カテゴリ:本・読書( 496 )

宇宙兄弟 26

 読んだ本、漫画の感想を今日も書きます。今日はこれ。

宇宙兄弟 26
小山宙哉/講談社・モーニングKC/2015

 六太たち「ジョーカーズ」の乗ったアレスⅠロケットは無事打ち上げ成功。オリオン宇宙船の飛行も順調、月への旅が始まった。せりかと絵名もいるISSとランデヴーし、着陸船「オクトパス」とドッキング。六太は月への飛行の間、宇宙での暮らしや無重力を紹介するビデオレター「週刊六太」を始める。そして月が近づいてきた時、六太に緊急の連絡が。シャロンが自力で呼吸できなくなり、人工呼吸器をつけることになった、と…。


 ムッタ、ついに宇宙にやってきました!!喜んで大はしゃぎの「ジョーカーズ」のクルーたち。特にフィリップは超ハイテンションで大騒ぎwそんなムッタに一通のメールが。ちゃんと打ち上げを見ていたんだ…!じわっと来ました。

 徐々に地球から離れ、地球の丸みがわかる距離になるあたりも胸が熱くなります。現実では、アポロ計画以来、有人の宇宙飛行は地球周回軌道だけ。現実に、再び人類が月を目指す時が来るのか、どうなのか…と思ってしまいます。
 そんな中で始めた「週刊六太」。人類が再び月を目指す時代になっても、宇宙での暮らしや無重力では物体の動きはどうなるのか、気になるのかなと思いました。今よりは宇宙は身近になっているだろうけど、やっぱり疑問には思うだろうし、地球周回軌道と月へ向かうあたりでは違いもあるはず。いつの時代も、宇宙は不思議でいっぱい、興味津々です。

 そしていよいよ月が近づいてきたところで、シャロンに異変が。ついに自力で呼吸が出来ない、人工呼吸器をつけることになった。その手術の日は、「ジョーカーズ」が月に着陸する日。その着陸で起こったトラブル。手術中、シャロンの希望で着陸の中継をBGMとして流している。夢の中のシャロンが"見た"ムッタの姿が印象的。緊急事態にビンスさんたちNASAも焦りを隠せない…。そんな中、ムッタがとった行動がすごい。手に汗握るシーンでした。本当にムッタはやってくれます。

 月面での第一歩…日々人の大ジャンプを思い出しますが、ムッタはどう来る…こう来たか!!wムッタ父のコメントが的確過ぎて笑えますwそして26巻でも、ムッタ父からのメッセージがいい。本当にムッタ父はかっこいいと思えました。

 27巻の予告が最後に書いてあるのですが…27巻、今度は何が起きるんだ…?とても心配です…。

・25巻感想:宇宙兄弟 25
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by halca-kaukana057 | 2015-09-19 22:43 | 本・読書

世界を、こんなふうに見てごらん

 夏に読んだ本の感想が溜まっています…漫画も、文庫や新書、単行本も。連休に消化できるかなぁ…。


世界を、こんなふうに見てごらん
日高敏隆/集英社・集英社文庫/2013(単行本は2010年)

 動物行動学者の日高敏隆先生の最後の本(2009年歿)です。昆虫やいきものに興味を持ち始めた子どもの頃から、生物学の研究の道に進み、その中で「なぜ」その動物はそんな行動をするのかを研究する動物研究学会を立ち上げる。いきものの面白さ、いきものや人間は何を見ているのか、科学の考え方などを若い人向けに書き綴った本です。

 夏休みの間にNHKラジオ第一で放送していた「夏休み子ども科学電話相談」では、こどもたちが身の回りにいるいきものや飼っているいきもの、動物園・水族館で見たいきもの、テレビや図鑑で見たいきものなどが、なぜこんなことをするの?という質問がよく寄せられる。こどもたちはよくいきものを見ているなと思う。答える先生方も、こどもたちがわかるように、丁寧にやさしく答える。素朴な質問だけれども、そう言えばそうだよな…と思うことがたくさんある。

 日高先生も、こどもの頃から身の回りのいきものに対して、なぜこんなことをしているの?どこに行くの?何を探しているの?と問い続けてきた。一体何が目的なのか。そこから始まった動物行動学会。今思うと当たり前にあるような学問だけど、日高先生が立ち上げた当時は、立ち上げることがわからないと思う研究者もいたそうだ。

 この本では、いきものは皆「イリュージョン」を持っている、とある。そのいきものがどのように世界をとらえているのか。人間は真実を追究しているようで、ある種のまぼろしを真実と思い込んでしまっている…つまり「イリュージョン」を持ってしまっている。人間には人間の見方、見え方があり、チョウにはチョウの見え方がある。人間が見える世界だけが世界ではない。人間の認識している世界は、その範囲でしかない。科学もひとつのものの見方に過ぎない。それは限界を意味しているようにも思えるが、私にはとても面白いと感じた。わからない、曖昧な領域があることが面白い。「いろんな生き方があっていい」の章でそれを実感した。

 そして「イリュージョン」を否定するのではなく、それを楽しもうとしているところがまた面白い。人間が「そうなんだろう」と思うことが、どんどん変わっていく。「イリュージョン」がどんどん出てきて、そこから大発見に繋がる可能性がある。日高先生のおおらかでやわらかな考え方に、可能性を感じます。

 「行ってごらん、会ってごらん」を読んでいると、これは科学に限らないなと思う。よく、好きなミュージシャン、バンド、音楽家のライヴやコンサートには行けるなら行ったほうがいいという話を聞く。生の音楽はその時だけのもの、もしかしたらそのミュージシャンや音楽家の音楽をもう生で聴く機会がなくなるかもしれない、そのバンドは解散してしまうかもしれない…。美術もそうだと思う。なかなか展示しない作品なら尚更。相手が人なら、会いに行けるなら、会いに行ってみると歓迎してくれるかもしれない。

 いきものの行動を観察し、人間がどういういきものなのかも見えてくる。日高先生の最後の本にふさわしい内容だと感じました。
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by halca-kaukana057 | 2015-09-18 22:27 | 本・読書

イプシロン、宇宙に飛びたつ

 2年前、2013年の今日、JAXAの新型固体ロケット「イプシロン」初号機が打ち上げられました。もう2年も前のことなのか…と驚いています。ということで、イプシロンロケットに関する本を。
 ちなみに、2007年には、月周回衛星「かぐや(SELENE)」も打ち上げられました。


