なつのロケット

 ずっと以前から読もう読もうと思っていたのに、読まずにいた漫画。タイトルの通り、宇宙への夢がぎっしり詰まった作品です。

なつのロケット
あさり よしとお/白泉社・ジェッツコミックス/2001


 型破りな女教師・藤根は理科の授業で児童たちにペットボトルロケットを作らせる。藤根のクラスの科学少年・北山泰斗はそのペットボトルロケットの飛距離もダントツだった。しかし、彼のロケットをやすやすと越えてしまったのが転校生・三浦とぼんやりした少年・ヘチマの作ったロケットだった。三浦のロケットと態度が気に食わない泰斗。そこへ、泰斗は藤根の行動から、型破りな授業が原因で彼女が学校を辞めるのではないかと憶測する。藤根先生の教えてくれることは間違いじゃない。それを証明するために、泰斗たちは本物のロケットを作ろうと決心する。一方、三浦とヘチマは別の場所で動き出していた…。



 タイトルでピンと来た方もいると思われますが、私も以前感想を書き、今も大好きな作品である川端裕人の小説「夏のロケット」をヒントにこの作品は作られたのだそう。「夏のロケット」では中年のオジサンたちがロケットを作る話でしたが、あさり版「なつのロケット」は小学生が本物のロケットを作ってしまう話。しかも、このロケットにはとんでもない秘密が隠されているのだ。何といってもこのロケットの構造が面白い。宇宙へ飛んでゆくロケットは、普通大きなものだ。最初は糸川英夫のペンシルロケットのように小さなものだったが、その後どんどん巨大化してゆく。しかし、この作品に出てくるロケットは…小型化しているのだ。小さいロケットが本当に宇宙を目指せるのか。そしてこのロケットには更なる秘密が隠されている。それはこの作品を実際に読んでからのお楽しみ。ロケットって…本当に奥が深い。以前川端版「夏のロケット」の感想でも書いたとおり、ロケットの原理はとても単純でローテク。シンプルだからこそ、様々な応用が出来てしまうのだ。こんな応用も出来てしまうのか…。

 ロケットをめぐり、対立する泰斗と三浦。結果のためなら手段を選ばない三浦のストイックさにハラハラさせられるが、それには理由がある。泰斗の甘さをはっきりと見抜くが、多くは語らない三浦。三浦の態度に反発しつつも、彼が心の奥底に隠している「何か」に気付き始める泰斗。そして、製作が進んでゆくロケット。対立はしつつも、目指すものは同じ。読み進めてゆくうちに、三浦が隠している内面、そして現実があらわになってくる。と言っても、はっきりと描かれているわけではない。その「はっきりと描かれない」ことによって、三浦に何が起こっているのかを色々と想像してしまう。はっきりと描かれるよりも説得力があり、訴えかけてくるものも強く感じてしまうのは何故だろう…。

 そして完成したロケットの打ち上げ。泰斗が三浦に最後にかけた言葉が本当に切ない。三浦が見せたかすかな笑みも。打ち上げ後のロケットの行方も。134ページのラストシーンがたまらない。宇宙は、今も私たちの真上にある。手を伸ばせば、本当に届くかもしれない。こんなロケットを作って、自分も宇宙を目指せないだろうか。そう思ってしまったのは私だけではないはず。

 この作品のロケットの構造に関しては、JAXAのロケットエンジニア・野田篤司氏(通称:野田司令)によって計算されています。巻末には野田氏の解説付き。さらに、野田氏のサイトにはもっと詳しい計算が解説されています。
「マッド・サイエンティスト研究所 研究報告11 なつのロケットは本当に飛ぶか!?」
 そして、「夏のロケット」の川端裕人さんも巻末に解説を寄せています。その文章がたまらなくいい。それを読んで、以下のようなことを考えた。

 川端版もあさり版も書かれたのは1990年代後半。さらに、この解説で川端さんが挙げている野尻抱介の「ロケットガール」シリーズが書かれたのも90年代(アニメ化を機に新装版が出ましたが、元は10年も前に出た作品だったのです)。90年代は日本が宇宙開発へ本格的に参入していった時期。日本人宇宙飛行士の宇宙飛行と活躍に、日本人も宇宙を目指せるんだ!!と実感した一方で、H2ロケット8号機の失敗などで不足しているものを見せ付けられた時期でもあった。私が本格的に「宇宙バカ」になったのもこの時期。情熱だけでは宇宙へは行けない。情熱が無ければ、その失敗を乗り越えられない。90年代は成功も失敗もあったけれども、宇宙へのまっすぐな情熱が見えていた時期だった。

