カテゴリ:本・読書( 496 )

ヴィンランド・サガ 18

 読んだ漫画は早めに感想を書こう…でも1ヶ月ぐらい経ってしまいました。


ヴィンランド・サガ 18
幸村誠/講談社・アフタヌーンKC/2016

 ヒルドに弩で撃たれ負傷したトルフィン。鍋に毒は盛られておらず、皆無事だった。トルフィンの怪我が治るまで、一行はノルウェー・ベルゲンで冬を越すことにする。そして春。ヒルドも加わり、ギリシアへ向けて再び出航する一行。
 一方、デンマーク。フローキらヨーム騎士団のところへ、イングランドからトルケルがやって来た。そして、市場で、トルフィンはヨーム騎士団の一行と再会してしまう。トルケルと再会、そしてフローキとも会う。そして、ヨーム騎士団の現在の状況と、トルフィンの血縁について話をする…。



 ヒルドさんも仲間(トルフィンの監視役)に加わり、旅の再開です。ノルウェーを出て、バルト海を渡りデンマークへ。久々の北欧、嬉しくなります。が、18巻の展開は全く嬉しい、楽しいものではありません。

 久々にトルケルが登場します。8巻でアシェラッドが死んで以来ですね。再登場時は、ちょっとノイローゼ気味になっていた。その理由がなんともトルケルらしいです。ヨーム騎士団とフローキも再登場。そういえば、フローキがトルフィンに会うのは初めてでしたっけ…?トールズが殺された時、子どもの頃には少し会っていたかもしれない。成長してからは初めてですね。
 ヨーム騎士団が抱える問題…後継者探し。ヨーム騎士団の団長には、血統を重視する。かつて「ヨームの戦鬼(トロル)」と呼ばれたトールズが父、母のヘルガは2代目団長の娘。そしてイングランドでは小柄ながら、大柄のトルケルを負傷させるほどの強さで一目置かれていた「侠気のトルフィン」トルフィン・カルルセヴニ。団長にふさわしい、と言われてしまう。トルフィンは、ヴァイキングの過去を捨てたのに…。

 捨てたい過去、自分は変わろうとしているのに、周りがそうさせてくれないことがある。過去を掘り起こしたり、引きずり込んだり、変わらないものとして扱おうとしたり。ただ駒にされているような気にもなる。トルフィンはヴァイキングだった過去を捨て、ヴィンランドで新しい国をつくり、新しい人生を歩もうとしているのに、トルケルやフローキは過去へ引きずり込んだ。何故人生はこうもうまくいかないのだろう。

 団長のことは勿論断ったが、ただではおかないフローキとヨーム騎士団。トルフィンたちを追ってくる。トルフィンはエイナルやグズリーズたちを逃がし、ヨーム騎士団の追っ手に立ち向かう(ヒルドさんは監視でついて来た)。殺気に満ち、相手を力で素早く射止めるかつてのトルフィンです。穏やかだったトルフィンが、また…。ヨーム騎士団の追っ手との対決で、蛇さんのことを思い出すトルフィン。蛇さんの方が強かったって…。トルフィンもずっと戦場から離れているのに、この動き。トルフィンは暴力と過去を捨て、その生き方を応援しているのに、戦うトルフィンもかっこよく見えてしまう。多分、以前とは戦う理由が異なるからだと思う。でも、理由は何であれ、トルフィンは暴力を捨てたのに…。

 そんなトルフィンの前に現れた2人のヨーム騎士団の戦士たち。彼らはちょっと違うようで…。そして、現実を突きつけられるトルフィン。なんとも辛い。ヴィンランドどころか、ギリシアにもたどり着けるのか…かなり不安になってきました。19巻を待ちます。月刊連載でもう20巻目前なんだな。どうなるんだろう。

 あと、シグルドたちはどうなっちゃうんでしょう…。

・前巻:ヴィンランド・サガ 17
[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-09-25 22:09 | 本・読書

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

 今まで村上春樹作品を読んだことはありません(エッセイならある)。話題にはなっているけど、一体何が魅力なんだろう?熱狂的なムーヴメントは、一体何からきているのだろう?ちょうど文庫化されていたのを見つけたので、この作品を読んでみることにしました。舞台にフィンランドが出てくる、というのも理由のひとつです。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上春樹/文藝春秋・文春文庫/2015(単行本は2013)

 多崎つくるは、鉄道の駅を設計する仕事をしている。彼は高校生の頃、4人の男女の親友がいた。苗字にそれぞれ色をもっている彼らとはうまくやっていたが、大学の時突然絶縁を申し渡された。理由もわからず、当時のつくるは生きる気力を失い、死を思い続けた。何とか生きる気力を取り戻し、今は2つ年上のガールフレンド・沙羅がいる。沙羅はつくるに、彼らが何故絶縁を言い渡したか探るべき、と促す。沙羅の協力で彼らの居場所をつかんだつくるは、彼らに会いに行く。


 読んで、ああ、これが村上春樹の文章か、と感じました。以前twitterで村上春樹風文章でカップ焼きそばの作り方を書いてみた、というネタがあったのですが、なるほどと思いました。こんな言葉の組み立て方でこんな会話、普通の人はしないよなぁ…、という会話が並んでいる。友情を失うことになった理由は何だろう…?と続きを読むも、うーん…という展開。