イプシロン、宇宙に飛びたつ
森田泰弘/宝島社/2015

 「イプシロン」プロジェクトマネージャの森田先生自らによる、イプシロン開発とこれからのドキュメント、ノンフィクションです。
 「サンダーバード」に憧れ、アポロ11号の月面着陸などで宇宙に夢を抱き、宇宙開発の道に進んだ森田先生。大学・大学院生の頃、東大宇宙航空研究所(のちのISAS・宇宙科学研究所)で「ハレー彗星探査計画」が進んでいた。当時の日本の固体ロケットはM-3SⅡ型。固体ロケットで惑星探査をすることに興味を持ち、宇宙研へ。そして、当時大学院博士課程3年だった「はやぶさ」プロジェクトマネージャの川口淳一郎先生に誘われ、森田先生はロケットの誘導制御を担当する。
 しかし、森田先生の研究者としての道はロケットのようにまっすぐではなかった。博士課程を修了したが当時の宇宙研には助手のポストがない。その頃カナダからやって来たビノッド・J・モディ教授から声をかけられ、カナダでロボットアームの研究員をすることになる。その後宇宙研に戻り、M-Vロケットの開発へ。1997年、M-Vロケット初号機は無事打ち上げに成功(この時のペイロードが電波天文衛星「はるか(MUSES-B)」)。M-Vは改良と打ち上げを重ねるが、2000年の4号機、「ASTRO-E」打ち上げは失敗してしまう。失敗を教訓に、挑んだ2003年打ち上げの5号機…小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」の打ち上げは成功。その後、宇宙研は宇宙・航空関係機関が統合し、JAXA・宇宙航空研究開発機構に。そこで森田先生はM-Vのプロジェクトマネージャになり、ISASだけでない、旧NASDAのスタッフとも一緒にM-Vを打ち上げることになる。そして、2006年、7号機で「ひので(SOLAR-B)」を打ち上げ、M-Vは廃止になってしまう…。

 M-Vがなくなり、新しい個体ロケットの構想を考える森田先生。コストを抑えて、もっとシンプルなロケットを。これがイプシロンロケットに繋がってゆく。逆境でこそ挑戦し、力を発揮する新しい個体ロケット開発チームの人々が頼もしい。イプシロンが形になってゆくにつれて、チームも大きくなる。この本では、チームの様々なエンジニアや研究者が登場する。彼らを信頼し、いい関係を築いている森田先生のお人柄がうかがえる。

 この本を読んでいると、本当にイプシロンは夢のようなロケットだと思う。プラモデルのようにシンプルで、人工知能を持ち成長することが出来る。新しい固体燃料の作り方も自転車のパンクしないタイヤからヒントを得たり、フェアリングも工業用のシリコンフォームを使うなど、身近なものからヒントを貰う。手作りのような雰囲気なのに最先端。イプシロンが更に面白い、興味深いロケットに感じられました。

 射場のある内之浦の人々との交流も心温まる。宇宙への敷居を下げるだけではない、多くの人に支えられ、見守られ、応援される「みんなのロケット」なのだなと感じた。

 現在イプシロンは、「ジオスペース探査衛星」(ERG)を打ち上げる2号機を開発中。この「ERG」を打ち上げるには、初号機の能力では足りない。そこで、強化型イプシロンを開発することに。2016年度に打ち上げの予定。さらに、2018年、5号機では月面着陸機「SLIM」を打ち上げ予定。初号機から間があいてしまっていますが、パワーアップしたイプシロンの活躍を楽しみに待つことにします。
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by halca-kaukana057 | 2015-09-14 21:56 | 本・読書

ヴィンランド・サガ 16

 読んだ漫画の感想が全然進まない…溜まる一方…そんなに多くは読んで無いのに…。ひとつひとつ。まずは「ヴィンランド・サガ」16巻。表紙、トルフィンが赤ん坊にごはんを食べさせている…!?真剣だけど優しそうなトルフィンの表情に成長と心境の変化を感じるとともに、一体何があったのか…!?と思ってしまいました。


ヴィンランド・サガ 16
幸村誠/講談社・アフタヌーンKC/2015

 結婚式の夜、花嫁のグズリーズは花婿のシグルドを無意識に刺し、逃げた。一方、ギリシアに向けて出航の準備をしていたトルフィンたち。グズリーズに気付き、話を聞く。やっぱり船乗りになりたい、生き方を自分で選びたい。そう言うグズリーズを、トルフィンは一緒に行こうと誘う。レイフたちの了承も得て、すぐに出航。シグルドはトルフィンたちがギリシアに向かったことを知り、船を出し追う。海を渡り数日後、北海のシェトランド諸島の島に立ち寄ると、人々が襲われていた。トルフィンは島の家の中で、赤ん坊を抱いた母親に出会う…


 15巻のラストが大変なことで終わってしまい、続きが気になっていました。
みんなが……当たり前にできることが できなきゃいけないことが……っ できない……
(15ページ)

このグズリーズの言葉に、とても共感しました。私も皆が当たり前に出来るようなことが出来ない…と悩み、悔しい思いをすることがよくあります。グズリーズが普通にお嫁に行って、妻となり母となり家庭におさまることができないと涙する…11世紀なら尚更です。でも、21世紀も変わらない…「普通」から外れれば、変に見られる。トルフィンみたいな人がいたら、どんなに気が楽になるだろう。トルフィンも苦しんで、「普通」から外れて、ようやくここまでたどり着いたのですが…。

 トルフィンは、ノルドの戦士の生き方から外れ、剣や戦のない社会を望んでいる。それは、父・トールズも同じだった。しかし、トルフィンが幼い頃に見たトールズの最期、トールズも結局最期まで剣は持っていた、捨てられなかったという話にドキリとした。アシェラッドを相手に、剣を抜いた…。ギリシアまでの旅路で、人を傷つけるかもしれない。そんな心配をしているトルフィンと、話を聞くエイナル。エイナルがとても頼もしい。トルフィンも強いけど、エイナルも精神的に強くなった。2人の友情にじんわり。

 その後立ち寄った島で、一族同士の争いに巻き込まれ、息絶える間際の母親から赤ん坊・カルリを託されたトルフィン。旅に新しい仲間が増えましたが…赤ちゃんの世話の仕方を誰一人知らない…。11世紀は育児は女性・母親の仕事。レイフおじさんも知らない。勿論トルフィンも知らない。グズリーズも…。悪戦苦闘しつつもお世話する様はユーモラスです。
 その一方で、家族を殺されてしまったカルリが、大きくなってからそのことを知ったら、その対立していた一族に復讐する義務がノルドの男にはある…という話は辛い。復讐をしなければ臆病者として社会から外される。人を殺したら復讐されるというルールがあるから社会は保たれている…ノルドの現実を語るトルフィンの表情が、とても重いです…。しかも、これが結構重要な話で…。

 しかし、トルフィンたちはただギリシア目指して旅をしているのではない。シグルドから逃げなければいけないという使命もある。本当に大変な旅です。

 海を渡り、ノルウェーのベルゲンに到着した一行。ベルゲンと聞いて、作曲家・グリーグの故郷だ!と反応してしまったw(勿論、時代は全然違います)グリーンランドやアイスランドでは少ない森林に驚くグズリーズ…そうだなぁ…確かに…。
 そこで出会ったもの…まずは熊。久々にトルフィンの戦闘シーンを見ました。やっぱり強い…。そしてもうひとり、女性の狩人・ヒルド。物静かな女性ですが…過去を語り始め…なんてこった!!ラストシーン、一体これはどうなるの!?17巻、17巻早く読みたいです!!気になります!!

