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[シベリウス生誕150年記念]クレルヴォ交響曲を聴こう その1

 もう11月も終わり…。12月…2015年が終わってしまう。今年はシベリウス生誕150年記念年。CDに加え、オンデマンドのライヴ録音も色々と聴いています。シベリウスの誕生日の12月8日も近い。
 来年になっても、シベリウスは聴く気満々なのですが(むしろ12月8日で150年。来年の12月7日まで延長でもいいんじゃないかと前にも書きましたが、本当そう思ってます…w)、何か特集企画をやりたい。

 ということで、「クレルヴォ交響曲」op.7の聴き比べをやります!

 これまで、シベリウス作品の中でもとっつき難いと感じていた「クレルヴォ」。交響曲なのか、どうなのかともよく議論になるみたいですが…。演奏時間は大体70分(ベートーヴェンの第九と同じぐらいと考えればそれほどでもないか)。ソプラノ(またはメゾソプラノ)とバリトンの独唱と男声合唱が入る、声楽つきの規模の大きな曲。シベリウスというと私は4番以降の後期の交響曲を真っ先に思い浮かべるので、初期の、しかも規模の大きな曲はなかなか親しめずにいたのです。シベリウスイヤーなのに、この「クレルヴォ」はあまり演奏されていないし…(フィンランド語の声楽ソロと男声合唱が難しいのかなぁ。フィンランドは声楽・合唱も強いんだけどなぁ)
 それが、今年のPromsとラハティ・シベリウス音楽祭で演奏された「クレルヴォ」を聴いて、この曲いい!もっと聴きたい!と思うようになり、持っていてもあまり聴かずにいたCDを聴き始めました。

 第1回、取り上げるのは、
パーヴォ・ベルグルンド指揮ボーンマス響
ライリ・コスティア(ソプラノ) 、ウスコ・ヴィータネン(バス・バリトン)、ヘルシンキ大学男声合唱団


 フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」の「クレルヴォ」の章に基づく作品。クレルヴォはカレルヴォの息子。父の兄・ウンタモに一族を滅ぼされ、幼い頃から復讐を誓う。力も精神力も強い。成長したクレルヴォは、鍛冶師のイルマリネンの家で働くことになるが、イルマリネンの妻の悪戯に激怒して殺してしまう。その後、クレルヴォは死んだはずの両親と再会、妹も生きていると聞かせれる。両親と暮らし、ある日、森の中で可愛らしい少女と出会う。その少女はクレルヴォの妹だった。それを知らず…。真実を知ったクレルヴォの妹は自殺。クレルヴォも激しく後悔、自分を責め、ウンタモ一族を滅ぼす旅に出る。ウンタモ一族を滅ぼしたものの、両親も亡くなり、家もなく…クレルヴォはこれまでの人生を振り返り、自殺する。

 この救いようのない物語も、「クレルヴォ」は親しみにくいと感じていた理由だったと思います。悲劇の英雄。英雄扱いになっていますが、実際にフィンランドの人々はクレルヴォをどんな人物と見ているのだろう?第3楽章「クレルヴォとその妹」で男性合唱とソプラノ・バリトン独唱、第5楽章「クレルヴォの死」で男声合唱が入ります。

 シベリウスの出世作になったのに、シベリウスは演奏されることを嫌がり、スコアも出版しない。シベリウスが死去した後に全曲演奏され、1970年、このベルグルンド&ボーンマス響盤が初めての録音になりました。今私が接することのできる最初の「クレルヴォ」がこのCDというわけです。さすがはベルグルンド先生。

 第1楽章「序章」、第2楽章「クレルヴォの青春」と重々しい音楽が続きます。第2楽章の静かな雰囲気は、やわらかさもあるが、やはり緊迫している。そして第3楽章。「カレワラ」をカンテレで歌う「カンテレンタル」と同じように5拍子で、軽快に明るめに始まり、「Kullervo Kalervon poika」と男声合唱が。このヘルシンキ大学男声合唱団の歌が、人の声の呼吸、やわらかな「人間の声」を感じられていい。それでいて、クレルヴォとその妹の悲劇を語る険しさ、迫力や緊張感も十分。フィンランド語の歌詞も聴きやすい。「カレワラ」は元々韻を踏むように書かれているのですが、その韻のリズムが心地いい。いい合唱だなと思いながら聴いています。

 声楽ソロの2人もいい。妹役のソプラノは甘さも持ちつつも、悲しみに。バリトンの「クレルヴォの嘆き」の部分の重さ、迫力もたまりません。

 この合唱が、第5楽章ではただならぬ雰囲気に。冒頭、オケの音は小さくひっそりとしていて、合唱がメインで聴こえる。幼い頃から誓っていた復讐を果たしたのに、何もかも失ってしまったクレルヴォの計り知れない悲しみがストレートに伝わってきます。徐々にクレッシェンドしてゆき、クレルヴォの最期が…。とても重い。重い演奏です。聴いた後、ぐったりとしてしまいます。いい意味で。クレルヴォの悲劇は救いようがないけれども、救いがなくても、過酷な運命を背負っていても、歯を食いしばり生き、そして劇的な最期を迎えるクレルヴォの生涯をちゃんと聴きたいと思う。やはり「クレルヴォ」はオペラのような部分があります。

 第4楽章「クレルヴォの出征」も、颯爽としているけれども突き刺さるような鋭さがある。弦のざわめきがいいです。シベリウスの弦のざわめき(ささやき)はいい。角笛のようなホルンや、ファンファーレのような金管もアクセントになっている。

