カテゴリ:本・読書( 493 )

マッティは今日も憂鬱 フィンランド人の不思議

 夏至は21日でしたが、この週末は北欧では夏至祭。フィンランドもユハンヌス(Juhannus)です。いつもは夏至、夏至祭、白夜の季節に聴きたいフィンランド、北欧の音楽について書いてきましたが、今年は本を。


マッティは今日も憂鬱 フィンランド人の不思議
カロリーナ・コルホネン:著、柳澤はるか:訳 / 方丈社 / 2017

 フィンランドで大人気、ベストセラーのコミック「FINNISH NIGHTMARES」の日本語版です。これまで、何度も海外向けのフィンランドの情報ツイッターアカウントで紹介されていて、気になっていました。日本語訳出版が決まった時はとても嬉しかったです。これ絶対買う、と。

 この本の主人公、マッティは典型的なフィンランド人男性。そんなマッティが日々遭遇する「苦手なこと」「避けたいこと」「憂鬱なこと」「フィンランド人あるある」をコミカルに、時に自虐的ジョークを交えて書かれています。マッティが可愛いです。シンプルな、愛らしいキャラクターです。フィンランドのキャラクターはムーミンだけじゃない!?これからはマッティもよろしく!

 帯に、「なぜか日本人にそっくり!?」とあるのですが、読んでいると、「わかる」「あるある」「マッティ、君は私か」と思うところばかり。これまで、他の本やメディアでも、フィンランド人の性格・国民性と日本人のそれは似ていると言われてきました。この本は日本向けに書かれたものではありません。フィンランド人のコルホネンさんが、フィンランド人を紹介するために書きました。それが、日本でも、日本人に似ているんじゃないかと受け入れられている。それが不思議ですし、嬉しくもあります。

 平穏と静けさと個人的領域(パーソナルスペース、他者と自分との距離。フィンランド人は広め)を大事にしているマッティ。シャイで、照れ屋で、目立つのが苦手。自己主張するのも苦手。多くは書きません。是非ともこの本を手にとって、読んでください。「あるある」「わかる」の意味がわかると思います(多分)

 フィンランド本国で出版されている本も、本文は英語です。でも、サウナやクリスマスのミルク粥など、フィンランドの文化も出てきます。あと、フィンランドのバスの乗り方や、フィンランド人と信号、ハロウィンなど、フィンランドに旅行する際、住む際に注意したほうがいいことも書かれているので、フィンランドに行く予定がある方には是非オススメします。

 森と湖の民と呼ばれるスオミ(Suomi)の民。湖のほとりの森の中で暮らしている(都市で生活している人も休みになれば質素なサマーハウスで暮らす)人々の由縁がわかる気がします。ユハンヌスは、湖のほとりでかがり火を燃やし、なかなか暗くならない、すぐに明ける夜を謳歌します。短い夏を存分に楽しもうと。ユハンヌスのフィンランドの人たちには、この本にある「憂鬱なこと」が起きないで楽しく過ごせるよう、願うばかりです。

 フィンランド本国では第2弾も出版されたそうです。第2弾も日本語訳の出版、よろしくお願いします!
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by halca-kaukana057 | 2017-06-23 22:49 | 本・読書

Im ~イム~ 6・7

 漫画を読んでも感想を書けずにいたので、何巻かたまってしまった作品もあり…。まとめて書きます。エジプト神話をモチーフにしたマンガ「イム」の6巻と7巻です。この2巻は続いている部分が多いので、まとめて書いてもいいかもしれない。

Im~イム~(6)

森下 真 / スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2017



 支部長を助け出したイムたち。羽羽方家でパーティーを開くことに。陽乃芽はイムがエジプトに帰ってしまう前の送別会だと思っていたが、パーティーで、羽羽方父がアメン神官団に事務員として入団することになったこと、それに伴い、陽乃芽も夏休みはエジプトに行くことが決まった。
 そしてエジプトにやって来た一行たち。観光している間、荷物を盗まれ、盗んだ男を追うと、晴吾の攻撃に対して人間離れした能力を使い逃げようとした。そして、蛇のような黒いアザが体中に現れ、死んでしまった。イムは、かつて大神官として"地獄の番人"をしていた時、負の感情に飲まれた者たちにそのアザが現れていたのを何度も見たことがあった。そのアザに何があるのか、コンスが本部から呼んだ、ラトの弟であるワジトユートと共に、黒アザの原因を探りに街へ出たが…

Im~イム~(7)

森下 真 / スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2017



 8年間もとり憑き、イムによって離れた"マガイ・セクメト"を、精霊(カー)として自分の中に戻した陽乃芽。イムを助けるため、その力で戦うも、魔力を制御しきれず倒れてしまう。ひとまず停戦し、去る新たな敵・ラムセス2世。陽乃芽が何故マガイ・セクメトを精霊(カー)に出来たのか。それには、陽乃芽の母・ひまわりが関係していた。羽羽方父は、ひまわりと出会った時のことをイムたちに語りだす…。


