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電波天文観測衛星「はるか」に想う

 先日のTRMMゲーム記事の最後にちょっと予告した、電波天文観測衛星「はるか」について今日は書こうと思います。結論を先に言ってしまいますと、既に運用の終了した過去の衛星ですが、とても強い思い入れのある衛星のため、思う存分語らせていただきます。なお、プロフィールにも書いておりますが、私のハンドルネーム・遼(はるか)は、この衛星「はるか」に由来しています。その「はるか」のアルファベット表記は「HARUKA」ではなく、「HALCA("Highly Advanced Laboratory for Communications and Astronomy"の頭文字をとった略)」になっているので、同じように「HALCA」のアルファベット表記を使わせていただいております。蛇足でした。

これが「はるか」。
電波天文観測衛星「はるか」に想う_f0079085_21425912.jpg

(C)JAXA/ISAS

■「はるか」とは何ぞや?
 "電波天文観測衛星"と呼ばれるように、電波を使って天体観測をすることを目的とした衛星です。簡単に言うと、宇宙にパラボラアンテナの電波望遠鏡を打ち上げてしまったのです。ただ、「はるか」は同時に"工学試験衛星(MUSESシリーズ)"の衛星でもあります。この"工学試験衛星"は、新しい技術の実験のために開発され、打ち上げられます。「はるか」は2番目の工学実験衛星。だから、"MUSES-B"とも呼ばれます。ちなみに、MUSES-Aは月でスイングバイの実験をした「ひてん」、MUSES-Cはあの小惑星探査機「はやぶさ」。「はるか」にどんな新技術が積まれ、実験したのか。以下続きます。


■「はるか」ここがすごい!
◇ここがすごい!その1:折り紙のアンテナ?
 まず、長方形の紙をご用意ください。メモ帳でもチラシでも何でもいいです。その紙を、まず縦方向に蛇腹のように折ります(折り目は偶数になるように)。
↓こんな感じ
電波天文観測衛星「はるか」に想う_f0079085_2118188.jpg

次に、横方向に同じように、蛇腹のように折ります。この時も折り目は偶数になるようにしてください。
電波天文観測衛星「はるか」に想う_f0079085_21184376.jpg

折れたら、折った紙の隅の2点を持ち、横にパッと引っ張ってください。
電波天文観測衛星「はるか」に想う_f0079085_21185841.jpg

電波天文観測衛星「はるか」に想う_f0079085_21191847.jpg

――2点しか引っ張っていないのに、一瞬で紙を広げることが出来ました!はい、拍手!
*見にくい画像でごめんなさい。詳しくは「ミウラ折り」考案者の三浦公亮先生のインタビューに載っていますので、リンク先をごらんください。

 これが「ミウラ折り」と呼ばれる折り方です。人工衛星には電源を得るための、太陽電池パネルが欠かせませんが、開いたままではロケットに載せることができません。かといって、適当な折り方では宇宙でうまく開かない。この「ミウラ折り」なら、スムーズに広げることが出来ます。また、この「ミウラ折り」はものの強度も上げることが出来ます。簡単に折りたたみ出来、スムーズに広げることが出来る。その上強度も増す。苛酷な環境の宇宙空間を飛ぶ人工衛星にはうってつけの技術です。
 「はるか」の特徴と言えば、花びらのように開いた金色のアンテナ。電波望遠鏡に必須の、パラボラアンテナとなる部分。ここに、「ミウラ折り」が採用されています。「はるか」がアンテナを開くと8メートルにもなります。このアンテナで、宇宙からやってくる電波をとらえているのです。
 「ミウラ折り」の技術は「はるか」だけでなく、身近なところでは缶コーヒーやチューハイの缶にも使われています。


【追記080111】
 「はるか」のアンテナには、「ミウラ折り」とは別物だということに今頃気がつきました。三浦公亮先生が考案したことに変わりはありませんが、「ミウラ折り」ではありません。記事内に間違いがあったことをお詫び申し上げます。
 詳しくは、「はるか」プロマネである平林久先生の著書星と生き物たちの宇宙―電波天文学/宇宙生物学の世界 (集英社新書)(平林久・黒谷明美/集英社/2000)にありますのでそちらをお読みください。



