カテゴリ:本・読書( 491 )

少女ソフィアの夏

 「ムーミン」シリーズの作者・トーベ・ヤンソンのムーミン以外の作品をあまり読んだことがなかったので読んでみました。タイトルと、簡単なあらすじに惹かれました。


少女ソフィアの夏
トーベ・ヤンソン:作/渡部翠:訳/講談社/1991

 フィンランド湾には、たくさんの島がある。その島のひとつに、少女ソフィアとおばあさん、パパが4月から8月まで住む家があった。ソフィアは母親を亡くしたばかり。70も年齢が異なるソフィアとおばあさん。島には様々な人が訪れ、ソフィアとおばあさんも誰かを訪ねることもある。主に2人の島暮らしは続いてゆく。

 トーベ・ヤンソンさんが、夏の間を過ごす島の話は何度も読んだことも、聞いたこともあります。岩の小さな島に、小さな家がある。そこでヤンソンさんは夏の間、海とともに過ごし、ムーミン物語もその暮らしの中から生まれることもあった、と。この「少女ソフィアの夏」は、ヤンソンさんの周囲に人々をモデルに描かれています。おばあさんはヤンソンさんの母。ソフィアのパパは、ヤンソンさんの弟ラルスさん。そしてソフィアはラスルさんの娘、ヤンソンさんの母の本当の孫娘なのだそうです。ラルスさん一家も、夏の間は島で暮らし、ヤンソンさんの島とも近かったので交流もあったようです。物語も、おばあさんとソフィアの間に実際に起こった出来事を、フィクションも交えて書かれたもの、と。

 まず読んでいて思うのが、ソフィアとおばあさんを取り巻く自然が豊かに描かれていること。ヤンソンさんが暮らしていた島は岩だらけのゴツゴツした、小さな島ですが、おばあちゃんとソフィアが暮らしていた島はある程度大きく、緑も多いとわかります。島の樹木や草花…フィンランドを思わせる白樺やナナカマド、コケモモ、キノコ。森。森に棲む鳥などの生き物。天候に左右される海。凪や嵐。その自然は豊かだが、厳しくもある。生き物も可愛いだけではない。野生の荒々しさを見せ付けられることもある。その豊かで厳しい自然の中で、ソフィアは成長する。おばあさんはさすが年の功、厳しさをわかっていて、自然を冷静に見つめ、なすがままに身をゆだねる。そんなおばあさんを見て、ソフィアは自然の中で生きることを学んでゆく。時にはソフィアが島の中を冒険することもある。それに付き合うおばあさんは、体力面では劣る。自然の中で人間がどう生きるのか。それをそのまま描写している。

 また、自然だけでなく、ボートのエンジンの音、夏至祭を祝うロケット花火の音など、音の描写もいい。物語が五感に語りかけてくる。

 そして、ソフィアとおばあさんの関係。母親を亡くしたばかりで、その死を改めて実感するシーンや、母親のことを思い出しながら、ごっこ遊びをするシーンもある。でも、母親についての言及はそれほど多くない。
 それよりも、おばあさんとソフィアの関係。祖母と孫…孫を可愛がり甘やかすなんて描写は一切ない。おばあさんもおばあさんで自己主張し、体力は衰えているが気はしっかりしている。寧ろ強い。ソフィアはまだまだ少女だけれども、彼女なりにおばあさんにぶつかっていく。また、島の暮らしはあまり他の人に会わないので、おばあさんはソフィアの社会性を心配する箇所もある。おばあさんのソフィアを見守る視線、姿勢、距離感。あたたかく思いやるが、冷静で、あまり深く干渉しない。個として、しっかりと立ち、助け合う時は助け合う。この生きる様はムーミン物語のムーミン谷の仲間たちにも通じるところがある。これが、ヤンソンさんの原風景、ヤンソンさんに見えていた風景と人々の姿なのだなと思う。
 パパはあまり出てこないが、パパのものが鍵になることもある。

 この本全体に流れる静けさや、どこかかなしい、寂しい雰囲気は何だろう。決して冷たい、冷徹ではないけれど、個が個であることを強調しているからだろうか。

 ヤンソンさんによるイラストもところどころに描かれています。この本は児童書扱いになっていますが、ムーミン物語と同じように、どんな人が読んでも、惹かれる部分があると思います。
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by halca-kaukana057 | 2016-02-22 22:59 | 本・読書

日日平安

 久しぶりに山本周五郎を読みました。時代物をしばらく読んでいなかったので、最初は時代物の雰囲気や言葉遣いに慣れませんでしたが、やはり山本周五郎、物語、人間の生きる世界に引き込んでくれます。


日日平安
山本周五郎/新潮社・新潮文庫

 井坂十郎太は江戸に行く途中、切腹しようとしている菅野平野という男に出会う。菅野の切腹しようとした理由に呆れつつも、何故か井坂は抱えていた藩の騒動を菅野に話す。そして、井坂と菅野はある作戦を立て、藩を救おうとする…「日日平安」他、橋本佐内に死罪を言い渡した井伊直弼と佐内の家族を描いた「城中の霜」、徳川光圀と彼の元にやって来た貧しげな浪人を描いた「水戸梅譜」、他全11編の短編集。

