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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

 今まで村上春樹作品を読んだことはありません(エッセイならある)。話題にはなっているけど、一体何が魅力なんだろう?熱狂的なムーヴメントは、一体何からきているのだろう?ちょうど文庫化されていたのを見つけたので、この作品を読んでみることにしました。舞台にフィンランドが出てくる、というのも理由のひとつです。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上春樹/文藝春秋・文春文庫/2015(単行本は2013)

 多崎つくるは、鉄道の駅を設計する仕事をしている。彼は高校生の頃、4人の男女の親友がいた。苗字にそれぞれ色をもっている彼らとはうまくやっていたが、大学の時突然絶縁を申し渡された。理由もわからず、当時のつくるは生きる気力を失い、死を思い続けた。何とか生きる気力を取り戻し、今は2つ年上のガールフレンド・沙羅がいる。沙羅はつくるに、彼らが何故絶縁を言い渡したか探るべき、と促す。沙羅の協力で彼らの居場所をつかんだつくるは、彼らに会いに行く。


 読んで、ああ、これが村上春樹の文章か、と感じました。以前twitterで村上春樹風文章でカップ焼きそばの作り方を書いてみた、というネタがあったのですが、なるほどと思いました。こんな言葉の組み立て方でこんな会話、普通の人はしないよなぁ…、という会話が並んでいる。友情を失うことになった理由は何だろう…?と続きを読むも、うーん…という展開。

 つくるは、苗字に色の名前が入っている4人…男性の赤松、青海、女性の白根、黒埜(くろの)と自分を比べて、個性・色彩がないと思っている。でも、彼らに会うと、皆つくるの個性を誉める。生きる気力を取り戻し、ジムに通ったりガールフレンドもいるのに、心ここにあらずのような心持ちのつくる。沙羅もそれを指摘する。自分自身は自分からはよく見えない、ということだろうか。

 友情を失うことになった理由。4人のひとり、白根(シロ)に起こったまさかの出来事。ピアノが得意なシロが演奏していた、リストの「巡礼の年・第1年 スイス」の第8曲:ル・マル・デュ・ペイ。聴いてみましたが、まさにこの作品の根底に流れている、暗く静かな曲。4人、他にも色の名前を持つ人物が登場するが、この物語はモノクロだなと感じました。つくるがかつての親友たちに再会しても、絶縁の理由を突き止めても、モノクロの世界が続いている。

 黒埜(クロ)に会いに、つくるはフィンランドへ行く。フィンランドの描写は、観光が目的ではないので、そんな期待したほどではありませんでしたが、フィンランドの風景だな、と。クロは、シロのこと、シロに起こった出来事をずっと引きずっていた。つくるが失った過去に向き合うだけでなく、他のメンバーもつくるを失った過去に向き合っている。

 ラストも何だろうこの展開…と思いつつも、ようやく、つくるが過去ではなく、今を生きようとしているのかなというのは感じられました。
 村上春樹は小説よりもエッセイのほうが合うかもしれない…。

 ちなみに、つくるがフィンランドに行った時、車で聴いていたクラシック専門ラジオは、YLE Klassinenのことだろうなと推測。フィンランドには他にもクラシック専門チャンネルがありますが、最大手はフィンランド国営放送のYLE Klassinen.放送される作品も幅広いです。ネット配信もしていて、日本からでも聴けます。
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by halca-kaukana057 | 2016-09-15 22:30 | 本・読書

少女ソフィアの夏

 「ムーミン」シリーズの作者・トーベ・ヤンソンのムーミン以外の作品をあまり読んだことがなかったので読んでみました。タイトルと、簡単なあらすじに惹かれました。


少女ソフィアの夏
トーベ・ヤンソン:作/渡部翠:訳/講談社/1991

 フィンランド湾には、たくさんの島がある。その島のひとつに、少女ソフィアとおばあさん、パパが4月から8月まで住む家があった。ソフィアは母親を亡くしたばかり。70も年齢が異なるソフィアとおばあさん。島には様々な人が訪れ、ソフィアとおばあさんも誰かを訪ねることもある。主に2人の島暮らしは続いてゆく。

 トーベ・ヤンソンさんが、夏の間を過ごす島の話は何度も読んだことも、聞いたこともあります。岩の小さな島に、小さな家がある。そこでヤンソンさんは夏の間、海とともに過ごし、ムーミン物語もその暮らしの中から生まれることもあった、と。この「少女ソフィアの夏」は、ヤンソンさんの周囲に人々をモデルに描かれています。おばあさんはヤンソンさんの母。ソフィアのパパは、ヤンソンさんの弟ラルスさん。そしてソフィアはラスルさんの娘、ヤンソンさんの母の本当の孫娘なのだそうです。ラルスさん一家も、夏の間は島で暮らし、ヤンソンさんの島とも近かったので交流もあったようです。物語も、おばあさんとソフィアの間に実際に起こった出来事を、フィクションも交えて書かれたもの、と。

 まず読んでいて思うのが、ソフィアとおばあさんを取り巻く自然が豊かに描かれていること。ヤンソンさんが暮らしていた島は岩だらけのゴツゴツした、小さな島ですが、おばあちゃんとソフィアが暮らしていた島はある程度大きく、緑も多いとわかります。島の樹木や草花…フィンランドを思わせる白樺やナナカマド、コケモモ、キノコ。森。森に棲む鳥などの生き物。天候に左右される海。凪や嵐。その自然は豊かだが、厳しくもある。生き物も可愛いだけではない。野生の荒々しさを見せ付けられることもある。その豊かで厳しい自然の中で、ソフィアは成長する。おばあさんはさすが年の功、厳しさをわかっていて、自然を冷静に見つめ、なすがままに身をゆだねる。そんなおばあさんを見て、ソフィアは自然の中で生きることを学んでゆく。時にはソフィアが島の中を冒険することもある。それに付き合うおばあさんは、体力面では劣る。自然の中で人間がどう生きるのか。それをそのまま描写している。