・前巻感想:ヴィンランド・サガ 15
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by halca-kaukana057 | 2015-09-10 22:07 | 本・読書

山羊座の友人

 今回も普段は滅多に読まない少年誌から。ネットの「ジャンプ+」で連載された漫画です。偶然「ジャンプ+」を読んだら、タイトルが気になって(私も山羊座なので)読んだら面白かった。単行本化して嬉しいです。元々は小説が原作の漫画です。


山羊座の友人
原作:乙一/漫画:ミヨカワ将/集英社・ジャンプコミックス/2015

 高校生の松田ユウヤの部屋は強い風がいつも当たってきていて、ベランダには様々なものが飛んでくる。その中に、1ヵ月後の日付の新聞記事の切れ端があった。学校では、ユウヤは平穏に過ごしているが、若槻ナオトという同級生の男子が、金城アキラという不良に目をつけられ、いじめられていた。気にはしていたが、見て見ぬ振り、何もしないでいた。そんなある夜、家に帰る途中のユウヤは声をかけられる。声の主は若槻ナオト。手には血のついたバットを持っていた。金城アキラを殺した、というのだ。これから逃げるという若槻を、ユウヤは引き止める。部屋に匿い、更に一緒に東京に逃げることにした。ベランダに飛んできた1ヵ月後の日付の新聞記事には、高校生が殺害された事件で事情聴取を受けていた高校生が自殺した、と書いてあった。若槻を助けたい。そう思うユウヤだったが…。

 この漫画の感想をいつ書こうか迷っていました。先日、いじめが原因で高校生が自殺したのは本当に痛ましい。この漫画でもいじめのシーンは容赦なく描かれています。読むのが辛い。でも、惹き込まれた。ユウヤの部屋の不思議なベランダ。未来の新聞。ユウヤと若槻の逃避行。ユウヤの姉の夫は刑事で、若槻が語る事件の詳細に疑問を抱いたユウヤは逃げながらも、姉に捜査のことを聞いてみる。ユウヤが導いた結論。若槻の選択。そして…。最後はまさかの展開でした。ユウヤがなかなか賢い。鋭い。

 タイトルの「山羊座」。若槻が山羊座生まれで、ヤギに関する雑学に詳しい。身代わりに人々の罪を背負う山羊。若槻がスケープゴートの話をする…。この物語の鍵です。

 ユウヤから見て、自分と同じ普通の高校生の若槻。その若槻が殺人を犯したとは思えない。そして、ベランダに飛んできた未来の新聞記事が本当なら、若槻が自殺するのを阻止したい。自首しようとする若槻を、その日付までは自首させまいとするユウヤ。それまでは友達でもなかった2人。でも、ユウヤはいじめに対して何も行動できなかったから、今度こそは助けたいと思う。一方の若槻は淡々と、でも心には何かを押し込んでいる。感情をあまり表現しないからこそ、若槻君の感情を想像できる。

 ユウヤの周りの同級生にはもうひとり、本庄ノゾミという女子生徒がいる。ユウヤのベランダのことを知っていて、若槻へのいじめについて先生に相談をしていた。真面目で、なかなか賢そうな眼鏡っ娘。ユウヤのベランダに飛んでくるものに興味を持っている。逃避行中は勿論出てこないのですが…。

 最初は、ただ物語の発端になる新聞記事が飛んでくる、ということのためにこのベランダがあるのかなとおもっていたのですが、それ以上の意味があった…それがわかる最後がとてもかなしかった。とにかく、この漫画は最後まで読まないとわからない。

 感想を詳しく書きたいのですが、この作品はネタバレしたくない。是非最後まで読んで欲しい。ということで詳しく書けない…もどかしい…!

 ちなみに、原作は乙一さんの同名小説。原作小説も読んでみようと検索したのですが、ない。単行本・文庫化されていない。雑誌に掲載されたものらしいのですが、その雑誌も何年も前のもので入手困難。単行本・文庫化しましょうよ…。漫画の単行本が出ると決まった時、もしかしたら小説も一緒に出るのかなと思ったら違った。一緒に出してくれたらよかったのに。漫画は原作そのままなのか変えているのかわかりませんが、原作も読みたいです。
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by halca-kaukana057 | 2015-08-16 21:35 | 本・読書

Im ~イム~ 1

 新しく読む漫画が増えました。いつものペースだと2巻が出てしまうので、その前に感想書きます。


Im ~イム~ 1
森下 真/スクウェア・エニックス・ガンガンコミックス/2015

 高校1年の羽羽方陽乃芽(はわかた・ひのめ)は、家は代々続くオカルト蒐集家、昔から呪われている一族と噂され、人々に避けられていた。特に陽乃芽は8年前口から火を噴いて倒れたと噂され、陽乃芽は8年の間声を出せず、関わると呪われると噂されていた。入学した高校でもひとりぼっちの陽乃芽。そんな陽乃芽の前に突然、不思議な少年が現れる。わけのわからないことを話し、町の人々に追われていたその少年を家に連れ帰った陽乃芽。"イムホテプ"と名乗るその少年…古代エジプトの大神官で後に神とあがめられた存在。イムホテプは瞬時に陽乃芽は偽物の神「マガイ」に憑かれ呪われていると見抜く。イムホテプの力で一時的に声を取り戻した陽乃芽。しかし、陽乃芽に憑いているマガイを倒さねば陽乃芽の呪いは解けない。イムホテプは陽乃芽の部屋で、マガイの元凶となっているあるものを見つける…。