 「城中の霜」、「水戸梅譜」、「日日平安」などの歴史上の武家もの、「嘘アつかねえ」「しじみ河岸」「橋の下」などの人情もの、「屏風はたたまれた」の不思議もの。「末っ子」は下町もので実に滑稽でうまい。どれも読ませます。どんな身分の人も、人間である、ということをしっかりと描く山本周五郎の文章、物語には感服します。「若き日の摂津守」は武家もので不思議ものにも読める。光辰(みつとき)の戦略の巧みさに圧倒されました。

 江戸時代を描いた作品なのですが、どこか現代に通じるものがあるとも感じました。「しじみ河岸」のお絹の嘆きは、介護に疲れた現代人の嘆きと変わらない。胸が締め付けられる。「嘘アつかねえ」の信吉は下流社会に生きる者のような。「橋の下」も。"理由あり"で、橋の下でしか生きられなくなった男。その男の言葉は、現実にあるものだと思う。
「この橋の下には、人間の生活はありません」
「こういうところで寝起きするようになってからの私は、死んだも同然です、橋の上とこことはまったく世界が違いますが、それでも私には橋の上の出来事を見たり聞いたりすることはできます、世間の人たちは乞食に気をかけたりしませんし、もうこちらにも世間的な欲やみえはない、ですからどんなこともそのままに見、そのままに聞くことができます、いいものです、ここから見るけしきは、恋もあやまちも、誇りや怒りや、悲しみや苦しみさえも、いいものにみえます」
(355ページ)


 そしてどの話も、ラストが何とも言えない。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない。まだこれから、その人の人生は続いていくのだと思う。たとえ何が起こったとしても。確かにそうだ。生きるということは、ハッピーエンドの小説のようになることはまずない。バッドエンドだったとしても、そこが本当に終わりだろうか。「ほたる放生」のような切ない一区切りはあっても、そこからどうなるのかはわからない。生きるということのひとコマを切り抜いて凝縮させた小説の数々。ひとコマだけだから、小説になるのかもしれない。そのひとコマをうまく見極める山本周五郎。うまい。本当にうまい。

 木村久邇典氏の解説の冒頭で、山本周五郎の言葉が記載されています。
「もし君があと数年たって、私の作品を読返してくれるならば、きっと現在読んで感じたものとは別な広がりを発見してくれるだろう。私の作品にはそれだけのものは含まれていると思うんだ」

 山本周五郎も他の作家の作品を読んでそう感じていたのだろうか。そんな作品を書きたいと常々思っていたのだろうか。何年も前に読んだ作品、そしてこの「日日平安」もまた読み返したい。その時、私はどう感じるだろうか。
 ちなみにこの解説、昭和40年(1965年)のもの。初版の解説から変わっていないのが嬉しい。「本当は単行本で買いたいのだが、私のサラリーではイタいので廉価版の出るまで待ちます」という読者の声も記載されている。全く同じです。私も単行本だと高いし、加筆修正もあると思うので文庫本を待つことが多い。50年前から変わってない!リアルタイムで山本周五郎の作品を読んでいた人々の声も読めて嬉しいです。50年前というと結構前のようで、最近のようで…不思議です。
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by halca-kaukana057 | 2016-02-10 23:39 | 本・読書

カエデ騎士団と月の精

 フィンランドの児童文学を読みました。図書館で探すと結構出てきます。翻訳が増えてきて嬉しいです。


カエデ騎士団と月の精
リーッカ・ヤンッティ(Riikka Jäntti):作・絵/末延弘子:訳/評論社/2010(フィンランド語原書は2005)

 リスのノコと兄のヴィリ、ハリネズミのトイヴォはカエデの木の家に住んでいる。大きなカエデの木にくっついて建っている。ヴィリは家のリフォームに、ネズミのイーリスをお手伝いに雇い、どこかへ行ってしまった。家に残った3匹は、掃除の途中、台所のオーブンが気になった。ヴィリが以前、オーブンを開けないようにとノコとトイヴォに強く言っていた。何故オーブンを開けてはいけないのか。でも、大掃除をするならオーブンも開けて掃除しようと3匹はオーブンを開ける。すると中には書類の包みがあり、さらに壁に小さな扉がついていてほら穴があった。3匹は調べてみようと秘密結社・カエデ騎士団を結成する。帰って来たヴィリは、ノコとトイヴォに明日はウサギおばさんの家に泊まるように告げる。誰かお客が来るらしい。隠してあった書類と何か関係があるはず。さらに、ウサギおばさんからカエデの木の過去とある秘密を聞く。3匹は再びカエデの木に行き、オーブンの中で見つけたほら穴に入り、ヴィリとお客の様子を伺う。お客はごろつきと噂のネズミやモグラだった。そして、彼らはドブネズミ主人の何かを狙っているらしい…。3匹もドブネズミ主人の屋敷へ行くことにした…。


 挿絵がとてもきれいだったのが、この本を手に取ったきっかけです。薄めの本ですが、物語はそれなりにボリュームがあります。森に住んでいる動物たち。秘密があるらしいカエデの木の家。湖のそばのウサギおばさんの家。ベリーが沢山採れる川辺の茂み。フィンランドの自然を感じられます。