 あと、打楽器陣も、迫力があり、演奏をビシッと引き締めている。

 「クレルヴォ」という作品を世に広めることになったこの録音に感謝です。この後に続く録音もどんどん聴いていきます。そのうち聴きどころや魅力をどんどん見つけられたらいいな。
 ちなみに、ベルグルンドはヘルシンキフィルとも「クレルヴォ」を録音しています。こちらも聴けたらいいな。

・関連記事:Proms2015 シベリウスプログラム&シベリウス音楽祭 まとめ
 このPromsとシベリウス音楽祭で演奏された、サカリ・オラモ指揮BBC響の演奏が「クレルヴォ」をもっと聴きたいと思ったきっかけでした。迫力と疾走感満点のいい演奏です。声楽陣もいい。この記事のリンク先(「動画その2」)、まだ聴けます。(BBC Radio3のは11月29日まで。中身は同じです)
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by halca-kaukana057 | 2015-11-28 23:20 | 音楽

高度化仕様でも安定の打ち上げ H2A29号機打ち上げ成功!

 昨日のことなのでもうご存知かと思いますが。

JAXA:H-IIAロケット29号機(高度化仕様)による通信放送衛星Telstar 12 VANTAGEの打上げ結果について
ファン!ファン!JAXA:H-IIAロケット29号機打ち上げ成功!新たなステージへ
sorae.jp:打ち上げ成功おめでとう! H-IIAロケット29号機、通信衛星「テルスター12ヴァンテージ」の打ち上げに成功

 初めての商業受注打ち上げ。カナダの通信衛星「Telstar 12 VANTAGE」を搭載したH2Aロケット29号機が、昨日24日午後、打ち上げられました。これまではJAXAや政府の人工衛星や探査機を打ち上げてきたH2Aロケット。大学や企業の小型衛星を「相乗り」で打ち上げることはあったのですが、今回はカナダ・テレサット社の通信衛星だけを打ち上げるため。どの衛星・探査機でも代わりはありませんが、商業受注となると、H2Aを選んでくれた信頼にも応えなければならない。

 また、この衛星を打ち上げるのに、これまでのH2Aでは足りない部分がたくさん。静止軌道に載せるための「静止トランスファー軌道」にロケットで人工衛星を載せるのには、赤道に近い射場のほうが有利。赤道に近いほうが赤道上にある静止軌道に載せやすく、また赤道に近いほど地球の自転によって重力が小さくなる=ロケットの燃料が少なくて済む。種子島は他の射場よりも緯度が高く、静止トランスファー軌道に投入するのにも、ロケットの燃料・推進力でも不利。静止軌道に遠めの静止トランスファー軌道に投入すると、静止軌道に入るまで人工衛星が軌道変更を余計に行わなければならず、その分時間もかかる、燃料もたくさん必要、寿命も短くなってしまう…。これではH2Aが商業受注を受けられない…。そこで、緯度のハンデをカバーし、人工衛星にやさしい打ち上げを目指して取り入れられたのが「高度化仕様」。普段なら打ち上げ後8分~20分程度で人工衛星を切り離してしまいますが、なるべくいい軌道に載せるまで第2段ロケットから分離しない、いい軌道まで連れて行く。その分、衛星分離まで、第2段ロケットは衛星を積んだまま約4時間飛行。その間、ロケットや人工衛星の一方だけに太陽光が当たらないように向きを変えたり、太陽光で燃料が蒸発しないようにロケットの塗装を工夫したり。一番の難所が、いい軌道に入れるために、3回にわたる第2段ロケットの再点火。一度点火し燃焼したエンジンを軌道上で再点火するのはなかなか難しいこと。「はやぶさ2」の打ち上げでも、1回再点火しましたが今度はそれ以上。

ファン!ファン!JAXA:基幹ロケット高度化とH-IIAロケット29号機への適用
マイナビニュース:世界に追いつけるか 「高度化」H-IIAロケット、ここに誕生す
 「高度化仕様」については、以上のサイトに詳しく書いてあるのでどうぞ。軌道の話は難しいですが、じっくりとイメージして読み込んでいます。

マイナビニュース:H-IIAロケット29号機現地取材 - "高度化初号機"の打ち上げを現地からレポート! 今回の注目点は?
 高度化仕様も注目ですが、今回のH2Aロケットは「204型」固体ロケットブースター(SRB-A)がいつもは2本ですが、4本ついてます。これは久しぶりのタイプ。加速の速さ、迫力にも注目です!

 さて、いよいよ打ち上げ。種子島はいいお天気。
H-IIAロケット29号機によるTelstar 12 VANTAGE打ち上げ中継 |Launch of Telstar 12 VANTAGE/H-IIA F29 Live Broadcast

 打ち上げ50秒前あたりから再生出来るようにしてあります。204型の火力、加速の速さをご覧ください!

朝日新聞:改良型H2Aロケット打ち上げ 衛星分離は4時間半後
 毎度お馴染みになりました朝日新聞による空撮動画。空から見ても迫力ある、加速も速い!あっという間に空の高いところへ行ってしまいました。行ってらっしゃい!ご安全に!