 この6・7巻で急展開です。舞台はエジプトへ。支部長誘拐事件で、浮かび上がったいくつかの謎。支部長にとり憑いていたマガイには、「創世九柱神(エネアド)」が関係している…?エネアドたちは何を考えている…?何かを隠している…?それらの謎を解きに、エジプトへ向かいます。
 エジプトに行くことに関して、イムは故郷を皆に見せられること、羽羽方パパは妻・ひまわりと出会った国を陽乃芽に見せられることを喜んでいる。そんな2人がいい感じです。

 エジプトでは、新キャラも登場。そのひとりが、ラトさんの弟というワジトユート君。上位神官です。まだ少年ながら、かなりの力を持っています(その理由は7巻で明らかになります)。そして、敵方はラムセス2世。クレオパトラの次はラムセス2世!強いけれども、ちょっと変わったところもある敵です。

 一方、ユート君の登場で、陽乃芽にある事実が発覚します。その事実をユート君に突きつけられた6巻の144ページからの陽乃芽の自分を責める気持ちが苦しい。そこからの、陽乃芽の本心が、7巻へと続きます。7巻では陽乃芽ちゃんが表紙。しかもカッコイイ!本編でも強くてカッコイイ!

 7巻では、これまでの伏線、謎が一気に解けます。展開が早くて、読み返さないと理解しきれない。古代エジプトの神々をうまく創作に当てはめていて、面白いです。7巻の読みどころは、若き羽羽方父と妻となるひまわりとの出会い。羽羽方パパがカッコイイ、なかなかのハンサムで、心意気も男前です。陽乃芽を産む時のひまわりさんの決意が、とても強くて…、陽乃芽は強い両親から、強いもの、強い心を受け継いでいるんだなと感じました。

 7巻ではついにアメン神官団の本部へ。更に新キャラが登場します。精霊(カー)を診察する医師の神官・ヘシレさんがなかなかいいキャラです。黒アザを発症するメカニズムも解明されます。エジプト神話を題材にしたファンタジーですが、普通の人間の心理に通じるものがあります。そして本部でまさかのあの人が登場。怒涛の展開でした。8巻が待ち遠しい。陽乃芽ちゃんが…どうなってしまうのか!

 謎めいた部分を持つコンスに関しても、徐々に明らかになっていきます。あのシーンのあれはそういうことだったのか…。よくわからないところが多いけれども、コンスの言うことは筋が通っているし、人間的でもある。イムを思いやってもいる。ただ、これからコンスが無茶をしないか…心配です。

 2巻一緒に書くと、まとまりに欠けます。細かい部分も欠けます。どう書いていいかわからない。下手するとネタバレになってしまう…。漫画の感想は溜めないほうがいいね。負の感情もね。そんな6・7巻でした。

Im ~イム~ 5
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by halca-kaukana057 | 2017-06-12 22:43 | 本・読書

メロディ・フェア

 以前から読んできた宮下奈都さんの本を読みました。宮下奈都さんといえば、「羊と鋼の森」で本屋大賞を受賞、一気に注目されました。ピアノ調律師のお話と言うことで読みたい!のですが、文庫化待ち。他の作品を読んでいきます。


メロディ・フェア
宮下奈都/ポプラ社・ポプラ文庫/2013(単行本は2011)

 結乃(よしの)は東京の大学を卒業し、化粧品会社に就職。地元に帰り、ショピングモールの化粧品売り場で美容部員として働き始めた。一緒に働いている馬場さんは、「凄腕」の先輩。お客は思うように来ず、化粧品もなかなか売れない。だが、結乃は人をきれいにしたいとカウンターに立ち、お客に化粧品を試してもらい、アドバイスをして、その思いを伝えようとする…。

 このブログでも、ツイッターでも、自分の性別に関する発言はあまりしてこなかった。なので、この本についてどう書こうかと思ったが、書きたいと思った。面白い。化粧に関しては、それほど熟知しているとは思わないし、自信があるとも言えない。使いこなしているとも言えない。でも、この本を読んだら、化粧や化粧品についてもっと知りたいし、うまくなりたい、楽しみたい、チャレンジもしてみたいと思うようになった。

 結乃は本命の大手の高級化粧品を出している会社には落ち、3番手以下のこの会社に就職した。さらに、勤務地も本命のデパートの化粧品売り場ではなく、ショッピングモールの化粧品売り場。お客はなかなか来ないし、来てもなかなか売れない。何も買わず、雑談だけしていく人もいる。それでも、人をきれいにしたいと願いながら、雑談にもけなげに応じたり、様々な一癖二癖あるお客たちに化粧や化粧品についてアドバイスをする。悩みながら、日々仕事する「お仕事小説」でもある。結乃のけなげさが清々しい。お客達も化粧で新たな一歩を踏み出したりする。とても清々しい。

 結乃は化粧品売り場で、小学生の頃の友達のミズキに意外な形で再会する。ミズキの野望、抱えている悩み、本音…。それが化粧に現れているのが面白い。結乃とミズキの友情はコミカルだが、シリアスなところに徐々に踏み込んでいく。
 私も、ミズキのようなところがある。より高く、より遠くに手を伸ばそうとする。背伸びする。でも届きそうもない。「手の届く幸せ」。この言葉にじんとした。