 古代エジプト神話がモチーフになっている漫画と聞いて読んでみました。少年漫画、アクションものはこれまであまり読んだことのないジャンル。でも、すんなりと読めました。主人公のイムホテプですが、カバーを外した表紙にも史実の解説が書かれています。古王国時代、第3王朝のジェセル王(今後出てくる模様)の宰相。古代エジプト最初のピラミッドはこのジェセル王の階段ピラミッドで、設計をしたのはイムホテプ。内科医でもあった。この漫画のイムホテプは、その史実のイムホテプとはちょっと違う感じになっています。
 しかし、古代エジプトでも初期の第3王朝。解説にも書いてあるのですが、ツタンカーメン王(第18王朝)とは1300年ほど離れている。ツタンカーメンの時代を現代だとすると、イムホテプの時代は奈良時代、という例えがわかりやすい。確かに。古代エジプトの歴史は本当に壮大、長い。考えるだけでクラクラしてきます…(でも好きw)

 話を漫画のイムホテプ(通称:イム)に戻して、現代日本に甦りやって来たイム。偶然出会った陽乃芽は、偽物の神マガイに憑かれていた。イムが現代に甦ったのは、マガイを祓うため。独りぼっちの陽乃芽が、心の拠りどころとしたあるもの。独りぼっちの陽乃芽にとって、現実世界は辛い場所でしかない。それよりも自分だけの拠りどころがあればいい。そんな陽乃芽の心を読み取り、「貴様は人と向き合うのが怖いだけだろう?弱虫め」(31ページ)と厳しいけれどもその通りのことを言うイム。見た目は少年だが、大神官だからかなり賢く、人生経験はあるのだろう。

 この漫画には、陽乃芽だけでなく、心の奥底に他者とは分かり合えないと思い込み、自己を追い詰める孤独や弱さ、罪悪感を抱えた人が登場する。陽乃芽に拒絶されつつも友達になりたいと近づいてきたクラスメイトの白花こぶし。何かと恐ろしい噂のある「御空神社」にお参りに来た少年・竜。人の目を気にしすぎてしまうこぶし。とても危険なこと、恐ろしいことが起こるかもしれないが、すがれるもの、希望を託せるものがそれしかない竜。そんな弱さを持つ心の内を理解しようとするのは陽乃芽にしかできないことだな、と。

 特に竜が抱えていたものは重かった。時に人は、それがネガティヴ、負の結果をもたらすものだとわかっていても、それを生きる支えとしてしまうことがある。悪循環で成り立っている人生。それを変えようとするのはとても難しい。でも、負の連鎖を生み抜け出せなくなるものを支えにしているのはやはりよくない。陽乃芽にとっても、竜にとっても。

 そんな人の弱さにつけこむマガイ。イムとマガイのバトルシーンは迫力があります。だが、イムも何かを抱えている…?落ちこぼれの見習いで、一人前の神になるためにイムの元で修行をすることになったアヌビス(アヌビス神が三頭身…可愛い…!)や、最後に登場した男が、イムを「大罪人」と言う。過去に何があったのか。それは2巻で明かされる、か?(単行本派なので最新話は読んでません)これから面白くなってきそうです。最後に出てきた男にイムが話しかけていた言葉は、古王国時代ではなかったよなぁ。このあたりも創作ですね。でも、実際の古代エジプトの神々をモデルにしているマガイや、こんな用語も調べていけば古代エジプトに詳しくなれるかも。漫画はこういう気軽なところから入れて面白い。

 2巻は9月発売予定。来月ですよ。少年漫画のペースは早いですね…。

 最後に。陽乃芽の姓・「羽羽方」の由来はこれ(の著者)ですよね?すぐにわかりました。気が強く、徐々に心を開き始める、ツインテールの陽乃芽ちゃん、可愛いです。こういうキャラ好きですw
 となると、最後に出てきた男には名前の由来はいるのか?ちょっとわからない…。
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by halca-kaukana057 | 2015-08-10 23:35 | 本・読書

ヴェネツィアの宿

 久々に須賀敦子さんの本を読みました。


ヴェネツィアの宿
須賀敦子/文藝春秋・文春文庫/1998(単行本は1993)

 戦争末期・終戦後の頃、イタリアに留学した頃、父と母と、父の愛人のこと、ミラノで結婚した頃のこと…須賀さんの様々な年代の思い出を語る12編のエッセイ。

 立秋も過ぎ、当地は一気に秋めいてきた。まだ夏だけれども、陽の照り方、空の色や雲、風の温度や触感、日の短さ、暮れゆく空…秋の気配を感じる。真夏のギラギラした太陽の下、強烈に明るい雰囲気から、陰りを感じる季節へ。読んでいたら、そんな夏から秋へ移り変わる頃の陰りを思い浮かべた。

 須賀さんが留学し、住んだイタリアやフランスは、南の国のイメージがある。日本のような酷暑ではないけれども、カラッと暑くて、太陽の光が降り注ぎ、明るく、人々も陽気で、街も賑やか。でも、須賀さんが描くイタリアやフランスの情景は、そんなカラッとした陽気なものではない。その光の陰にある、人々の憂鬱や心の奥底が際立っている。周りが明るくポジティヴな印象が強いから、暗いネガティヴな様が浮かび上がりやすいのだろうか。

 今年は戦後70年。戦時中、終戦後に関するエッセイもある。「寄宿学校」は終戦後のカトリック学校の学校生活や寄宿舎でのことが書かれている。戦後の混乱の中、外国人のシスターたちはどんな想いでいたのだろう、と思う。学校での学業や生活は楽ではなかった。その「寄宿学校」の最後が印象的だった。

 以前読んだ「コルシア書店の仲間たち」に関するエッセイもあります。夫のぺッピーノとの話は、何度読んでもつらい。

 様々な人と出会い、別れ。その時、様々なことを思うけれども、はかなく過ぎ去ってしまう。短い夏のような、切なくなる本です。

 ところで、須賀敦子さんの本を読もうと思ったら、河出文庫から全集が出ているじゃないですか。全集でそろえるか、それぞれのを買うか…迷います。全集だと分厚くて持ち歩きにくいのが難点…。
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by halca-kaukana057 | 2015-08-09 23:17 | 本・読書

[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 名探偵、最大のピンチ!

