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若田光一 日本人のリーダーシップ ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験Ⅱ

 来月7日、大西卓哉宇宙飛行士が国際宇宙ステーションへ向けて出発します。日本人宇宙飛行士がISSで長期滞在し、仕事をするのが珍しくなくなってきた現在。そのJAXAの新たなる目標は、「日本人からISSのコマンダー(船長)を出す」こと。2013年11月から2014年5月までISSに滞在し、後半の3ヶ月間、日本人で始めてのISSの船長となった若田光一宇宙飛行士に密着取材、のちにNHKスペシャルとして放送されたものの新書版です。

若田光一 日本人のリーダーシップ~ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験II
小原健右・大鐘良一/光文社・光文社新書/2016

 著者の2人は、5期生の選抜試験を取材した「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験」のコンビ。今度は若田さんのコマンダーとしての訓練、若田さんが何故コマンダーになれたのか…について取材しています。前回の新書と同じく、NHKスペシャルとして放送されたものよりずっと内容が濃い、放送されなかったものもかなりあります。ただ、ISSでの火災訓練の箇所は、映像で観たほうがわかりやすい、文章だとイメージし難いなとは思いました。

 若田さんは、コマンダーとして仕事する上で「和の心」をモットーに掲げていました。日本人らしいリーダーシップ、協調性や思いやり、コミュニケーションを大事にする船長になりたい、と。ISSのコマンダーは、いわば「中間管理職」。ISSのクルーたちと、地上の管制との架け橋となる。何かあった時はクルーを、ISSを守らなくてはならない。そのコマンダーは、予想以上に過酷な、厳しい立場に立たされる役職だったのです。
 ISSでの火災を想定した緊急対処訓練の箇所は、Nスペで観た時も、パニックで冷静さを欠いている若田さんに、コマンダーになるのは大変なことなんだと感じました。普段は笑顔で、朗らかで思いやりを忘れない若田さんも、こんなに混乱して窮地に立たされ、失敗し険しい表情をすることもあるのか、と。本だとその訓練の過程が細かく、じっくりと読めます(でも映像が無いのでイメージし難い)。一緒にフライトをするアメリカ・ロシアのクルーたちも、若田さんに負けないレベルのエリート宇宙飛行士たち。これまで、コマンダーが軍出身者が多かった理由も書かれています。若田さんは技術者出身。だからこその強みはあります。が、危機的状況でコマンダーとしてどう行動したらよいか、軍出身者は元から違うというのにはなるほどと思いました。勿論、訓練を重ね、コマンダーとして成長し、力をつけていくことは出来ます。

 この訓練の様子を読んでいると、5期生(油井・大西・金井飛行士が選抜された)の選抜試験のことを思い出します。ありとあらゆる場面で緊急事態を想定した指令を出し、その際の受験者達の反応や行動、どう対処するかを見る。選抜され宇宙飛行士候補者になることがゴールではなく、そこが本当のスタートラインなのですが、やはり選抜の時点から素質は見抜かれていくのだなと感じました。…ちょっと怖いです。

 若田さんがコマンダーになることができた理由のひとつが、先輩宇宙飛行士たちやNASAの技術者たちからの厚い信頼。過去に一緒にフライトをした先輩宇宙飛行士や、訓練で一緒になった技術者たちは、若田さんの人柄に好意を抱き、一緒に宇宙飛行をしたい、この人がコマンダーなら一緒に働きたい、と若田さんを推し、コマンダーへの第一歩となるNASAの宇宙飛行士室「ISS部門長」の役職に1年半ついていた。ISSに送り込む宇宙飛行士にいつどんな訓練をさせるのか、各国の宇宙機関と連携して調整すること、人事にも携わる。宇宙飛行士たちをどう訓練し、育成させるのか。全体を見渡す力が養われる、若田さんご自身も「大変な仕事だった」と振り返る。このISS部門長に関しては、Nスペではカットされてしまったという。この本でも、もう少しページを割いてもよかったと思う。

 若田さんは協調型のコマンダーを目指していたが、時にはキッパリと命令するトップダウン型のコマンダーであることも必要、とある。また、クルーのために地上の管制に強く訴えることもある。クルーが一番よく仕事が出来るように取り計らう。補給船の打ち上げの遅れで、クルーのボーナス食がISSに届くのが大幅に遅れた際、地上に何度も掛け合い、ソユーズ宇宙船に載せてもらったというエピソードは、若田さんの思いやりと、キッパリとした態度の両方があってこそのものだった。また、2014年2月に起きた、ロシアと欧米諸国のウクライナのクリミアをめぐる対立の際も、若田さんはアメリカとロシアのクルーの間のわだかまりを解くよう尽力した。一緒にご飯を食べ、話し合いながら、ISSという国際協調の方向性を確認できた、と。この時、私は若田さんが、日本人がコマンダーで本当によかったと思っていた。若田さんの和の心が、ISSに和をもたらした。

 この他にも、子どもの頃の若田さんのエピソードなども語られます。やはり、宇宙飛行士は「成長するもの」なのだなと実感します。また、油井亀美也宇宙飛行士のフライトや、スペースX社についても語られています。あと少しで打ち上げられる大西さんは、ISSでどんな仕事をするのか、楽しみに応援したいです。

【関連過去記事】
ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験
宇宙飛行士という仕事 選抜試験からミッションの全容まで
宇宙飛行士の育て方

・若田さんのフライト中のブログ記事:タグ:Exp.38/39
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by halca-kaukana057 | 2016-06-28 21:54 | 本・読書

宇宙飛行士という仕事 選抜試験からミッションの全容まで

 昨年末から今年初めにかけて、宇宙飛行士に関する新書が2冊出ました。どちらも、宇宙飛行士を「仕事」として捉え、その「仕事」に迫っている。そのうちの1冊。


宇宙飛行士という仕事 - 選抜試験からミッションの全容まで
柳川孝二/中央公論新社・中公新書/2015

 筆者の柳川さんは、旧宇宙開発事業団(NASDA)で国際宇宙ステーション計画の立ち上げに関わり、JAXAになってからは有人宇宙利用ミッション本部・有人宇宙技術部部長に。2008年の宇宙飛行士候補者選抜試験も担当。日本の宇宙飛行士たちをそばでずっと見守り続け、日本の有人宇宙飛行を支えた方。


 このブログで、私は宇宙へ行くこと、宇宙飛行士という仕事が、地上のものの延長線上にあるという認識が広まればいいとずっと思っている。地上での暮らし・生活や仕事を伸ばしていくと、宇宙・国際宇宙ステーションでの暮らしや仕事にたどり着く。そして、その延長線が徐々に短くなっていけばいい、と。日本人宇宙飛行士の活躍で、その延長線は短くなってきていると感じている。でも、宇宙飛行士は具体的に何をしているのか、どんな訓練をしているのか、日本人飛行士の活躍の裏に何があるのか。よくわからないことも多い。