 また、自然だけでなく、ボートのエンジンの音、夏至祭を祝うロケット花火の音など、音の描写もいい。物語が五感に語りかけてくる。

 そして、ソフィアとおばあさんの関係。母親を亡くしたばかりで、その死を改めて実感するシーンや、母親のことを思い出しながら、ごっこ遊びをするシーンもある。でも、母親についての言及はそれほど多くない。
 それよりも、おばあさんとソフィアの関係。祖母と孫…孫を可愛がり甘やかすなんて描写は一切ない。おばあさんもおばあさんで自己主張し、体力は衰えているが気はしっかりしている。寧ろ強い。ソフィアはまだまだ少女だけれども、彼女なりにおばあさんにぶつかっていく。また、島の暮らしはあまり他の人に会わないので、おばあさんはソフィアの社会性を心配する箇所もある。おばあさんのソフィアを見守る視線、姿勢、距離感。あたたかく思いやるが、冷静で、あまり深く干渉しない。個として、しっかりと立ち、助け合う時は助け合う。この生きる様はムーミン物語のムーミン谷の仲間たちにも通じるところがある。これが、ヤンソンさんの原風景、ヤンソンさんに見えていた風景と人々の姿なのだなと思う。
 パパはあまり出てこないが、パパのものが鍵になることもある。

 この本全体に流れる静けさや、どこかかなしい、寂しい雰囲気は何だろう。決して冷たい、冷徹ではないけれど、個が個であることを強調しているからだろうか。

 ヤンソンさんによるイラストもところどころに描かれています。この本は児童書扱いになっていますが、ムーミン物語と同じように、どんな人が読んでも、惹かれる部分があると思います。
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by halca-kaukana057 | 2016-02-22 22:59 | 本・読書

日日平安

 久しぶりに山本周五郎を読みました。時代物をしばらく読んでいなかったので、最初は時代物の雰囲気や言葉遣いに慣れませんでしたが、やはり山本周五郎、物語、人間の生きる世界に引き込んでくれます。


日日平安
山本周五郎/新潮社・新潮文庫

 井坂十郎太は江戸に行く途中、切腹しようとしている菅野平野という男に出会う。菅野の切腹しようとした理由に呆れつつも、何故か井坂は抱えていた藩の騒動を菅野に話す。そして、井坂と菅野はある作戦を立て、藩を救おうとする…「日日平安」他、橋本佐内に死罪を言い渡した井伊直弼と佐内の家族を描いた「城中の霜」、徳川光圀と彼の元にやって来た貧しげな浪人を描いた「水戸梅譜」、他全11編の短編集。

 「城中の霜」、「水戸梅譜」、「日日平安」などの歴史上の武家もの、「嘘アつかねえ」「しじみ河岸」「橋の下」などの人情もの、「屏風はたたまれた」の不思議もの。「末っ子」は下町もので実に滑稽でうまい。どれも読ませます。どんな身分の人も、人間である、ということをしっかりと描く山本周五郎の文章、物語には感服します。「若き日の摂津守」は武家もので不思議ものにも読める。光辰(みつとき)の戦略の巧みさに圧倒されました。

 江戸時代を描いた作品なのですが、どこか現代に通じるものがあるとも感じました。「しじみ河岸」のお絹の嘆きは、介護に疲れた現代人の嘆きと変わらない。胸が締め付けられる。「嘘アつかねえ」の信吉は下流社会に生きる者のような。「橋の下」も。"理由あり"で、橋の下でしか生きられなくなった男。その男の言葉は、現実にあるものだと思う。
「この橋の下には、人間の生活はありません」
「こういうところで寝起きするようになってからの私は、死んだも同然です、橋の上とこことはまったく世界が違いますが、それでも私には橋の上の出来事を見たり聞いたりすることはできます、世間の人たちは乞食に気をかけたりしませんし、もうこちらにも世間的な欲やみえはない、ですからどんなこともそのままに見、そのままに聞くことができます、いいものです、ここから見るけしきは、恋もあやまちも、誇りや怒りや、悲しみや苦しみさえも、いいものにみえます」
(355ページ)


 そしてどの話も、ラストが何とも言えない。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない。まだこれから、その人の人生は続いていくのだと思う。たとえ何が起こったとしても。確かにそうだ。生きるということは、ハッピーエンドの小説のようになることはまずない。バッドエンドだったとしても、そこが本当に終わりだろうか。「ほたる放生」のような切ない一区切りはあっても、そこからどうなるのかはわからない。生きるということのひとコマを切り抜いて凝縮させた小説の数々。ひとコマだけだから、小説になるのかもしれない。そのひとコマをうまく見極める山本周五郎。うまい。本当にうまい。

 木村久邇典氏の解説の冒頭で、山本周五郎の言葉が記載されています。
「もし君があと数年たって、私の作品を読返してくれるならば、きっと現在読んで感じたものとは別な広がりを発見してくれるだろう。私の作品にはそれだけのものは含まれていると思うんだ」

 山本周五郎も他の作家の作品を読んでそう感じていたのだろうか。そんな作品を書きたいと常々思っていたのだろうか。何年も前に読んだ作品、そしてこの「日日平安」もまた読み返したい。その時、私はどう感じるだろうか。
 ちなみにこの解説、昭和40年(1965年)のもの。初版の解説から変わっていないのが嬉しい。「本当は単行本で買いたいのだが、私のサラリーではイタいので廉価版の出るまで待ちます」という読者の声も記載されている。全く同じです。私も単行本だと高いし、加筆修正もあると思うので文庫本を待つことが多い。50年前から変わってない!リアルタイムで山本周五郎の作品を読んでいた人々の声も読めて嬉しいです。50年前というと結構前のようで、最近のようで…不思議です。
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by halca-kaukana057 | 2016-02-10 23:39 | 本・読書

八月の博物館

 タイトルが「八月」…もう11月ですよ…。でもいいんです。11月にも合う小説だと思います。

八月の博物館
瀬名秀明/角川書店・角川文庫/2003(単行本は2000)

 亨は小学6年生。時は夏休み。本を読むのが好き、特にエラリー・クイーンの推理小説が好きで、別のクラスの友達の啓太と自作の推理小説などを載せた雑誌を出そうと案を練っている。図書室の係で、鷲巣という女子と一緒に貸し出しを担当している。そんな夏休みが始まる日、帰り道で亨はいつもとは違う道を歩く。たどり着いたのは「THE MUSEUM」と書かれた建物。中に入り、しばらくすると不思議な少女「美宇」や「ガーネット」という紳士に出会う。この博物館が何なのか。美宇と一緒に博物館の中を歩くようになる。そして、2人は1867年のパリ万博の会場に向かうことになる。そこで、亨と美宇はフランス人考古後学者・オーギュスト・マリエットに出会う…

 あらすじを書くにもどう書いたらいいのかわからない…。物語のメインは亨と美宇の"ミュージアム"での冒険。そこに同時進行で、19世紀エジプトでのオーギュスト・マリエットのこと。更に現代の"私"という人物、3つの時代の話が同時進行で進んでいく。最初あらすじを読んで、少年少女の冒険物語かと思ったら、どんどん思いもしない方向に話が進んでいって驚きました。