 結乃の大学生の妹・珠美は化粧を強く嫌っている。姉の仕事も理解できない。姉妹の溝はなかなか埋まらない。それには、結乃と珠美の幼い頃の記憶も関係しているのだが、化粧によって、2人の関係も変化していく。
 化粧をしない顔が本当の自分なのか、化粧をしている時の顔は何なのか。一度は考えたことがある。結乃と珠美が出す答えに納得した。納得して、もっと化粧を楽しみたくなった。あと、化粧品売り場にやって来る「マダム」が言った言葉にも。
「そうね、合わなければ取ればいいんだものね。メイクのいいところって、そこよね」
 そう応じてくれた、マダムの言うとおりだ。メイクは何度でもやり直せる。失敗したら取ればいい。そしてまたやり直せる。好きな顔になるまで、好きな自分になれるまで何度でも。
(268ページ)


 結乃の売り場にある化粧品に関する描写も、いいな、その化粧品使ってみたいなと思ってしまう文章で楽しくなる。そんなにたくさん化粧品は買えない、買っても使い切れないので、この本で描かれているように私も試してみたいと思う。そして、気に入ったものを欲しい。

 この本を読んだ後、新しい化粧品を買いました(単純)。
 「メイク・ミー・ハッピー」メイクは自分を幸せにする。そんなキャッチコピーがありましたが、まさにそれだと思いました。化粧をして、明るい表情になって、楽しくなろう、幸せを感じよう。結乃の成長と共に、そんな楽しさが感じられるお話です。

 番外編(文庫本書き下ろし)の馬場さんの番外編もいい。馬場さんから見た結乃もまたいい。
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by halca-kaukana057 | 2017-05-17 22:51 | 本・読書

流れ行く者 守り人短編集 / 炎路を行く者 守り人作品集

 しばらく本の感想を書いていませんでした。でもその間に色々な本を読みました。少しずつ、またここに書いていこうと思います。第1弾はNHKでこの冬に実写ドラマ第2シーズンが放送された「守り人」シリーズより、番外編の2冊を。

流れ行く者 守り人短編集

上橋菜穂子/新潮社 新潮文庫/2013
(単行本は偕成社から、2008年)


 バルサとタンダがまだ10代の頃のエピソードが収められています。「浮き籾」はタンダが主人公。村で家族と暮らすタンダと、遠い親戚の「髭のおんちゃん」オンザの思い出。村と家族というコミュニティで暮らす中で、異質な者がどう扱われるか。夢見がちで、素直で、呪術師の片鱗が見え始めていたタンダの感受性の豊かさに触れられる作品です。無邪気なところもあるタンダがとても可愛らしいけれども、オンザと同じように村で「普通に」田畑で働いて暮らすこととはちょっと外れ始めている…かなしいと言えばいいのだろうか。うまい言葉が見当たらない。
 「ラフラ<賭事師>」は、ロタの酒場で働くバルサと、その酒場の賭事師「ラフラ」のアズノのお話。アズノは老いてはいるが、とても腕のいい賭事師。酒場で行われる賭け事とは別に、お金を賭けずに長年続けるものもある。アズノの腕に魅了されるバルサ。アズノが50年も続けてきたお金を賭けない賭け事は、アズノにとってライフワークのような存在だったのに…最後がさみしい。プロの賭事師だからこそ、酒場の賭け事とは違うものとして、大事にしておきたかったから、あんな最後にしてしまったのかもしれない。
 「流れ行く者」は、実写ドラマのシーズン1の中でも描かれた作品。バルサが初めて人を殺めてしまう。少女時代のバルサの危うさ、感情の起伏、大人びた冷めた考えをしつつも未熟さもある。この話を読んでから、「守り人」シリーズ本編、特に「神の守り人」を読むと、バルサの生き様、生死に対する考え方の根源に触れられる気がする。こんな辛い想いをして、それでも生き延びなくてはならない。バルサの強さと、かなしさを感じます。
 「流れ行く者」の後の「寒のふるまい」はホッとします。タンダがいて、バルサは救われているのだろうな、と。読者も。

 解説は「プラネテス」「ヴィンランド・サガ」の漫画家・幸村誠先生です。幸村先生の絵でバルサやジグロ、タンダを描いたらきっとイメージぴったりだと思う。バトルシーンも「ヴィンランド・サガ」を読めばわかりますが、きっと迫力満点だろうなぁ!

炎路を行く者 守り人作品集

上橋菜穂子/新潮社 新潮文庫/2017
(単行本は偕成社から、2012年)