 そして、20時過ぎ、3回目の第2段エンジン点火、燃焼を行い、衛星分離!所定の軌道に投入。無事成功です。おめでとうございます!!
 高度化仕様という難しい打ち上げだったのに、安定の打ち上げ。H2Aがここまで成長するとは…嬉しいです。

 H2Aロケットの前身、H2ロケットは、純国産のロケットで、商業打ち上げを目指しました。しかし、H2ロケットは相次いで失敗。廃止になってしまいます。その苦難が、H2Aで、29号機でようやく実現しました。関係者の皆様、おめでとうございます。H2Aロケットは、まだまだここからが挑戦です。X線天文衛星「ASTRO-H」の打ち上げでは、更に人工衛星との分離の際の衝撃を和らげる改良もある予定です。
 人工衛星にやさしく、スケジュールどおりに安定に打ち上げる。この強みで、さらに商業受注が増えていって欲しいです。応援してます!
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by halca-kaukana057 | 2015-11-25 22:17 | 宇宙・天文

世界一わかりやすいロケットのはなし

 久しぶりに宇宙開発方面の本を。

世界一わかりやすいロケットのはなし
村沢譲/KADOKAWA/中経出版/2013

 1955年、糸川英夫博士によるペンシルロケットの発射試験から始まった日本のロケット開発・打ち上げの歴史。この本は、そのペンシルロケットから現在のH2A,H2B、イプシロンまで、それぞれのロケットの特徴、搭載した衛星、打ち上げがどうなったか…などの記録になっています。

 冒頭ではイプシロンロケットの森田泰弘先生、「こうのとり」4号機・有人宇宙ミッション本部・宇宙船技術センター長の田中哲夫さんへのインタビューが。イプシロンも「こうのとり」も、今、そしてこれからの日本の宇宙開発を支え、引っ張っている重要な宇宙機。それぞれ、まだまだ進化途中(イプシロンはまだ初号機しか打ち上げられていない!!)。また、過去の様々な宇宙機・技術を引き継いでいる。そんな覚悟とやる気に満ちたお話でした。

 あとは、ひとつひとつの打ち上げを解説。日本のロケットの歴史を私はまだまだ知らない。知らないことがたくさんある(年齢の問題もありますが…)と感じました。ロケット、人工衛星、それぞれの失敗も結構多い。90年代の失敗続きはリアルタイムで見ていて辛いものがあったのですが、その前にも。また、旧宇宙開発事業団(NASDA)と宇宙科学研究所(ISAS)が共同で開発。しかし莫大なコストで1号機で終わってしまった「J-1ロケット」についても。実はJ-1ロケットについて詳しいことは知らなかったので、知れてよかった。ペイロードの「HYFLEX」は覚えていたのになぁ…?

 今、H2A,H2B,イプシロン(2号機打ち上げが待たれる)は順調に打ち上げ、衛星・探査機を宇宙へ送っている。天候不順以外の延期がないオンタイム打ち上げ、飛行も順調。過去にたくさんの失敗があって、今があるのだなと本当に思う。今につながる日本のロケットの歴史を手にとれる本です。

 明後日24日には、H2Aロケット29号機が打ち上げられる予定です。ペイロードはカナダの通信衛星、商業打ち上げです。しかも、「人工衛星にやさしい」ロケットを目指して、かなり難度の高い打ち上げに挑戦します。「はやぶさ2」の打ち上げの時、第2段ロケットと「はやぶさ2」を分離しないで一度エンジンを停止し慣性飛行で地球を一周、その後第2段エンジン再点火して、「はやぶさ2」を分離、という難しい方法がとられました。今度はもっと難しいです。更なる商業打ち上げ受注を目指して、まだまだ日本のロケットは進化します!
JAXA:H-IIAロケット29号機(高度化仕様)による通信放送衛星Telstar 12 VANTAGEの打上げ時刻及び打上げ時間帯について

 ちなみにこの本は「だいち2号」、「GPM/DPR」、「はやぶさ2」打ち上げ前だったので、少し紹介している程度です。
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by halca-kaukana057 | 2015-11-22 22:58 | 本・読書

沈みゆく夏の大三角

 しばらく曇りの日が続いていて、なかなか星空にお目にかかれませんでした。今夜はようやく晴れました。久々に星見です。

 西の空には沈みゆく夏の大三角。こと座のベガ、はくちょう座のデネブが明るく輝いています。
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 大好きないるか座も写ってます。天の川のあたり、星屑がいっぱい。

 南の空には半月が。その近く(勿論見た目の)を、飛行機が飛んでいきました。息を吐くと白くなる冷たい秋の夜。月明かりに飛行機雲が照らされ、白く輝いていました。その飛行機雲は風でたなびく。とても美しい一瞬でした。画像が撮れなかったのが残念です。

 どうせ曇っているから…と早朝の惑星集合もしばらく見ていません(その分寝てます)。晴れていたら、目の覚めるような冷たい空気と徐々に明るくなる空に輝く惑星たちをまた観たいです。
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by halca-kaukana057 | 2015-11-19 22:48 | 宇宙・天文

生誕150年 ニールセンの交響曲を聴こう

 今年はシベリウス生誕150年でもありますが、もうひとり、生誕150年・1865年生まれの作曲家が。デンマークのカール・ニールセン。「ニルセン」と表記されているのも多く、一体どっちがデンマーク語の発音に近いんだ?一応「ニールセン」の表記で書くことにします。ということで、シベリウスばっかり聴いてないでニールセンも聴こう、と以前から交響曲全集を聴いていました。ニールセンは6曲書いています。
 ちなみに、シベリウスとニールセン、フィンランドとデンマーク、会ったこともあるし、お互いの作品について言及したこともあるそうな。

