタ奥様に算数を教えてもらったり。家畜番には学問は必要ないと考えられていた時代、カトリはどんなに難しいことでも好奇心を持って熱心に取り組む。
 第40話、トゥルクへ向かう汽車の中で、看護婦エミリアはカトリにこう言う。
「確か学校にも行かせてもらえると言ってたわね。運のいい子ねあなたは。
だけどその幸運はあなた自身の努力でつかみ取ったようね。幸運はそう簡単に転がり込んで来ないものよ。
これからも今まで以上に努力すればきっともっともっと素晴らしい運命が開けるわ。」
カトリの幸運は努力の賜物。「頑張っていればきっといい事がある」そんなささやかな希望をこの物語から感じます。決して教訓を求めるわけではありませんが、けなげなカトリの姿に「私も頑張ろう」と励まされます。


<歴史の中のフィンランド>
 この物語の舞台となる20世紀初頭のフィンランド。フィンランドが舞台になったアニメはこのカトリぐらい。物語の舞台となる年代は大体1912年から1918年。フィンランドはロシアの支配下にあり、そのロシアはドイツと戦争をしていた(第1次世界大戦)。一見のどかなフィンランドの牧場にも、戦争の影が忍び寄る。ドイツに出稼ぎに出たカトリのお母さんが帰国できなくなり、クウセラの旦那様がドイツに出兵(その後戦死)することもあったし、経済的な打撃についても語られていた。戦線の真っ只中にはないが、それでも戦争の影響を感じることが出来る。
 その頃のフィンランドは、ロシアから独立しようという動きが高まっていた。カトリは独立運動に参加する青年・アッキから、フィンランド人のフィンランドの考えを学ぶ(第14話)。子ども向けのアニメで独立を取り上げる作品も少ないんじゃないかと思う。14話の独立運動でアッキが逮捕されたり、48話ではレーニンが登場したり、歴史の流れを肌で感じることが出来る。すごい深いアニメだ。


<フィンランドの生活と文化>
 フィンランドが舞台ということで、フィンランド特有の生活習慣や文化に関することも多く登場する。サウナもそのひとつ。10話でサウナに入ったマルティがそばの湖に飛び込むが、フィンランドでは日常的な風景。
 もうひとつ大きなポイントになったのが「カレワラ(カレヴァラ)」。第13話、アッキの言った一説からカトリはカレワラの存在を知る。カレワラの内容について詳しくは語られなかったが、スカンディナヴィアの北欧神話とはまた違う、壮大な伝説の世界がフィンランドにもあることを実感した。

<シベリウスの音楽>
 この「牧場の少女カトリ」のBGMとして、フィンランドの作曲家シベリウスの作品が多く流される。「フィンランディア」は話のあちこちで流れるし、その他の作品も何度も登場する。ちょっとまとめてみた。

○交響詩「フィンランディア」op.26
 (番組テーマ。中間部「フィンランディア賛歌」の部分は次回予告でも流れる。ワルツ風の編曲もあり。冒頭部闘争のテーマもクマに襲われるシーンや必死にボートをこぐシーン等で使われる)
○「レンミンカイネン組曲(4つの伝説曲)」op.22より
・第1曲:レンミンカイネンと島の乙女
 (軽快な木管の部分。牧場に走っていくシーンなど)
・第2曲:トゥオネラの白鳥
 (湖の風景のシーンなど)
・第3曲:トゥオネラのレンミンカイネン
 (冒頭部弦のざわめきの部分。悪い出来事が起こりそうなシーン)
○「カレリア組曲」op.11より
・第2曲:バラード
 (悲しい出来事、夜のシーンなど)
○組曲「恋する者」op.14より
・第1曲:恋人
 (夜の静けさ)
・第3曲:こんばんは、さようなら
 (働くシーン)

私が確認できたのはこれだけ。かなり使われている。今のアニメならまだしも、80年代に放送されたアニメでこんなにクラシック音楽をBGMに使っていたアニメはそうそう無いんじゃないかと思う。ちなみに、カトリの時代シベリウスは1911年に「交響曲第4番」を発表し、1915年に「交響曲第5番」を発表(ただしその後改訂し、現在演奏されているものは1919年に発表)。「樅の木」他「樹の組曲」(5つの小品op.75)が作曲されたのもこの頃(1914)。


 「カトリ」はあまり視聴率が芳しくなく、打ち切られそうになったこともあるのだそうな。確かに政治的な話など子どもにはちょっと難しい内容も多い。でも、時代背景にしろ民俗的なことにしろ、興味深いことが多い。フィンランドに興味がある方、近・現代北欧史に興味がある方、心からお薦めいたします。


 ところで、このアニメが本国フィンランドで放送されたことはないのだろうか。フィンランドでも日本のアニメは注目の的。アニメ大国日本(Japani)が我らフィンランド(Suomi)を舞台にしたアニメを作ったことがあるなんて知ったら、フィンランドの方々は喜ぶと思うのに。「カトリ」の原作「牧場の少女(PAIMEN,PIIKA JA EMÄNTÄ)」(アウニ・ヌオリワーラ作)はフィンランドでも映画化されたらしい。ただ、原作とアニメの物語はかなり異なっている。原作はもっとドロドロした話らしい。

<便利なカトリ関連リンク>
世界名作劇場・牧場の少女カトリ:DVD販売元バンダイヴィジュアルの公式サイト。ゲームもあります。
ウィキペディア「牧場の少女カトリ」:ウィキペディアのカトリ解説。
世界名作劇場:「カトリ」他「アルプスの少女ハイジ」や「フランダースの犬」等名作アニメを放送し続けた「世界名作劇場」ファンサイト。
世界名作劇場地理的大解剖:世界名作劇場のアニメの舞台となった場所を詳しく解説してある。カトリのフィンランドでの足取りも勿論解明。
世界名作劇場・虹の牧場:世界名劇の「カトリ」と「南の虹のルーシー」のファンサイト。原作についても詳しいサイトです。
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by halca-kaukana057 | 2007-03-11 22:16 | フィンランド・Suomi/北欧


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