 こちらは今年文庫化した作品集。「蒼路の旅人」「天と地の守り人」で登場する、タルシュ帝国の密偵・ヒュウゴの生い立ちの物語。チャグムたちの新ヨゴ皇国の元の国・ヨゴ皇国の出身ということはこの2作で触れられていますが、10代の頃、どう暮らしてきたかが明らかになります。ヨゴ皇国の帝を守る武人の一家に生まれ育ったヒュウゴ。ヨゴ皇国がタルシュ帝国に落ち、家族や親戚は皆殺されてしまう。何とか生き残ったヒュウゴが出会ったのは、不思議な女性・リュアン。ナユグが見え、タラムーと呼ばれるナユグの生き物を通じて、ヒュウゴと話ができる。「守り人」シリーズはナユグがあってこその物語だなと思います。そのリュアンに助けられ、ヒュウゴは生きていくために酒場に住み込みで働くことになるのだが…。10代のヒュウゴも、強いけれども、危ういところがあり、家族を殺された怒りや憎しみ、かなしみを抱いて、感情の起伏が激しく、賢く大人びている。ヒュウゴがどんどん変わっていってしまうのが辛い。タルシュ帝国の中でも、ちょっと異質な動きをするヒュウゴですが、その源が伺えます。とても好きな作品です。

 もうひとつ、「十五の我には」はバルサのお話。バルサの10代は本当に過酷だった。だからこその強さと優しさをを持っている。危うさを持った15歳のバルサ。成長の瞬間は簡単に捉えられないが、後から思うとわかることがたくさんある。これも好きな作品です。
 この「炎路を行く者」は「天と地の守り人」まで読み終わってから読むのをオススメします。でないと、ネタバレします。


 「神の守り人」以降は図書館から借りて単行本で読み、文庫が手もとになかったのと、実写ドラマを観て原作を思い出せなくなっていたので、「神の守り人」から再読しました。面白かった。「守り人」シリーズのワクワク感を久々に味わいました。ナユグとサグの壮大な物語。チャグムも凛々しくなっていく。
 実写ドラマの第3シーズンは、「闇の守り人」、そして「天と地の守り人」とクライマックスへ向かうそうです。「闇の守り人」をやらないと、カンバルについて何も語れませんものね。「天と地の守り人」の途中からどう「闇の守り人」を入れるのか、興味深いです。
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by halca-kaukana057 | 2017-05-09 22:51 | 本・読書

星の案内人 4 [完結]

 ずっと読んだ本の感想書いていませんね…。少しずつ書いていけたらと思います(諦めてない)。

 プラネタリウム天文漫画「星の案内人」、3巻の発売から随分経ってからの4巻が出ました。そして、完結です…。なんと…。


星の案内人 4
上村五十鈴 / 芳文社・芳文社コミックス/2016

 ある日、トキオは不思議な雰囲気の青年と出会う。旅人のような雰囲気で、カメラを持っていた。おじいさんのプラネタリウム「小宇宙」にいると、その青年・チハルが訪ねてくる。チハルはカメラマンで、かつておじいさんの家・小宇宙に居候していたことがある。チハルはおじいさんと出会った頃、チハルの世界は真っ暗だった。


 4巻で登場し、4巻の鍵となる人物、チハルさんの登場です。子どもの頃、心優しく優秀な兄を不慮の事故で亡くしてしまう。事故と兄の死は自分のせいだ、自分が死ねばよかったと、自分を責めるチハル。学生時代はグレた生活をしていたが、そのグループで違和感を覚え、さまよい、おじいさんに出会った。何も聞かず、食事や寝床、服やお風呂を用意してくれたおじいさん。おじいさんの心のあたたかさに触れ、おじいさんと生活することに。そして、おじいさんとの天文や自然に関する会話から、自分が生きていていいと思うようになる。

 チハルさんは、「ムーミン」のスナフキンのような人。でも、過去にとても重いものを背負い、おじいさんに救われた。いや、おじいさんはひとつのきっかけであって、チハルさんの「生きたい」という気持ちを引き出したのかな。スナフキンのような言動は、おじいさんの影響です。おじいさんがもっと若くて、もう少し静かな人なら、チハルさんのようになったかもしれない…。

 このチハルさんが、トキオくんを動かします。27・28話、トキオくんも、おじいさんの心のあたたかさに触れ、おじいさんとの交流や星の話から、自分自身を認められるようになった。でも、もしおじいさんがいなくなったら…。生きること、死ぬこととはどういうことか。ひとりになるとはどういうことか。トキオくんの不安を、おじいさんのプラネタリウムと星の話、そしてチハルさんが優しく支えます。

 24話のトキオくんやコータのクラスメイトのスエツグくん、25話の謎の美女、26話のナノハちゃんの友達のしのちゃん。初期のオムニバスが戻ってきたようなこのあたりでも、チハルさんとトキオくんの話でも、そして最終話でも、この漫画は宇宙と人間の関わりを、科学の側からも、神話や文学・芸術の側からも教えてくれる。どちらも、人間が「宇宙のことをもっと知りたい、宇宙にもっと近づきたい」と思って、観測や研究を重ね、歴史の中で物語や作品がつくられてきた。プラネタリウムもそのひとつと言える。宇宙や星の姿や謎が少しずつ解明されるなかで、人は同時に宇宙に生きることとは何かという問いを映す。どう生きたらいいのか。辛いことや悩みがあって、ふと夜空を見上げて星空に見入ってしまうのも、そんな思いの投影だろう。

 25話で、おじいさんの奥さんについて語られたり、29話でおじいさんがどんな風にプラネタリウムをつくっていったか簡単な説明があったけれど、おじいさんはかなり苦労してきたんだと思う。でも、そう思わせない。表に出さない。全て肯定している。やって来た人は誰であれ拒まず、おじいさん流に心あたたかく迎え入れる。そんなおじいさんだからこそ語ることのできる星の話があり、このプラネタリウム「小宇宙」はおじいさんで生を受けているのだと思う。