 聴いたのは、パーヴォ・ベルグルンド指揮デンマーク王立管弦楽団の全集。シベリウスもベルグルンドから入りましたが、ニールセンもベルグルンドからになりました。間を置きながらちょこちょこと聴いてきましたが、ようやく全部聴き終わりました。

 聴いてみて、ニールセンもいい!
 シベリウスのように、聴いていて北欧の自然を思う…ということはあまりありません。フィンランドとデンマーク、「北欧」とひとくくりにされますが結構違う。ことばも全然違う、民族も国民性も文化も歴史も違う。ただ、ニールセンの音楽そのものが面白くて聴き入ります。

 どの交響曲も勢いがあって、リズミカル。弦も管も打楽器も独特で面白い。特に気に入ったのが、2番、3番、4番、5番。
 2番「四つの気質」…短気で怒りっぽい胆汁質の第1楽章、鋭く冷静、知的な粘液質の第2楽章、陰気でメランコリックな憂鬱質の第3楽章、陽気で活発な性格の多血質の第4楽章という意味で「四つの気質」(表題音楽ではないらしい)。それぞれ個性的で、特に第3楽章はきれいだなと感じました。

 第3番「ひろがりの交響曲(大らかな交響曲)」は第2楽章でソプラノとバリトンのヴォカリーズが入ります。舞台裏で歌っているらしい。何とも不思議な感じ。第1楽章の最初、金管の和音連打もかっこいい。そこから壮大なテーマ、さらに木管と弦のささやくようなメロディーが。かと思うとまた盛り上がる。この変化が気に入りました。第2楽章は木管がゆるやか、美しい。そこにヴォカリーズが入ってきて、やっぱり不思議な魅力のある曲です。第3楽章の溌剌、第4楽章は荘厳。第4楽章の弦の響きがじわりと来ます。

 第4番は「不滅(滅ぼし得ざるもの)」、ニールセンの交響曲の中では一番有名。作曲当時、世は第一次世界大戦真っ只中。ニールセンの戦争交響曲とも分析も。聴きどころは何と言っても第4部(単一楽章の曲ですが、4つの部分に分かれてCDには収められている模様)のティンパニバトル。2対のティンパニが激しい連打を繰り広げます。とてもかっこいい。第4楽章以外でもティンパニは大活躍。第3楽章の暗い弦にティンパニが映える部分が印象的です。何か不吉なものを予感させます。
 
 第5番は2楽章の交響曲。第一次世界大戦の後の暗さ、第二次世界大戦への予感などを表現している…との分析も。他の交響曲が速いテンポとフォルテの強い音で始まるのに対して、5番は静かに始まります。聴きどころは第1楽章の小太鼓(スネア)のアドリブ。これは演奏するのが大変だろうな…いや、打楽器奏者の腕のみせどころ?第2楽章のメロディーの暗いうねりも印象的。

 メロディーや響きがどこかしらショスタコーヴィチに似たところもあるとも感じました。ショスタコの方が後か。
 まだ聴き込んでいないので、これからもっと聴けば更に面白さを見つけられると思う。今回はベルグルンド盤を聴きましたが、ブロムシュテット指揮サンフランシスコ響のがいいらしい。新しい録音も出てきている。なかなか実演が聴けないけれども、もっと聴いてみたいなぁと思っています。
 実演といえば、今年4月にストックホルムで「シベリウス/ニールセンフェスティバル」なるものがあったそうで…シベリウスとニールセン、更に2人に関係する作曲家の作品を組み合わせて、北欧オーケストラ・北欧指揮者が勢ぞろい…というもの凄い企画。オンデマンドはもう聴けなくなってしまっていました…。日本でまだラジオ放送されてないよね?聴きたい…!
Sibelius-Nielsen Festival 2015 | Stockholm Concert Hall

 ニールセンの作品は、協奏曲はヴァイオリン、クラリネット、フルートの3作品。管弦楽曲も「ヘリオス」「アラディン」など。室内楽やピアノ曲もある。色々と聴いてみたいところです。
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by halca-kaukana057 | 2015-11-18 23:02 | 音楽

オンネリとアンネリのおうち

 久々にフィンランドの児童文学を読みたくなりました。

オンネリとアンネリのおうち
マリヤッタ・クレンニエミ:作/マイヤ・カルマ:絵/渡部翠:訳/プチグラパブリッシング/2005

 小学生の女の子、オンネリとアンネリはとても仲が良いお友達。オンネリの両親は別々に暮らし、アンネリは9人きょうだいの5番目。夏休みに入った朝、2人がバラ横町の道を歩いていると、「正直なひろいぬしさんにさしあげます。」と書かれた封筒を拾う。交番に持って行き、中を見るとたくさんのお金が。おまわりさんは封筒に書いてある通り、このお金は2人のものだと言って手渡すが、困った2人は元あったところに戻すことに。封筒が置いてあった家の門の前に、こっそりと置こうとすると、家の主・バラの木夫人がその家に「売家」の張り紙を。2人に気付いたバラの木夫人は2人を呼び、この家は「ふたりの小さな女の子」が住む家として建てられてしまったものだと説明する。2人も、お金の入った封筒のことを話すと、そのお金でこの家が買える。この家が欲しくない?と聞かれてしまう。2人は家を買うことにする。2人だけで住むお家は、とても素敵なお家だった…