 この本はそんな、宇宙飛行士とは、宇宙飛行士の訓練や仕事について、歴史を踏まえて書かれた本。全体を大まかに見るのに適している本だと思います。
 宇宙飛行士と言っても、黎明期のガガーリンやマーキュリー・セブン、アポロ計画、スペースシャトル時代、国際宇宙ステーション建設期、そして現在の長期滞在ではタイプが異なる。日本人飛行士でも世代、何期生かで異なる。日本人飛行士の歴史、軌跡についても書かれていますが、訓練も何もかも手探り状態だった第1期生(毛利さん、向井さん、土井さん)の初期の訓練や飛行についてもう少し詳しく書いて欲しかったと思うところ。

 この本でメインに語られるのは、現在のISS長期滞在宇宙飛行士の仕事。選抜試験についても、あのNHKが取材した2008年の第5期生の時のことを詳細に書いています。先述のとおり、柳川さんは2008年の選抜試験の担当者。NHKの取材とはまた違う担当者ならではのエピソードも出てきて、選抜試験で何を見ているのかがよりわかります。
 訓練についても、ひとつひとつ細かく書いています。ISS長期滞在で、JAXAが目標としたのは、日本人飛行士からISSの船長(コマンダー)を出すこと。その候補を若田光一宇宙飛行士に決め(本人も希望するかどうかを尋ねた上で)、NASAやロシアと交渉、若田さんも船長になるための訓練やキャリアを積んでいく。ISSに搭乗するための交渉の舞台裏は面白い。日本はISSで何をするのか、何を提供するのか。「きぼう」日本実験棟や輸送船「こうのとり」(HTV)が強みとなっていく。そして若田さんを船長にするために、どう推していくのか。自己主張をはっきりしないと、欧米の人は取り合ってくれない。毅然とした交渉にドキドキする。若田さんはISS運用ブランチチーフに就任。これが船長になるのに重要な仕事だった。訓練だけでなく、管理職…地上での「コマンダー」を経験することが、ISSでの船長(コマンダー)へ近づく一歩。巻末にも若田さんのインタビューがあり、ISS運用ブランチチーフの経験は船長になる上で役立った、と言っている。コマンダーにアサインされてから、コマンダーの訓練を始めるのは遅い、とも。若田さんは、さらに日本人コマンダーを輩出するために行動を開始しているという。このような交渉も、努力なのかなぁと思う。

 来月、大西卓哉宇宙飛行士がISSへ向かう。第5期生2人目の初飛行。大西さんはインタビューで、地球の写真を撮って「きれい」というのはやり尽くした。どんな生活をしているのか、失敗したことも、着飾らず、ISSで何をしているのか紹介したい、と言っている。宇宙飛行士の視点、どこを向いているのかが変わってきていると確実に思う。大西さんのそんなISSからのレポート、ミッションが楽しみです。
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー:DHBR Featureインタビュー:日本の期待を背負うプレッシャーも、楽しさもある —JAXA宇宙飛行士・大西卓哉


 もう1冊はこの本。若田さんの船長の仕事について、さらに深く掘り下げます。

若田光一 日本人のリーダーシップ~ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験II~ (光文社新書)

小原健右・大鐘良一 / 光文社


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by halca-kaukana057 | 2016-05-21 22:39 | 本・読書

ツタンカーメン 少年王の謎

 少しずつ古代エジプトに関する本を読んでいます。何度も言いますが、古代エジプトはピラミッドで有名な古王国時代から、ツタンカーメンやトトメス3世などの新王国時代、クレオパトラなどのプトレマイオス朝と本当に時間軸が長く、同じ古代エジプトでもそれぞれの時代で特徴や文化が異なる。ローマの影響を受けたプトレマイオス朝はかなり違う。なので、一言で「古代エジプト」と言っても、どの時代を指すのか、とにかく範囲が広い。どの時代も魅力的だけど、やっぱりツタンカーメン王あたりは王名表からも消され、謎も多く…魅力的です。知りたいことがたくさんあります。


ツタンカーメン 少年王の謎
河合望/集英社・集英社新書/2012

 この本は前半と後半で内容が分かれています。
 前半はハワード・カーターとカーナヴォン卿によるツタンカーメン王墓発掘の物語。「王家の谷」発掘の歴史と、もう発掘し尽くしてしまった、もう何も出てこないと考古学者たちは諦めていた王家の谷に、まだ未知の王墓があると信じて発掘を続けたカーターとカーナヴォン卿。そして王墓への階段を見つける…このあたりは以前読んだカーター自身による「ツタンカーメン発掘記」あたりでも読んだのですが、研究者の第三者の視点から、そして王墓発掘に関しても新しい事実がわかってきたりと興味深い。「もし…」と思うこともあり、色々と考えてしまう。

 後半部分は、ツタンカーメン王がどんな王だったかに関する新しい研究について。アメンホテプ3世に遡って話は始まります。アクエンアテン王(アメンホテプ4世)がそれまでの古代エジプトの多神教から、いきなりアメン神の一信教に変え、都も変えてしまった。そのせいで、ツタンカーメン王やその前後の王は王名表から消されてしまった。だが、碑文などにツタンカーメン王に関する記述があり、そこからツタンカーメン王の生い立ちやその父のアクエンアテン王、王の周囲にいた人々に関して詳しいことがわかってきている。それがまず驚き。ツタンカーメン王は決して消されたファラオじゃなかった。

 さらに、現代技術が王の家系に迫る。ミイラのDNA鑑定で、父親、母親について調べている。このあたりはテレビでも取り上げられそれも観ました。ツタンカーメン王は18歳ぐらいで亡くなった。その死因に関しても。王の苦労、人間模様が活き活きと浮かび上がってくる。ツタンカーメン王墓からはたくさんの遺品が見つかったけれども、それでもツタンカーメン王やアンケセナーメン妃、その周囲の人々に関する記録は足りない(他の副葬品が既に盗掘されてしまっていたファラオよりは充実しているけれども)。その足りない部分を、他の出土品や碑文などから見つけてきて、ピースをはめる。考古学は面白いなぁと思う。

 ツタンカーメン王は激動の歴史の渦中にいたファラオだった。ほぼ未盗掘の墓や様々な出土品、碑文から、激動の中でファラオがどう生きたのか、その死後どんなことが起こったのか、少しずつ解明されていっている(現在進行形で)。これからの研究にも注目したいです。

 ツタンカーメン王墓といえば、今話題になっていますね。
CNN:古代エジプトの王妃の墓、ついに発見か
ナショナルジオグラフィック日本版:エジプト王妃ネフェルティティの墓に新説
毎日新聞:ツタンカーメン:墓に未発掘ネフェルティティの部屋?
NHK:隠し部屋の出入口か ツタンカーメン墓で発見
 ツタンカーメン王墓の玄室(王の棺が置いてあった部屋)に、2つの隠れた出入り口があり、そこにツタンカーメン王の母親のネフェルティティ妃の墓があるのでは?という論文。これを確かめるため、現在ツタンカーメン王墓で調査が行われています。もし何か見つかれば、ただでさえドラマティックな発見だったツタンカーメン王墓が更に大変なことに。調査の結果を楽しみに待ちます。