 物語はどんどん大きくなっていきます。3匹がたどり着いたのは、「ヒーリヴオリ伝説」という村に伝わる伝説。ウサギのおばさん、ドブネズミ主人が真相を知っている。その伝説に関して、ヴィリはごろつきたちと悪だくみをしている。3匹は、伝説が悪だくみに使われないように奔走する。可愛い絵の、最初はのんびりとした雰囲気の物語が、一気にスリリングなファンタジーに。ドブネズミ主人が伝説にどんな関わりがあるのか。さらに物語は急展開。この急展開が、とても辛い。本当に急過ぎて…。3匹にもピンチが。「伝説」は本当に起こるのか…。最後まで手に汗握るように読みました。

 「伝説」という本当にあるのかないのか不可解なもの、見えないものを信じること。自分にとって何が大事なのか。大切な人たちのために何が出来るのか。「伝説」は心に問いかける。私欲に走らず、皆の、大切な人たちとの幸せを大事にする。自己犠牲のようにも読めます。フィンランドにも人のためなら自分のことは犠牲にする、自己犠牲の精神はあるのだろうか。日本の自己犠牲とはちょっと違うのだろうな。もっと、ちょっと失うものはあるけど自分は幸せ、皆も幸せという意味なんだろうな。

 児童文学ではありますが、深いです。多分、子どもが考えながら読むお話なんだろうかなぁ。自分で考えることを大事にするフィンランドの教育のような。

 この本は、フィンランドでは「カエデの木の仲間たち」というシリーズになっているそうです。これが1作目なのかな?翻訳されていたら読みたいです。
 あと、ウサギおばさんの家でパイを食べた…とあるのですが、挿絵ではカレリアパイが描かれています。フィンランドの伝統的なパイ・カレリアンピーラッカ(karjalan piirakka)のこと。ミルクかゆ(お米を使います)のパイ。ミルクでお米を炊くって美味しいのだろうか…といつも思ってしまいます。フィンランドらしいレモンケーキやベリーのパイも出てきます。

 少し前から、フィンランド語を少しは読めるようになりたいと思っているのですが、なかなかわからない。単語すら覚えられない。もっと簡単なフィンランド語の絵本を英語のリーダー教材のように和訳して読んでみたい(出来れば日本語訳も出ている本がいい)のですが、フィンランド語の絵本の原書はなかなかないですね。「カレワラ」はフィンランド語、日本語訳(岩波文庫の。またはシベリウスのカレワラ由来の声楽作品の対訳付きのもの)もありますが、難し過ぎる…。「牧場の少女カトリ」で、カトリが「カレワラ」で読み書きを学んだ(しかも独学!)のを思い出します。フィンランド語ネイティヴとはいえ、凄いよカトリ…。
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by halca-kaukana057 | 2016-02-05 22:28 | 本・読書

[コミック版]天地明察 9 (完結)

 これも昨年発売され、昨年読んだ漫画です。最終巻ということで、感想書いたら本当に終わりになってしまうような気がして…。

天地明察 9
冲方丁:原作/槇えびし:漫画/講談社・アフタヌーンKC/2015

 酒井に久々に呼ばれた渋川春海は、もともとは保科公が望んで授けたもの、今度の改暦の儀には差しておくようにと二刀を手渡される。また、春海の「分野」や新しい暦に感銘を受けた陰陽寮の土御門泰福(つちみかど・やすとみ)が春海に会いに来る。春海を敵対視している陰陽師の中にも春海の味方となる心強い存在がいることを知り、春海は改暦へ着々と動き出す。そして、春海は授時暦が何故蝕の予報を外したのか、その答えにたどり着いた…。

 最終巻、別れもいくつもあります。闇斎先生…。でも、喜ばしいこともあります。春海とえんの間に子どもが。そして、泰福との出会いは春海にとって大きな力となります。泰福は以前少し登場しましたが、春海と会うのは初めて。とてもいい人です。そして、若い頃の春海を見ているかのよう。若さゆえ足りないところもあるのですが、何に対しても興味を持ち、精進し学ぼうとする姿はまさに若い頃の春海です。一方の春海は、この手がダメなら次の手、その手にも様々な作戦をたてておく…策略家になりました。ちょっと怖い、腹黒い?雰囲気はありますが、改暦はそのぐらいの手を用意しないと成し遂げられない。碁を打つように、あらゆる作戦、あらゆる手を駆使する。ことさんと暮らしていた頃の春海は心優しい(優し過ぎて弱さもある)、えんさんと暮らしている今は強さ、強靭さを感じます。妻の性格が映るのでしょうか。

 そして授時暦が何故うまくいかなかったか、原因を突き止めた春海。原作ではこの部分で、今で言う緯度と経度を混同していた部分があったのですが、漫画では修正?違う言葉でうまく置き換えていました。とにかく、春海の天文の話には心躍ります。その話を聞いた関さん…いい表情です。

 天の理を制したなら、地の理…。人間の感情が一番厄介ですね。それでも、陰陽師たちや朝廷の様子を考え、手をまわしていく春海。2度目の春海の暦(大和暦)が敗れた後の、町中で天測のシーンはワクワクしました。かつて、春海もそうしたように。町中で天体観測、今で言うまちなか観望会ですね。今の望遠鏡のようにささっと持ち運べる機器ではない天測機器を、通りにどんと設置してしまうのがすごいです。これは楽しい。