 物語の内容からずれるのだが、フィンランドには「レイキモッキ(Leikkimokki:「レイッキモッキ」の方がフィンランド語の発音に近い?)」というものがある。日曜大工で子どものために庭に作ってあげる小さな家のこと。主にお父さんが娘に作ってあげるらしく、男の子は自分で隠れ家を作るそうだ。そこに子どもたちで集まって、おやつを食べておしゃべりをしたり、パーティを開いたり…。子どもたちは自分で家の中を装飾する。私も子どもの頃、友達と秘密基地を作ったことがあるが、フィンランドでは親公認だけど子どもたちのプライバシーが守られる隠れ家がある。これを知った時、いいなぁと感じました。
All About:フィンランド発!子どものための家「レイキモッキ」

 読んでいて、その「レイキモッキ」を思い浮かべました。自宅の庭に小さな家…ではなくちゃんとした一戸建てですが。フィンランドは家族を大事にする…とはいえ離婚率も高い(日本とは考え方が違う)。アンネリの両親は別居中ということなのだろう…。オンネリも家に居場所がない。そんな2人が買ってしまった家。家の中も、2人が住むことを予想?して何もかも用意されている。バラの木夫人は魔法使いか何かなんだろうか…と思ってしまう。素敵なおばあさんです。
 家に帰っても、アンネリの両親はそれぞれ旅行に行ってしまったし、オンネリの家は相変わらずきょうだいがたくさんで、オンネリはその中に馴染めない。夏休みの間、2人は自分たちの「家」で暮らし、様々なご近所さんに出会う。このご近所さんたちがいい。

 冒頭で出てきたおまわりさんも再登場し、かなり重要な登場人物になります。お隣さんのロシナおばさん…児童文学で、こんな細やかに心の傷と喪失、再生を描くなんて、とても素敵なお話だなと読んでいてやさしい気持ちになりました。そして何よりも、最後が…。やっぱり「家族」なんですね…。

 まだ小学生ですが、オンネリとアンネリは料理もうまいようで、食事も自分たちでつくります。フィンランドの料理が次々と出てくるので、フィンランドの食文化の雰囲気を味わえる物語でもあります。

 この「オンネリとアンネリのおうち(Onnelin ja Annelin talo)」には続編があるということ。「オンネリとアンネリの冬(Onnelin ja Annelin talvi)」、「オンネリとアンネリとみなし子たち(Onneli, Anneli ja orpolapset」、「オンネリとアンネリと眠り時計(Onneli, Annelin ja nukutuskello)」と全4作あるとのこと。読みたいと思って探したら、ない。日本語訳なんて出てない。この「オンネリとアンネリのおうち」も絶版。とても残念です…。

【追記】
 この本も絶版…と思ったら、復刊されてました!!
福音館書店:オンネリとアンネリのおうち
 せっかくなので、全4作日本語訳出版を希望します!続編も読んでみたい。
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by halca-kaukana057 | 2015-11-15 23:09 | 本・読書

やわらかく、やさしく、自然に、バロックのイタリア歌曲 波多野睦美:イタリア歌曲集

 声楽を始めて、イタリア歌曲集に初めて出会いました。最初は南の方の音楽・詩に馴染めない(音楽はとりわけ北…北欧が好き。ドイツあたりも日本と比べたら北だ)と感じることもあったのですが、歌ううちにこれが魅力なのかなと、徐々に好きになっていきました。

イタリア歌曲集(1)中声用 [新版] (声楽ライブラリー)

全音楽譜出版社



 作品に取り組む前に、録音を探して聴きます。動画サイトだったり、MP3販売だったり。でも、一枚ぐらいイタリア歌曲集のCDを持っていたい。日本盤の、日本語解説のついたものがいい。あと、私の声域に合ったもの…メゾソプラノがいい。そのうち、このCDが出ていることを知りました。


TOWER RECORDS ONLINE : 波多野睦美/イタリア歌曲集
 メゾソプラノ歌手の波多野睦美さんによるイタリア歌曲集。カッチーニ、A.スカルラッティ、カルダーラ、フレスコバルディ、モンデヴェルディ、ヘンデル…とイタリア歌曲集ではお馴染みの作曲家の作品が収められています(でも、私はまだ1巻)。カッチーニ「アマリッリ」やヘンデル「私を泣かせてください」、カルダーラ「つれない人よ」あたりは声楽をやったことがなくても聴いたことがあるかも。

 聴いてまず思ったのが、波多野さんの歌がとてもやわらかくてやさしい。とても穏やかでやわらかい、ゆったりと、ふわりとした、でも響くメゾソプラノ。私が歌うと力んでキンキンした声になってしまう高音(オクターブ上のミより上)も、自然で無理がなくやわらかい。無駄な力が入っていない。高音をこんな風に自然に歌いたいと思いました。フォルテも、ただ強い大きな声ではなく、表情が様々。ピアノでもそうだった。自分の声が楽器になるのだから、もっと多彩な表情を付けられるはず。付けられるようになりたい。波多野さんの歌声は、人間の声であり、管楽器のようなところもあるし、弦楽器のような響きもあります。
 あと、いつもはオペラ歌手が大舞台で堂々とアリアを歌うように私は歌っているのですが、元々オペラアリアでも「歌曲」になっているのだから、声を張り上げずに、弱音と響きを大事にした歌い方の方が自然なのかな、と感じました。