 この本を読もうと思ったきっかけは、オーギュスト・マリエットが出てくるというところ。19世紀のフランス人エジプト学者。サッカラの聖堂・セラペウムを発掘し、現在のカイロ・エジプト博物館の母体となる博物館をつくり、それまで発掘品に関する法も何もなく海外流出してしまっていたのを憂い、発掘を取り締まり出土品を管理するエジプト考古局をつくった人。また、ヴェルディのオペラ「アイーダ」の原作者でもあります。考古局設立のことや、サッカラのセラペウムのことは、以前紹介した山岸凉子作の漫画「ツタンカーメン(旧題:封印)」で登場したので、よく覚えています。でも、それ以上にマリエットのことはよく知らない。マリエットの伝記・歴史小説としても読めます。マリエットの後に考古局の局長になったガストン・マスペロ、そしてハワード・カーターのことも少し出てきます。11月はツタンカーメン王墓発掘月間(4日に最初の階段を見つけ、5日に最初の漆喰の壁にたどり着く。26日に最後の漆喰の壁に穴を開け、カーターとカーナヴォン卿がツタンカーメン王墓を「発掘」する)。なので11月にも合うんです。

 そのマリエットと亨と美宇が出会う。セラペウムに祀られている聖なる牛・アピスも関係してくる。関係ないような世界が関連を持ち始める。現代の"私"とも。SFの要素も入り、さらに博物学、「物語」に関する考察もあり…何度も頭の中が混乱しました。混乱したけど、読み終えた後、面白いと思った。

 「物語」が何故存在するのか。「感動する」とはどういうことか。「物語」をつくる人は、「感動すること/させること」を考えて書いているのか。「物語」はつくりもの、現実にはないフィクションだとわかっているのに、心を揺さぶられる。その心を揺さぶるものとは何なのか。これは瀬名さん自身の作家としての「物語」というものへの問いかけのように読めます。実際、現代の"私"は瀬名さんっぽい。

 私も何度か、絵本を書いた/描いたことがあります。小学生の時のクラブ活動、大学の頃の部活で。その時は、作品のテーマや物語の流れ、子どもたちに読み聞かせたわけではありませんが絵本なので子どもたちが親しみやすいかどうか…などは考えましたが、ただ単純に自分が書きたい/描きたい、面白いと思うものを書きました。自然とペンが進みます。絵本なので、絵や絵と文章の位置も考える必要はありました。後で人に読んでもらい、感想を聞くのは恥ずかしくもあり、面白かったと言ってもらえると嬉しかったです。今こうしてブログを書き続けているのも、時々イラストも描くのも、何かを書きたい/描きたいという気持ちがあるから続いていると思います。その根底に、自分の「面白い」という気持ちがあるから。

 そして、「物語」は人々の心の中に生き続ける。クライマックスシーンで亨が叫んでいた言葉、決意がまさしくそうだと思いました。「物語」は小説だけじゃない。音楽も、博物館も。マリエットがオペラ「アイーダ」の原作者であることも、また関係してくる。様々なものがどんどん繋がっていく様が面白いです。

 この「八月の博物館」という「物語」を純粋に楽しむことも出来る。その一方で、「物語」の中にある「物語」を深読みすることも出来る。今まで読んだことのないタイプの小説でした。

 読後、エラリー・クイーンの推理小説、それから「アイーダ」も観たくなりました。オペラは全幕音声では聴いたことがあるのですが、映像は部分しか観たことがない。有名な「凱旋行進曲」の部分。マリエットが原作者と知った時、ますます興味を持ち始めました。

 あと、この本は新潮文庫からも出ているのですが、どこか違うところはあるのだろうか。何故新潮文庫からも?とは言え、どちらもほぼ絶版というのは何とも…。

・以前読んだ瀬名秀明さんの作品:虹の天象儀
 読んだのは2007年…随分前でした…。
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by halca-kaukana057 | 2015-11-07 23:19 | 本・読書

[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 名探偵、最大のピンチ!

 人形劇本編最終回の放送から約5ヶ月。ようやくNHK人形劇「シャーロックホームズ」のノベライズ5巻・最終巻が出ました。14話から最終回18話まで収録しています。

・1巻(1~3話収録)感想:[NHK人形劇小説版]少年シャーロック ホームズ 15歳の名探偵!! +NHK人形劇版
・2巻(4・5話収録)感想:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 赤毛クラブの謎
・3巻(6~9話収録)感想:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 消えた生徒たち
・4巻(10~13話収録)感想:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ こわい先生たちのヒミツ

【5巻・最終巻収録の人形劇本編感想記事】
・第14話「百匹のおたまじゃくしの冒険」:すり替えられない真実 人形劇「シャーロックホームズ」第14話
・第15話「青いシロクマの冒険」:ワトソンが許せないこと、守るもの 人形劇「シャーロックホームズ」第15話
・第16話「ダグラスさんのお屋敷の冒険」:外の世界で見たもの、思い知ったもの 人形劇「シャーロックホームズ」第16話
・第17話「本当に困った校長先生の冒険」:信じているからこそ 人形劇「シャーロックホームズ」第17話
・第18話「最後の冒険」:終わりと始まり、そして希望、再び 人形劇「シャーロックホームズ」第18話[最終回]

少年シャーロックホームズ 名探偵、最大のピンチ!
アーサー・コナン・ドイル:原作/三谷幸喜:番組脚本 / 時海結以:著/千葉:絵/集英社・集英社みらい文庫/2015
 最終巻の表紙はホームズvs.モリアーティ教頭。まさに最後の対決です。表紙を開いたそでの部分には、本の一部分が抜粋されカラーイラストもあるのですが、全く予想していなかったシーンでした。そこか!wいや、とても可愛いので満足です。はいw

 最終巻は5話収録なので盛りだくさんです。他の巻よりも厚い。文中のイラストは少なめになっている気がします。でも、本編の通りではありますが加筆、本編とは少し変えた修正部分もあります。そして、久しぶりなので忘れていました。ノベライズは完全ワトソン視点、ワトソンによる回想風の描写であることを…。これが、どんなに重要な意味を持っているかということを…。