 人形劇本編最終回の放送から約5ヶ月。ようやくNHK人形劇「シャーロックホームズ」のノベライズ5巻・最終巻が出ました。14話から最終回18話まで収録しています。

・1巻(1~3話収録)感想:[NHK人形劇小説版]少年シャーロック ホームズ 15歳の名探偵!! +NHK人形劇版
・2巻(4・5話収録)感想:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 赤毛クラブの謎
・3巻(6~9話収録)感想:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 消えた生徒たち
・4巻(10~13話収録)感想:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ こわい先生たちのヒミツ

【5巻・最終巻収録の人形劇本編感想記事】
・第14話「百匹のおたまじゃくしの冒険」:すり替えられない真実 人形劇「シャーロックホームズ」第14話
・第15話「青いシロクマの冒険」:ワトソンが許せないこと、守るもの 人形劇「シャーロックホームズ」第15話
・第16話「ダグラスさんのお屋敷の冒険」:外の世界で見たもの、思い知ったもの 人形劇「シャーロックホームズ」第16話
・第17話「本当に困った校長先生の冒険」:信じているからこそ 人形劇「シャーロックホームズ」第17話
・第18話「最後の冒険」:終わりと始まり、そして希望、再び 人形劇「シャーロックホームズ」第18話[最終回]

少年シャーロックホームズ 名探偵、最大のピンチ!
アーサー・コナン・ドイル:原作/三谷幸喜:番組脚本 / 時海結以:著/千葉:絵/集英社・集英社みらい文庫/2015
 最終巻の表紙はホームズvs.モリアーティ教頭。まさに最後の対決です。表紙を開いたそでの部分には、本の一部分が抜粋されカラーイラストもあるのですが、全く予想していなかったシーンでした。そこか!wいや、とても可愛いので満足です。はいw

 最終巻は5話収録なので盛りだくさんです。他の巻よりも厚い。文中のイラストは少なめになっている気がします。でも、本編の通りではありますが加筆、本編とは少し変えた修正部分もあります。そして、久しぶりなので忘れていました。ノベライズは完全ワトソン視点、ワトソンによる回想風の描写であることを…。これが、どんなに重要な意味を持っているかということを…。

 14話「百匹のおたまじゃくしの冒険」。冒頭部分の、宿題をやらないホームズの屁理屈には本編で笑いましたが、焦って宿題を解いてわからない!!とパニックになるワトソンも笑える。ワトソンは数学は苦手なのか、どうなのだろうか。ワトソンの成績に関しては、一度も言及されなかったなぁ。
 そして、221Bを訪れたアドラー先生を迎えるホームズはいつものようにクールにすましているが…人形劇では表現しきれないこともありました。テキパキと掃除をして、アドラー先生を迎えるこのシーンの操演は見事でしたが、更に裏があったとは…。まさに、「どんなものにも裏がある」。ホームズ自身でさえ。
 他の話でもあるのですが、人形劇本編では省略?された推理などの種明かしも詳しくなっています。バーニコットの絵が盗まれ、ホームズとワトソンで取り返したものの、その絵は…の推理も、本編と少し違っています。確かに本編の盗んだ後に描くのは無理がある。あと、一応盗作はいけない、という明示でもあるのかな(それでも、バーニコットの絵は盗まれたままで、そのまま別の人が描いたものになり提出されてしまいますが…)。ただ、バーニコットの自分の作品への揺るがない想いは小説で読んでも清々しい。
 14話の最後のシーンは、ワトソンは登場しないシーン。それをワトソン視点でどう書くか…読んだ後「ワトソン…!!!」と叫んでしまいましたw役得といえばいいのかwきっとその時のワトソンの表情はニヤついていたに違いないw14話はホームズとワトソンの熱い友情、連携プレーも光る回です。

 15話「青いシロクマの冒険」。これはワトソン視点で読みたかった回。人形劇本編だと、映像で出てくるモノがどんな姿形をしているかわかります。しかし、小説、文章だけ(挿絵はありますが少しだけ)で、「青いシロクマ」や他に出てくるモノを想像するのが楽しい。人形劇本編を観ずに読んだら、どんなモノを想像しただろう?と思いながら読みました。
 人形劇本編を観た時に「アブドラは毎晩月を見ながらヨガをしているというが、月は毎晩見えるわけではない」と指摘しました。天文好きとしてこれはスルーできない。小説では、この部分が修正されていました!どんな風に修正されているかは読んでのお楽しみ。これには私も納得です。が、もうひとつ指摘箇所「グレイ型の宇宙人は、20世紀半ばじゃないと出てこない」のは修正されず…。まぁ、ここはいいか…。
 先ほど、この15話を「人形劇本編を観ずに読んだら、どんなモノを想像しただろう?」と書きましたが、それはワトソンのイザドラに対するイメージでも言える。誰かに初めて会った時、見た目や他の人からの噂で先入観を持つか持たないか。イザドラの部屋でホームズとワトソンが対峙しているシーンでも、ワトソンのイザドラに対する思い・イメージの変化は、いつものワトソンだった。それが、怒りに変わる時。真実を知って、またいつもの心優しいワトソンに戻る時。ワトソンが怒ったのは、どちらにせよ相手を想う優しさからだったのだから、ワトソンはワトソンなのだな、と思う。
 あと、イザドラの罪も本編とは変えてきました。本編のだと警察問題、絶対にやってはいけないこと。ノベライズで修正されたものもやってはいけないことに変わりはないですが…。イザドラの反応も、本編と変えているところがあります。
 15話本編のラストシーンで、何かを思いながら写真を見つめるイザドラが出てきましたが、さすがにこのシーンはワトソン視点では表現できなかった。削除シーンは初めてかも。

 16話「ダグラスさんのお屋敷の冒険」。小説でもスリリングな回です。本編では、殺人現場を見に行こうと張り切るホームズの一方で、やめようよと渋っていたワトソン。しかし、
こうなったら、腹をくくるしかない。ここまでにホームズを止められなかったぼくも悪い。……だって、本物の事件なんだぞってわくわくする気持ちが、ぼくにも、どこかにあったんだもの。
(101ページ)

 ワトソンの冒険好きな面が、本格的に出てきたと思える部分。しかし、お屋敷内の殺人現場のシーンは、本編と同じように、いや、本編以上に逃げ腰。…これが普通の反応、だよなぁ。ただ、ワトソンの父は医者という設定で、この物語が正典に繋がってゆくなら、死体への恐怖だけでなく、命を奪われてしまった、という表現もあってよかったんじゃないかなぁ。
 そして、冒険好きだけでなく、ホームズの親友で相棒、ホームズと一緒に行動すると決意を固めたワトソン。1巻から振り返ると、ワトソンは本当にたくましくなりました。
 本当の殺人事件でもひるむことなく推理するホームズや、ホームズとモリアーティ教頭が対峙するシーンは、小説だとじっくりと読んで味わえます。人形劇でのスピード感溢れる展開も好きですが、言葉や台詞をひとつひとつじっくりと味わうと、また違う面白さがあります。