 伴奏は、バロックハープやチェンバロ、バロックチェロ、弦楽アンサンブルによるもの。ポコポコと打楽器の音もする曲もあるのだが、楽器を叩いているのだろうか。波多野さんの歌をやさしく引き立てつつ、それぞれの楽器も存在感がある。伴奏も自然で素朴でやさしい。ピアノ伴奏もいいけれど、元々はこんなバロックアンサンブルで演奏されていたのだろうなと思うと、イタリア歌曲集の深さを実感します。

 楽譜とは異なる演奏をしていたり、歌い方も楽譜と違うところも多くありました。このCDは声楽・イタリア歌曲集の「お手本」ではない。ひとつの芸術作品だ。歌そのものの「お手本」としては難しいものがありますが、発声、発音、トリルやヴィヴラート、響かせ方…たくさんの学ぶところがあります。そして、私自身、レッスンで取り組んでいる曲という考え方でいたことを思い知りました。ずっと歌い継がれてきた芸術作品であることを、少しも考えたことがありませんでした。波多野さんの歌から、これは芸術作品なんだと実感させられました。発表会で歌う歌も、普段のレッスンで取り上げられる歌も、イタリア歌曲集の楽譜に収められている曲はレッスン用の教則本(教則本であるコンコーネ50番練習曲も歌っていて楽しいです)ではなく芸術作品であるという自覚を持って取り組もうと感じました。イタリア歌曲集に対する考え方がまた変わりました。

 やっぱり声が楽器になるって面白いな、深いな。私はまだ入り口のあたりにいる。もっと先に進んでみたいです。

 試聴できます。
Le Violette (A.Scarlatti) すみれ( A.スカルラッティ) 波多野睦美 Mutsumi Hatano


Selve amiche Antonio Caldara 優しい森よ(伝カルダーラ)波多野睦美 Mutsumi Hatano

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by halca-kaukana057 | 2015-11-13 23:06 | 音楽

海とドリトル 3

 また発売からしばらく経っての感想になってしまった…。


海とドリトル 3
磯谷友紀/講談社・KC KISS/2015

 戌飼と付き合い始めた七海。それでも烏丸研での研究の日々は続いていく。新しい事務員の川名、インドからの留学生サティシュ(通称:王子)を迎え、七海も卒論に向けて動き出す。戌飼が七海と付き合っていることを知った万里子は、ショックを受けつつも、密かにある行動に出る。
 そんな烏丸研も学祭で出店することになる。七海の提案でイカの姿焼きを売ることに。川名の厳しい予算制限を何とか乗り越え、出店は無事成功。その打ち上げの席で、七海は川名と話し、川名と烏丸の過去を知る…。


 戌飼さんと付き合い始めた七海が初々しい。でも、恋愛と研究は別。七海は七海の、戌飼は戌飼の研究を続ける。そんな2人を見る万里子…
「わたしは戌飼さんの将来を思うからこそ立ち止まってたのに」(24ページ)
「でもよく考えれば大体あんな2人が続くわけないじゃんか ばからし」(25ページ)
「あの子が戌飼さんの将来をダメにしようとするのなら わたしは―」(34ページ)

 怖いです。万里子さん怖いです。やっぱり戌飼さんのことが好きで、未練持ってたんじゃないですか。でも、万里子さんは、「研究と恋愛は両立しない」と考えるタイプ。戌飼さんが将来有望な研究者だからこそ、研究者としての成功を願っている。そのためには自分の恋心は隠し打ち明けず、他の誰か…七海のことですが、恋愛という研究者にとって縛り付けるものを持ち込む人は邪魔者でしかない。排除させようとする。好きだからこそ、自分は手を引く万里子の気持ちはわからないでもない。でもやっぱり怖い。このシーンの後に、七海の烏丸研での初めてのゼミのプレゼンに対して、容赦なくダメ出し、批判をする万里子さん…七海の発表が未熟、不十分であるのは確かなのですが、それ以上の何かも感じずにはいられませんでした。深読みですかね?

 研究者の世界の厳しさは、これまでも何度も出てきました。その厳しさを新たに語る人…事務員の川名さん。2巻のラストで出てきた眼鏡の女の子です。事務員なので研究には直接は関わっては来ないのですが、烏丸先生と関係のある人物でした。烏丸先生は川名さんのお父様の研究室の後輩。川名さんのお父様はポスドクのまま、研究者を辞めてしまった。一方の烏丸先生は、川名さんのお父様よりも先に准教授になり…。川名さんのお父様と烏丸先生のやりとりの回想がとても辛い。そして、同じ研究者だった烏丸先生の元奥様も…。川名さんの言葉が七海に突き刺さります。やはり、研究と恋愛・結婚は両立できないものなのか。研究者の世界はこんなにも厳しいものなのか。七海自身も研究者を続けていけるのか。そう思い詰める七海への、戌飼さんの言葉も、現実をしっかりと捉えている、頼もしい言葉に感じられました。まずは目の前の研究。

 七海の実家の金沢へ戌飼と帰省し、動物園でイヌワシを見る犬飼さんはやはり研究者です。そして、ついに…。万里子の手回しで、戌飼さんにイギリスの研究室行きの話が。戌飼にとっては願ってもない機会。しかし、七海のことが…。戌飼さんに打ち明けられ、研究室に座り込んでいた七海にウミガメの例えで研究者としての成長を語る烏丸先生は、優しくも強い。川名さんのお父様のことを思うと苦しくなるが、烏丸先生が厳しい研究者の世界を生き抜いてここまで来ることのできた理由がわかる気がします。