 14話「百匹のおたまじゃくしの冒険」。冒頭部分の、宿題をやらないホームズの屁理屈には本編で笑いましたが、焦って宿題を解いてわからない!!とパニックになるワトソンも笑える。ワトソンは数学は苦手なのか、どうなのだろうか。ワトソンの成績に関しては、一度も言及されなかったなぁ。
 そして、221Bを訪れたアドラー先生を迎えるホームズはいつものようにクールにすましているが…人形劇では表現しきれないこともありました。テキパキと掃除をして、アドラー先生を迎えるこのシーンの操演は見事でしたが、更に裏があったとは…。まさに、「どんなものにも裏がある」。ホームズ自身でさえ。
 他の話でもあるのですが、人形劇本編では省略?された推理などの種明かしも詳しくなっています。バーニコットの絵が盗まれ、ホームズとワトソンで取り返したものの、その絵は…の推理も、本編と少し違っています。確かに本編の盗んだ後に描くのは無理がある。あと、一応盗作はいけない、という明示でもあるのかな(それでも、バーニコットの絵は盗まれたままで、そのまま別の人が描いたものになり提出されてしまいますが…)。ただ、バーニコットの自分の作品への揺るがない想いは小説で読んでも清々しい。
 14話の最後のシーンは、ワトソンは登場しないシーン。それをワトソン視点でどう書くか…読んだ後「ワトソン…!!!」と叫んでしまいましたw役得といえばいいのかwきっとその時のワトソンの表情はニヤついていたに違いないw14話はホームズとワトソンの熱い友情、連携プレーも光る回です。

 15話「青いシロクマの冒険」。これはワトソン視点で読みたかった回。人形劇本編だと、映像で出てくるモノがどんな姿形をしているかわかります。しかし、小説、文章だけ(挿絵はありますが少しだけ)で、「青いシロクマ」や他に出てくるモノを想像するのが楽しい。人形劇本編を観ずに読んだら、どんなモノを想像しただろう?と思いながら読みました。
 人形劇本編を観た時に「アブドラは毎晩月を見ながらヨガをしているというが、月は毎晩見えるわけではない」と指摘しました。天文好きとしてこれはスルーできない。小説では、この部分が修正されていました!どんな風に修正されているかは読んでのお楽しみ。これには私も納得です。が、もうひとつ指摘箇所「グレイ型の宇宙人は、20世紀半ばじゃないと出てこない」のは修正されず…。まぁ、ここはいいか…。
 先ほど、この15話を「人形劇本編を観ずに読んだら、どんなモノを想像しただろう?」と書きましたが、それはワトソンのイザドラに対するイメージでも言える。誰かに初めて会った時、見た目や他の人からの噂で先入観を持つか持たないか。イザドラの部屋でホームズとワトソンが対峙しているシーンでも、ワトソンのイザドラに対する思い・イメージの変化は、いつものワトソンだった。それが、怒りに変わる時。真実を知って、またいつもの心優しいワトソンに戻る時。ワトソンが怒ったのは、どちらにせよ相手を想う優しさからだったのだから、ワトソンはワトソンなのだな、と思う。
 あと、イザドラの罪も本編とは変えてきました。本編のだと警察問題、絶対にやってはいけないこと。ノベライズで修正されたものもやってはいけないことに変わりはないですが…。イザドラの反応も、本編と変えているところがあります。
 15話本編のラストシーンで、何かを思いながら写真を見つめるイザドラが出てきましたが、さすがにこのシーンはワトソン視点では表現できなかった。削除シーンは初めてかも。

 16話「ダグラスさんのお屋敷の冒険」。小説でもスリリングな回です。本編では、殺人現場を見に行こうと張り切るホームズの一方で、やめようよと渋っていたワトソン。しかし、
こうなったら、腹をくくるしかない。ここまでにホームズを止められなかったぼくも悪い。……だって、本物の事件なんだぞってわくわくする気持ちが、ぼくにも、どこかにあったんだもの。
(101ページ)

 ワトソンの冒険好きな面が、本格的に出てきたと思える部分。しかし、お屋敷内の殺人現場のシーンは、本編と同じように、いや、本編以上に逃げ腰。…これが普通の反応、だよなぁ。ただ、ワトソンの父は医者という設定で、この物語が正典に繋がってゆくなら、死体への恐怖だけでなく、命を奪われてしまった、という表現もあってよかったんじゃないかなぁ。
 そして、冒険好きだけでなく、ホームズの親友で相棒、ホームズと一緒に行動すると決意を固めたワトソン。1巻から振り返ると、ワトソンは本当にたくましくなりました。
 本当の殺人事件でもひるむことなく推理するホームズや、ホームズとモリアーティ教頭が対峙するシーンは、小説だとじっくりと読んで味わえます。人形劇でのスピード感溢れる展開も好きですが、言葉や台詞をひとつひとつじっくりと味わうと、また違う面白さがあります。

 17話「本当に困った校長先生の冒険」。校長先生が依頼に来て、事の顛末を話すシーン。人形劇本編でもホームズは呆れていますが、小説の挿絵のホームズの呆れた表情が酷いwちょっと可愛いwいや、これが普通の反応だw
 14話の部分でも書いた、本編では説明しきれなかった詳しい種明かしが、17話にあります。レストレードの協力なくしてこの作戦は成功しなかったということが強調されました。あの生真面目なレストレードが、よくこの作戦に乗ってくれたなぁ…と本編を観た後は思っていたのですが、正義感の強いレストレードに協力してもらえるようにうまく説得していたのでした。なるほど。

 18話「最後の冒険」の前に一文が。これにはしびれました。たった一文なのに。
 ホームズがいなくなった221B。残ったワトソンの不安やホームズを想う気持ちが描かれている…ワトソン視点であることの重要さを実感します。
 18話は一文一文じっくり読みたい。ホームズのこれまでの行動も、表情から伺える感情の描写も、鍵となる人々の言葉も。特にマイクロフトとミルヴァートン先生。ミルヴァートン先生に関しては、本当に、正典の恐喝王はどこに行った…と言いたい。
 16話で再登場、17話で見えないけれども鍵となったホープ君が、18話でも実は活躍していたことが嬉しかった。確かに、あれをどこから持ってきたのか…そういえば謎だった。ホープ君、素晴らしい。
 ラストシーンはかみ締めるように読みました。そうか、このラストが、1巻1話の冒頭に繋がるのか…!そして、2人の冒険は続いていくのですね…!感慨深い…。

 5巻にも井上文太さんの描き下ろしイラストがありますよ。



 さて、この5巻が今出たのは、多分、このためです。
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NHK:シャーロックホームズ:ホームズ&ワトソン 推理(ミステリー)の部屋
シャーロック学園