 遂に、その時が…。これまで春海が出会い、「託された」人々の回想、全ての始まりとなった絵馬。原作でも絵馬が風に揺れて「からんころん」と音を立てるシーンが印象的に書かれていますが、漫画だとさらに印象的です。本当に感慨深い…!春海がいたからこそ、暦というものがいかに大事か、日本の天文学、天文観測も進んだ。渋川春海という人の偉大さを実感します。

 ラストは、原作とは異なります。そう来るか…!原作のラストも好きなのですが、漫画は漫画でいい描き方をした、こっちも好きです。

 「天地明察」は原作も、このコミカライズもどちらも面白い。誰かと出会い心を通わし手を結ぶこと。ひとりでも、目指すものに向かって突き進むこと。「精進」し続けること。好奇心を失わないこと。諦めないこと。こう書くとただの美談のようになってしまいますが、「天地明察」はそれだけで終わらない。渋川春海を中心に、様々な人々が描かれている。それぞれの立場で、それぞれの生き方で。原作を読んで、この素晴らしいコミカライズでまた読めて、とても楽しかったです。槇えびし先生のキャラデザ、絵、物語もよかったです。ありがとうございました!!

・8巻:[コミック版]天地明察 8
 
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by halca-kaukana057 | 2016-02-02 23:04 | 本・読書

宇宙兄弟 27

 かなり前、漫画の感想は早めに書いたほうがいいと読んだ。出版社、掲載誌は発売直後の動向を見ているらしい。私ののろのろ感想では、何の力にもならないではないか…(特にマイナーな作品)。でも書く。宇宙兄弟27巻。これ、昨年出た漫画ではないか…。

宇宙兄弟 27
小山宙哉/講談社・モーニングKC/2015

 国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在ミッションを続けているせりかと絵名たち。せりかはALS治療薬の鍵となる、たんぱく質の結晶化の実験を日本実験棟「きぼう」で行っていた。しかし、なかなかうまく結晶化しない。焦るせりか。ストレス値も上昇し、NASA管制室も心配している。
 そんな中、地上ではある人物がネット上にせりかに関する"噂""疑惑"を投稿。"噂"は瞬く間に広がり、"炎上"していた。対応に追われるJAXAの職員たち。"噂"は事実ではない。だが、その疑惑は文科省をも動かそうともしていた。そしてISSのせりかや絵名にも…。


 表紙の憂いを帯びた表情が印象的なせりかさん。でも、まっすぐ見つめる眼差しは真剣。この表紙が、この27巻の重さを物語っています。
 23巻で、ISSに向かう前に、せりかさんを付け回していた製薬会社の男を覚えているでしょうか?
・23巻感想:宇宙兄弟 23
 23巻を読んだ時、この男が何もしなければいいのだが…、せりかさんが無事にISSで実験を行えればよいのだが…、と思っていたのですが、心配が現実になってしまいました。自分の会社の薬をISSに持っていってくれなかった腹いせに、デマをでっち上げ流すあの男…許せん!この一言です。そんなことしているヒマがあったら(理事長も作中で言ってます)、自分の会社の薬を何とかしろよ。本当に嫌なヤツです。
 「宇宙兄弟」では、こんな汚い人間はこれまで出てきたことがあまりありませんでした。ムッタが中学生の頃、宇宙飛行士になりたいという目標をバカにした同級生…まぁ中学生ですし。宇宙に無関心な人…まぁ仕方ない。しかし、こんな私利私欲で人を陥れようとする大人は出てきたことはありませんでした。本当の「悪役」をどう扱うか。汚い「悪役」でしかありませんでした。

 そしてその"噂""疑惑"はJAXAを巻き込み、ISSにも届いてしまう。せりかと絵名を守ろうと尽力する星加さんや理事長。しかし、文科省の役人たちにも届き、ISSで行われている実験、そしてせりかと絵名の将来にも矛先が…。"炎上"し、叩かれているのはせりかだけではない。せりかが進める実験も。実験中止を求める文科省。中止したら、「疑惑は事実と認めることになる」と抵抗する理事長たち。せりかと絵名、そして実験を守ろうとする理事長が本当にカッコイイ!言葉のひとつひとつに説得力がある。いざという時、頼りになります。しかし、JAXA内でも、管制室の管制官のひとりがせりかや絵名に対して厳しい態度をとり、辛辣な言葉を投げかけるシーンも。JAXA内にも色々な人がいる、それも管制室に…。管制とISSの飛行士の信頼関係が壊れたら一番まずいじゃないですか。もやもやしたシーンです。事の発端を特定できないことも。

 そんな逆風の中でも、実験を成功させよう、成果をあげようとするせりかと絵名。自らの判断で実験を続行。そんな時、クルーの仲間があるものを。ISSにあるかもしれないと実際に噂されているものが…いいんですかこれは。いくら漫画でもこれはちょっと…。しかもこれ、後でどう説明するつもりなんだろう…。