 最終話(前後編)。トキオくんも、アスカちゃんも、皆、またひとつ成長します。トキオくんのラスト、志村さんに言った言葉がかっこよかった。でも、その後、「小宇宙」に来ていた人たちがどうなったかは語られません。でもプラネタリウム「小宇宙」はある。中に入れば、おじいさんが食べ物や飲み物とともに迎え入れてくれて、プラネタリウムを見せて星の話をしてくれる。そんな場所が、日本のどこかにあって欲しいなぁと思うラストでした。

 登場する人々が、色んな過去・現在を抱えていたり(過去や現在に問題を抱えていない人なんていないと思う)、最初は反発していたり。でも、心の奥底にはあたたかいものを持っている。それを引き出してくれるおじいさんとプラネタリウム。宇宙のことも学べて、心もあたたかくなる、素敵な漫画でした。ありがとうございました!!
 また好きな天文漫画が終わってしまった…(涙

 カバーを外した表紙のおまけマンガで、トキオくんがヴァイオリンで演奏していた曲のひとつが判明しました。クライスラー:作曲、「プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」のアレグロ。この曲です。
Itzhak Perlman-Pugnani Kreisler-Preludium and Allegro
 パールマンのヴァイオリンでどうぞ。この曲の後半部分、2分24秒辺りからです。トキオくん、こんな曲を弾けるんだ…!!すごい。この曲、知りませんでした。作者の上村先生はクラシックがお好きなのかなぁ?

・3巻感想:星の案内人 3
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by halca-kaukana057 | 2017-03-07 22:30 | 本・読書

Im ~イム~ 5

 10月はあまりブログを書けなかったので、今月は少し増やしていきたいです。まずは読んで感想を書いてない漫画がまた増えたのでそれを…


Im ~イム~ 5
森下真/スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2016

 クレオパトラにさらわれた八咫黒烏(やた・くろう)支部長を助けるため、船に突撃するイムや晴吾たち。そんな時、コンスから連絡が入る。支部長は15年前、マガイに憑りつかれていて、そのマガイをクレオパトラやジェゼルは狙っているという。15年前…晴吾の家・御空神社での事件。支部長の中にいるのは、御空神社で祀っていたマガイだった。15年前、御空神社で本当に起こったことは何だったのか。支部長は何をして、何故そのマガイが支部長の中にいるのか。そしてそのマガイは何のマガイなのか…。


 話がどんどん壮大になっていきます。古代エジプト神話の創世神話も出てきます。古代エジプト神話をおさらいし直しました。神話と、古代エジプト史と、熱い友情とバトル。5巻はそれらが全部詰まってます。

 晴吾の過去にもようやく決着がつきました。かつての支部長と、晴吾の父の過去。15年前、本当は何が起こったのか。晴吾たちを育て見守ってきた支部長の思い、晴吾たちの思い。とにかく熱いです。これまで、こういうタイプの友情とバトルの少年マンガはあまり読んだことがないので、新鮮で面白いです。支部長に引き取られた子どもたちから浮いていた晴吾、御空神社の息子ということで敬遠してた子どもたち。でも、本当は仲良くなりたかった。そんなわだかまりが4巻で解けましたが、5巻では更に晴吾たちの友情が強くなります。熱いです。支部長の意外な過去にも驚きつつも、やっぱり優しくて強い人なんだなぁと。

 マガイ戦は迫力満点です。イムが月神トトを召喚できるのはラトさんも知らなかったのか。イムは強いけど、イムだけではこのマガイは倒せない。強いチームワークでこそ戦える。いいですね、こういうの。

 イムがクレオパトラと対峙するシーン
俺達古代人(過去の人間)が<現代>(いま)を脅かす権利はない!
(60ページ)

に対してクレオパトラ
妾にだって<現代>(いま)があった!!!
(62ページ)

 この部分が印象に残りました。イムは過去から甦った人間。所々で回想がありますが、クレオパトラの運命も辛いもので…。それ、その時を取り戻したいという気持ちは切ないです。

 マガイを倒して一件落着と思いきや…また混乱が。また話が壮大になりました。そんな相手でも、怖気づかない晴吾。強くなったというか、怖いもの知らずというか…(汗

 一方のコンス。今回の件は、支部の上層部が絡んでいたことを突き止める。支部の中には何があるんだ?倒したマガイがイムに言っていたことと、 コンスの身体にあったもの…あれは何だ?コンスは本当に何者なんだ?そしてラストシーン、え?コンスとあの人が?えええ…!?続きが気になります。

 晴吾編が終わったので、6巻からはまた新しい展開がはじまります。楽しみです。

・4巻:Im ~イム~ 4
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by halca-kaukana057 | 2016-11-08 22:08 | 本・読書