 つくるは、苗字に色の名前が入っている4人…男性の赤松、青海、女性の白根、黒埜(くろの)と自分を比べて、個性・色彩がないと思っている。でも、彼らに会うと、皆つくるの個性を誉める。生きる気力を取り戻し、ジムに通ったりガールフレンドもいるのに、心ここにあらずのような心持ちのつくる。沙羅もそれを指摘する。自分自身は自分からはよく見えない、ということだろうか。

 友情を失うことになった理由。4人のひとり、白根(シロ)に起こったまさかの出来事。ピアノが得意なシロが演奏していた、リストの「巡礼の年・第1年 スイス」の第8曲:ル・マル・デュ・ペイ。聴いてみましたが、まさにこの作品の根底に流れている、暗く静かな曲。4人、他にも色の名前を持つ人物が登場するが、この物語はモノクロだなと感じました。つくるがかつての親友たちに再会しても、絶縁の理由を突き止めても、モノクロの世界が続いている。

 黒埜(クロ)に会いに、つくるはフィンランドへ行く。フィンランドの描写は、観光が目的ではないので、そんな期待したほどではありませんでしたが、フィンランドの風景だな、と。クロは、シロのこと、シロに起こった出来事をずっと引きずっていた。つくるが失った過去に向き合うだけでなく、他のメンバーもつくるを失った過去に向き合っている。

 ラストも何だろうこの展開…と思いつつも、ようやく、つくるが過去ではなく、今を生きようとしているのかなというのは感じられました。
 村上春樹は小説よりもエッセイのほうが合うかもしれない…。

 ちなみに、つくるがフィンランドに行った時、車で聴いていたクラシック専門ラジオは、YLE Klassinenのことだろうなと推測。フィンランドには他にもクラシック専門チャンネルがありますが、最大手はフィンランド国営放送のYLE Klassinen.放送される作品も幅広いです。ネット配信もしていて、日本からでも聴けます。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-09-15 22:30 | 本・読書

音楽の旅・絵の旅

 涼しくなってきたので、読書にも集中できるようになってきました。読むのにかなりの時間がかかった本です。


音楽の旅・絵の旅 吉田秀和コレクション
吉田秀和/筑摩書房・ちくま文庫/2010

 音楽評論家の吉田秀和さんが、1976年にバイロイト音楽祭を聴きにドイツをはじめヨーロッパ各地を旅行した日記と、「音楽の光と翳」という短いエッセイ集の2部に分かれている本です。

 前半のバイロイト音楽祭。ワーグナー「ニーベルングの指輪」四部作の完全上演100年にあたる1976年。演出はシェロー、指揮はブーレーズ。このバイロイトでの演奏会の記録・日記は、私にとっては読むのは大変なことでした。ワーグナーのオペラ(楽劇)はあまり馴染みがない。序曲やアリアの抜粋ならいくつかは聴いているけれども、オペラを通して聴いたことはなく(長い、物語が難しそう、壮大過ぎる、という先入観で…すみませんワーグナーファンの皆様…)、バイロイト音楽祭も馴染みがない。NHKFMで年末に放送されていますが、聴いたことがない。
 それでも、吉田さんがどれだけワーグナーのオペラに惹かれていて、魅力的な部分をスコアつきで語るのは、半分よくわからないけど、ひきつけられるものがありました。吉田さんはプロの音楽評論家。スコア(ワーグナーのオペラはポケットスコアでも分厚いのでピアノ版のスコア)を確認しながら聴いている。音楽理論・楽典の裏づけから、あるシーンの曲の魅力を語っているのを読んでいると凄いな、と思う。そんな吉田さんですら、こんなことを書いているので驚いた。
だが、そうしてみると、今度は私の和声学の知識が不十分であり、穴があることに気づく。若い時、もっと勉強しておくのだった。だが、そういってもいられない。手もとにある武器や弾薬が不足とわかっていても、私はまだまだ、前進したい。たとえ一歩でも半歩でも。
 こう書いたら、いつか新聞でよんだ貴ノ花の言葉というのを思い出した。「もっと立合いを鋭くして、一歩踏みこまなければいけない」という解説者の註文をきいた時、この軽量の大関は「そんなことをいっても、相撲では一歩はおろか、半歩前に進むんだって、本当に大変なんだ。相手だって前に出てくるんだから」といったというのである。私の相手は音楽。それがだんだんやさしくなるどころか、これまでそう思わなかったことまで、むずかしくなるのだ。
(109ページより)

 今、私はバイロイト音楽祭ではなく、ロンドンの夏の風物詩、プロムスの各公演を手当たり次第ネットのオンデマンドで聴いている。様々な作品がある。現代作品も多い。初めて聴く作品も、今まで全く知らなかった作品、苦手だと思っている作品もある。好きな作品もあるが、指揮者やオーケストラも様々。聴いていてそれまで気がつかなかったことに気づいたり、疑問も出てきたり、余計わからなくなることもある。プロムスに限らず、普段聴く音楽でもそうだ。なので、吉田さんの仰っていることがよくわかるとも思う。それでも、音楽にもっと近づきたい。プロムスを聴き、この本を読んで、もっと音楽を楽しく聴くにはどうしたらいいのだろう?と思うようになった。知識や聴く作品を増やせばいいのだろうか。それもひとつのやり方だ。でもそれだけじゃ足りない、全てではない気がする。私の音楽の旅も、まだまだこれからだ。