 犬飼も旅立ち、万里子は以前から言っていた研究者としての情熱がなくなったと研究を辞め(この次の行動が何とも…何のつもりだ…?万里子さんの言ってた「計画」の全容って何なんだ…!?やっぱり万里子さん怖い)、七海は研究者としてどうありたいのか。ふとしたきっかけでクジラのバイオロギングと烏丸研に出会い、途中で編入し、七海は他の人よりも研究者としての月日は短い。それでも、七海は海洋生物に魅了されている。161ページ、3巻ラストで烏丸先生が七海にかけた言葉に、私も少し光が見えた気がしました。
 14話「死に至る病」、15話「深く潜ったペンギンは光を見たか?」この2話のタイトルがとても好きです。厳しい自然の中で生きる生物たちに、何かを教えられているような、何かを考えずにはいられないような、そんな気持ちになる3巻でした。

 4巻で完結とのこと。どうなるのだろう。

・前巻2巻:海とドリトル 2
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by halca-kaukana057 | 2015-11-12 22:42 | 本・読書

アンスネスのシベリウス!?

 Proms、並びにシベリウス音楽祭で海外ネットラジオ(動画)オンデマンドの豊かさに圧倒され、以来、あちらこちらの海外の放送局のオンデマンドサイトで聴きまくっています。日本の自宅にいながら、海外のコンサートのライヴ音源を気軽に聴けるようになったとは、いい時代になりましたね…(結構昔からあったのですが、ネット環境が整っておらず、また時差もあるためなかなか手が出せなかった。オンデマンドならいつでも聴ける。ありがたい)

 主にイギリスBBCや、フィンランドYLE(ここは動画もある)、スウェーデンP2、デンマークDRP2などを聴いています。英語はまだいいのですが、フィンランド語やスウェーデン語、デンマーク語…フィンランド語は何とか。特にデンマーク語はどう発音したらいいのか分からない表記ですが、翻訳サイトを使って何とか解読しています。フィンランド語は読めるようになりたいなぁ…それ以前に英語ももっと読めるようになりたい…!

 その中で見つけたこれ。フィンランドYLEでラジオ放送され、オンデマンドで聴けるようになっています。
YLE:Areena Radio:Konsertteja Leif Ove Andsnes konsertoi Kansallisoopperan päänäyttämöllä

シベリウス:
 キュッリッキop.41
 5つの小品(樹の組曲)op.75より 第4曲:白樺、第5曲:樅の木
 5つのスケッチop.114より 第3曲:森の湖、第4曲:森の歌、第5曲春の幻
 
 ピアノ:レイフ・オヴェ・アンスネス

 2015年10月25日 フィンランド国立歌劇場(エスポー国際ピアノフェスティバル2015)

◇公式サイト:Pianoespoo:Leif Ove Andsnes at the National Opera
◇コペンハーゲンでも同プログラム。こちらでも聴けます:DR P2:P2 Koncerten: Leif Ove Andsnes i København
◇アンスネス公式サイトでのコメント:Leif Ove Andsnes explains the new solo recital program
 ※この後にもプログラムは続いていますが、割愛します

 アンスネスがシベリウスを演奏ですと!!?
 1曲目は3つの楽章からなる「キュッリッキ」。「カレワラ」の物語のひとつ、レンミンカイネンがサーリの美女・キュッリッキに求婚するも失敗。強引に連れ帰って妻にする(レンミンカイネンらしい…w)キュッリッキはレンミンカイネンと妻になる条件を交わすも、キュッリッキの方が破ってしまう、というお話。グレン・グールドも録音していた作品です。
 その次は、ご存知「樹の組曲」op.75から、白樺と樅の木。説明は多分要らないと思います。アンスネスの「樅の木」が聴けるなんて…。ずっとアンスネスに演奏して欲しいなぁと思っていました!
 その次が、シベリウス後期のピアノ曲集「5つのスケッチ」から3曲。交響曲第6番がop.104、7番がop.105.「タピオラ」がop.112.その後の作品なので、後期も後期です。ピアノ曲も、交響曲・管弦楽曲と同じように、静かに、暗く、独特の響きをしています。でも、管弦楽とはちょっと違うピアノの響きがうまく出ている作品です。全音ピアノピースで楽譜が出ています(なぜか持ってます)。

 同じ北欧出身として、通じるものがあるのかなぁ。ノルウェーとフィンランド、違いはありますが…。これまで、アンスネスがシベリウス作品を演奏したのは、アルバム「HORIZONS」に収録された「13の小品」より「エチュード」op.76-2のみ。子どもの頃から演奏していた作品だそうです。この演奏もとても好きです。

 今後、アンスネスがシベリウス作品を録音してCDを出すのかなぁ…?だったらとても嬉しいなぁ。シベリウスイヤーの今年、交響曲はかなり取り上げられていますが、ピアノ曲や声楽、室内楽ももっと取り上げられていいのになぁ…と思っていたところにこの演奏が聴けたので、とても嬉しいです。
 ちなみに、この演奏会の他の曲、ショパンやドビュッシーも、以前は演奏していたこともあったけど最近はそんなに演奏していないはず。嬉しい演奏会です。

 いつまで聴けるかわからないので、お早めにどうぞ(オンデマンドはここが恐ろしい…)

ホライゾンズ~ピアノ・アンコール集

レイフ・オヴェ・アンスネス / ワーナーミュージック・ジャパン


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by halca-kaukana057 | 2015-11-09 23:31 | 音楽