 もうひとつ、ツタンカーメン王に関して楽しみなものが。
海外ドラマNAVI:ツタンカーメン王の墓発掘の軌跡を描くITVのミニシリーズ『Tutankhamun』にサム・ニールが出演
 イギリスの民放ITVが、ツタンカーメン王墓発掘の物語をドラマ化します。これまで、BBCもドラマ化(「エジプト 甦るツタンカーメン」)したことがあったのですが、各回50分全2回、観てみたらちょっと時間が足りない、物足りないかな…という内容でした。カーターやカーナヴォン卿を演じる俳優さんたちは好演でした。
 今度のこのITVのドラマは、各回60分全4回。BBCのよりも濃い内容を期待していいですかね?ちなみに、ITVは大ヒットドラマ「ダウントン・アビー」を製作しているテレビ局。傘下にはグラナダテレビ…ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」のテレビ局。これはやっぱり期待していいですかね?そういえば、「ダウントン・アビー」の舞台となっているお屋敷は、カナーヴォン伯爵家のハイクレア城でロケを行っていることを、以前このブログでも取り上げました。はい、カーナヴォン卿が住んでいた、城主のお屋敷です。つまり、『Tutankhamun』でもハイクレア城がロケ地になるのでしょうか…本当のカーナヴォン卿のハイクレア城として。だとしたら楽しみで仕方ありません!日本での放送はいつになるかなぁ?
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by halca-kaukana057 | 2015-10-08 22:46 | 本・読書

イプシロン、宇宙に飛びたつ

 2年前、2013年の今日、JAXAの新型固体ロケット「イプシロン」初号機が打ち上げられました。もう2年も前のことなのか…と驚いています。ということで、イプシロンロケットに関する本を。
 ちなみに、2007年には、月周回衛星「かぐや(SELENE)」も打ち上げられました。


イプシロン、宇宙に飛びたつ
森田泰弘/宝島社/2015

 「イプシロン」プロジェクトマネージャの森田先生自らによる、イプシロン開発とこれからのドキュメント、ノンフィクションです。
 「サンダーバード」に憧れ、アポロ11号の月面着陸などで宇宙に夢を抱き、宇宙開発の道に進んだ森田先生。大学・大学院生の頃、東大宇宙航空研究所(のちのISAS・宇宙科学研究所)で「ハレー彗星探査計画」が進んでいた。当時の日本の固体ロケットはM-3SⅡ型。固体ロケットで惑星探査をすることに興味を持ち、宇宙研へ。そして、当時大学院博士課程3年だった「はやぶさ」プロジェクトマネージャの川口淳一郎先生に誘われ、森田先生はロケットの誘導制御を担当する。
 しかし、森田先生の研究者としての道はロケットのようにまっすぐではなかった。博士課程を修了したが当時の宇宙研には助手のポストがない。その頃カナダからやって来たビノッド・J・モディ教授から声をかけられ、カナダでロボットアームの研究員をすることになる。その後宇宙研に戻り、M-Vロケットの開発へ。1997年、M-Vロケット初号機は無事打ち上げに成功(この時のペイロードが電波天文衛星「はるか(MUSES-B)」)。M-Vは改良と打ち上げを重ねるが、2000年の4号機、「ASTRO-E」打ち上げは失敗してしまう。失敗を教訓に、挑んだ2003年打ち上げの5号機…小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」の打ち上げは成功。その後、宇宙研は宇宙・航空関係機関が統合し、JAXA・宇宙航空研究開発機構に。そこで森田先生はM-Vのプロジェクトマネージャになり、ISASだけでない、旧NASDAのスタッフとも一緒にM-Vを打ち上げることになる。そして、2006年、7号機で「ひので(SOLAR-B)」を打ち上げ、M-Vは廃止になってしまう…。

 M-Vがなくなり、新しい個体ロケットの構想を考える森田先生。コストを抑えて、もっとシンプルなロケットを。これがイプシロンロケットに繋がってゆく。逆境でこそ挑戦し、力を発揮する新しい個体ロケット開発チームの人々が頼もしい。イプシロンが形になってゆくにつれて、チームも大きくなる。この本では、チームの様々なエンジニアや研究者が登場する。彼らを信頼し、いい関係を築いている森田先生のお人柄がうかがえる。

 この本を読んでいると、本当にイプシロンは夢のようなロケットだと思う。プラモデルのようにシンプルで、人工知能を持ち成長することが出来る。新しい固体燃料の作り方も自転車のパンクしないタイヤからヒントを得たり、フェアリングも工業用のシリコンフォームを使うなど、身近なものからヒントを貰う。手作りのような雰囲気なのに最先端。イプシロンが更に面白い、興味深いロケットに感じられました。

 射場のある内之浦の人々との交流も心温まる。宇宙への敷居を下げるだけではない、多くの人に支えられ、見守られ、応援される「みんなのロケット」なのだなと感じた。

 現在イプシロンは、「ジオスペース探査衛星」(ERG)を打ち上げる2号機を開発中。この「ERG」を打ち上げるには、初号機の能力では足りない。そこで、強化型イプシロンを開発することに。2016年度に打ち上げの予定。さらに、2018年、5号機では月面着陸機「SLIM」を打ち上げ予定。初号機から間があいてしまっていますが、パワーアップしたイプシロンの活躍を楽しみに待つことにします。
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by halca-kaukana057 | 2015-09-14 21:56 | 本・読書

エジプト学夜話

 古代エジプトに関する本をちまちまと読んでいます。以前読んだ「古代エジプトうんちく図鑑」で参考文献にもなっていた本。
古代エジプトうんちく図鑑
 この本、本当にインパクト強い…w 

エジプト学夜話
酒井傳六/青土社/1997(1980年に出版されたものに加筆した新版)

 著者の酒井さんは、朝日新聞の記者としてエジプトに滞在していたのがきっかけで、古代エジプトに関する著作や訳をするようになった。「ツタンカーメン発掘記」も酒井さんの訳。

 本でもテレビ番組でも、古代エジプトに触れるといつも思うのは、そのスケールの大きさだ。第1王朝は紀元前3000年頃。第31王朝、紀元前332年にアレクサンドロス大王(アレクサンドロス3世)によって征服されるまでを「古代エジプト」と呼ぶ。初期のピラミッドがつくられ始めたのが第3王朝・ジョセル王。クフ王の大ピラミッドが第4王朝、紀元前2500年ごろ。首都がテーベ(ルクソール)となる新王国時代・第18王朝~第20王朝が紀元前1500年~紀元前1200年ごろ。「古代エジプト」と一言で言っても、古王国時代と新王国時代、アレクサンドロス大王に征服されたマケドニア朝では全然違う。まずこの時間軸でクラクラしてしまう。
 さらに、ピラミッドや神殿・葬祭殿などの遺跡もスケールが大きい。どんな本を読んでも、あんな大きなピラミッドを古代の人々はどうやってつくったのだろう…?と思わずにはいられない。そんな建造物のスケールにもクラクラする。クラクラするけれども、古代エジプトには惹かれる。