 せりかと絵名の味方は理事長や星加さんだけではない。月の基地に到着したムッタは、あることでせりかを励ます。せりかの宇宙飛行に盛り上がっていた地元商店街も、手のひらを返したように…でもあのコロッケ屋さんのおじさんは信じています。せりかと絵名のことをちゃんと理解して、信頼し、応援している人がいる。これは、読者へのメッセージかもしれません。ムッタがかつて宇宙飛行士になることを応援してくれる人はたくさんいたことを実感してきたように、誰にでも味方が必ずいる、ということを言いたいのかもしれません。

 そして、努力は実を結ぶということも。とはいえ、せりかさんの問題はまだ解決していません。"噂""疑惑"の決着もついていませんし、あの男は懲らしめねばならん。28巻に持ち越しの模様。続きを楽しみにしています。シリアス展開、面白かったです。

・前巻:宇宙兄弟 26
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by halca-kaukana057 | 2016-01-25 22:54 | 本・読書

ReLIFE 4

 この漫画買ったの、読んだの何月だったっけ…?(オイ)この作品、読んでいると、色々と複雑な気持ちになります…。今年中に感想を書いてしまおう…。

ReLIFE(リライフ) 4
夜宵草/泰文堂・アース・スター・コミックス/2015

 ゴールデンウィーク、新太の部屋で追試対策の勉強会をしていた大神と杏。大神はバイトのために帰り、杏は残って勉強を続ける。が、突然、杏は「新太のことが好きだった」と言い出す。迫る杏を焦りつつも紳士的な態度で説得する新太。そこへ、夜明が部屋にいきなり入ってきた。杏の行動を批判し、杏も夜明のことを「先輩」と呼んでいる。一体…と戸惑う新太。実は、杏もリライフ研究所のスタッフだった。新太は2人に説明するよう毅然とした態度で臨む。
 連休も終わり、再び学校生活。友達のいなかった千鶴は、玲奈と、玲奈と同じバレーボール部の親友ほのかと友達になる。お昼ごはんを一緒に食べるようになり、そこで様々な話もするようになった。新太再び追試の日々。玲奈とほのかは、高校最後のバレーボールの試合に向けて練習をしていた。ほのかはバレーボール部の部長でエース。しかし、新太と同じように追試を受けることになっていた。勉強とバレーボール、どちらもがんばるほのか。しかし、追試が終わった後の練習中、ほのかは立ちくらみを起こし、そばにあったボール入れのかごにつかまり、かごを倒してしまう。かごから転がったボールは、アタック練習をしている玲奈の足元に…。

 3巻の最後からのあらすじです。新太と同じ転入生の杏。以前から怪しい動きをしていましたが、やはりリライフ研究所員でしたか…。夜明と一緒に、リライフ実験のことについて新たな説明をする。リライフ被験者になること。つまり、実験中の1年間の自分に関する記憶が関わった人たち全てから消えてしまうことを悪用するという例もある、と。そして新太を被験者に選んだいきさつも。何故杏も担当ではないのに同じ学校、同じクラスで高校生として暮らしているのか。そのあたりは、まだ裏がありそうです…夜明の「また半分ホントで半分ウソをつきました」(26ページ)。55話で、夜明と杏の2人の会話も気になる。また夜明の1人目の被験者の話も出てきました。新太のリライフ実験は成功させたい。充実した1年間を送って欲しい。2人の意見は一致はしている。が、その1人目の被験者のこと…リライフ実験の被験者は新太ですが、夜明、そして杏も一緒にリライフをしているのかもしれない。

 56話、玲奈とほのかと友達として、一緒にご飯を食べている千鶴。千鶴も少しずつ成長しています。そして話題になったのは、恋。玲奈は大神に恋心を抱いているが、本人は気付いていない。一方、千鶴は新太に…「わかりません」、と。55話では、新太も千鶴を意識するようなことを…。青春ですねぇ。新太は実年齢27歳ですが…いや、20代なんてまだ青春じゃないか、と思ってしまいます…。

 そのほのかと玲奈のもうひとつの青春。バレーボール。2人とも一生懸命練習して強くなっている。元々バレーボールは強く、エースのほのかの陰口を言い合っている後輩を、ビシッと論破する玲奈がカッコイイ。玲奈はほのかの努力を認め、憧れ、ほのかも玲奈を信頼し、努力している。とても素敵な友情です。学生時代ならではだなぁ。しかし、そんな2人に事件が。練習中に玲奈が足をくじいてしまう。ほのかが体調不良で立ちくらみを起こし、ボール入れのカゴを倒してしまう。転がったボールがアタック練習中の玲奈の足元に転がり…玲奈は転倒。試合にはギリギリ間に合うかどうか。玲奈にケガをさせてしまったと自分を責めるほのか。ケガがギリギリ治ってもその間練習できないなら試合に出てもうまくプレーできない。ほのかみたいに才能はない。努力してやっと。だから無理。ほのかとは違う…玲奈…2、3巻と同じような状況になってしまっています。