イギリス四季暦 春夏篇/秋冬篇

 図書館でシャーロック・ホームズやシェイクスピアについて調べていたら、イギリスの文化や自然・風習のことも調べ始めて、この本を読んでいました。

イギリス四季暦 春夏篇
出口保夫:文、出口雄大:イラスト/中央公論社・中公文庫/1997

 3月から8月が春夏篇、9月から2月が秋冬篇と2冊に分かれています。優しい色遣いのイラストと、イギリスの四季の自然やイギリスの人々の生活風景が書かれています。

 北欧、特にフィンランドに興味を持って、その自然や人々の暮らし、文化などに惹かれてきましたが、イギリスも惹かれる。イギリスも北欧とはまた違う(同じ北欧でも緯度の範囲は広いので、国・地域によって違いはあります)。日本よりも北にあり、北国に属するイギリス。北国生まれ北国育ちの私が惹かれないわけがなかった。日本の北国とは違いはありますが、季節の変わり方や植物などに共通点もあるなと感じました。

 ロンドンらしいのは、雨と霧。傘よりもレインコート。紅茶の話がよく出てきますが、雨が多く涼しいので、あたたかい紅茶文化が浸透しているのかなと思いました。あくまで予想です。北欧もコーヒー消費量が多い。読んでいると、あたたかいミルクティを飲みたくなります。ちゃんと淹れたものを(うまく淹れられない…)

 イギリスの文化や暮らし、季節の風習はキリスト教に基づいている。ここはやはりヨーロッパなんだなと感じた。クリスマスだけでなく、イースター(復活祭)や11月のハロウィンも。クリスマスとイースターは期間と規模が違います。

 自然では鳥のこともよく書かれています。ロンドンは大都市ですが、ハイド・パークなどの大きな公園もあり、緑も多い。人々の暮らしは主にロンドンのことが書かれていますが、スコットランドのことも。冷涼な荒野にヒースが茂る様を想像してしまいました。印象的だったのが、春夏篇では「ちいさな紳士の贈り物」、秋冬篇では「フォート・ウィリアムの宿」やはり人との触れ合いは心に残ります。

 薄めの文庫本なのでさらっと読めます。もう少しイギリスの文化についても書いてあったらいいのになと思いましたが、9月のところにプロムナード・コンサート、つまりBBCプロムスのラストナイトコンサートのことも書いてありました。今とは雰囲気や構成が違うような…?過去の映像を観ても今とそんなに変わらないと思うのだが、文章でしかないので何とも。

 イギリス文化入門書という感じです。やっぱり淹れたてのミルクティが飲みたいです。
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by halca-kaukana057 | 2016-09-28 23:08 | 本・読書

ヴィンランド・サガ 18

 読んだ漫画は早めに感想を書こう…でも1ヶ月ぐらい経ってしまいました。


ヴィンランド・サガ 18
幸村誠/講談社・アフタヌーンKC/2016

 ヒルドに弩で撃たれ負傷したトルフィン。鍋に毒は盛られておらず、皆無事だった。トルフィンの怪我が治るまで、一行はノルウェー・ベルゲンで冬を越すことにする。そして春。ヒルドも加わり、ギリシアへ向けて再び出航する一行。
 一方、デンマーク。フローキらヨーム騎士団のところへ、イングランドからトルケルがやって来た。そして、市場で、トルフィンはヨーム騎士団の一行と再会してしまう。トルケルと再会、そしてフローキとも会う。そして、ヨーム騎士団の現在の状況と、トルフィンの血縁について話をする…。



 ヒルドさんも仲間(トルフィンの監視役)に加わり、旅の再開です。ノルウェーを出て、バルト海を渡りデンマークへ。久々の北欧、嬉しくなります。が、18巻の展開は全く嬉しい、楽しいものではありません。

 久々にトルケルが登場します。8巻でアシェラッドが死んで以来ですね。再登場時は、ちょっとノイローゼ気味になっていた。その理由がなんともトルケルらしいです。ヨーム騎士団とフローキも再登場。そういえば、フローキがトルフィンに会うのは初めてでしたっけ…?トールズが殺された時、子どもの頃には少し会っていたかもしれない。成長してからは初めてですね。
 ヨーム騎士団が抱える問題…後継者探し。ヨーム騎士団の団長には、血統を重視する。かつて「ヨームの戦鬼(トロル)」と呼ばれたトールズが父、母のヘルガは2代目団長の娘。そしてイングランドでは小柄ながら、大柄のトルケルを負傷させるほどの強さで一目置かれていた「侠気のトルフィン」トルフィン・カルルセヴニ。団長にふさわしい、と言われてしまう。トルフィンは、ヴァイキングの過去を捨てたのに…。

 捨てたい過去、自分は変わろうとしているのに、周りがそうさせてくれないことがある。過去を掘り起こしたり、引きずり込んだり、変わらないものとして扱おうとしたり。ただ駒にされているような気にもなる。トルフィンはヴァイキングだった過去を捨て、ヴィンランドで新しい国をつくり、新しい人生を歩もうとしているのに、トルケルやフローキは過去へ引きずり込んだ。何故人生はこうもうまくいかないのだろう。