 この本は、そんな「古代エジプト」を研究する「エジプト学」について描いている本。「古代エジプト」について語る際、2つに分かれる。古代エジプトそのものについて語るのと、古代エジプトの研究や発掘・研究した人々について語ること。古代エジプトそのものについて語ろうとしても、発掘や研究が進んでいなければわからないことだらけ。古代エジプトに魅せられて、発掘・研究した人々がいたからこそ、現在、私は古代エジプトについて少しずつ学ぶことが出来ている。

 古代エジプトについて知ろうとして、まずぶち当たるのが言葉。ヒエログリフが読めないとさっぱりわからない。そのヒエログリフを解読したジャン・フランソワ・シャンポリオン。「古代エジプトうんちく図鑑」でも書かれていたのですが、シャンポリオンには兄・ジャック・ジョゼフがいた。シャンポリオンと言うと一般的には弟のジャン・フランソワで、この本では「シャンポリオン弟」と書いている。兄のジャック・ジョゼフがいなければ、弟・ジャン・フランソワはエジプトに行くことも、ヒエログリフを解読することも出来なかった、と。兄・ジャック・ジョゼフは元々古代エジプトに興味を持ち、実際にエジプトには行けなかったが、論文を書きつづけた。そして、弟・ジャン・フランソワが先に死んだ後も、弟の残した論文をまとめ出版した。シャンポリオン兄弟がいたからこそ、ヒエログリフも解読され、古代エジプトのこともわかるようになった。ここから「エジプト学」が始まった、と。

 エジプト学で面白いのは、論文を書いて博士号をとった学者だけが拓いたのではない、懐の大きさがあること。エジプトに遠征し、ピラミッドなどをヨーロッパに紹介したナポレオンもそうだし、それ以降多くの人々が立場に関係なくエジプトに渡った。19世紀に「エジプト調査財団」を設立し、フリンダーズ・ピートリーらエジプト学者たちを支援し、エジプトに学者たちを送り続けたイギリス人アメリア・エドワーズもその一人だろう。エドワーズ女史は売れっ子小説家。発掘や研究に資金は欠かせない…という話で連想するのは、ツタンカーメン王墓を発掘したハワード・カーターのパトロンのカーナヴォン卿。カーナヴォン卿はパトロン、スポンサーだっただけでなく、カーターと共に論文を出している。その「テーベにおける5年間の発掘」の序文が掲載されているのだが、面白い。序文だけなのが残念…。カーナヴォン卿はこんな風に発掘や、出土した遺物をみていたのか、と伺える。エドワーズ女史もカーナヴォン卿も、資金提供だけでなく、古代エジプトやエジプト学に理解を示し魅せられて学んでいたからこそ、資金を提供し続けられたのだなと思う。
 ちなみに、この本で、カーターによるツタンカーメン王墓発掘の資料がまとまって出版されていない、と書かれていますが、それを補うのがこのブログでも何度か紹介したグリフィス研究所ホームページで自由に閲覧できるデータなのかな。インターネットを上手く活用している。著者の酒井さんは1991年に逝去されています。あのホームページを見たら喜ぶだろうか。

 しかし、懐は大きいけれども、その分失うものも多かったのも事実。遺跡を破壊する乱暴でずさんな発掘(発掘と言えるのか?)。金目のものはエジプト国外に流出し、取り締まっても裏取引もされた。大英博物館のエジプト関係の所蔵品と切っては切れない関係のウォーリス・バッジ。大英博物館に出土品を買い入れたり、最初から大英博物館に収める目的で発掘したり…。大英博物館の光と影を見ているような複雑な気持ちになる。

 また、エジプトロジストたち同士の対立も大変…。学問に人間ドラマは要らないかもしれないけど、こういう話はまた違った見方ができて面白い。エジプトロジストも気に食わない人もいて、人間なんだなぁ、と。

 最後には、ヴェルディのオペラ「アイーダ」についても。第25・26王朝を想定した舞台で、サッカラのセラペウムを発掘し、エジプト考古局を創設したオーギュスト・マリエットが原作というのは知ってはいたが、それを知ってから「アイーダ」を視聴したことはなかったので、俄然観たくなった。まずはハイライトかな。2013年のNHK音楽祭で、グスターボ・ドゥダメル指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団の全曲版をラジオで聴いたが、あれはよかったなぁ。

 古代エジプトのあらゆる意味でのスケールの大きさを実感する本でした。
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by halca-kaukana057 | 2015-06-18 22:40 | 本・読書

夜と霧 (新訳)

 一昨年ぐらいからずっと読んできた本です。何度も何度も読んでいました。きっかけはNHK・Eテレ「100分de名著」で取り上げられたことでした。

NHK「100分de名著」ブックス フランクル 夜と霧

諸富 祥彦 / NHK出版


 テキストに加筆修正、新たなコラムも付け加えた書籍版も出ています。私は読んでいませんが…テキストは読みました。「夜と霧」以外のフランクルの著書や、フランクルの思想に影響を与えたものなどの解説もあるので、先に本を読んでから、テキストは参考に…という形で読むほうが入りやすいかなと思いました。

夜と霧 [新版]
ヴィクトール・E・フランクル:著/池田香代子:訳/みすず書房/2002
(日本語版旧版:霜山徳爾訳/みすず書房/1985)

 十何年も前、読もうと思って図書館で借りたのだが、描かれている収容所での悲惨な光景に耐えられず、その時は途中でギブアップしてしまった。今回は本を買って、ゆっくりと読んだ。最初に読んだ時の悲痛さはやはり読んでいてつらいが、それ以上にフランクルがそんな過酷な状況でも自分や収容所の人々を客観的に観て、日々の出来事や心の中で起こっていることを冷静に記録していることに驚いた。そして、収容所ほどの酷い状況ではないけれども、私の日常でも同じようなことを思ったことがあり、特殊なものではないのかもしれないと思った。

 例えば、収容所に送られ、過酷な生活を強いられているうちに、正常な感情の動きがなくなってしまっていたこと。最初のうちは同じ被収容者が殴られたりしているのを見るのがつらい、耐えないと感じている。しかし、しばらく経つと目をそらすこともなく、何も感じない。嫌悪も恐怖も同情も憤りも何も感じなくなってしまったという。
 私も覚えがある。仕事で猛烈に忙しくとにかく仕事をこなすのが精一杯の時、ボロ雑巾のように疲れきってしまった時、さらに疲れが度を越してしまった時、喜怒哀楽を感じられなくなってしまっていた。「~するしかない」、他のことが考えられない。無味乾燥な感情…今思うと恐ろしい。