 しかし、2000年代になって、その情熱は少し薄れてしまったのではないかと思う。スペースシャトル・コロンビア号の事故、国際宇宙ステーションの計画は延び延びでようやく完成が見えてきたところ。スペースシャトルも2010年に引退すると決定した。それでも今日本は宇宙への情熱がぶり返してきた時期なんじゃないかと私は読んでいる。小惑星探査機「はやぶさ」のドラマティックすぎる活躍、「ロケットガール」もアニメ化され、主人公・ゆかりや茜と同年代の女子高生を対象にした「ロケットガール養成講座」も注目された。そして来年は土井・星出・若田宇宙飛行士の日本人宇宙飛行ラッシュが控えている。まだ日本にも宇宙を目指すチャンスが、技術がある。失敗を知って、乗り越えて、また新しいスタートを切りなおした日本の宇宙開発。そんな今を引っ張ってくれるのは、「なつのロケット」のような作品なんじゃないかと私は思う。「ロマンだけでは宇宙へは行けない。でも、ロマンがなければ宇宙には行けない」からだ(しかしこの言葉、誰の言葉だったかなぁ…、調べても出てこない…)。あの90年代の情熱を忘れないためにも、語り継いで、後の世代に受け継ぐためにもこんな作品が必要なんだと私も感じる。もっと時代が進んで、簡単に宇宙に行ける日が来たら、こんな杞憂は滑稽に見えるかもしれない。ちょっと話は飛ぶが、同じく宇宙開発系漫画である柳沼行作「ふたつのスピカ」12巻にも、こんな言葉がある。
「必死になって苦しい訓練に耐えて
時には傷ついたり何かを失ったりしながらも懸命になって
そういうたくさんの想いを経た人でなければ見えないものも
必ずあると思うよ
今の時代を生きている
チビちゃんたちにしか見えない宇宙がね」
(102~103ページ)


 今の私たちに見える宇宙、私たちにしか見えない宇宙。それを後世に伝えて行ってくれる作品。それのひとつがこの「なつのロケット」ではないかと思う。川端さんの解説には「遠い空の向こうに(原題:October Sky)」として映画にもなった、NASAのエンジニアホーマー・ヒッカム・Jr.の自伝「ロケットボーイズ」も挙げられていたが、宇宙開発を常に引っ張ってきたアメリカにはこういう話がゴロゴロしているのだそうだ。日本にもこういう話はそれなりにあるらしいが、日本には日本なりの別の伝え方がある。日本が世界に誇る漫画・アニメという手段が。フィクションでしかないけれども、その作品に込めた感情はリアルだ。技術・原理も計算して現実に沿った作品を創ることが出来る。アメリカやロシアのようには行かないけれども、私たちは私たちなりに宇宙を目指そう。そう、この作品や他の宇宙開発系小説・漫画を読んで感じる。


 しかし、ロケットには夏が似合うなぁ。それから、「ロケット・ボーイズ」も再読したくなってきた。まずは「遠い空の向こうに」をDVDで観るか…。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2007-06-27 23:09 | 本・読書


好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)

プロフィールを見る

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

お知らせ・別サイト

管理人HN:(はるか)
 熱しやすく冷めにくい、何が好きになるかわからない好奇心のかたまり。このブログでは好きなものを、好き放題に語ってます。

プロフィール
*2014.9.5:更新
はてなプロフィール:遼(halca-kaukana)



web拍手を送る






日々のログ:今、ここ、想うこと
または:Twilog

はてなブックマーク
Mielenkiintoinen!

気になること、関心のある記事や参考にしたサイトなどのブックマーク集。コメント多め。

◆ピアノ録音置きブログ:Satellite HALCA

☆「はやぶさ2」、小惑星リュウグウ目指して順調に飛行中!☆
管理人・遼も小惑星探査機「はやぶさ2」を応援しています。



あかつき特設サイト
JAXA:金星探査機「あかつき」特設サイト

☆祝!「あかつき」は金星の衛星になりました☆
金星軌道上で観測準備中!

最新の記事

「しきさい」(GCOM-C)..
at 2017-09-30 23:07
超巨大ブラックホールに迫る ..
at 2017-09-18 23:48
西洋文化に触れた驚き 「遥か..
at 2017-09-03 23:01
BBC Proms(プロムス..
at 2017-09-02 17:07
土星堪能星見 + 今日は伝統..
at 2017-08-28 21:58
BBC Proms(プロムス..
at 2017-08-18 23:48
惨敗。 ペルセウス座流星群2..
at 2017-08-14 21:43
BBC Proms(プロムス..
at 2017-07-31 22:32
BBC Proms(プロムス..
at 2017-07-14 23:08
青い海の宇宙港 春夏篇 秋冬篇
at 2017-07-10 22:58

カテゴリ

はじめにお読みください
プロフィール
本・読書
宇宙・天文
音楽
奏でること・うたうこと
Eテレ・NHK教育テレビ
フィンランド・Suomi/北欧
イラスト・落描き
日常/考えたこと
興味を持ったものいろいろ
旅・お出かけ
information

タグ

以前の記事

2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
more...

検索