 バイロイト音楽祭だけではなく、カラヤン指揮ベルリンフィルの演奏会や、黛敏郎のオペラ「金閣寺」、ポリーニのシューマン、若き日のサー・エリオット・ガーディナーの合唱つき作品の演奏会も出てくる。現代作品も出てくる。現代作品に対しての視点が興味深い。音楽だけではない。タイトルの「絵の旅」とあるとおり、美術館で絵画作品を分析しながら鑑賞している。その分析方法が本格的で、吉田秀和さんは絵画にも造詣が深かったのか!と驚かされた。音楽は総合芸術。他の分野とも繋がりが深い。美術にも通じるものがあるのだろう。

 旅はイギリス経由で、ロンドンでも美術館などをめぐる。そこでこう書かれている。
いかにイギリスという国が、イギリス人のものであると同時に、世界中の人たちの前に開放されたものであるかということが、もう一度、頭に浮かぶ。この美術館だって、いつかかよった大英博物館だって、世界中の人に無料で解放されているのだ。どんなに貧乏しようと、金をとろうとしない。それもイギリス人に対してだけでなく、世界中のどんな人に対しても同じなのだ。こういうのを見ていると、将来、もしイギリスの没落という事態が起こったとすれば、それはイギリス人にとってというだけでなく、世界中にとっての損失を意味するだろうという気がしてくる。
(197ページ)

 ここを読んで、イギリスのEU離脱への顛末を思い浮かべずにいられなかった。EUから離脱したからといって、大英博物館などが有料になるわけではないだろうが、イギリスという国の大きさを思い知る。やはり世界の「大英帝国」なんだなぁ、と。吉田さんが想像した没落、損失がないことを祈るばかりである。

 後半のエッセイ集、「音楽の光と翳」は短く、吉田さんの身近なところにある音楽から思ったことが書かれていて、読みやすかった。前半が難しいなと思ったら後半から入るのも手かも知れない。どちらにしても、吉田さんの優しく、音楽への愛情の深い文章は素敵だ。私の知らない音楽の世界を、この本で垣間見れた。音楽の世界は広いなぁ。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-09-02 23:32 | 本・読書

おとの教室

 まだ感想を書いてない漫画がありました。久々のクラシック音楽漫画です。しかも、「天にひびき」のやまむらはじめ先生の新作です。


おとの教室
やまむらはじめ/バンブーコミックス MOMOセレクション・竹書房/2016

 武部都は音楽教室のチェロ講師。音大ではない普通大学の学生。生徒は様々な生徒がいる。アニメがきっかけの少年少女。弾きたい曲があるという人。また、同僚の講師たちも個性的。音楽教室の生徒達とのレッスンや発表会、演奏活動で出会う人々との日常の中で、彼女はどう音楽と向き合うか薄々と考えていた…


 やまむら先生、今度はチェロです。そして舞台は音楽教室。東京の大きな音楽教室だと、チェロや様々な楽器・コースがあるんだろうなぁ…こっちでチェロを習える教室なんてあまり見ないなぁ…(地方の小さな教室で声楽を習っている自分の視点)。

 しかも、この漫画は四コマ漫画誌に掲載されたもの。四コマ漫画は無理と普通の形式での連載になりましたが、1回12ページ。短いです。四コマ漫画誌ということで、ギャグ、笑いの要素は強めです。「天にひびき」でもコミカルなシーンは結構ありましたが、またそれとは違う感じ。この短さに収めるのは大変なんだろうなぁ。

 都は普通大学に在籍し、チェロを演奏している。音大・芸大に対してアレルギーを持っている。というのも、都の姉は音大で、優れたヴァイオリニストだった。将来も有望されていたが、卒業後、結婚すると音楽をきっぱりと辞めてしまった。都も元々はヴァイオリンを演奏していたが、姉と比べられるのを避けるためにチェロに変えられた。目標であり、立ちはだかる壁でもあった姉が音楽をやめてしまったことで目標も消えてしまい、これからの道をどうしようか悩む都。
いつまでもお姉さんと自分を比べるんじゃなくて 自分の喜びを自分で発見しなくちゃあ
(39ページ)

 都と姉の話を聞いた同僚・しおりの言葉。姉だけでなく、都が片想いで終わってしまった元同僚でヨーロッパへ留学に行ってしまった日乃原も、そんな存在。また、チェロを習いに来た女の子のきっかけとなった音楽学園アニメでも、学園内での腕前の序列が描かれる。一度意識すると呪縛のように取り付かれてしまう、音楽での「人と比べること」。以前、ピアノを弾いていた時、私も感じていた。また、プロの音楽の世界には根深くあるんだろうな…と思う。でもそれを本人が意識したらキリがない、音楽を見失ってしまうんじゃないかと思う。

 一方で、同僚(先輩?)の依光さんは、音楽教室の仕事の傍ら、同人活動をしている。同人誌の原稿の締め切り前の追い込みのシーンが描かれ、とてもコミカル。…と読んでいたのですが、もしかしたら、姉と比べて自分と音楽を見失いがちになる都とは対照的なのかなと思った。誰と比べるわけでも無く、同人誌で自分の「好き」「楽しい」を貫く。仲間と修羅場に追い込まれるも、活き活きと楽しんでいる。
 また、生徒のひとり、ゆちかちゃんはそんなに上手いわけではないが、レベル高めの選曲をし、ヨレヨレの演奏でも発表会で堂々と演奏している。都も問題は感じているが、その度胸や意識は都や他の生徒にも刺激になる。いい意味で「夢中になり」「自分を貫く」。これが自分と誰かを比較すること無く、成長の鍵になるのかなと思う。