 また、隣で眠っていた仲間が夢の中でうなされていた時。フランクルは彼を起こそうとしたが、やめた。
その時思い知ったのだ、どんな夢も、悪夢の夢さえ、すんでのところで仲間の目を覚まして引きもどそうとした、収容所でわたしたちを取り巻いているこの現実に較べたらまだましだ、と……。
(47ページ)

 つらい日が続いていて、寝る時、「明日が来なければいいのに」と思うことがある。翌朝目が覚めて「朝になってしまった。また一日が始まるのか」と絶望的な気持ちになる。その気持ちに似ているだろうか。どんなに恐ろしい夢でも、「夢」。それ以上に恐ろしく苦痛な現実。「現実」は消すことが出来ない。空腹や痛み、寒さ、病気…ありとあらゆる苦痛が、心身を本当に襲ってくる。それに比べたら悪夢はまだまし…。いたたまれない気持ちになった箇所だ。

 そんな厳しい収容所生活でも、フランクルは人間の精神・内面は自由だと語る。収容所の中でも、その人がどんな人間であろうとするかは強制できない、と。フランクルは、書きかけの論文のことや、別の収容所に入れられた妻のことを思い、希望を持っていた。また、精神科医として被収容者や、元は同じ被収容者だったのに監督する立場になった「カポー」の一部の相談にものった。正常な感情の働きがなくなってしまったと思っていても、ふとした空や森の風景に心を動かされることもあった。気心が知れた仲間に、笑い話を作ろうと提案し、ちょっとしたユーモアで数分だけでも気持ちを軽くしようとした。このユーモアの話は、一歩間違うと死の危険が迫る、宇宙飛行士のミッションにも当てはまる。収容所と宇宙ステーション…全く異なる世界だが、苛酷な環境で死と隣り合わせという点は似ている。これも驚いた点だ。

 そして、フランクルが辿り着いた問いと答え…生きる意味とは何か。過酷な収容所の生活が、いつまで続くかわからない。自殺しようと思えば、鉄条網に走れば感電して遂げられる。収容所には自殺しようとしている人を助けてはならないというルールもあった。こんな状況で生きる意味などあるのか。努力も無駄だ…。そう絶望して、自殺や免疫力ががた落ちして病に倒れてしまった人々を見て、フランクルはこう答えを出す。
わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ、ということを学び、絶望している人間に伝えねばならない。
(129ページ)

 苦しみと向き合い、引き受け、とことん苦しむことも、何かを成し遂げるための可能性、とも述べている。フランクルは、書きかけの論文を書き上げること、フランクルに「生きていることにもうなんにも期待が持てない」と相談してきた仲間たちは、深く愛している子どもに会うことや、研究中でその本を完成させることを挙げた。
 「生きることは彼らからなにかを期待している」「生きていれば未来に彼らを待っているなにかがある」私は今、この問いに答えを出すことが出来るような、出来ないような…曖昧な答えはある。フランクルや上述した仲間のようにはっきりとした、毅然とした意思によるものではない…ほんの些細な、取るに足らないものだからだ。それでも、それが今の私の今の「人生が期待していること」「待っているなにか」なのかもしれない。苦しみ尽くして出た今の答えなら…。

 今年は戦後70年。アウシュビッツをはじめ、収容所の記録としてもこの本の存在は大きいと思う。だが、そんな厳しい時代と社会、環境を心理学の方向から見る、その中でどう生きるかという意味でも、読み継がれる本だと思う。

【参考リンク】
NHK:100分de名著:フランクル「夜と霧」
 ↑「100分de名著」番組サイト
朝日新聞:生きる意味に気づく 心療内科医・永田勝太郎さん
「あなたが人生に絶望しても、人生はあなたへの期待を捨てない。どんな人にも、固有の生きる意味がある」
「人間は誰しも心のなかにアウシュビッツを持っている。でもあなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望しない」

 この記事で取り上げられた心療内科医・永田勝太郎氏に、フランクルが手紙であてた言葉。「心の中のアウシュビッツ」とは生死を分かつような苦悩のこと。アウシュビッツをはじめとする強制収容所はなくなったが、同じような苦悩は存在し続けているのだな、と…。
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by halca-kaukana057 | 2015-04-16 20:48 | 本・読書

小惑星探査機「はやぶさ2」の大挑戦

 小惑星探査機「はやぶさ2」は順調に飛行を続けています。その間に「はやぶさ2」本を読もう。


小惑星探査機「はやぶさ2」の大挑戦 太陽系と生命の起源を探る壮大なミッション
山根一眞/講談社・ブルーバックス/2014

 初代「はやぶさ」帰還後に出版された「小惑星探査機 はやぶさの大冒険」の続編でもある「はやぶさ2」本です。「はやぶさの大冒険」では書ききれなかったカプセルの回収、採取された微粒子の分析、それが小惑星「イトカワ」のものだと判明するまで、そして同時進行で進められていた「はやぶさ2」の開発について、プロジェクトチームや関係者にインタビュー取材し「はやぶさ2」の仕組みから研究者・技術者たちの想いにも触れます。
・前作:小惑星探査機 はやぶさの大冒険

 本の半分ぐらいが初代「はやぶさ」について書かれています。後継機の「はやぶさ2」に入る前に、初代のミッションをしっかり振り返っておこうという感じです。初代「はやぶさ」の帰還、大気圏再突入、カプセル回収は予想以上にスムーズに進みました。その裏には、カプセルチーム、軌道計算チームの奮闘がありました。カプセルの話は山田哲哉先生のお話をあちらこちらで読む機会があったのですが、軌道計算チームの話はあまり聞いたことがなかったのでとても興味深かった。「はやぶさ」に影響する様々な引力や力学のイラスト(46ページ)は初耳のものも多く、こんなに複雑だったのか!と驚きました。そういえば、確かに高校の地学でやった内容…地球は楕円で場所によって引力が違うとか、地球内部構造の影響で自転もきれいにまわってるわけではない、等…やりました。地学の基礎的なことが、「はやぶさ」の軌道力学に関係していたのかと気付かされました。何事も大元は基礎基本ですね。

 「はやぶさ2」打ち上げの際、第2段ロケットをつけたまま地球を1周、再点火して加速し「はやぶさ2」を分離する理由もこの本にも書いてありました。打ち上げ前に出版されたのだから、打ち上げ前に読んでおけばよかった。H2Aで打ち上げた「はやぶさ2」ですが、H2Aロケットなら大きいから余裕がある、と私も思っていました。しかし、H2Aは地球をまわる軌道上に載せる衛星を打ち上げるのに適したロケット。惑星間探査機を打ち上げるのにはどんどん加速させることの出来る3段以上の固体ロケット、初代「はやぶさ」を打ち上げたM-Vロケットの方が適していた。しかし、M-Vロケットは廃止。新しく開発したイプシロンロケットでは小さい。これから小惑星やさらにその向こうへ向かう探査機を打ち上げるのに、コスト面でも技術面でも適したロケットがない問題…これは深刻ではあります…。