八月の博物館

 タイトルが「八月」…もう11月ですよ…。でもいいんです。11月にも合う小説だと思います。

八月の博物館
瀬名秀明/角川書店・角川文庫/2003(単行本は2000)

 亨は小学6年生。時は夏休み。本を読むのが好き、特にエラリー・クイーンの推理小説が好きで、別のクラスの友達の啓太と自作の推理小説などを載せた雑誌を出そうと案を練っている。図書室の係で、鷲巣という女子と一緒に貸し出しを担当している。そんな夏休みが始まる日、帰り道で亨はいつもとは違う道を歩く。たどり着いたのは「THE MUSEUM」と書かれた建物。中に入り、しばらくすると不思議な少女「美宇」や「ガーネット」という紳士に出会う。この博物館が何なのか。美宇と一緒に博物館の中を歩くようになる。そして、2人は1867年のパリ万博の会場に向かうことになる。そこで、亨と美宇はフランス人考古後学者・オーギュスト・マリエットに出会う…

 あらすじを書くにもどう書いたらいいのかわからない…。物語のメインは亨と美宇の"ミュージアム"での冒険。そこに同時進行で、19世紀エジプトでのオーギュスト・マリエットのこと。更に現代の"私"という人物、3つの時代の話が同時進行で進んでいく。最初あらすじを読んで、少年少女の冒険物語かと思ったら、どんどん思いもしない方向に話が進んでいって驚きました。

 この本を読もうと思ったきっかけは、オーギュスト・マリエットが出てくるというところ。19世紀のフランス人エジプト学者。サッカラの聖堂・セラペウムを発掘し、現在のカイロ・エジプト博物館の母体となる博物館をつくり、それまで発掘品に関する法も何もなく海外流出してしまっていたのを憂い、発掘を取り締まり出土品を管理するエジプト考古局をつくった人。また、ヴェルディのオペラ「アイーダ」の原作者でもあります。考古局設立のことや、サッカラのセラペウムのことは、以前紹介した山岸凉子作の漫画「ツタンカーメン(旧題:封印)」で登場したので、よく覚えています。でも、それ以上にマリエットのことはよく知らない。マリエットの伝記・歴史小説としても読めます。マリエットの後に考古局の局長になったガストン・マスペロ、そしてハワード・カーターのことも少し出てきます。11月はツタンカーメン王墓発掘月間(4日に最初の階段を見つけ、5日に最初の漆喰の壁にたどり着く。26日に最後の漆喰の壁に穴を開け、カーターとカーナヴォン卿がツタンカーメン王墓を「発掘」する)。なので11月にも合うんです。

 そのマリエットと亨と美宇が出会う。セラペウムに祀られている聖なる牛・アピスも関係してくる。関係ないような世界が関連を持ち始める。現代の"私"とも。SFの要素も入り、さらに博物学、「物語」に関する考察もあり…何度も頭の中が混乱しました。混乱したけど、読み終えた後、面白いと思った。

 「物語」が何故存在するのか。「感動する」とはどういうことか。「物語」をつくる人は、「感動すること/させること」を考えて書いているのか。「物語」はつくりもの、現実にはないフィクションだとわかっているのに、心を揺さぶられる。その心を揺さぶるものとは何なのか。これは瀬名さん自身の作家としての「物語」というものへの問いかけのように読めます。実際、現代の"私"は瀬名さんっぽい。

 私も何度か、絵本を書いた/描いたことがあります。小学生の時のクラブ活動、大学の頃の部活で。その時は、作品のテーマや物語の流れ、子どもたちに読み聞かせたわけではありませんが絵本なので子どもたちが親しみやすいかどうか…などは考えましたが、ただ単純に自分が書きたい/描きたい、面白いと思うものを書きました。自然とペンが進みます。絵本なので、絵や絵と文章の位置も考える必要はありました。後で人に読んでもらい、感想を聞くのは恥ずかしくもあり、面白かったと言ってもらえると嬉しかったです。今こうしてブログを書き続けているのも、時々イラストも描くのも、何かを書きたい/描きたいという気持ちがあるから続いていると思います。その根底に、自分の「面白い」という気持ちがあるから。

 そして、「物語」は人々の心の中に生き続ける。クライマックスシーンで亨が叫んでいた言葉、決意がまさしくそうだと思いました。「物語」は小説だけじゃない。音楽も、博物館も。マリエットがオペラ「アイーダ」の原作者であることも、また関係してくる。様々なものがどんどん繋がっていく様が面白いです。

 この「八月の博物館」という「物語」を純粋に楽しむことも出来る。その一方で、「物語」の中にある「物語」を深読みすることも出来る。今まで読んだことのないタイプの小説でした。

 読後、エラリー・クイーンの推理小説、それから「アイーダ」も観たくなりました。オペラは全幕音声では聴いたことがあるのですが、映像は部分しか観たことがない。有名な「凱旋行進曲」の部分。マリエットが原作者と知った時、ますます興味を持ち始めました。

 あと、この本は新潮文庫からも出ているのですが、どこか違うところはあるのだろうか。何故新潮文庫からも?とは言え、どちらもほぼ絶版というのは何とも…。

・以前読んだ瀬名秀明さんの作品:虹の天象儀
 読んだのは2007年…随分前でした…。
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by halca-kaukana057 | 2015-11-07 23:19 | 本・読書


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