小春日和

 本屋で見つけて"表紙買い"してしまった本。パッと目に付いた本を、裏のあらすじを少しチェックして買うことがよくあります。おかげで本は増殖するばかり…。


小春日和
野中 柊/集英社・集英社文庫/2007(単行本は青山出版社/2001)

 舞台は1970年代。小学生の双子の姉妹・小春と日和は、映画好きの母に勧められタップダンスを習い始める。タップダンスにすっかり夢中になってしまった2人は一生懸命に練習し、発表会でも大成功を収める。そんな2人の元に突然CM出演の話が舞い込んでくる。CMでタップダンスを披露した2人は一躍有名人に。ざわめき始める2人の周囲、タップダンスを通して出会った人々、そして2人が目指すものとは…。



 舞台が1970年代とあって、とても懐かしい雰囲気の物語。朝の連ドラ「ふたりっ子」(同じく双子の物語)や「てるてる家族」を彷彿とさせます。語られる口調もとてもさりげなく、平凡。タップダンスに向かう姿も、日常の一部となっている。でも、その「特別扱い」しない所がいい。

 タップダンスに夢中になる小春と日和。めきめきと上達していく2人を描写する文章がまた細かく、「何かに夢中になった時の心理」をよく表していると思う。例えばこの部分。
タタタン!タンタタタン!先生の言う通り、私たちは筋がよかったのだろう。ステップはますます巧みに軽やかになり、足元から生まれる音からは余計なノイズが減り、日増しに澄み渡っていくようで、うまくなればなるほど踊るのが楽しくなった。ときおり、足が勝手に動きだす瞬間もあった。私は自分が自分でなくなっていくのを感じるのが好きだった。(59ページ)

 また、CM出演の後で2人は練習についてこう思う。
私たちはもっとちゃんと踊りたかった。自分の技を磨きたかった。ぬるいのは嫌だった。無愛想で厳しいけれど、本気で踊る感覚を共有できる桜井先生が懐かしくてならなかった。(122ページ)


 何かに夢中になって、必死に練習する時間って何て楽しいのだろう。私もピアノやその他のもので味わった。最初は練習はかったるいしきついと思うのだが、だんだん楽しく思えてくる。もっといい動きを、もっといい音を!とテンションはあがっているのに感情は冷静になる、不思議な感覚になる。そして、もっと技を磨き上げたいと感じるようになる。練習が楽しみでならない。2人のダンスシーンを読んでいると、ピアノが弾きたくなってくるのは何故だろう。夢中になる姿に触発されて、私も何かに没頭したいと思うからだろうか。自分に通じるものを見つけられたことが嬉しい。

 CM出演のために、2人は桜井先生というタップダンスの先生の指導を受けられることになる。その桜井先生がまた素敵な存在。2人が往年の名タップダンサー・フレッド・アステアとオードリー・ヘップバーン、ジーン・ケリーの映画を見せてもらいに行った時のセリフが胸に直撃。いいものを観た時の衝撃と、自分の実力を無さを実感する一方で、ダンスをやっていてよかったとも思う。好きだからやっているけど、好きなことには楽しいことばかりとは限らない。無理もしたくない。それでも、やりたいことをやりたい時にやるのが一番、と。そして、好きなことをするのに、何かに夢中になるのに大人も子どもも関係ない、ということ。桜井先生のタップダンス教室には大人から子どもまで通っている。ダンスは物覚えがよく身の軽い子どものほうが有利とも言えるが、年配者でもすぐに出来なくてもコツコツと粘り強くマスターしていく。その姿勢に圧倒される2人。この桜井先生のダンスに対する考え方に納得。ダンスだけじゃなく、全ての物事に通じると思う。私も、自分のピアノに対する姿勢について色々と考えさせられた。その結果(役に立つ結果を求めるわけじゃないけど)は、今後のピアノ練習で発揮していこうと思う。

 ちなみに、1970年代が舞台のため、同じ双子デュオのザ・ピーナッツの話題もあちらこちらに登場。小春・日和が「可愛い花」や「恋のバカンス」を歌いながらタップダンスを踊るシーンや、桜井先生がアメリカで「エド・サリバンショー」に出たザ・ピーナッツの思い出を語るシーンも登場します。リアルタイムでピーナッツか…いいなぁ。

 ところで、野中柊さんの著作は以前エッセイ「テレフォン・セラピー」(新潮文庫)も読んだのだが、レビューを書いたつもりでいて書いていなかった(何らかの理由で削除したかも)。再読してみたら、とても活き活きとした感情表現の文章に魅力を感じた。野中さんの他の作品にも興味が湧いた。色々探してみよう。
 さらに余談。この夏は読みたい本が山のよう。各出版社の夏の100冊パンフレットを見ていたら、読みたい本が次から次へと…。もうこうなったら全部読んでやる!読書の夏が来たぞー!
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by halca-kaukana057 | 2007-07-06 22:42 | 本・読書


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