 どの章でも、山根さんのわかりやすい例えや、聞き上手なインタビュー形式の記述で、プロジェクトチームや関係者の専門的な話もわかりやすく読めます。「はやぶさ2」入門にピッタリです。
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by halca-kaukana057 | 2015-02-26 23:25 | 本・読書

はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙開発

 昨年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」は順調に飛行を続けています。イオンエンジンも4基異常が無いことが確認されました。
 昨年11月12月あたりに怒涛の勢いで「はやぶさ2」関連本が次々と出版されました。ようやく読み始めています。まずはこの本から。「はやぶさ」「はやぶさ2」に人一倍強い思い入れを抱いて取材してきた松浦晋也さんの本。


はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査
松浦晋也/講談社・講談社現代新書/2014

 「はやぶさ」と、「はやぶさ」「はやぶさ2」に繋がるこれまでの日本の宇宙科学衛星・宇宙機での探査を振り返りながら、「はやぶさ2」とはどんな探査機か、初代「はやぶさ」とどこが違うのか、どこが強化されたのか。小惑星「1999 JU3」でどんな機器を使って探査を行うのか。わかりやすく書いています。「はやぶさ2」は初代「はやぶさ」とどう違うの?そもそも初代「はやぶさ」ってどんな探査機だったっけ?という素朴な疑問にもわかりやすく応えてくれる本です。

 でも、この本のメインは、「はやぶさ2」がたどって来た紆余曲折、打ち上げまでの苦難の道のりのこと。「はやぶさ2」ほど、政治や予算、社会や世相に翻弄された宇宙機は無いと思います。予算が打ち切られそうになったこと。予算はついても全く足りないこと。打ち上げるロケットを海外で見つけて来いということも。「1999 JU3」に打ち上げるためのリミットが近づく。それまでに機体を完成させられるのか。読みながら、そう言えばそうだった…と思い出すことばかりでした。

 思えば、私も「はやぶさ2」の予算が打ち切られそうになった時に、文部科学省・宇宙開発委員会宛にメールを出しました。
「はやぶさ」&「はやぶさ2」を応援します![2007年11月8日]
 この時は、「はやぶさ」は帰還の道の途中。「はやぶさ」が切り拓いている小惑星探査をここで止めないように。次に続けて欲しい。そんな想いでメールを出しました。その後、予算は出たものの十分な予算ではなく…。宇宙開発は科学や工学の世界だけのものではない。政治にも経済にも、社会全体に関わってくると痛感しました。

 その後、「はやぶさ」の帰還フィーバーで、「はやぶさ2」に対する見方は随分と変わりました。「はやぶさ2」だけでなく、宇宙開発や宇宙科学、研究に対する見方も随分変わったと感じています。5年前、金星探査機「あかつき」が燃料バルブのトラブルで金星周回軌道投入に失敗した時も、「はやぶさ」のように諦めないでまた挑戦すればいい、という見方に、世の中変わったな…と感じました。「はやぶさ」の満身創痍の冒険と、最後まで諦めなかったプロジェクトチームの情熱と信念、「はやぶさ」本体は大気圏再突入でまばゆい光を放ちながら消えていった…。地球に無事帰還したカプセルには、見事小惑星「イトカワ」の微粒子が入っていた、ミッションを完遂できた、というドラマティックな展開が、人々を惹き付けた。それをJAXAも工夫して伝え、宇宙ファンたちも様々な方法を使って草の根で表現した。「はやぶさ」フィーバーが「はやぶさ2」への追い風になった。

 そして、2014年12月3日、「はやぶさ2」は、海外のロケットでは無く、H2Aロケットで種子島から打ち上げられた。打ち上げ前に機体公開された時、本当に「はやぶさ2」が実現するんだ…ととても感慨深かったのを思い出す。あんな茨の道を歩んできた「はやぶさ2」の機体が完成したことに。そして、天候不良による延期はあったものの、その日1秒しかない打ち上げウィンドウで、オンタイムで打ち上げられ、無事宇宙の旅へ船出した。今、「はやぶさ2」が何の異常も無く飛行していることに安心している。このまま、順調な飛行を続け、「1999 JU3」でもひとつひとつ探査をこなし、無事に2020年カプセルを地球に帰還させて欲しい。トラブルによるドラマティックな展開は初代「はやぶさ」、そして「はやぶさ2」の打ち上げまでの紆余曲折で十分だ。「1999 JU3」の観たことも無い画像や、タッチダウンにはドキドキしたい。興奮しながら見守りたい。

 「はやぶさ2」は順調な飛行を続けて欲しい。でも、忘れてはいけない。「はやぶさ2」が、政治や予算に翻弄され、実現できるかできないかの瀬戸際に何度も何度も立たされていたことを。もし中止になったら、初代「はやぶさ」や、それ以前の宇宙機による積み重ねが途絶えてしまう。今後、日本が小惑星探査、深宇宙探査をやることはなくなってしまうだろう。私たちの生活には何の関係の無いような遠い宇宙の小さな星を探査することが、生命や太陽系の起源を探ることになる。やっぱり関係が無いわけじゃない。そのための手段を、私たちは持っている。絶やさないために、「はやぶさ2」の二の舞を繰り返さないために、記憶に留めておくだけでなく、活かされる記憶として記録されなければならないと思う。この本は、その記録です。

 さて、まだまだある「はやぶさ2」関連本…読みます。
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by halca-kaukana057 | 2015-02-02 23:32 | 本・読書

ツタンカーメン発掘記

 この記事で、読むと書いた本。読みました。
思い出の"発掘" 山岸凉子「ツタンカーメン」再読

ツタンカーメン発掘記〈上〉 (ちくま学芸文庫)

ハワード・カーター:著/酒井伝六、熊田亨:訳/筑摩書房



ツタンカーメン発掘記〈下〉 (ちくま学芸文庫)

ハワード・カーター:著/酒井伝六、熊田亨:訳/筑摩書房



 ツタンカーメン王墓の発掘者・ハワード・カーターによる一次記録。学術論文を書く前の下書きとして、一般向けに出版された。元々は全3巻からなり、1巻(発掘後に王墓を調査した考古学者・アーサー・メイスと共著)を発掘の翌年の1923年、2巻を1926年、3巻を王墓の出土品の整理が終わった1932年に出版している。この後で学術報告書を書く予定が、書く前に1939年に亡くなってしまう。学術報告書を完成させる前に亡くなってしまったのは残念ですが、この本を読んで、これだけでも残っていてよかった!と感じました。以前図書館で単行本のほうを読んだ時は難しくて、途中でギブアップしてしまった。でも、今回はすらすらと、魅了されながら読み終えました。以前は何が難しかったんだろう?訳文が新しくなったのかな?(詳細は不明)