 17話「本当に困った校長先生の冒険」。校長先生が依頼に来て、事の顛末を話すシーン。人形劇本編でもホームズは呆れていますが、小説の挿絵のホームズの呆れた表情が酷いwちょっと可愛いwいや、これが普通の反応だw
 14話の部分でも書いた、本編では説明しきれなかった詳しい種明かしが、17話にあります。レストレードの協力なくしてこの作戦は成功しなかったということが強調されました。あの生真面目なレストレードが、よくこの作戦に乗ってくれたなぁ…と本編を観た後は思っていたのですが、正義感の強いレストレードに協力してもらえるようにうまく説得していたのでした。なるほど。

 18話「最後の冒険」の前に一文が。これにはしびれました。たった一文なのに。
 ホームズがいなくなった221B。残ったワトソンの不安やホームズを想う気持ちが描かれている…ワトソン視点であることの重要さを実感します。
 18話は一文一文じっくり読みたい。ホームズのこれまでの行動も、表情から伺える感情の描写も、鍵となる人々の言葉も。特にマイクロフトとミルヴァートン先生。ミルヴァートン先生に関しては、本当に、正典の恐喝王はどこに行った…と言いたい。
 16話で再登場、17話で見えないけれども鍵となったホープ君が、18話でも実は活躍していたことが嬉しかった。確かに、あれをどこから持ってきたのか…そういえば謎だった。ホープ君、素晴らしい。
 ラストシーンはかみ締めるように読みました。そうか、このラストが、1巻1話の冒頭に繋がるのか…!そして、2人の冒険は続いていくのですね…!感慨深い…。

 5巻にも井上文太さんの描き下ろしイラストがありますよ。



 さて、この5巻が今出たのは、多分、このためです。
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NHK:シャーロックホームズ:ホームズ&ワトソン 推理(ミステリー)の部屋
シャーロック学園

 待ってました!!夏に人形劇ホームズが帰って来るという話がありましたが、これです!特別編「ホームズ&ワトソン 推理(ミステリー)の部屋」。ワトソンがプレゼンターとなって、推理力を高める技をそっと教えてくれるとのこと。ワトソンからの挑戦状もあるそう。しかも、全10回×30分。本編は20分だったので、本編よりも放送時間が長い!これは楽しみです。
 ところで、NHKの公式サイトにある画像。ワトソンの制服が変わってる!転校前のオーストラリアの学校の茶色の制服では無く、ベイカー寮の紺色の制服…と言うよりは、ホームズと同じ形の制服!以前ベイカー寮制服ワトソンを描きましたが、まさかの予想の斜め上!変化球!でも、ラグビーで鍛えたがっしりとした肩幅と、厚い胸板のワトソンに、ほっそりとしたホームズ仕様の制服は似合うかな…?観てのお楽しみということで。
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by halca-kaukana057 | 2015-07-14 23:39 | 本・読書

星の案内人 3

 今度は買って読んでから時間が経たないうちに感想を書こうと思います。天文・プラネタリウム・星見漫画「星の案内人」第3巻です。


星の案内人 3
上村五十鈴/芳文社・芳文社コミックス/2015

 "おじいさん"の私設プラネタリウム「小宇宙」。「小宇宙」の常連のトキオは、ある日学校で「ヴァイオリンを弾けるって本当?」と噂になる。トキオは人前ではヴァイオリンを弾けなくなっていたので、噂されても困る。トキオがヴァイオリンを弾くことを知っていて、学校で噂になる…言ったのはコータだ。そう思ったトキオがいつものように「小宇宙」に行くと、コータがいた。更に、「小宇宙」にはいつものように常連の人々が集まって盛り上がっている…コータにイライラしていたトキオは、「ここはプラネタリウムで飲み食いするところじゃない!!」と言い、出て行ってしまう。ひとりになったトキオは、初めて「小宇宙」に来た時のことを思い出す…。

 3巻はトキオ君がメインです。1巻、最初の頃は、「小宇宙」にいるのはおじいさんとトキオだけだった。それが、何らかのきっかけで偶然訪れ、おじいさんのプラネタリウムに魅せられ、今のように賑やかな「小宇宙」になった。おじいさんとトキオ、「小宇宙」とトキオがどう出会ったのか、過去のお話がついに語られます。両親と離れ、フミおばさんの家で暮らすようになったトキオ。ヴァイオリンも弾けなくなり、失意の中にいたトキオが、ある日いつもと違う道を歩いて、「小宇宙」にたどり着いた。おじいさんに出会い、プラネタリウムを見せてもらい、宇宙の話を聞く。それから、「小宇宙」に通うようになったが、トキオ以外に誰も来ない。その後、人々が集うようになった。おじいさんとトキオだけの「小宇宙」でも、人々が集うようになった「小宇宙」でも、トキオが願うことは同じ…。

 「小宇宙」に集う人々は、自分のことも考えているけれども、それ以上に他者のことを考えている。心の奥に何かを抱えていて、日々もがき、生きづらさを感じている。それは、人を思う優しさを持っているからじゃないだろうか。あのやさぐれ小説家の志村さんも(志村さんについては後ほどまた)。心に傷を抱えているからこそ、人の痛みも優しさもより強く感じられる。ただ、時々素直になれないだけ。トキオも、コータも。この15・16話で、ちっぽけだったトキオの新たな"宇宙"が生まれ、始まった。「宇宙」という言葉の由来は、空間と時間両方の広がりを意味している(ざっくり過ぎる解説ですみません…話すとかなり長くなります…もっと詳しく知りたい方は、資料はありますので検索してみてください)。そういえば、音楽も、空間と時間に関係しているような。

 あと、2巻も読み返してみて気がつきました。トキオやフミおばさんは「ヴァイオリン」と、おじいさんやコータたちは「バイオリン」と話し、表記されている。音楽や楽器に対しての考え方やとらえ方がこの一言でわかってしまう。凄い…書き分けている…!!感激しました。あと、トキオやコータが通う田舎の学校では、ヴァイオリンなんて珍しい楽器。特別視されるのも無理はない。トキオ君のヴァイオリン演奏はかなりの腕前だったと伺えます。何を弾いていたのだろう?やはりバッハか。ベートーヴェンも弾いてそう。

