雪中の奇跡 冬戦争と20世紀フィンランド

 フィンランドに興味を持ってから、フィンランド史にも興味を持ち始めた。特に20世紀。3つに分けるとすれば、1917年の独立へ向けての動き、独立後のロシア(ソ連)との関係、そして「冬戦争」「継続戦争」となるだろう。その中でも今回は「冬戦争」について書いてみようと思う。

 その前にちょっと余談。少し前に、栄光ゼミナールという予備校が「フィンランドの奇跡」と題した広告を首都圏の電車内に掲示し、話題になった。フィンランドの充実した教育制度と高い学力を評価してのものらしい。地方在住の私がその広告を目にすることは無かったが、ネット上の画像などを見て

「フィンランドの奇跡…、それって冬戦争?」

と思ってしまったのは言うまでもありません…。


 「冬戦争」とは、1939年11月28日から1940年3月13日まで行われたフィンランドとソ連(当時)間の戦争の通称。「第一次ソ・フィン戦争」と通常は呼ばれる。以前から緊張していたフィンランドとソ連の関係だったが、1939年10月モスクワでフィンランド側はソ連側からひどい提案をされてしまう。カレリア地方などをよこせと言うのだ。その頃拡大していたナチス・ドイツへ対抗するため、ソ連はカレリア地方に軍事拠点を置きたいと考えていたのだ。この交渉は当然のことながら決裂。元帥であったマンネルヘイムは、軍事力の差がありすぎるとして戦争には反対していたが、11月28日ソ連はフィンランド側から砲撃されたことを理由に1932年に締結された不可侵条約を破棄、攻撃を開始した。

 超大国ソ連にとって、当時の人口300万程度のフィンランドは小国に過ぎない。3日で制圧できるとソ連側は読んで攻撃を始めた。しかし…3日経っても制圧できない。むしろ反撃されている。マンネルヘイム率いるフィンランド軍は、湖と森が入り組んだカレリア地方の地形を活かし、ゲリラ戦で挑んできたのだ。入り組んだ地形では戦車は不利。スキーを履いて移動する方が適していた(しかもフィンランド人はノルディックスキーは大の得意)。スキーで森の中を移動し、ソ連軍の戦車の前にいきなり現れて火炎瓶(ソ連の外相・モロトフの名前をとって「モロトフのカクテル」と呼ばれている)を投げつけてゆく。その上、武器やら食料やらを奪って戦闘。フィンランド人特有の頑固さ、粘り強さ、強さをフィンランド語で「sisu(シス)」と言うが、まさにそれが全面に出て、この反撃につながったのだろう。

 …という内容は以前「フィンランド近現代史を知らずにフィンランドを語れるか?!」でも書いた。冬戦争の話は何度読んでも衝撃的でびっくりする。そんな冬戦争の状況について書いた本を。

「雪中の奇跡」(梅本弘/大日本絵画/1989)
 冬戦争についてかなり細かく書かれてあるノンフィクション。あまりにも細かくて、軍事にあまり詳しくない私は読み進めるのが大変でした。それでも、細かい軍事用語にとらわれなければ戦争の流れはリアルに読んでいけるし、写真も多く、その写真を見ているだけでも戦争の凄さが伝わってくる。兵士もよく訓練されていたようで、戦争が長引くにつれて兵士たちも疲れきっていたようだが、それでも反撃を繰り返すあたりには言葉も出ない。主力となる武器も小型のライフル。「スオミ短機関銃」と国名をつけてある。ちなみに、この冬戦争で使われたスキーのストックには、日本の竹が使われている。

 もう少し読みやすい本ならこれも。
「ホワイトウォー 青い十字の旗の下に」(大久保公雄/文芸社/2002)
 小説版冬戦争。やっぱり軍事用語は大量に出てくるが、小説だから幾分読みやすい。戦闘シーンはリアルだし、展開もかなりドラマティック。「カレワラ」などのフィンランドに関する基礎知識も解説されている。

 さらに、マンネルヘイムの伝記も。
「グスタフ・マンネルヘイム フィンランドの白い将軍」(植村英一/荒地出版社/1992)
 マンネルヘイムの生い立ちからロシア将校時代を経てフィンランドに戻るまで、独立の内戦、冬戦争・継続戦争から大統領…と激動の生涯を描いている。「自らを守れない国を助けてくれる国はない」「大国の力をあてにしたり、利用することは、これに逆らうことと同じように危険である」という言葉が印象的。

 もっとわかりやすいものが見たい方は、このフラッシュをどうぞ。コンパクトにまとまっていて、とてもわかりやすいです。

 さらに、映画もあります。
ウィンター・ウォー ~厳寒の攻防戦~
タネリ・マケラ/ポニーキャニオン
 まだ観てはいないのだが、映像なのでさらにわかりやすく臨場感たっぷりに、冬戦争の激戦を把握できると思います。早く観たいなぁ。戦争そのものを描いたものではありませんが、昨年公開された「ククーシュカ ラップランドの妖精」は継続戦争の頃のフィンランド・ラップランドを舞台とした映画。これもまだ観てません。



 冬戦争は、結局フィンランドがソ連の要求を飲み、休戦協定を結ぶ残念な結果になってしまった。フィンランドの信じられない反撃にイギリス・フランスはフィンランド側に立って参戦しようとしていたのだが、中立の立場をとるノルウェー・スウェーデン・デンマークが、英・仏両国を通さなかった(この3国を通らないとフィンランドには行けない)ため、支援出来ずに終わってしまった。もし、英・仏が参戦していたら…歴史はどう変わっていただろう。今のフィンランドの姿も変わっているかもしれない。

そしてこの冬戦争の後、1941年夏、第二次ソ・フィン戦争「継続戦争」が勃発。ナチス・ドイツをめぐる世界情勢に巻き込まれてしまう。冬戦争であんなに頑張ったのに孤立してしまうフィンランド。継続戦争のフィンランドの立場はかなり切ない。

 ちなみに、アニメ「牧場の少女カトリ」でも、カトリたちの牧場での暮らしの中に20世紀前半のフィンランドとヨーロッパ史が垣間見える。1917年の独立までの部分だが、ロシアの支配に反発し独立運動に参加する青年アッキが逮捕されたり、カトリの母やクウセラ屋敷の主人が戦場ドイツへ向かうあたりは、ただのアニメでは収まらなくなっていると思うんだ。

 今でこそフィンランドは福祉・教育・デザインなどの分野で世界トップクラスの国になった。日本人の私から見ても、フィンランドはとてもいい国だと思う。でも、こうやって歴史を知るとただ平和にやってきたのではない。つまり、20世紀の激動の歴史があったからこそ、今のフィンランドがあるんじゃないかと思う。大国に挟まれて生きること、自力で自国の独立を、土地を、文化を守ることの辛さと重さを感じる。マリメッコの大胆なデザインだって、戦後の打ちひしがれた人々に何とか光を与えたいというデザイナーたちの思いによって生まれたのだし、トーベ・ヤンソンが「ムーミン」を書くにあたっても戦争の辛い思い出がある。フィンランドにあるものをただ「イイ!」と言うのではなく、その背景にあるもの、それを生み出すきっかけとなったものをもっと見つめていきたい。たとえそれが辛い・複雑な歴史であっても…、と思う。


 ちなみに、シベリウスは1957年に死去したわけだから、この2つの戦争を生き抜いた。作品を発表することはあまりなかったが、どんな風にこの2つの戦争を見ていたのだろうか。ちょっと気になった。
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by halca-kaukana057 | 2007-06-11 21:44 | フィンランド・Suomi/北欧


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