 そして、都はある決意をする。チェロを探していたトリオに参加することに。やはり夢中になり比較せず自分を貫く。コミカルなようで、結構深い漫画だなぁと感じました。短い中に詰めたのは大変だったと思う、本当に。
 音楽教室の講師たちはこんなことを考えているのかとも思いました。発表会のシーンは、わかる、と思いました。

 ちなみに、あとがきに「天にひびき」のキャラクタを登場させたかった…と。それ見たかったです!ひびきや秋央、美月や波多野さんたちがちょこっと登場したりとか…見たかった。この物語はこの1冊で完結です。これはこれでいい終わり方だけど、もう少し読みたいな、せめてあと1巻、と思いました。

天にひびき 1
 ↑全10巻。こちらは音大が舞台。こちらも面白いので興味があれば是非。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-07-18 22:26 | 本・読書

トリエステの坂道

 積読消化中。久々に須賀敦子さんの本を。


トリエステの坂道
須賀敦子/新潮社・新潮文庫/1995

 イタリアの北東、アドリア海に面した国境の町・トリエステ。著者は詩人・ウンベルト・サバの暮らした街を歩く。中世以来オーストリア領となり、ドイツ語文化圏に属している。が、使われている言語はイタリア語の方言。第一次大戦後、1919年にイタリアの領土になった。ウィーンなどの北の国々と、イタリアと…トリエステの人々は複雑な二重性を持ち、イタリアにありながら異国を生き続けていた。そんな街は、イタリア人の夫・ペッピーノやその兄弟、家族、親戚、ミラノの人々を思い出させた。


 須賀さんが語るイタリアは、私が以前まで抱いていたような、地中海の明るい、陽気な、賑やかな地だけではないことを、著作を読む度に実感する。この「トリエステの坂道」は特にそうだ。

 トリエステは、二重性を持った町。イタリアとスロベニアの国境にあり、かつてはオーストリア領。でも、トリエステの人々はイタリアに属することを望み、言語もトリエステの方言。その後解放運動を経て、イタリアの領土になったが、それまでのオーストリアの文化は街から消えなかった。「一枚岩的な文化」ではない街。それは須賀さんにとってはトリエステだけではなかった。かつて、亡き夫のペッピーノと暮らしたミラノの街もまた、「一枚岩な文化」ではない人々が暮らしていた。ミラノも分かれている街だった。イタリア人ではない人。鉄道員住宅の人々。夫の兄弟や母親、彼らの家族、親戚たち。貧困、病気…様々な生き方の、境遇の人々がいた。

 世の中、世界、世間は「一枚岩な文化」ではない。ひとつの国、ひとつの街・地域でもそうだし、ひとつの家族でもそう感じる。家族でも、生き方が全然異なることがある。ペッピーノの兄弟もそうだった。弟のアルドは、ペッピーノとは違う性格だった。そのひとり息子のカルロも。この「トリエステの坂道」には、アルド一家について書かれているところがいくつかある。アルドの妻シルヴァーナは国境の「山の村」出身。ここにもまた「一枚岩の文化」ではない、二重性がある。アルドがシルヴァーナと結婚し、カルロが生まれ、カルロの成長が語られ…それは一筋縄でうまくいくものではなかった。ある家族におちる陰影。この深い陰影を、須賀さんの冷静かつあたたかな文章で読んでいると、生きるということの深さを思い知る。

 「ふるえる手」では、カラヴァッジョの絵「マッテオの召出し」についても語られる。影で絵を描いたカラヴァッジョ。この「トリエステの坂道」も、影で描かれているように感じる。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-07-12 22:51 | 本・読書

Im ~イム~ 4

 溜まってる漫画の感想です…。

Im ~イム~ 4
森下 真 / スクウェア・エニックス、ガンガン・コミックス/2016

 ラトの提案で、イムと晴吾をマガイ退治のコンビとして組ませることになった。が、やはりケンカばかり。そんな中、アメン神官団の神官が次々と失踪する事件が起きていた。家族をマガイに殺され、晴吾を引き取ったアメン神官団・日本支部長・八咫黒烏(やた・くろう)まで失踪してしまう。側近の話によると、女が同胞とともに支部長を連れ去った、と。また、鳥取砂丘の港に不審な大型船が停泊しているとの情報もあり、ラトを班長にイム、晴吾、晴吾と同じように孤児になり支部長に引き取られた稲羽、姫子が砂丘側から捜索にあたることになった。班の中はずっと険悪なムードだった…。

 4巻は神官団の内部、そして晴吾の過去が語られます。神官団がどのようにマガイを退治し、どのような組織になっているのか。そのメンバーや、どうやって神官団に入ったのかも明らかになります。

 晴吾はマガイに家族を殺され、神官団に入った晴吾。同じようにマガイによって孤児になり、支部長に引き取られて育てられた子どもたちがいた。稲羽や姫子たち。しかし、その中で晴吾は浮いていた。マガイを祀っていた御空神社は、彼らからマガイ教と呼ばれていた。そんな晴吾をかばい、謝罪するイム。何だかんだ言っても、イムは自分の罪を潔く認め、謝罪し、仲間と信じるものを守ろうとする。そして強い。口調が偉そう(元々神官)で、態度も偉そうなところが相手を怒らせてしまうことがあるが、イムのいざという時に素直な姿勢は、晴吾のこの4巻での成長に影響を与えていたと思います。