 17・18話では、瀬尾さんがかつて勤めていた会社の後輩・小野崎さんが登場。これまたかなりのひねくれ者…やっぱり、色々と抱えているのですが…。ひねくれ者と言えば、志村さん。志村さんの指摘が鋭い。一方で、おじいさんも小野崎さんに対して、おじいさんのやり方で迫ります。おじいさん、一癖二癖ある「小宇宙」に集う人々を何だかんだ言って説得させてしまう…一番のツワモノです…。
 太陽系の微妙なバランス。木星の"役割"。ちょうど今、日没後の西の空に木星が見えていますが、木星がもし無かったら、あの木星が違う動きをしていたら…と思うと恐ろしくなります。太陽系であれ、銀河や銀河団、宇宙全体をどんな力がどう作用していて、今のこの宇宙が成り立っているのか。そこまで考えてしまいます。本当に宇宙は壮大です。だからこそ惹かれます。

 19話は、2巻の13・14話で登場した犬のクロと、クロと仲が良かった少女・ナノハちゃん、そして行方不明になっていたクロとナノハちゃんをクロの家まで送っていった瀬尾さんの友人・千田さんのお話。14話ではさらっと取り上げられていた部分に、こんな物語があったとは。
 この19話のタイトルが「スーパームーン」…。これ、天文用語じゃない…。最近ネットで取り上げられるようになった言葉…おじいさんよく知っていたなぁ…。でも読んでみると、「スーパームーン」という言葉だけ借りて、あとは天文から外れてない。問題ない、よかった。同じ満月でも、月の楕円軌道の地球に近い点(近地点)と遠い点(遠地点)での大きさと明るさは異なっている。それを、ナノハちゃんから見た千田さんに当てはめた。地球から見える月のように。ナノハちゃんと千田さんは今後も出てくるはず。ナノハちゃん、がんばれ!

 さて、トキオ君にとって、寄り添ってくれる存在だったけど、今は辛い存在であるヴァイオリン。15・16話でトキオ君の新しい「宇宙」が始まりましたが、20・21話でついに…。新しい「宇宙」が始まっても、星が生まれるまでは時間がかかる。生みの苦しみを味わうトキオ。そんなトキオに志村さんの言葉が突き刺さるけれども的を得ている。
(トキオ)ぼくはどうせ何をやったってだめなんだ。
(志村)今のそのトキオ君は何をやったってダメだね
いっぱいになったコップに水を注ぐにはどうしたらいいと思う
というよりそんなコップ大事にする価値ある?壊しちゃえばいいと思わない?
(144ページ)

 トキオにとってのいっぱい水が入っているコップ…かつての「ヴァイオリンを演奏していたトキオ」に戻ろうとするのではなく、新しい星が生まれたトキオへ。"生まれ変わった"トキオの表情がとても清々しい!一方の「小宇宙」。トキオやコータの担任の先生と、校長先生。校長先生も、若き日の失敗から、新しい「宇宙」が始まり、星が生まれた。いっぱい水が入っているコップを壊し、新しいコップを手に入れた。

 思えば、新しい星が生まれるためには、超新星爆発を起こした星の残骸の塵やガスが再び重力によって集まり、新たな星雲となり星が生まれる。何かが始まるためには、何かが終わる必要がある。トキオも校長先生も、心の中で終わりを告げた星の残骸から、新しい星が生まれ、再び輝きだしているのだろう。この3巻で一番印象に残っている部分。私も、かつての自分、いっぱい水が入っているコップにこだわっている。こだわりながら、新しい何かを探してつかもうとしている。これじゃ何もつかめない、生まれないな。読んでいてようやくわかった気がする。
 
 世界各地の星にまつわる神話や伝承は、星空をよく見ていた古来の人々の観察眼から生まれたものだとわかる。この漫画は、星にまつわる神話や伝承を、ギリシアだけでない世界各地のものから、そして様々な視点から取り上げていて、作者さんはよく勉強されているんだなとわかる。その上で、人間の物語にも当てはめてくる。星空には、人間の生き様が、心が映る。

 21話のラストは涙腺緩みます。新しい一歩を踏み出したトキオ。さぁ、どこへ行こう。これからが楽しみです。

 おまけ漫画も面白い。本編ではほとんど出番が無かったフミおばさんが…。そして、ギリシア神話のゼウスの見方も変わりました。小野崎さんはまた出てくるかな。志村さんとのひねくれ者対決がこれからどう進むのか、気になります。

・2巻感想:星の案内人 2
 最初はオムニバスのような感じだったのに、すっかり「物語」になっているのが感慨深いです。
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by halca-kaukana057 | 2015-07-10 22:37 | 本・読書

青い光が見えたから 16歳のフィンランド留学記

 かなり前に出て、フィンランド関係で読みたいと思っていたが読めずにいた本。ようやく読めました。


青い光が見えたから 16歳のフィンランド留学記
高橋絵里香/講談社/2007


 小学生の時に読んだ「ムーミン」シリーズがきっかけでフィンランドに興味を持った筆者。いつしか「フィンランドに行きたい。フィンランドで暮らしてみたい。フィンランドの学校に通いたい」と思うようになった。高校生になったらフィンランドの学校に留学する、と目標を立てた。しかし、中学生になり、上級生下級生の上下関係が厳しく、先生は絶対であり、体罰や脅しもあることに疑問を持つようになった。親しくなった先生にも裏切られ、いつしか皆と同じ、自分を押し殺し、他者の顔色を伺いビクビクしながら暮らすようになった。フィンランドへ留学することも諦めていたが、中学2年の時に下見とフィンランドへ家族で旅行し、受け入れてくれそうな学校を探す。見つかったのはロヴァニエミのリュセオンプイスト高校。留学といっても、1年間ではなく3年間。入学して、卒業するまで。留学への壁は厚い。フィンランドの滞在許可が下りるか。フィンランド語も満足にできないのに留学できるのか。フィンランドの高校の卒業試験はとても難しく、突破できるのか…。精神的に不安定になりながらも、やっぱりフィンランドの高校に行きたい。ホストファミリーも無事に見つかり、滞在許可が下り、中学を卒業した筆者は、フィンランドへ旅立った…。


 この本が出た頃、フィンランドの教育が注目されていたのだったっけ?よく覚えていない。フィンランドの教育はいい、日本の学校との比較はあまりしないように書きます。日本の学校でも、フィンランドほどではないが自由でおおらかな校則・校風の学校はある。あくまで、高橋さんが体験したフィンランドでの高校生活について書きます。