 団長のことは勿論断ったが、ただではおかないフローキとヨーム騎士団。トルフィンたちを追ってくる。トルフィンはエイナルやグズリーズたちを逃がし、ヨーム騎士団の追っ手に立ち向かう(ヒルドさんは監視でついて来た)。殺気に満ち、相手を力で素早く射止めるかつてのトルフィンです。穏やかだったトルフィンが、また…。ヨーム騎士団の追っ手との対決で、蛇さんのことを思い出すトルフィン。蛇さんの方が強かったって…。トルフィンもずっと戦場から離れているのに、この動き。トルフィンは暴力と過去を捨て、その生き方を応援しているのに、戦うトルフィンもかっこよく見えてしまう。多分、以前とは戦う理由が異なるからだと思う。でも、理由は何であれ、トルフィンは暴力を捨てたのに…。

 そんなトルフィンの前に現れた2人のヨーム騎士団の戦士たち。彼らはちょっと違うようで…。そして、現実を突きつけられるトルフィン。なんとも辛い。ヴィンランドどころか、ギリシアにもたどり着けるのか…かなり不安になってきました。19巻を待ちます。月刊連載でもう20巻目前なんだな。どうなるんだろう。

 あと、シグルドたちはどうなっちゃうんでしょう…。

・前巻:ヴィンランド・サガ 17
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by halca-kaukana057 | 2016-09-25 22:09 | 本・読書

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

 今まで村上春樹作品を読んだことはありません(エッセイならある)。話題にはなっているけど、一体何が魅力なんだろう?熱狂的なムーヴメントは、一体何からきているのだろう?ちょうど文庫化されていたのを見つけたので、この作品を読んでみることにしました。舞台にフィンランドが出てくる、というのも理由のひとつです。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上春樹/文藝春秋・文春文庫/2015(単行本は2013)

 多崎つくるは、鉄道の駅を設計する仕事をしている。彼は高校生の頃、4人の男女の親友がいた。苗字にそれぞれ色をもっている彼らとはうまくやっていたが、大学の時突然絶縁を申し渡された。理由もわからず、当時のつくるは生きる気力を失い、死を思い続けた。何とか生きる気力を取り戻し、今は2つ年上のガールフレンド・沙羅がいる。沙羅はつくるに、彼らが何故絶縁を言い渡したか探るべき、と促す。沙羅の協力で彼らの居場所をつかんだつくるは、彼らに会いに行く。


 読んで、ああ、これが村上春樹の文章か、と感じました。以前twitterで村上春樹風文章でカップ焼きそばの作り方を書いてみた、というネタがあったのですが、なるほどと思いました。こんな言葉の組み立て方でこんな会話、普通の人はしないよなぁ…、という会話が並んでいる。友情を失うことになった理由は何だろう…?と続きを読むも、うーん…という展開。

 つくるは、苗字に色の名前が入っている4人…男性の赤松、青海、女性の白根、黒埜(くろの)と自分を比べて、個性・色彩がないと思っている。でも、彼らに会うと、皆つくるの個性を誉める。生きる気力を取り戻し、ジムに通ったりガールフレンドもいるのに、心ここにあらずのような心持ちのつくる。沙羅もそれを指摘する。自分自身は自分からはよく見えない、ということだろうか。

 友情を失うことになった理由。4人のひとり、白根(シロ)に起こったまさかの出来事。ピアノが得意なシロが演奏していた、リストの「巡礼の年・第1年 スイス」の第8曲:ル・マル・デュ・ペイ。聴いてみましたが、まさにこの作品の根底に流れている、暗く静かな曲。4人、他にも色の名前を持つ人物が登場するが、この物語はモノクロだなと感じました。つくるがかつての親友たちに再会しても、絶縁の理由を突き止めても、モノクロの世界が続いている。

 黒埜(クロ)に会いに、つくるはフィンランドへ行く。フィンランドの描写は、観光が目的ではないので、そんな期待したほどではありませんでしたが、フィンランドの風景だな、と。クロは、シロのこと、シロに起こった出来事をずっと引きずっていた。つくるが失った過去に向き合うだけでなく、他のメンバーもつくるを失った過去に向き合っている。

 ラストも何だろうこの展開…と思いつつも、ようやく、つくるが過去ではなく、今を生きようとしているのかなというのは感じられました。
 村上春樹は小説よりもエッセイのほうが合うかもしれない…。

 ちなみに、つくるがフィンランドに行った時、車で聴いていたクラシック専門ラジオは、YLE Klassinenのことだろうなと推測。フィンランドには他にもクラシック専門チャンネルがありますが、最大手はフィンランド国営放送のYLE Klassinen.放送される作品も幅広いです。ネット配信もしていて、日本からでも聴けます。
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by halca-kaukana057 | 2016-09-15 22:30 | 本・読書

音楽の旅・絵の旅

 涼しくなってきたので、読書にも集中できるようになってきました。読むのにかなりの時間がかかった本です。


音楽の旅・絵の旅 吉田秀和コレクション
吉田秀和/筑摩書房・ちくま文庫/2010

 音楽評論家の吉田秀和さんが、1976年にバイロイト音楽祭を聴きにドイツをはじめヨーロッパ各地を旅行した日記と、「音楽の光と翳」という短いエッセイ集の2部に分かれている本です。