 ほのかは才能はあっても偉ぶらない、努力家で、他の部員よりも懸命に練習していることを玲奈はわかっているのに…つい言ってしまったんですね…。本当に玲奈は救われない、辛い状況にばかり立たされていて、読んでいて辛くなります。玲奈と同じように、飛びぬけた才能はない、努力することしかできない、学生時代、そう思って勉強も他のことでもそうやってきました。玲奈の悔しさ、強がりなところ、素直になれないところ…わかります。同じような経験を思い出してしまいます…。

 再び自分をどんどん追い詰めていく玲奈。ほのかとの友情にもヒビが。玲奈は足の怪我を誰にも話さないようにしている。仲が良かった2人の変化をおかしいと思う千鶴。ほのかの幼馴染の犬飼と朝地も、ほのかの変化に気付いている。新太も玲奈の行動がいつもと違うと気付く。いい加減、玲奈は報われて欲しい。こんなにがんばっているのだから、もっとラクに生きてもいいと思う。続きは連載を読んでわかってはいるのですが、スマホやPCの画面で読むのと、紙の本で読むのとは違います。前のページをすぐに読み返せる。やっぱり本は紙がいいなと思います。

・3巻:ReLIFE 3
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by halca-kaukana057 | 2015-12-30 22:57 | 本・読書

目に見えないもの

 ノーベル賞受賞式あたりにこの記事を書きたかったのだが、大幅に遅れてしまった。


目に見えないもの
湯川秀樹/講談社・講談社学術文庫/1976

 今年のノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章先生。ニュートリノ振動、ニュートリノに質量がある、という研究。素粒子物理学は日本のお家芸とも言われる分野。それを切り拓き、日本人初のノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士。湯川博士の本を読むのは「旅人 ある物理学者の回想」以来です。

 前半は、湯川博士の物理学講座のような、物質とは何か、原子、分子、そして中間子とは何かという話。今読むと、ここから更に素粒子物理学に繋がっていって…と思えるのですが、書かれたのは昭和18年、20年…まだ戦時中。そんな時代に、湯川博士は「目に見えない」物質の根源の理論を考え、研究していた。もし、現代の理論物理学、素粒子物理学の最先端の話を湯川博士が聞いたら、どんな反応をするだろう…。今回の梶田先生のノーベル物理学賞の受賞に何を思うだろう。喜ぶだろうか。そんなことを思いながら読みました。

 後半は、湯川博士の生い立ちや、科学や自然などに関するエッセイ。エッセイというより、「随筆」「随想」と言った方がぴったりくる。二人の父、研究生活。中間子理論の研究については、日本の素粒子物理学黎明期をリードした坂田昌一博士の名前も出てくる。2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠先生、益川敏英先生も坂田博士の弟子であることを真っ先に思い出した。湯川博士や坂田博士がいたからこそ、今の素粒子物理学があるのだな、と実感する。

 以前「旅人~」を読んだ時、静かで物寂しいと感じ、そう書いた。第3部の随筆・随想の部分は、詩人のような趣もある。ひとつの事柄に対して、静かに、深く、考えをめぐらせる。静謐な言葉に、湯川博士だけでなく、寺田寅彦や中谷宇吉郎など優れた科学者は文章も美しいと感じる。特に、「未来」と「日食」という短い文章が気に入った。感情という科学では捉えきれないもの、記憶、そして未来という不確かなものを、じっと見つめている。その中で、「科学」は何ができるか。可能性であり、希望である、と。科学に対して、研究することに対して、そして人間に対してとても真摯な方だったのだなと思う。

 時々、今の科学の礎を築いてきた科学者たちの言葉に触れたくなる。そんな本のひとつに、この「目に見えないもの」も入れたい。

・過去関連記事:旅人 ある物理学者の回想
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by halca-kaukana057 | 2015-12-27 22:16 | 本・読書

世界一わかりやすいロケットのはなし

 久しぶりに宇宙開発方面の本を。

世界一わかりやすいロケットのはなし
村沢譲/KADOKAWA/中経出版/2013

 1955年、糸川英夫博士によるペンシルロケットの発射試験から始まった日本のロケット開発・打ち上げの歴史。この本は、そのペンシルロケットから現在のH2A,H2B、イプシロンまで、それぞれのロケットの特徴、搭載した衛星、打ち上げがどうなったか…などの記録になっています。

 冒頭ではイプシロンロケットの森田泰弘先生、「こうのとり」4号機・有人宇宙ミッション本部・宇宙船技術センター長の田中哲夫さんへのインタビューが。イプシロンも「こうのとり」も、今、そしてこれからの日本の宇宙開発を支え、引っ張っている重要な宇宙機。それぞれ、まだまだ進化途中(イプシロンはまだ初号機しか打ち上げられていない!!)。また、過去の様々な宇宙機・技術を引き継いでいる。そんな覚悟とやる気に満ちたお話でした。

 あとは、ひとつひとつの打ち上げを解説。日本のロケットの歴史を私はまだまだ知らない。知らないことがたくさんある(年齢の問題もありますが…)と感じました。ロケット、人工衛星、それぞれの失敗も結構多い。90年代の失敗続きはリアルタイムで見ていて辛いものがあったのですが、その前にも。また、旧宇宙開発事業団(NASDA)と宇宙科学研究所(ISAS)が共同で開発。しかし莫大なコストで1号機で終わってしまった「J-1ロケット」についても。実はJ-1ロケットについて詳しいことは知らなかったので、知れてよかった。ペイロードの「HYFLEX」は覚えていたのになぁ…?