 この4巻、もうひとり鍵になるのがラトさん。コンスの護衛の上位神官。とても可愛くて強い。ラトたちが砂丘で出会ったのは…その「女」。3巻の最後で出てきた新キャラ・クレオパトラです!以前も話したとおり、古代エジプトは時代がとても広い。ジェゼルとイムホテプが出てきたのは古王国時代。クレオパトラが出てくるのは古代エジプトも末期、プトレマイオス朝。古代ローマが進出してきた時代で、美術も古王国~新王国時代のものとは違いがあります。古代ローマ文化の影響を大きく受けています。…という薀蓄はここまで。クレオパトラも名前と大まかな人物像だけ借りています。どんどんフィクションでやってくれたほうが気持ちいい。
 ラトさんに話を戻して、砂丘で出会ったはクレオパトラと、同じくコンスの護衛のセド。セドにピンチが。そんなセドを守ろうと、信頼して戦うラトさんがとてもカッコイイです。しかも、コンス、ラト、セドにはある秘密がありました。コンスも何やら不思議な動きを。この3人、一体何者なんだろう…。

 晴吾は、神官団のメンバーたちと、真正面から向き合い始めました。勿論、それまでは大変だったのですが…。晴吾を見ていたメンバーたちの、本当の気持ち。晴吾が孤立した理由。思いのすれ違い。かなしい、さみしい、仲間になりたいけれど、どう人に伝えていいかわからない。この気持ちは、私もわかります。そんな晴吾に正面からぶつかってくる、素直になれと言い続けるイム。イムは偉い神官なだけではないのだな。人間としてもできている。やり方はまずい時もあるけれど、本当に憎めません。

 3巻でジェゼルが、今回クレオパトラが使っていた術の謎も気になります。一体、マガイは誰が仕組んだものなのか。ジェゼルとイムが元凶ではないのかもしれない…仕組まれたというだけで。

 5巻ではいよいよ仲間と本丸に乗り込みます。
 しかし、陽乃芽ちゃんの出番がないですね…名前の由来は、以前1巻感想で書いた通りでした。

・3巻感想:Im ~イム~ 3

・1巻:Im ~イム~ 1
・2巻:Im ~イム~ 2
[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-07-08 22:02 | 本・読書

大人になるっておもしろい?

 図書館の本棚を何気なく見ていると、時々ふと気になる本に出会います。この本は以前感想を読んで、それが頭の片隅にあった本。気になったので読んでみました。


大人になるっておもしろい?
清水真砂子/岩波ジュニア新書・岩波書店/2015

 10代の若い人たちに向けた「どう生きるか」を問う本です。でも、大人が読んでも面白い。寧ろ、大人が読むと忘れていたことや、かつて思ったことがあったけど心の奥底に押し込めていたことを思い出して、ドキリとするところが少なからずあると思いました。10代に限らない、10代特有のものでもないと思います。

 「「かわいい」を疑ってみない?」、「怒れ!怒れ!怒れ!」、「ひとりでいるっていけないこと?」など、10代でぶつかるであろう様々な心の動きを、時には挑発的にぶった切るように、時には古今東西の児童文学や様々なジャンルの本からヒントを引用してわかりやすく語ったり、意外な問題提起をしてみたり…読んでいて飽きません。著者の清水さんは「ゲド戦記」シリーズ他、児童文学を中心に翻訳をされてきた方。また、短大・大学で教鞭もとってらっしゃいます。20代の大学生との授業でのやり取りや、学生達とのふとした会話も取り上げているので、大人が読んでも面白いものになっているのだと思います。

 私は10代、20代のはじめの頃は、そんなに社会や大人に疑問を抱いたり、反抗したりすることはありませんでした。大人の社会に接する機会がほとんど無かったためだと思います。寧ろ、同年代や先輩・後輩と自分自身を比べて、自分の弱さ、不器用さ、頭の悪さ、リーダーシップや行動力のなさなどに落ち込むことが多かった。大学を卒業し社会人となり、この本で語られるような大人や社会に対する疑問や反論が出てきた。今も、あらゆる場面で、自分自身はどう生きるのか、この社会でどう生きるのか…疑問ややるせなさ、憤りを抱き、それらのやり場がなく心の中に溜め込んで苦しんでいることがよくあります。

 そんな私が苦しんでいたことに、この本がそっと、時にはガツンと答えてくれました。時には、反論したくなる箇所もあります。それも若者の新しい文化なんだ、など。「生意気」に。それも、この本に対してだったらいいのかな、と思います。この本はそんな感情を許してくれる気がします。

 どの章も印象深くて、書こうと思うと全部書くことになってしまうのでやめておきます。特に、「怒れ!怒れ!怒れ!」、「明るすぎる渋谷の街で考えたこと」、「心の明け渡しをしていませんか?」、「世界は広く、そして人はなんてゆたかなのだろう」、「動かないでいるって、そんなにダメなこと?」の章は心に強く残りました。「心の明け渡しをしていませんか?」では、何でも話さなくてもいいんだ、と安心しました。最近悩んでいたことにつながりました。「世界は広く~」で、何もかも嫌になり「どうせ」と思った時どうするかの答えはガン!ときました。私ならふて寝してしまうのですが、清水さんの考え方とエネルギーには感服しました。私の考え方・行動のパターンから、真似するのはちょっと難しいかもしれませんが、頭の中に入れておいて思い出すことはしたいです。自分の弱さや傲慢さを自覚するために。