 待ってました!!夏に人形劇ホームズが帰って来るという話がありましたが、これです!特別編「ホームズ&ワトソン 推理(ミステリー)の部屋」。ワトソンがプレゼンターとなって、推理力を高める技をそっと教えてくれるとのこと。ワトソンからの挑戦状もあるそう。しかも、全10回×30分。本編は20分だったので、本編よりも放送時間が長い!これは楽しみです。
 ところで、NHKの公式サイトにある画像。ワトソンの制服が変わってる!転校前のオーストラリアの学校の茶色の制服では無く、ベイカー寮の紺色の制服…と言うよりは、ホームズと同じ形の制服!以前ベイカー寮制服ワトソンを描きましたが、まさかの予想の斜め上!変化球!でも、ラグビーで鍛えたがっしりとした肩幅と、厚い胸板のワトソンに、ほっそりとしたホームズ仕様の制服は似合うかな…?観てのお楽しみということで。
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by halca-kaukana057 | 2015-07-14 23:39 | 本・読書

海うそ

 久しぶりに梨木香歩さんの本を。昨年春に出た本です。

海うそ
梨木香歩/岩波書店/2014

 時は昭和のはじめ。人文地理学者の秋野は、亡き主任教授の佐伯が遺した未発表の調査報告書を読んで惹かれた南九州の「遅島」に、夏の休暇を利用してやって来る。かつては修験道の霊山があり、7つの寺院があったが、明治の廃仏毀釈で無くなってしまったという。秋野は遅島に住んでいる人たちと触れ合いながら、島の歴史や地名の由来、民俗、自然について歩いて調べる。豊かな自然と、そこに息づく人々の暮らし。そして伝承。それらを紐解いていくうちに、秋野は遅島の歴史を掴みかける。

 「家守綺譚」や「冬虫夏草」の雰囲気に似ている作品です。地名を調べていく過程は、エッセイ「鳥と雲と薬草袋」が元になったのかな?と思いながら読んでいました。遅島の豊かな自然、昭和10年代の雰囲気に惹き込まれます。

 タイトルの「海うそ」。遅島の言葉で蜃気楼のことを差す。蜃気楼…幻がこの作品のテーマのひとつ。また、幻はすぐに消えてしまう。消える、無くなる…喪失もこの作品のテーマのひとつだと思う。
 秋野は、佐伯教授もだが、両親、そして許嫁も亡くしている。遅島で廃仏毀釈の実際の話を聞き、さらに「モノノミ」という民間宗教についての話を聞く。住民の話を聞くうちに、その意味がわかり始める。

 何か新しいことを始める・つくるためには、古いものをどうするかが問題になる。壊して無くす、うまく共存の道を探る、手をつけない…様々な方法はあるけれども、明治から昭和にかけての時代は壊して無くす時代だったと思う。近代化のため、国家を強くするためには犠牲は不可欠…。遅島は、そんな時代に巻き込まれた舞台だった。その遅島が失ったものと、秋野が失ったものが交錯する。私も私自身が失ったものを思わずにはいられない。

 その一方で、何らかの形で残す方法もあった。それに気付き、見つけた秋野。その当時の時代や社会に抗い、自分たちが生きた証拠を地名に隠した。ここはとても興味深い箇所でもあり、彼らのことを思うとやりきれない気持ちにもなりました。

 そして、どんなに古いものを壊して新しいものをつくっても、変わらないものもある。島に住む山根は、海に面した場所に父が建てた洋館に住んでいる。その洋館からは「海うそ」もよく見える。この「海うそ」は変わらない。蜃気楼…幻のはずなのに。その「海うそ」は更に時を越える。

 50年後、老いた秋野は再び遅島を訪れることになる。その50年後の描写が、かなしくてかなしくてたまらなかった。壊して無くすの繰り返し。これが時代や社会の変化なのだろうが、「壊して無くす」しか新しいことを始める・つくるための方法は無いのだろうかと考えずにはいられなかった。しかし、秋野が再び島へやってきて、かつての遅島を語ることで、次の世代の人々も何かを受け取る。そこに現れた「海うそ」。「海うそ」だけは変わらずに…。
時間(とき)というものが、凄まじい速さでただ直線的に流れ去るものではなく、あたかも過去も現在も、なべて等しい価値で目の前に並べられ、吟味され得るものであるかのように。喪失とは、私のなかに降り積もる時間が、増えていくことなのだった。
 立体模型図のように、私の遅島は、時間の陰影を重ねて私のなかに新しく存在し始めていた。これは、驚くべきことだった。喪失が、実在の輪郭の片鱗を帯びて輝き始めていた。
(186ページ)


 過去と現在と未来、時間、その中で変化してゆくもの。変化を否定、批判はしない。その変化をどう受け入れたらいいのか。喪失の無い人生など無いわけで、喪失とどう向き合ったらいいのか。そんなことを、読んだ後の今、考えています。
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by halca-kaukana057 | 2015-05-28 22:52 | 本・読書

二都物語

 NHK人形劇「シャーロックホームズ」第4話「消えたボーイフレンドの冒険」で、ワトソンが読んでいた小説がこの「二都物語」(A Tale of Two Cities)。この小説が、人形劇本編の物語に関係がある…というので読んだ。ディケンズを読むのは「クリスマス・キャロル」以来2作目です。
クリスマス・キャロル(原作&NHKFM・青春アドベンチャー)


二都物語
チャールズ・ディケンズ:著/加賀山卓朗:訳/新潮社・新潮文庫/(加賀山訳は新訳版、2014)

 1775年、イギリス。ドーヴァーに向かっていた郵便馬車に乗っていたテルソン銀行の銀行員・ジャーヴィス・ローリーはある手紙を受け取る。「ドーヴァーにて令嬢を待て」。ローリーは「人生に甦った」という返事を出す。そしてドーヴァーに到着すると、銀行から手紙を貰いロンドンからやって来た若い女性・ルーシー・マネットと会う。幼い頃死んだとされていた父で医師のアレクサンドル・マネットがバスティーユ牢獄から解放されたというのだ。18年間の投獄生活で記憶も曖昧、パリで酒場を営むドファルジュ夫妻に保護されていたマネット医師だが、娘と再会し共にロンドンに向かい、一緒に住み始める。
 5年後、マネット医師はすっかり回復し、ロンドンで暮らしていた。ローリーとマネット父娘がイギリスに向かう船に一緒に乗っていたフランス人・チャールズ・ダーネイがスパイ容疑で裁判にかけられていた。ローリーとルーシーは証人として出廷し、無実を証言していた。その法廷には、チャールズの弁護士・ストライヴァーと、ストライヴァーの同僚の弁護士のシドニー・カートンもいた。チャールズとシドニーはとてもよく似ていた。無実で釈放されたチャールズ、そしてシドニーはルーシーに恋をする。シドニーは弁護士ではあるが、普段は酒びたりの生活を送っていた。また、チャールズにはある隠された過去があった…