 本題に入る前に、もうひとりの発掘者であり、パトロンであるジョージ・ハーバート・カーナヴォン5代伯爵の生涯について、姉のレディ・バークレアによる「故ロード・カーナーヴォンの伝記的な素描」も収録されている。以前は日本語版では割愛されていた部分らしい。カーナーヴォン卿の波乱万丈な、冒険の数々が書かれていてとても面白いです。当時まだそれほど普及していなかった自動車を愛し、愛車でドライブしていたところ事故を起こし、何とか命は取り留める。しかしその事故で健康を害し、特にイギリスの寒い冬は呼吸器系に悪かった。そこで、避寒のために訪れたエジプトで古代遺跡に魅了され、発掘にも携わるようになり、それがカーターと出会い、ツタンカーメン王墓発掘につながったと思うと、人生何があるかわからない、と感じます。ただ、発掘の翌年、1923年4月5日、亡き人になってしまったのは本当に残念です…。

 古代エジプトの歴史、考古学・発掘の歴史の部分も興味深く、それを経て、ツタンカーメン王墓発掘の記録は、読んでいるだけでドキドキする。もう掘りつくしたと大方の考古学者が思っていた王家の谷。本当に掘りつくしたのか?発掘した後の土砂を積んであったところは盲点になっていないか?発掘しつくしたようで、し尽くしていなかった場所を調べ、丹念に掘った結果が出たのが1922年11月4日。そして11月26日。出てきた階段を掘り下げ、王の名が記された封印のある漆喰の壁に穴を開け、中を見たカーター。沈黙するカーターに「何か見えるかね(Can you see anything.)」と尋ねたカーナーヴォン卿に、「はい、素晴らしいものが(Yes.Wonderful Things.日記では「Yes.It is wonderful.」)」としか答えられなかったカーター。先に上述した漫画(山岸凉子「ツタンカーメン」)を読んで絵で観ているのですが、文章だけでもその興奮や、ほぼ未盗掘の、史上初の封印つきの墓と収められている品々の光景は想像できます。この部分は、カーターも興奮気味の文章で書いていて、最初に目にした者にしかわからない興奮なんだろうなと伝わってきます。

 王墓に収められた数々の品々。亡き王のために、あの世でも暮らしに不自由しないようにと収められた品々。そこから読み取れる、古代エジプトの王や人々の生活・暮らし、宗教観、美術観。どんな暮らしをして、どんなことを考え、何を美しいと思って生きていたのか。王はどのような存在だったのか。第3部(3巻)のタイトルが「墓は語る」となっているのですが、まさに墓が物語っている。写真は当時メトロポリタン美術館の写真家だったハリー・バートンによる白黒の画像で、今はカラーの画像があるけれども、当時のことをうかがえる。

 ただ、ツタンカーメンは古代エジプトが揺れ動いた真っ只中に王になり、それに巻き込まれてしまった。先代の王・アメンホテプ4世(イクナートン)が大規模な宗教改革・アマルナ改革を行い、多神教だった古代エジプトを一神教に変え、反感を買うことになった。ツタンカーメンの時代に元の多神教に戻すのだが、そのせいか、後の王名表から抹消されてしまう。また、18歳ごろと若くして亡くなったため、他の王に比べて小さな規模の墓になってしまった。そのため、盗掘(小規模なものはあった)を免れることはできた…皮肉なような、結果的にはよかったような。小規模なツタンカーメン王墓でも大量の品々があったのだから、もし、他の王墓も未盗掘だったなら、どれだけの考古学的遺産…人類の遺産が遺されていただろう…と思ってしまう。

 そのアマルナ改革の結果のひとつが、「アマルナ美術」。まだ勉強不足で詳しくは語れないのだが、それまでの芸術様式とは少し異なる写実的な様式。座っているツタンカーメン王に香油を塗ってあげている王妃・アンケセナーメンの姿が描かれている黄金の玉座がその代表。この玉座の絵はとても好きです。玉座も美しい。あと、アラバスター製の蓮型の祈願杯もお気に入り。それら美術に関する記述もある。カーターは元々画家として、遺跡の壁画や発掘された品々のスケッチをするために調査団の一員としてエジプトにやって来た。その後、古代エジプトに魅せられ、公的な教育は受けなかったものの実地で発掘やエジプト考古学を学んだ。そんな画家として、美術方面から発掘された品々について語っているのが面白い。バートンの写真もありましたが、カーターは緻密なスケッチも残し、現在それらはオックスフォード大学グリフィス研究所に保管されている。壊れやすい花輪や工芸品も、器用に工夫して保存した過程も記されています。美術方面の技術も活かした発掘だったからこそ、古代を語る貴重な品々が今も残っているのだなと思う。

 史上初の封印つきの王墓で、気になるのが王の棺。何重にもなっている厨子と棺を開ける作業の困難さには大変だったのだな…と。そして、意外だったのが、王のミイラが3000年も経ってしまったせいで保存状態が悪くなってしまっていたこと。埋葬の際、香油を大量に注いだため、樹脂となって固まってしまい、棺もミイラも固まってしまっていた。逆に、それまで盗掘され、ミイラだけは発見されたものの方が保存状態がよかった。なんという皮肉。あの有名な黄金のマスクも、ミイラから取り外すのにかなり苦労した。そんな苦労話も発掘者の言葉で読める。

 王墓の発掘には、数多くの考古学者が協力していました。漫画で出てきた考古学者たちが次々と出てきて、愛着があったのもすんなりと読めた理由かもしれない。特に、ヒエログリフの解読に協力したアラン・ガーディナーと、アメリカ人のジェームズ・H・ブレステッド。漫画ではブレステッドは息子のチャールズとともにカーターの親友として描かれていますが、実際はとても偉い考古学者。ブレステッドの著書が何度も引用されているのですが、それも読みたいと思ってしまった。だが、当地の図書館にはない…。大学図書館とかじゃないと無いだろうなぁ…。

 ということで(?)バートンによる写真や、カーターの記録や日記も保管しているグリフィス研究所のサイト。
The Griffith Institute:Tutankhamun
 英語ですが、画像も多いので見ていて飽きません。カーターの日記も、直筆のもののスキャン画像もあります。カーターだけでなく、ガーディナーやカーターをエジプトに連れて行ったパーシー・E・ニューベリー、カーターの恩師であるフリンダース・ピートリー他、エジプトロジストたちによる記録もたくさん。全然飽きません。
 しかも、このグリフィス研究所の公式ツイッターが、カーターの日記botになってますw公式です!w
Twitter:Howard Carter (@discoveringTut)
 その日の日記の内容をツイートしてくれます。もし、当時ツイッターがあって、カーターがツイートしていたらこんな感じなのかな?いや、発掘に専念したいのにメディアや野次馬、観光客の対応に狼狽していたカーターにはそんな余裕なしだな…それ以前に気難しく神経質な性格だったというし…。今だから出来ることですね。