 取り上げた本や映画のまとめもあって、読んでみたい、観てみたい作品も増えました。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-07-03 23:06 | 本・読書

若田光一 日本人のリーダーシップ ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験Ⅱ

 来月7日、大西卓哉宇宙飛行士が国際宇宙ステーションへ向けて出発します。日本人宇宙飛行士がISSで長期滞在し、仕事をするのが珍しくなくなってきた現在。そのJAXAの新たなる目標は、「日本人からISSのコマンダー(船長)を出す」こと。2013年11月から2014年5月までISSに滞在し、後半の3ヶ月間、日本人で始めてのISSの船長となった若田光一宇宙飛行士に密着取材、のちにNHKスペシャルとして放送されたものの新書版です。

若田光一 日本人のリーダーシップ~ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験II
小原健右・大鐘良一/光文社・光文社新書/2016

 著者の2人は、5期生の選抜試験を取材した「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験」のコンビ。今度は若田さんのコマンダーとしての訓練、若田さんが何故コマンダーになれたのか…について取材しています。前回の新書と同じく、NHKスペシャルとして放送されたものよりずっと内容が濃い、放送されなかったものもかなりあります。ただ、ISSでの火災訓練の箇所は、映像で観たほうがわかりやすい、文章だとイメージし難いなとは思いました。

 若田さんは、コマンダーとして仕事する上で「和の心」をモットーに掲げていました。日本人らしいリーダーシップ、協調性や思いやり、コミュニケーションを大事にする船長になりたい、と。ISSのコマンダーは、いわば「中間管理職」。ISSのクルーたちと、地上の管制との架け橋となる。何かあった時はクルーを、ISSを守らなくてはならない。そのコマンダーは、予想以上に過酷な、厳しい立場に立たされる役職だったのです。
 ISSでの火災を想定した緊急対処訓練の箇所は、Nスペで観た時も、パニックで冷静さを欠いている若田さんに、コマンダーになるのは大変なことなんだと感じました。普段は笑顔で、朗らかで思いやりを忘れない若田さんも、こんなに混乱して窮地に立たされ、失敗し険しい表情をすることもあるのか、と。本だとその訓練の過程が細かく、じっくりと読めます(でも映像が無いのでイメージし難い)。一緒にフライトをするアメリカ・ロシアのクルーたちも、若田さんに負けないレベルのエリート宇宙飛行士たち。これまで、コマンダーが軍出身者が多かった理由も書かれています。若田さんは技術者出身。だからこその強みはあります。が、危機的状況でコマンダーとしてどう行動したらよいか、軍出身者は元から違うというのにはなるほどと思いました。勿論、訓練を重ね、コマンダーとして成長し、力をつけていくことは出来ます。

 この訓練の様子を読んでいると、5期生(油井・大西・金井飛行士が選抜された)の選抜試験のことを思い出します。ありとあらゆる場面で緊急事態を想定した指令を出し、その際の受験者達の反応や行動、どう対処するかを見る。選抜され宇宙飛行士候補者になることがゴールではなく、そこが本当のスタートラインなのですが、やはり選抜の時点から素質は見抜かれていくのだなと感じました。…ちょっと怖いです。

 若田さんがコマンダーになることができた理由のひとつが、先輩宇宙飛行士たちやNASAの技術者たちからの厚い信頼。過去に一緒にフライトをした先輩宇宙飛行士や、訓練で一緒になった技術者たちは、若田さんの人柄に好意を抱き、一緒に宇宙飛行をしたい、この人がコマンダーなら一緒に働きたい、と若田さんを推し、コマンダーへの第一歩となるNASAの宇宙飛行士室「ISS部門長」の役職に1年半ついていた。ISSに送り込む宇宙飛行士にいつどんな訓練をさせるのか、各国の宇宙機関と連携して調整すること、人事にも携わる。宇宙飛行士たちをどう訓練し、育成させるのか。全体を見渡す力が養われる、若田さんご自身も「大変な仕事だった」と振り返る。このISS部門長に関しては、Nスペではカットされてしまったという。この本でも、もう少しページを割いてもよかったと思う。

 若田さんは協調型のコマンダーを目指していたが、時にはキッパリと命令するトップダウン型のコマンダーであることも必要、とある。また、クルーのために地上の管制に強く訴えることもある。クルーが一番よく仕事が出来るように取り計らう。補給船の打ち上げの遅れで、クルーのボーナス食がISSに届くのが大幅に遅れた際、地上に何度も掛け合い、ソユーズ宇宙船に載せてもらったというエピソードは、若田さんの思いやりと、キッパリとした態度の両方があってこそのものだった。また、2014年2月に起きた、ロシアと欧米諸国のウクライナのクリミアをめぐる対立の際も、若田さんはアメリカとロシアのクルーの間のわだかまりを解くよう尽力した。一緒にご飯を食べ、話し合いながら、ISSという国際協調の方向性を確認できた、と。この時、私は若田さんが、日本人がコマンダーで本当によかったと思っていた。若田さんの和の心が、ISSに和をもたらした。

 この他にも、子どもの頃の若田さんのエピソードなども語られます。やはり、宇宙飛行士は「成長するもの」なのだなと実感します。また、油井亀美也宇宙飛行士のフライトや、スペースX社についても語られています。あと少しで打ち上げられる大西さんは、ISSでどんな仕事をするのか、楽しみに応援したいです。