 読んでいて、舞台を観ているような気持ちになっていました。主要人物のルーシー、マネット医師、チャールズ、シドニー、ローリー、ドファルジュ夫妻だけでなく、ちょい役の登場人物たちも実に活き活きとしていて、物語に彩りを添えている。「クリスマス・キャロル」も庶民を描いた人間味溢れる作品だったが、「二都物語」も極平凡な庶民の生活の中にあるルーシーたちの運命が、イギリスらしい皮肉や庶民の目線から描かれている。読んでいて、それぞれの登場人物の言動が個性豊かで、面白かった。

 「人生に甦る」という不思議な言葉で始まる物語。「人生に甦る」のは牢獄生活から解放されたマネット医師のことでもあるし、過去にある秘密を抱えたチャールズのことでもある。また、弁護士なのに酒びたりの生活を送っていて、自分でもどうしようもないと思っているシドニーのことでもある。彼らの「人生に甦る」鍵になるのがルーシー。理想的なヒロインである。そのヒロインに恋するチャールズとシドニー。2人が顔がよく似ているというのがまた鍵になる。様々な鍵、パズルのピースが散りばめられていて、後からそれが伏線だったとわかる。最後の怒涛の伏線回収が凄い。

 堕落した人生を送っているシドニー。ルーシーのことは愛しているけれども、この自分は変えられそうにない…と嘆くシーンが何とも言えない。そんなシドニーに希望ある未来を願うルーシー…それなのに…。シドニーの境遇が辛いが、一方のチャールズも辛い立場にある。そして、それが明るみになる…フランス革命が、彼らを運命の渦に巻き込んでゆく。

 2回読み返しましたが、どの登場人物からも目が離せない。最後のまさかの展開に、人間という生き物の不思議さを覚えます。最初に書きましたが、小説、文章だけ(挿絵はあります)なのに、舞台を観ているみたいです。

 訳は、現在入手しやすいのがこの新潮文庫の新訳版のみ。宝塚歌劇団や、他にも舞台化、映画化された作品なのに、訳がこれしかないというのは残念。他の出版社からも出て、他の訳でも読んでみたい。あと、他のディケンズ作品も。長編がほとんどですが…。


 ちなみに、冒頭で人形劇「ホームズ」がきっかけで読んだ…と書きましたが、ノベライズ版ではこの「二都物語」のあらすじが物語の鍵になっている。2人の男が1人の女を愛する物語。しかし、共通点、鍵はそれだけではなかったことが読んでわかりました。脚本の三谷幸喜さんはそれをわかってワトソンが「二都物語」を読んでいる、というのを入れたのだろうか…。
 あと、最初手にした時は結構ボリュームがある本を、15歳のワトソンが愛読しているとは…と思いましたが、読んでみてわかる気がしました。
・詳しくは:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 赤毛クラブの謎
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by halca-kaukana057 | 2015-04-23 23:12 | 本・読書

[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ こわい先生たちのヒミツ

 テレビの人形劇本編放送は終わりましたが、ノベライズはまだ完結していません。人形劇「シャーロックホームズ」のノベライズ4巻です。

・1巻(1~3話収録)感想:[NHK人形劇小説版]少年シャーロック ホームズ 15歳の名探偵!! +NHK人形劇版
・2巻(4・5話収録)感想:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 赤毛クラブの謎
・3巻(6~9話収録)感想:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 消えた生徒たち

【4巻収録の人形劇本編感想】
・第10話「失礼な似顔絵の冒険」:見えているもの、見えないもの、見せないもの 人形劇「シャーロックホームズ」第10話
・第11話「まだらの紐の冒険」:15歳ホームズに足りないところ 人形劇「シャーロックホームズ」第11話
・第12話・13話「バスカーヴィル君と犬の冒険」
 どちらが本当?どちらが嘘?ワトソンの冒険 人形劇「シャーロックホームズ」第12話
 すれ違う想いの着地点+踊る人形暗号の謎 人形劇「シャーロックホームズ」第13話


少年シャーロック ホームズ こわい先生たちのヒミツ
アーサー・コナン・ドイル:原作/三谷幸喜:番組脚本 / 時海結以:著/千葉:絵/集英社・集英社みらい文庫/2015

 3巻で表紙にワトソンが加わりましたが、4巻はメアリー・モースタンとアガサも!女の子2人、可愛い!!
 上述の通り、第10話「失礼な似顔絵の冒険」、第11話「まだらの紐の冒険」、第12話・13話「バスカーヴィル君と犬の冒険」(前後編)の4話収録。3巻に続き4巻でも前後編を収録しているのは嬉しいです。あと、10話「まだらの紐」は先行放送の6回。先行放送で昨年夏に観て、ようやく小説化されました。待ってました。4巻の副題が「こわい先生たちのヒミツ」。まさに、ビートン校の怖い先生たちの内面が伺えるお話が、10話と11話に。
 今回も、人形劇本編の加筆、詳しい描写や追加シーンで物語をよりたっぷりと楽しめます。セリフへの加筆もあります。

 10話「失礼な似顔絵」。学園一怖いと噂されるミルヴァートン先生を、生徒たちが非常に怖がっている描写が伝わってくる。パイクも、レストレードも。ホームズも最初ベッポから依頼された時は顔色を変えた。ワトソンは転校生で、ミルヴァートン先生の授業も受けていないので、聞いた話でしかミルヴァートン先生のことを知らない。鞭を持って生徒を有無を言わさず叱る怖い先生、とだけ。だからこそ、ミルヴァートン先生に立ち向かった。
(ホームズ、それでいいの?何も手に入れずに引きさがるなんて…)
ホームズでも、こわくて、しっぽをまいてにげ帰るってことが、あるんだろうか。
そんなんじゃ、事件は解決しない。
みんな、ミルヴァートン先生を嫌ったまま……何も、解決しない。
ぼくのむねのおくに、小さな怒りが生まれた。何に対して怒っているのか、うまく言えないんだけど、とにかく、このままじゃだめだって思う。
(43ページ)