 今、H2A,H2B,イプシロン(2号機打ち上げが待たれる)は順調に打ち上げ、衛星・探査機を宇宙へ送っている。天候不順以外の延期がないオンタイム打ち上げ、飛行も順調。過去にたくさんの失敗があって、今があるのだなと本当に思う。今につながる日本のロケットの歴史を手にとれる本です。

 明後日24日には、H2Aロケット29号機が打ち上げられる予定です。ペイロードはカナダの通信衛星、商業打ち上げです。しかも、「人工衛星にやさしい」ロケットを目指して、かなり難度の高い打ち上げに挑戦します。「はやぶさ2」の打ち上げの時、第2段ロケットと「はやぶさ2」を分離しないで一度エンジンを停止し慣性飛行で地球を一周、その後第2段エンジン再点火して、「はやぶさ2」を分離、という難しい方法がとられました。今度はもっと難しいです。更なる商業打ち上げ受注を目指して、まだまだ日本のロケットは進化します!
JAXA:H-IIAロケット29号機(高度化仕様)による通信放送衛星Telstar 12 VANTAGEの打上げ時刻及び打上げ時間帯について

 ちなみにこの本は「だいち2号」、「GPM/DPR」、「はやぶさ2」打ち上げ前だったので、少し紹介している程度です。
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by halca-kaukana057 | 2015-11-22 22:58 | 本・読書

オンネリとアンネリのおうち

 久々にフィンランドの児童文学を読みたくなりました。

オンネリとアンネリのおうち
マリヤッタ・クレンニエミ:作/マイヤ・カルマ:絵/渡部翠:訳/プチグラパブリッシング/2005

 小学生の女の子、オンネリとアンネリはとても仲が良いお友達。オンネリの両親は別々に暮らし、アンネリは9人きょうだいの5番目。夏休みに入った朝、2人がバラ横町の道を歩いていると、「正直なひろいぬしさんにさしあげます。」と書かれた封筒を拾う。交番に持って行き、中を見るとたくさんのお金が。おまわりさんは封筒に書いてある通り、このお金は2人のものだと言って手渡すが、困った2人は元あったところに戻すことに。封筒が置いてあった家の門の前に、こっそりと置こうとすると、家の主・バラの木夫人がその家に「売家」の張り紙を。2人に気付いたバラの木夫人は2人を呼び、この家は「ふたりの小さな女の子」が住む家として建てられてしまったものだと説明する。2人も、お金の入った封筒のことを話すと、そのお金でこの家が買える。この家が欲しくない?と聞かれてしまう。2人は家を買うことにする。2人だけで住むお家は、とても素敵なお家だった…

 物語の内容からずれるのだが、フィンランドには「レイキモッキ(Leikkimokki:「レイッキモッキ」の方がフィンランド語の発音に近い?)」というものがある。日曜大工で子どものために庭に作ってあげる小さな家のこと。主にお父さんが娘に作ってあげるらしく、男の子は自分で隠れ家を作るそうだ。そこに子どもたちで集まって、おやつを食べておしゃべりをしたり、パーティを開いたり…。子どもたちは自分で家の中を装飾する。私も子どもの頃、友達と秘密基地を作ったことがあるが、フィンランドでは親公認だけど子どもたちのプライバシーが守られる隠れ家がある。これを知った時、いいなぁと感じました。
All About:フィンランド発!子どものための家「レイキモッキ」

 読んでいて、その「レイキモッキ」を思い浮かべました。自宅の庭に小さな家…ではなくちゃんとした一戸建てですが。フィンランドは家族を大事にする…とはいえ離婚率も高い(日本とは考え方が違う)。アンネリの両親は別居中ということなのだろう…。オンネリも家に居場所がない。そんな2人が買ってしまった家。家の中も、2人が住むことを予想?して何もかも用意されている。バラの木夫人は魔法使いか何かなんだろうか…と思ってしまう。素敵なおばあさんです。
 家に帰っても、アンネリの両親はそれぞれ旅行に行ってしまったし、オンネリの家は相変わらずきょうだいがたくさんで、オンネリはその中に馴染めない。夏休みの間、2人は自分たちの「家」で暮らし、様々なご近所さんに出会う。このご近所さんたちがいい。

 冒頭で出てきたおまわりさんも再登場し、かなり重要な登場人物になります。お隣さんのロシナおばさん…児童文学で、こんな細やかに心の傷と喪失、再生を描くなんて、とても素敵なお話だなと読んでいてやさしい気持ちになりました。そして何よりも、最後が…。やっぱり「家族」なんですね…。

 まだ小学生ですが、オンネリとアンネリは料理もうまいようで、食事も自分たちでつくります。フィンランドの料理が次々と出てくるので、フィンランドの食文化の雰囲気を味わえる物語でもあります。

 この「オンネリとアンネリのおうち(Onnelin ja Annelin talo)」には続編があるということ。「オンネリとアンネリの冬(Onnelin ja Annelin talvi)」、「オンネリとアンネリとみなし子たち(Onneli, Anneli ja orpolapset」、「オンネリとアンネリと眠り時計(Onneli, Annelin ja nukutuskello)」と全4作あるとのこと。読みたいと思って探したら、ない。日本語訳なんて出てない。この「オンネリとアンネリのおうち」も絶版。とても残念です…。