【関連過去記事】
ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験
宇宙飛行士という仕事 選抜試験からミッションの全容まで
宇宙飛行士の育て方

・若田さんのフライト中のブログ記事:タグ:Exp.38/39
[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-06-28 21:54 | 本・読書

宇宙飛行士という仕事 選抜試験からミッションの全容まで

 昨年末から今年初めにかけて、宇宙飛行士に関する新書が2冊出ました。どちらも、宇宙飛行士を「仕事」として捉え、その「仕事」に迫っている。そのうちの1冊。


宇宙飛行士という仕事 - 選抜試験からミッションの全容まで
柳川孝二/中央公論新社・中公新書/2015

 筆者の柳川さんは、旧宇宙開発事業団(NASDA)で国際宇宙ステーション計画の立ち上げに関わり、JAXAになってからは有人宇宙利用ミッション本部・有人宇宙技術部部長に。2008年の宇宙飛行士候補者選抜試験も担当。日本の宇宙飛行士たちをそばでずっと見守り続け、日本の有人宇宙飛行を支えた方。


 このブログで、私は宇宙へ行くこと、宇宙飛行士という仕事が、地上のものの延長線上にあるという認識が広まればいいとずっと思っている。地上での暮らし・生活や仕事を伸ばしていくと、宇宙・国際宇宙ステーションでの暮らしや仕事にたどり着く。そして、その延長線が徐々に短くなっていけばいい、と。日本人宇宙飛行士の活躍で、その延長線は短くなってきていると感じている。でも、宇宙飛行士は具体的に何をしているのか、どんな訓練をしているのか、日本人飛行士の活躍の裏に何があるのか。よくわからないことも多い。

 この本はそんな、宇宙飛行士とは、宇宙飛行士の訓練や仕事について、歴史を踏まえて書かれた本。全体を大まかに見るのに適している本だと思います。
 宇宙飛行士と言っても、黎明期のガガーリンやマーキュリー・セブン、アポロ計画、スペースシャトル時代、国際宇宙ステーション建設期、そして現在の長期滞在ではタイプが異なる。日本人飛行士でも世代、何期生かで異なる。日本人飛行士の歴史、軌跡についても書かれていますが、訓練も何もかも手探り状態だった第1期生(毛利さん、向井さん、土井さん)の初期の訓練や飛行についてもう少し詳しく書いて欲しかったと思うところ。

 この本でメインに語られるのは、現在のISS長期滞在宇宙飛行士の仕事。選抜試験についても、あのNHKが取材した2008年の第5期生の時のことを詳細に書いています。先述のとおり、柳川さんは2008年の選抜試験の担当者。NHKの取材とはまた違う担当者ならではのエピソードも出てきて、選抜試験で何を見ているのかがよりわかります。
 訓練についても、ひとつひとつ細かく書いています。ISS長期滞在で、JAXAが目標としたのは、日本人飛行士からISSの船長(コマンダー)を出すこと。その候補を若田光一宇宙飛行士に決め(本人も希望するかどうかを尋ねた上で)、NASAやロシアと交渉、若田さんも船長になるための訓練やキャリアを積んでいく。ISSに搭乗するための交渉の舞台裏は面白い。日本はISSで何をするのか、何を提供するのか。「きぼう」日本実験棟や輸送船「こうのとり」(HTV)が強みとなっていく。そして若田さんを船長にするために、どう推していくのか。自己主張をはっきりしないと、欧米の人は取り合ってくれない。毅然とした交渉にドキドキする。若田さんはISS運用ブランチチーフに就任。これが船長になるのに重要な仕事だった。訓練だけでなく、管理職…地上での「コマンダー」を経験することが、ISSでの船長(コマンダー)へ近づく一歩。巻末にも若田さんのインタビューがあり、ISS運用ブランチチーフの経験は船長になる上で役立った、と言っている。コマンダーにアサインされてから、コマンダーの訓練を始めるのは遅い、とも。若田さんは、さらに日本人コマンダーを輩出するために行動を開始しているという。このような交渉も、努力なのかなぁと思う。

 来月、大西卓哉宇宙飛行士がISSへ向かう。第5期生2人目の初飛行。大西さんはインタビューで、地球の写真を撮って「きれい」というのはやり尽くした。どんな生活をしているのか、失敗したことも、着飾らず、ISSで何をしているのか紹介したい、と言っている。宇宙飛行士の視点、どこを向いているのかが変わってきていると確実に思う。大西さんのそんなISSからのレポート、ミッションが楽しみです。
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー:DHBR Featureインタビュー:日本の期待を背負うプレッシャーも、楽しさもある —JAXA宇宙飛行士・大西卓哉


 もう1冊はこの本。若田さんの船長の仕事について、さらに深く掘り下げます。

若田光一 日本人のリーダーシップ~ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験II~ (光文社新書)

小原健右・大鐘良一 / 光文社


[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-05-21 22:39 | 本・読書

海とドリトル 4 [最終巻]

 これまた何月に買って読んだんだっけ…という漫画の感想を…。


海とドリトル 4 <完>
磯谷友紀/講談社・KC KISS/2016

 大学4年の夏。烏丸研は毎年恒例のフィールドワークへ。その前に、七海はクジラにロガーを付ける時の捧を改良したいと考えていた。ロガーを付ける際に過って海へ落ちてしまった経験から、安全に確実にロガーをつけられるようにしたいと棒や吸盤を研究室に入りびたりで試していた。そんな七海を研究者向きだと見ていた烏丸。そして、卒論前の小笠原でのフィールドワークが始まった。七海はあのマッコウクジラに出会いたいと願っていた…。