 ワトソンの怒り。温厚で優しく寛大なワトソンが怒るなんてことはあまり無い。ミルヴァートン先生がどんな先生なのかをアガサから聞いて知り、実際に接してみて、何かをしなくてはと勇気ある行動を起こすスイッチが入った。おそらく、ビートン校に来てから、初めての怒りだったのではないかと思う。1話でベッポに冤罪を被せられた時も怒ってはいたけど、その時はそれよりもホームズが助けてくれたことに重きを置いている。今回はこのワトソンの怒りからの行動が、ミルヴァートン先生を、そしてホームズをも動かすことになる。事件の翌日の221Bでのホームズのセリフ
「…どうやら、人間は、ぼくが思っている以上に、『奇妙』で、『複雑』な生きものらしい。それがわかっただけでも、収穫はあった」
(65ページ)

 本編を観た後、これはミルヴァートン先生とアガサのことだと思っていたのですが、ワトソンのことも含んでいるのだろうな、と。ホームズも、ワトソンがあの時思ったように簡単に諦めるつもりじゃなかった。
 10話は、このミルヴァートン先生とのシーン以外は、ギャグ回になってて読んでて何度も笑いましたwベッポの描いたホームズとワトソンの似顔絵を見た2人の反応のシーン。ワトソンのあの「下膨れのおっさん」の似顔絵を載せ爆笑しているホームズのイラスト、ホームズのこんな表情は初めてです。だが、ホームズの似顔絵を載せないのは意図があってですかwワトソンだけwアガサと鉢合わせしたシーンも、かなりコミカル。そして、最後、221Bで勝手に朝ご飯を食べるアガサに怒って椅子を持ち上げるホームズに、ワトソンが…そんなところで元ラガーマンスキル発動しなくていいからwその後のオチもお決まりですwドリフのコントみたいだな(対象年齢のこどもたち、10代の若い子たちはわかるかなぁ…w)

 11話「まだらの紐」、ようやくノベライズで読めた!(2回目)ストーナー先生の描写がいいです。ストーナー先生素敵です。このノベライズは「ホームズ」正典と同じくワトソンが書き手、語り手の、ワトソン視点。だからこそ、ロイロット先生との火かき棒対決を読みたかった。ワトソンはどう思っていたのか。ホームズは出来ると信じているからこそ、火かき棒をワトソンに渡した。その信頼に応えなければ!と力を振り絞り、元に戻した棒をロイロット先生に突き出した。これは本編にはないシーン。ワトソン、カッコイイ!
 ロイロット先生の自白のシーン…本編で観ても切なかったのですが、文章で読むとさらに切ない。
「だろうな。だから、お前はダメなんだ」

このロイロット先生の言葉に象徴される、ホームズに足りないもの…人と心を通わすことには興味が無い。わかろうとしない。人間の心理には興味はあっても、実際目の前にいる自分に関わりのある人が何を思って、誰にどんな想いを抱いて、その想いをどうしたいのか…現実の人間の感情の動きには深く立ち入ろうとしなかった。人形劇本編を観た後、そんなことを思ったのですが、ノベライズ10話、11話を読んでいると、ホームズはかなり人の気持ちに配慮して行動しているところが伺えます。ミルヴァートン先生がホームズとワトソンを見逃してくれたこと、沼毒蛇に襲われたシャーマンを助けたマングースのロイロット先生のことを「通りすがりのマングース」と表現したこと。出来ないわけではないけれども、推理に夢中になっている時はダメということか…?成長の途中なので、ムラがあるということか…?そういうことにしておきます。
 ストーナー先生の研究室で、人形劇本編ではワトソンが実験器具を物珍しげに見ていましたが、ノベライズは…ホームズがそれ以上にノリノリでしたwだよなぁ、221Bには実験道具がたくさんある。化学実験好きのホームズが惹かれないわけないよなぁw

 12話・13話「バスカーヴィル君と犬」。心を通わす、というテーマがここでひとつの点に着地します。ヘンリー・バスカーヴィルが靴下を探していたシーンが、バスカーヴィルの部屋でもなく一体どこなのか不思議に思っていましたが、ノベライズで詳しく書かれていました。ワトソンが拾ったモンスタードッグの毛が何故光っていたのかも、ちゃんと答えが出されています。本編では伏線回収しないまま終わっちゃったからなぁ。
 メアリーとバスカーヴィルの関係を気にし、メアリーへの想いが通じて欲しいとアピールするワトソンですが、どんな行動からもメアリーの優しさや心遣いを汲み取り、メアリーの幸せを願う姿が本当に一途です。そして、やっぱりワトソンは話を盛っていましたw
 4巻のワトソンは、自分の気持ちに正直に行動している。ミルヴァートン先生とのことも、沼にはまったステイプルトンを助けようとするシーンも。事件のことに深入りしないでと言ったメアリーも含めて、辛い思いをしている人を放っておけない。目の前で困っている人がいて、力になれるのならなりたい。そんなワトソンの感情と行動が一致し、力になって表れるのが13話のステイプルトンを助けるシーン。
 一方のホームズは、やはり考えて行動するタイプ。考えて行動したいのに、それを妨げられた時、ホームズも感情的になってしまう。ベインズが仕掛けた暗号をアガサは解読してしまい、ホームズは解読できなかった。ベインズの行動とネチネチとした態度、アガサの無邪気さは、ホームズが考えた行動の想定外。でも、アガサに冷たく当たってしまったことは後悔していて、仲直りしたい。ホームズが心を通わすこと、自分から折れることが出来るようになったのは、本当に大きな成長です。このシーンは、ワトソンは見ていないので、ワトソン視点ではどのように描かれるかと思っていたのですが、そう来ましたか。

 この12・13話、残念なのが「踊る人形」暗号部分の記述。黒板に暗号が書かれ、それをじっと見ているホームズとアガサのイラストのところでしか、暗号を見ることが出来ない。「E」の暗号がどの暗号なのかが本文を読んだだけでははっきりとわからない。本編にあったとおり、暗号の一部が強い筆跡で書かれているはずなのに、イラストではそのように書かれていない。暗号解読のシーンでも、日本語訳だけセリフで書いて、どの暗号がどのアルファベットに対応しているのかわからない。正典(原作)「踊る人形」の表記のようにしてほしかった。あくまでテレビで放送されたもののノベライズですが、テレビで放送されたものを観ないと暗号のことがよくわからないとは…。小説でよりじっくり味わいたいなら、これは逆効果では…。児童文庫なので、英語を載せるわけにもいかない…いえいえ、児童文庫・児童向けの訳の「ホームズ」正典の「踊る人形」では、一般向けのものと同じようにどの暗号がどのアルファベットを意味しているのか、英文もちゃんと記述しています。この人形劇はアレンジはしてありますが、正典に沿った物語になっている。「踊る人形」暗号も正典と同じ。だからこそ、ノベライズでも正典と同じように表記して欲しかった。英文は今はわからなくても、後で英語を習った時に思い出したり、「踊る人形」原作を読んだ時に同じだと気がつけるように。英語を学んでいる10代の子たちにはいい勉強にもなると思う。勿体無い。ここがとても残念です。

 4巻には、パペットデザインの井上文太さんのイラストが載っています。よかった、復活して。

 5巻はいつ出るのだろう?3月にも出るだろうと思ったらなかった。次の巻に14話~18話最終話まで載せるのかなぁ?
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by halca-kaukana057 | 2015-02-23 22:23 | 本・読書

[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 消えた生徒たち

 人形劇本編の感想に続けて、人形劇ノベライズ3巻の感想を。人形劇「ホームズ」三昧です(正典、他の映像作品も楽しんでますよ。ちなみに後日書きますが、正典全60編読了しました!)