 最近、ツタンカーメンに関してショックなニュースが。
産経ニュース:ポキリ! ツタンカーメン王「黄金マスク」のひげが折れる 修復もずさん エジプト
AFPBBNews:ツタンカーメンのあごひげが外れた!黄金のマスクに接着剤の痕
ロイター:ツタンカーメンの仮面からひげ脱落、博物館の粗悪修復が問題に
 なんてこった!問題は、ひげが取れたことではなく、その後接着剤でいい加減な修復をしてしまったこと。接着剤の痕が外から見てわかる状態であること。ひげの部分は元々取れていました。この「発掘記」にある画像、バートン撮影の写真でも、ひげはとれた状態です。カイロ博物館もとれた状態で展示していたのを、見た目がいいから、とつけた状態で展示をはじめ、今に至るのだそう。
 この接着剤の痕は、直せるようです。よかった…。
 ちょうどこの本を読んでいる時にこのニュースが入ってきて、驚きました。
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by halca-kaukana057 | 2015-01-29 22:52 | 本・読書

宇宙飛行士の仕事力

 以前読んだ「宇宙飛行士の育て方」を大幅に加筆修正した新版が出ました。
宇宙飛行士の育て方


宇宙飛行士の仕事力
林 公代/日本経済新聞出版社・日経プレミアシリーズ/2014

 漫画「宇宙兄弟」などで、宇宙に関する仕事が注目されている。宇宙飛行士はその代表。選抜試験の内部にも取材が入り、訓練から飛行、帰還後まで、宇宙飛行士に関しての情報は随分と増えた。それでも、まだ「宇宙飛行士」という職業についての疑問も多い。さらに、若田光一宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)コマンダー(船長・司令官)を務めたことで、日本人もISSのコマンダーになれるという可能性も増えた。ISSのコマンダーってそもそも何?どんな仕事、役割をするの?コマンダーになるために、どんな訓練や課題があったの?
 「宇宙飛行士の育て方」の後、若田さんのISSコマンダーについての部分を中心に加筆されています。どこがどう違うのか、詳しくは私も読み比べてないのでわからないのですが…。「育て方」は2010年、4年も前の本だった。4年でまた大きく変わった日本と世界の宇宙開発。その後を追います。

 昨日、夏休み恒例NHKラジオ第1「夏休み子ども科学電話相談」を聴いていたら、「宇宙飛行士になるにはなぜホワイトパズルをやるの?」という質問があった。ホワイトパズル、真っ白なパズルのことです。古川聡・星出彰彦・山崎直子宇宙飛行士が選抜された第4期生の最終選抜・閉鎖環境試験で使われました。その次の第5期生の試験では、NHKスペシャルでも放送されたように折鶴になってます。これに、JAXA広報(8月からは国立天文台へ)阪本成一先生が答えていました。どんな環境でも落ち着いて根気強く課題をこなせるか。他の人たちとも仲良くして、協力することができるかを試しているんだ、と。子どもたちも、宇宙飛行士になるにはどんな試験があるのか、何をがんばればいいのか、よく知っているんだなぁ。そんな時代なったんだなぁと感じながら聞いていました。

 若田さんがコマンダーになるまで、また、若田さんがこれまで接してきたコマンダーたちについて書かれてあるのを読むと、宇宙飛行士でのリーダーシップは複雑だな、と感じます。宇宙飛行士に限らない。来年のフライトへ向けて訓練中の油井亀美也宇宙飛行士は元航空自衛隊のパイロット。その仕事でも、宇宙飛行士に通じるリーダーシップは養われ、選抜試験では試験官たちの目を引いた。
 ただグイグイ引っ張っていくだけではなく、ある時は他の人を支え、ある時は仕事を手伝ってほしいと頼む。ISSでのミッションは、科学実験からISSの保守管理、地上との交信、広報イベント、芸術分野での活動もある。何でもこなせるオールラウンダーが求められる。専門外のことにも興味を持ち、習得のために努力を続けられる。バランスのよさ、が強み。若田さんもはじめからコマンダーに向いているわけではなく、宇宙飛行士の訓練を続ける中で、養われていった。「育て方」でも書いた通り、最初から「宇宙飛行士」なのではなく、育っていくもの。コマンダーも同じ。

 こう読んでいると、「職業」「仕事」って何なのだろう、と思う。どんな仕事でも、最初からその仕事が天職のような人の方が少ないと思う。仕事を続ける中で、様々なことを学び見につけ覚えて努力して、育っていく。その一方で、即戦力を求めたり、派遣やアルバイト・パートとして与えられた仕事をこなせばいいだけとみなす仕事・企業もある。どんな働き方を望むか…その仕事で成長することなんて考えない、与えられた仕事だけこなして給料もらえればそれでいい、そんな考えで働いている人も少なくないと思う。それ以上を望みたいけど、会社に却下されてしまう、黙って働いていればいいんだという扱いをされて悩んでいる人もいると思う。その一方で、正社員の研修を充実させている企業もある。この二極化が進んでいるような気がする。宇宙飛行士なんて雲の上の職業に思えるけど、そうじゃない。地上の様々な仕事の延長線上にある、といつもこのブログで書いているのですが、仕事、働き方、仕事を通した成長、どう働きどう生きるか…このあたりも、宇宙飛行士に学ぶことはたくさんあるんじゃないかと考えています。

 あと、トラブルやピンチにどう対応するか、失敗した後どう切り替えてフォローするかについても注目して読みました。4年前「育て方」を読んだ時よりも、自分自身が打たれ弱く、失敗や悩んでいること、不安・心配をずるずる引きずってしまうことが気になっていました。何かに挑戦したくても、リスクや恐怖心が先行して一歩を踏み出せない。失敗するのが怖い。自分で後でコントロールできない失敗もあるから…。そんなことをずっと考えているのですが、この「仕事力」を読んでいて、打たれ弱くクヨクヨしやすくても、その度に立ち上がっていけばいいんだ。失敗しても、ゆっくりでもいいからフォローをし続ければいいんだ(スピード勝負の時もあるけど…これは厳しいなぁ)。そう思えるようになりました。

 読んでいて、コマンダーに注目が集まるのはわかるけど、コマンダーが宇宙飛行士の仕事の究極の形、というわけでもない、ということももう少し書いてあればよかったなと感じました。今年が初飛行から20年になる向井千秋さんは、医師であることを生かして、飛行ではずっと医学実験・科学実験を担当し、貫き続けた。現在、JAXAで宇宙医学を研究しつづけている。向井さんの時代はスペースシャトル、今はISSと変わってしまったのもありますが、コマンダーにならなくても宇宙飛行士は魅力的な仕事だということをもっと伝えてほしかったなと感じました。

 宇宙飛行士になりたい、宇宙飛行士を支える仕事がしたい人は勿論、ビジネス書、自己啓発書としても読めます。読み物としても読みやすいです。

・関連記事:宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方

 古川聡さん、宇宙飛行士自らが語る、宇宙飛行士の仕事と成長について。合わせて是非。
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by halca-kaukana057 | 2014-07-23 22:31 | 本・読書


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