 きっかけなどは異なるが、フィンランドに興味を持っていて、フィンランドに行ってみたいと思っている…私も同じだ。フィンランドに行くなら、できるだけゆっくり滞在して、フィンランドの人々と触れ合ったり、森と湖の自然を満喫しながら、私がフィンランドに興味をもつきっかけになったシベリウスの作品を聴きたい、と思っている。だが、私がそんなことを思うようになったのは社会人になってから。仕事もある、生活費から旅行資金を繰り出すのはなかなか難しい。体調面でも不安がある。ゆっくりとフィンランドに滞在する…少なくとも2週間…時間も取れない。もしかしたら、行けないままかもしれない。届かないまま、憧れのままで終わるかもしれない。そう思いながら、シベリウスやフィンランドの音楽を聴いたり、「ムーミン」シリーズを読んだり、フィンランドの写真をネットで探してみたり…。

 この本を読んで、若いっていいなとまず思った。エネルギーがある。窮屈な中学校、日本から飛び出したい。1年間の交換留学じゃ短い、とフィンランドの高校に留学というよりは入学することを目指す。精神的に不安定になりながらも、それでもフィンランドに行きたい!!とひとつひとつ厚い壁を乗り越えていく。若さもあるし、両親の理解と支援が何よりも心強い。恵まれている。学校で先生に反対されても、両親は理解して背中を押してくれる。いいなぁと、正直羨ましく思った。

 そして入学。フィンランドの高校は単位制。移民や留学生のための外国人のためのフィンランド語の授業もある。本ではさらっと書いてあるが、実際、筆者がフィンランド語をマスターするのはとても大変だったのだろう。フィンランド語は名詞も動詞も格変化が多くとても難しい。しかも、日本語で書かれたフィンランド語の本は今は少しは増えてきたが、筆者がフィンランドに渡った2000年ごろはほんの少ししかなかったはず。フィンランドで筆者が買ったのは、フィン英・英フィン辞書。ストレートに母国語でマスターできない難しさは相当のものだったろう。だが、間違えてもいいからフィンランド語をマスターして、国語の読書感想文を発表したり、試験も受ける。試験はレポート記述式のような形で、最初はほとんど何も書けなかった。その試験は0点でも、成績は…試験の結果だけじゃない。高校の先生も、友達も、高橋さんの努力する姿、前向きに学ぼうとする姿勢を評価し、ほんの少しのことでも誉めてくれる。間違っていることや足りないことははっきり言うが、いいところもちゃんと見る。子どもも大人もそんな考え方が出来ていて、それで学校が成り立っていていいなと思う。

 フィンランドの人たちに日本のことを紹介することも何度かあった。日本語、食べ物、文化…。普段でも、外国にいく時には特に、日本のことをちゃんと紹介出来るようにしておきたい。
 高橋さんがフィンランドで迎えたクリスマスも印象的。ロヴァニエミはサンタクロースが住んでいる村がある町としても有名。クリスマス前には、世界中にプレゼントを配りに出発するサンタさんのニュースを観たことがある。フィンランド人にとってクリスマスは、家族で過ごす大事な日。日本のようなわいわい賑やかなパーティーは1ヶ月前に済ませておくそうだ。フィンランドにも一応ワイワイ騒ぐクリスマスパーティーもあることは初めて知った。そして、この頃はフィンランドは暗く寒さの厳しい季節。ロヴァニエミは北の方の町なので、日中はほとんど真っ暗。気温もマイナス30度を下回る。厳しい自然の中だからこそ、よりクリスマスの暖かさが際立つのだろう。

 勉強は難しいが、高橋さんはフィンランドで閉ざした心を徐々に開いてゆく。厳しい上下関係も、体罰や脅しをする先生もいない。先生は親しみを込めてファーストネームで呼び(寧ろ呼ばれないと親しみをもたれていない証拠なのだそうだ)、髪を染めたりピアスも開けていい。高橋さんも髪を染め、ピアスも開けた。日本では先生は絶対だし、校則も厳しく、ピアスは禁止されていると言うと、理解できない、と。私がもし何故禁止されているのかと聞かれたら「風紀を乱すから。日本ではピアスは好ましくないもの、学校や大人、社会への反抗とみなされるから」と説明するだろうが、これで理解されるだろうか。
 そして、フィンランドに来た頃はフィンランドの人々から見れば、高橋さんはとても暗い表情をしていたという。シャイな日本人、では説明しきれないほどの。1年も経たないうちに、表情も、服装も明るくなった、と。3年では元々得意なドラムを生かして友達とバンドを組み、学校で演奏もした。「自分の居場所」と言えばいいのだろうか。自分を素直に表現できる環境。人も場も受け入れてくれる。高橋さんにとってフィンランドはそんな場だった。自分を押し殺し、苦しんだ中学とは全く異なる世界。そんな環境に出会えた…というよりも、自分で切り拓いて見つけたことに、いいなぁと思いながら読んでいた。

 フィンランドの高校は、3年と決まっていない。学びたいことの進度・深度や自分のペースによって、3年半や4年の人も少なくない。高橋さんも4年で卒業することを目指す。卒業するための最大の難関…卒業試験。これは学校ごとではなく、フィンランドの国全体で行われるもの。卒業できるかどうかは国が決める。試験も長文の記述式のものがほとんどで、試験時間は1教科最大で6時間。厳しく徹底しているというか、丁寧だなと思った。高校生ひとりひとりの答案を読んで、採点して、相対評価で成績・合否を出す。フィンランドは日本よりも人口が少ないけれど、それでも大変なことだろう。高校で何を学んだか、どれだけ学んだか、国が見守っているという印象を受けた。

 その卒業試験前の最後の登校日の「アビの日」が凄い。ここで鬱憤を晴らして、厳しい試験に臨むのか…。

 フィンランド語が満足にできなかった高橋さんは、フィンランドに来る前に卒業試験に合格するのは無理だと学校では思われていた。しかし、信じて挑戦し努力していれば、道は拓ける。味方してくれる。試験の成績発表の最後あたりは胸が熱くなった。
 最初から最後まで、「いいなぁ」という思いで読んでいた。実際はもっともっと大変だったはず。この本には書ききれないことが沢山あったはず。それでも、フィンランドという環境は高橋さんに合っていたからこそ、苦労も乗り越えて、挑戦し努力し続けて、ここまで来ることができた。そして挑戦することから遠ざかっていた私は、読んだ後、「私はどうしたい?」「何がやりたい?」「難しそう?でもやってみたい?」と自分自身に問いかけている。

 この本、文庫化しないのが不思議である。出版社も講談社だし、様々な選定図書にも選ばれているし、文庫化して、中学生や高校生、若い人にもっと読んでほしいと思うのだが…。
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by halca-kaukana057 | 2015-07-02 23:10 | 本・読書


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