 いよいよクライマックスです。七海の大学生としての研究もクライマックス。卒論へ向けて、フィールドワークが始まります。ロガーを安全に効率よくクジラにつける方法・仕組みを考え、試していた七海。研究者は調べるための道具も作らなければなりません。でも、それも楽しいと取り組む七海。烏丸先生が研究者向きだと思うのも頷けます。改良ロガー付け捧も見事完成。大活躍です。

 一方、七海と戌飼の関係…こうなりましたか…。離れてしまっては、恋よりも研究。2人にとってはこれでよかったのかもしれません。その後の七海ですが、ネタバレになるので書けません。そう来るか!そう来たか!?驚きでした。4巻はそれが大きな柱となってくるのですが、ネタバレになるので書けません。

 烏丸先生の子どもの頃の回想が興味深かった。研究の第一歩は、相手を知りたい、それが何なのか知りたいという気持ちから始まるのだろう。

 海洋生物研究の道に進んだ七海。烏丸先生や陸男さん、戌飼さんも。海洋生物研究は「観察すること」が第一。普段は見えないものを見たい。より詳しく観察するために、クジラや海鳥にロガーをつけ、ウミガメを飼育する。じっくりと見て、その生物が何をしているのか、何のためにそのような行動をとっているのか、観察するうちにその生物に思い入れも出てくる。七海が出会ったあの大きなマッコウクジラのように。観察することに感情は必要か。必要かもしれないし、余計な思い入れは必要ないのかもしれない。でも、長く見ていくうちに思い入れも出てくる。その生物の行動がよりわかった時、愛着も沸くかもしれない。その生物を面白いと思って見ている時点で既に、何らかの感情を持っているのかもしれない。例えば、研究対象のクジラが恋人というように。

 その観察したい、よく見たい、よく知りたいという感情は、人間が相手でも当てはまるのだろう。面白いヤツだと興味を持って、その人の行動を見ているうちに、どんどん気になり、「好き」になっている。恋愛感情に繋がることもある。恋愛感情も、相手をよく知りたい、ずっと見ていたいという感情が働く。そして、その人の新たな面や、好きだと思っている面を見て、より愛しいと思う。行動生物学と恋愛感情は似ているのかもしれない。

 卒論も無事に提出し卒業、そして更なる研究者への道へ進んだ七海。1巻で落ち込んで、行き場を見失っていた七海が、自分の道を見出した。物語は終わってしまうが、七海や陸男さんのように研究者の道を進んでいる学生さんは沢山いる。彼らの学問の道が喜びあふれるものであればと思う。

 番外編は川名さんと陸男さんのお話。川名さんの父は厳しい研究者の道をあきらめてしまった。川名さんはそんな父のことを見ているので、七海たちとは立ち位置が違う。でも、親子で新しい道を見出したよう。陸男さんは烏丸研のお母さん的存在だと思っていたら、そんな面があったのですか…。これも面白い。

 海洋生物研究を舞台にした、面白い漫画でした。ありがとうございました!

・3巻:海とドリトル 3
[PR]
by halca-kaukana057 | 2016-05-10 22:05 | 本・読書


好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)

プロフィールを見る

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

お知らせ・別サイト

管理人HN:(はるか)
 熱しやすく冷めにくい、何が好きになるかわからない好奇心のかたまり。このブログでは好きなものを、好き放題に語ってます。

プロフィール
*2014.9.5:更新
はてなプロフィール:遼(halca-kaukana)



web拍手を送る






日々のログ:今、ここ、想うこと
または:Twilog

はてなブックマーク
Mielenkiintoinen!

気になること、関心のある記事や参考にしたサイトなどのブックマーク集。コメント多め。

◆ピアノ録音置きブログ:Satellite HALCA

☆「はやぶさ2」、小惑星リュウグウ目指して順調に飛行中!☆
管理人・遼も小惑星探査機「はやぶさ2」を応援しています。



あかつき特設サイト
JAXA:金星探査機「あかつき」特設サイト

☆祝!「あかつき」は金星の衛星になりました☆
金星軌道上で観測準備中!

最新の記事

「しきさい」(GCOM-C)..
at 2017-09-30 23:07
超巨大ブラックホールに迫る ..
at 2017-09-18 23:48
西洋文化に触れた驚き 「遥か..
at 2017-09-03 23:01
BBC Proms(プロムス..
at 2017-09-02 17:07
土星堪能星見 + 今日は伝統..
at 2017-08-28 21:58
BBC Proms(プロムス..
at 2017-08-18 23:48
惨敗。 ペルセウス座流星群2..
at 2017-08-14 21:43
BBC Proms(プロムス..
at 2017-07-31 22:32
BBC Proms(プロムス..
at 2017-07-14 23:08
青い海の宇宙港 春夏篇 秋冬篇
at 2017-07-10 22:58

カテゴリ

はじめにお読みください
プロフィール
本・読書
宇宙・天文
音楽
奏でること・うたうこと
Eテレ・NHK教育テレビ
フィンランド・Suomi/北欧
イラスト・落描き
日常/考えたこと
興味を持ったものいろいろ
旅・お出かけ
information

タグ

以前の記事

2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
more...

検索