◇ここがすごい!その2:口径3万キロ、地球より大きな望遠鏡?!
 「はるか」は宇宙に打ち上げられた電波望遠鏡。…電波望遠鏡なら地球にもいっぱいあるのに、何故宇宙に打ち上げる必要があるのか。それは、電波望遠鏡の仕組みに関係があります。
 電波望遠鏡は、パラボラアンテナのお皿が大きければ大きいほど性能(分解能:細かいものもはっきりと見ることが出来る精度)が良くなります。しかし、パラボラアンテナの大きさにも限界があり、あまりにも大きなものは作れません。
 そこで、いくつかのパラボラアンテナを組み合わせると、その大きさ分の仮想のアンテナを作ることが出来ます。この仕組みを「干渉計」と言います。よく同じ大きさのパラボラアンテナが幾つも並んでいる光景を目にしますが、並んでいるのはこのためです。

 でも、パラボラアンテナを並べるにも場所の限界があります。ならばアンテナを宇宙に打ち上げて、地球のアンテナを連動させればいいじゃないか!そうやってできたのが「スペースVLBI」、略して「VSOP」です。
(この「VSOP」という略称は、どうしてもブランデーのVSOPにかけたいと考えた酒好きの科学者たちによるものだったりします。実話です)

 「はるか」は地球から一番遠いところで、21600キロ離れます。その離れた分と地球の大きさだけの口径の望遠鏡になるので、なんとその口径は3万キロ!!超巨大望遠鏡が実現してしまったのです。こうなると遠くの宇宙も観放題。普通の望遠鏡では観ることの出来ない、ブラックホールから飛び出すジェットも詳しく観測しました。

 「はるか」は予想されていたよりも長く観測を続け、2005年に運用を終了しました。高度が高いため地球に落ちることは半永久的に無く、今も地球の周りを回り続けています。


■「はるか」に続け、「ASTRO-G」
 大きな成果を残した「はるか」。そして、その「はるか」の後継機、「ASTRO-G」が現在開発されています。「はるか」で見えてきたブラックホールの謎をさらに詳しく観測することなどを目的としています。アンテナは「はるか」のものとはちょっと異なり、「きく8号」のアンテナを採用しています。打ち上げ予定は2012年。ただ…、打ち上げるロケットが決まっていないという話も…。H2Aじゃダメなの?開発中のH2Bに、M-V後継機の新型固体燃料ロケットは?行く末がとても心配です。「はやぶさ2」の現在の状況と似ているような…。応援します!


■で、「はるか」のどこが面白いのよ?
 長々と説明してきましたが、何が面白いのか。やはりVSOPの発想がすごい。遠くの宇宙を、もっと細かく詳しく観たい。地球上の望遠鏡じゃもの足りない!そんな天文学者たちの声を、スケール大きく実現してしまった「はるか」。「はるか」の成果は日本だけではなく、世界中の天文学者たちの研究にいかされています。人の声から生まれる新技術と、そこから新しい発見が生まれて研究や学問に還元される。さらにその成果を天文学者ではない私たちも知ることが出来る。ひとつの人工衛星からこんな風に学問が、人の輪が広がっていくって面白い。私はそう感じます。これは勿論「はるか」だけではなく、全ての科学衛星に言えること。すごいなぁ。ただ衛星を作って飛ばすだけが宇宙開発じゃない。奇抜な発想と技術で人の願いを叶えていくところに、面白みを感じます。


■「はるか」のことをもっと知りたいあなたにリンク集
ISAS:電波天文観測衛星「はるか」
 JAXA宇宙科学研究本部の公式サイト。
国立天文台 スペースVLBI推進室ホームページ
 天文衛星と言うからには国立天文台もプロジェクトに関わっています。
「はるか」の成果と運用終了について
 まとめPDFあります。
「はるか」で覗く宇宙の果て―電波天文衛星の試み
 プロジェクトマネージャー・平林久先生のインタビュー。
ISASメールマガジン 2005年12月20日号 「はるか」の最終運用
 その平林プロマネによる、「はるか」最期の日の手記。胸にじんわりと来ます。
by halca-kaukana057 | 2007-12-16 22:39 | 宇宙・天文

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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