 前半のバイロイト音楽祭。ワーグナー「ニーベルングの指輪」四部作の完全上演100年にあたる1976年。演出はシェロー、指揮はブーレーズ。このバイロイトでの演奏会の記録・日記は、私にとっては読むのは大変なことでした。ワーグナーのオペラ(楽劇)はあまり馴染みがない。序曲やアリアの抜粋ならいくつかは聴いているけれども、オペラを通して聴いたことはなく(長い、物語が難しそう、壮大過ぎる、という先入観で…すみませんワーグナーファンの皆様…)、バイロイト音楽祭も馴染みがない。NHKFMで年末に放送されていますが、聴いたことがない。
 それでも、吉田さんがどれだけワーグナーのオペラに惹かれていて、魅力的な部分をスコアつきで語るのは、半分よくわからないけど、ひきつけられるものがありました。吉田さんはプロの音楽評論家。スコア(ワーグナーのオペラはポケットスコアでも分厚いのでピアノ版のスコア)を確認しながら聴いている。音楽理論・楽典の裏づけから、あるシーンの曲の魅力を語っているのを読んでいると凄いな、と思う。そんな吉田さんですら、こんなことを書いているので驚いた。
だが、そうしてみると、今度は私の和声学の知識が不十分であり、穴があることに気づく。若い時、もっと勉強しておくのだった。だが、そういってもいられない。手もとにある武器や弾薬が不足とわかっていても、私はまだまだ、前進したい。たとえ一歩でも半歩でも。
 こう書いたら、いつか新聞でよんだ貴ノ花の言葉というのを思い出した。「もっと立合いを鋭くして、一歩踏みこまなければいけない」という解説者の註文をきいた時、この軽量の大関は「そんなことをいっても、相撲では一歩はおろか、半歩前に進むんだって、本当に大変なんだ。相手だって前に出てくるんだから」といったというのである。私の相手は音楽。それがだんだんやさしくなるどころか、これまでそう思わなかったことまで、むずかしくなるのだ。
(109ページより)

 今、私はバイロイト音楽祭ではなく、ロンドンの夏の風物詩、プロムスの各公演を手当たり次第ネットのオンデマンドで聴いている。様々な作品がある。現代作品も多い。初めて聴く作品も、今まで全く知らなかった作品、苦手だと思っている作品もある。好きな作品もあるが、指揮者やオーケストラも様々。聴いていてそれまで気がつかなかったことに気づいたり、疑問も出てきたり、余計わからなくなることもある。プロムスに限らず、普段聴く音楽でもそうだ。なので、吉田さんの仰っていることがよくわかるとも思う。それでも、音楽にもっと近づきたい。プロムスを聴き、この本を読んで、もっと音楽を楽しく聴くにはどうしたらいいのだろう?と思うようになった。知識や聴く作品を増やせばいいのだろうか。それもひとつのやり方だ。でもそれだけじゃ足りない、全てではない気がする。私の音楽の旅も、まだまだこれからだ。

 バイロイト音楽祭だけではなく、カラヤン指揮ベルリンフィルの演奏会や、黛敏郎のオペラ「金閣寺」、ポリーニのシューマン、若き日のサー・エリオット・ガーディナーの合唱つき作品の演奏会も出てくる。現代作品も出てくる。現代作品に対しての視点が興味深い。音楽だけではない。タイトルの「絵の旅」とあるとおり、美術館で絵画作品を分析しながら鑑賞している。その分析方法が本格的で、吉田秀和さんは絵画にも造詣が深かったのか!と驚かされた。音楽は総合芸術。他の分野とも繋がりが深い。美術にも通じるものがあるのだろう。

 旅はイギリス経由で、ロンドンでも美術館などをめぐる。そこでこう書かれている。
いかにイギリスという国が、イギリス人のものであると同時に、世界中の人たちの前に開放されたものであるかということが、もう一度、頭に浮かぶ。この美術館だって、いつかかよった大英博物館だって、世界中の人に無料で解放されているのだ。どんなに貧乏しようと、金をとろうとしない。それもイギリス人に対してだけでなく、世界中のどんな人に対しても同じなのだ。こういうのを見ていると、将来、もしイギリスの没落という事態が起こったとすれば、それはイギリス人にとってというだけでなく、世界中にとっての損失を意味するだろうという気がしてくる。
(197ページ)

 ここを読んで、イギリスのEU離脱への顛末を思い浮かべずにいられなかった。EUから離脱したからといって、大英博物館などが有料になるわけではないだろうが、イギリスという国の大きさを思い知る。やはり世界の「大英帝国」なんだなぁ、と。吉田さんが想像した没落、損失がないことを祈るばかりである。

 後半のエッセイ集、「音楽の光と翳」は短く、吉田さんの身近なところにある音楽から思ったことが書かれていて、読みやすかった。前半が難しいなと思ったら後半から入るのも手かも知れない。どちらにしても、吉田さんの優しく、音楽への愛情の深い文章は素敵だ。私の知らない音楽の世界を、この本で垣間見れた。音楽の世界は広いなぁ。
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by halca-kaukana057 | 2016-09-02 23:32 | 本・読書


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