【追記】
 この本も絶版…と思ったら、復刊されてました!!
福音館書店:オンネリとアンネリのおうち
 せっかくなので、全4作日本語訳出版を希望します!続編も読んでみたい。
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by halca-kaukana057 | 2015-11-15 23:09 | 本・読書

海とドリトル 3

 また発売からしばらく経っての感想になってしまった…。


海とドリトル 3
磯谷友紀/講談社・KC KISS/2015

 戌飼と付き合い始めた七海。それでも烏丸研での研究の日々は続いていく。新しい事務員の川名、インドからの留学生サティシュ(通称:王子)を迎え、七海も卒論に向けて動き出す。戌飼が七海と付き合っていることを知った万里子は、ショックを受けつつも、密かにある行動に出る。
 そんな烏丸研も学祭で出店することになる。七海の提案でイカの姿焼きを売ることに。川名の厳しい予算制限を何とか乗り越え、出店は無事成功。その打ち上げの席で、七海は川名と話し、川名と烏丸の過去を知る…。


 戌飼さんと付き合い始めた七海が初々しい。でも、恋愛と研究は別。七海は七海の、戌飼は戌飼の研究を続ける。そんな2人を見る万里子…
「わたしは戌飼さんの将来を思うからこそ立ち止まってたのに」(24ページ)
「でもよく考えれば大体あんな2人が続くわけないじゃんか ばからし」(25ページ)
「あの子が戌飼さんの将来をダメにしようとするのなら わたしは―」(34ページ)

 怖いです。万里子さん怖いです。やっぱり戌飼さんのことが好きで、未練持ってたんじゃないですか。でも、万里子さんは、「研究と恋愛は両立しない」と考えるタイプ。戌飼さんが将来有望な研究者だからこそ、研究者としての成功を願っている。そのためには自分の恋心は隠し打ち明けず、他の誰か…七海のことですが、恋愛という研究者にとって縛り付けるものを持ち込む人は邪魔者でしかない。排除させようとする。好きだからこそ、自分は手を引く万里子の気持ちはわからないでもない。でもやっぱり怖い。このシーンの後に、七海の烏丸研での初めてのゼミのプレゼンに対して、容赦なくダメ出し、批判をする万里子さん…七海の発表が未熟、不十分であるのは確かなのですが、それ以上の何かも感じずにはいられませんでした。深読みですかね?

 研究者の世界の厳しさは、これまでも何度も出てきました。その厳しさを新たに語る人…事務員の川名さん。2巻のラストで出てきた眼鏡の女の子です。事務員なので研究には直接は関わっては来ないのですが、烏丸先生と関係のある人物でした。烏丸先生は川名さんのお父様の研究室の後輩。川名さんのお父様はポスドクのまま、研究者を辞めてしまった。一方の烏丸先生は、川名さんのお父様よりも先に准教授になり…。川名さんのお父様と烏丸先生のやりとりの回想がとても辛い。そして、同じ研究者だった烏丸先生の元奥様も…。川名さんの言葉が七海に突き刺さります。やはり、研究と恋愛・結婚は両立できないものなのか。研究者の世界はこんなにも厳しいものなのか。七海自身も研究者を続けていけるのか。そう思い詰める七海への、戌飼さんの言葉も、現実をしっかりと捉えている、頼もしい言葉に感じられました。まずは目の前の研究。

 七海の実家の金沢へ戌飼と帰省し、動物園でイヌワシを見る犬飼さんはやはり研究者です。そして、ついに…。万里子の手回しで、戌飼さんにイギリスの研究室行きの話が。戌飼にとっては願ってもない機会。しかし、七海のことが…。戌飼さんに打ち明けられ、研究室に座り込んでいた七海にウミガメの例えで研究者としての成長を語る烏丸先生は、優しくも強い。川名さんのお父様のことを思うと苦しくなるが、烏丸先生が厳しい研究者の世界を生き抜いてここまで来ることのできた理由がわかる気がします。

 犬飼も旅立ち、万里子は以前から言っていた研究者としての情熱がなくなったと研究を辞め(この次の行動が何とも…何のつもりだ…?万里子さんの言ってた「計画」の全容って何なんだ…!?やっぱり万里子さん怖い)、七海は研究者としてどうありたいのか。ふとしたきっかけでクジラのバイオロギングと烏丸研に出会い、途中で編入し、七海は他の人よりも研究者としての月日は短い。それでも、七海は海洋生物に魅了されている。161ページ、3巻ラストで烏丸先生が七海にかけた言葉に、私も少し光が見えた気がしました。
 14話「死に至る病」、15話「深く潜ったペンギンは光を見たか?」この2話のタイトルがとても好きです。厳しい自然の中で生きる生物たちに、何かを教えられているような、何かを考えずにはいられないような、そんな気持ちになる3巻でした。

 4巻で完結とのこと。どうなるのだろう。

・前巻2巻:海とドリトル 2
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by halca-kaukana057 | 2015-11-12 22:42 | 本・読書


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