・1巻(1~3話収録)感想:[NHK人形劇小説版]少年シャーロック ホームズ 15歳の名探偵!! +NHK人形劇版
・2巻(4・5話収録)感想:[NHK人形劇ノベライズ]少年シャーロックホームズ 赤毛クラブの謎

【3巻収録の人形劇本編感想】
・6話「生真面目な証人の冒険」:ホームズを観察せよ、もしくはホームズ操作術 人形劇「シャーロックホームズ」第6話
・7話「イヌ語通訳の冒険」:論理的事実か幻想か 人形劇「シャーロックホームズ」第7話
・8・9話「愉快な四人組の冒険」
 恋するワトソンは前途多難? 人形劇「シャーロックホームズ」第8話
 事件に流れる不協和音、調和の終止? 人形劇「シャーロックホームズ」第9話

少年シャーロックホームズ 消えた生徒たち
アーサー・コナン・ドイル:原作/三谷幸喜:番組脚本 / 時海結以:著/千葉:絵/集英社・集英社みらい文庫/2015

 表紙はホームズ、ワトソン(ようやくワトソンのカラーイラストが!)、トビィ。可愛い。
 上記の通り、6話「生真面目な証人の冒険」、7話「イヌ語通訳の冒険」、8・9話「愉快な四人組の冒険」を収録しています。「愉快な四人組」は前後編なので入るかな?と思っていたのですが入りました。
 以前も書いた通り、人形劇本編とあらすじは同じです。でも、ノベライズは正典と同じくワトソンが執筆・語り手で完全ワトソン視点。人形劇本編にはない追加シーンや、詳しい描写も加えられています。

 人形劇本編は1話20分(実質それより少ない)。なので、どうしてもカットせざるを得ない描写や台詞、シーンが出てきてしまう。それを補うかのようなノベライズ。しかも、正典(原作)と同じようにワトソンが執筆・語り手の小説・物語であるところがいい。正典「白面の兵士」(「事件簿」収録)で、ワトスン(正典表記はこちらで)の小説的描写が気に食わないと言ったホームズに対して、ワトスンは「だったら自分で書けよ!(意訳)」と怒ってしまった。そこでホームズが自分で書いてみるのだがうまくいかない、やっぱりワトスンでないと…というのがあります(詳しくは正典で)。話はそれましたが、設定が15歳の学園もの、しかも人形劇の「ホームズ」でも、やっぱり執筆・語り手はワトソンだからこそ「ホームズ」なんだな、と感じます。

 6話から9話までは、新たな主要登場人物も登場し、ビートン校をめぐる物語の世界がまた深くなります。
 6話、レストレードとベインズ。思えば、レストレードは1・2話で登場した後、この6話まで登場していなかった。ノベライズ1巻では真面目で成績優秀な生徒が選ばれるという生活委員のレストレードが、ユーモラスな面もあり、数学のテストが5点だった…というのについてもワトソンのフォローが入ります。そしてベインズ。ベインズに対して、ホームズがどんな態度、心境でいたのかワトソン視点で語られます。ホームズの表情、視線、態度をよく観ています。観察することが大事、とホームズは言っている、特にこの3巻の6・7話では強調されることですが、ワトソンはホームズをとてもよく観察している。僅かな眼の動きも見逃していない。ワトソンも観察することを大事にしている、というわけだ。人形劇本編ではコミカルな演出になったベインズの推理劇場も、文章で書かれるとまた違う味わいになる。ラストは本編とは少し変えてあります。追加されたワトソンの想いが、今後を物語っているな、と感じます。
(遠くから観察しているよりも、直接関わるほうが、人間がわかることだって、あると思うな。ホームズは、いろんな感情を、知ったほうがいいのかもしれないよね)
(59ページより)

 しかも、観察することにかけてある。

 7話はマイクロフト。本編でもマイクロフトとシャーロック、ホームズ兄弟の仲、マイクロフトがしたことが強調され、暗い影を落とす回になりましたが、ノベライズではホームズ兄弟の心の溝、確執がより際立って描かれています。マイクロフトに対して、かなりよそよそしかったシャーロック。ここでもワトソンのホームズの僅かな変化もしっかり観察し捉え記録する力が発揮されています。そして、イヌ語を話せる人間など存在しないという事実から、事件をもみ消すマイクロフト。あがなえないシャーロック。事件後、シャーマンの飼育小屋の前でのシャーロックの言葉に本編を観た後で絶句したのですが、同じように絶句したワトソンに対してのシャーロックの反応が…本編以上に辛い。親友のワトソンにもどうにもできないものを、シャーロックは抱えている。だからこそ、その後のシーンは爽快でした。
 7話の本編の感想で、目隠しされて連れ去られても脅えたりか弱く振る舞ったりしないシャーマンを肝が据わっていると書いたのですが、実際のシャーマンは怖かった。怖いけど、強く振る舞っていたのか…。こんな心境が読めるのもノベライズのいいところ。

 8・9話は歌が鍵となる回なので、音楽が流れない本はちょっと不利?いいえ、本だからこそできる表現、そして聴覚からの情報は無くても、想像力でカバーすることだって出来ます。本編は視覚聴覚で、本は文章で、表現できるものがあります。8話のあるシーンが前袖にカラーのイラストがあります。可愛い。
 8・9話は依頼人のメアリーに一目惚れして、かっこよく見せたいけれども空回りしているワトソンを応援したくなりますが、屋根から落ちるシーン(ワトソンだけでなく)やラングデール・パイクから買った塗り薬などの詳しい描写に、本編だけではわからなかったことになるほど!と思いながら読んでいました。アドラー先生再登場のシーンでも、何かをかじっていたのは本編でわかったのですが、はっきりと何かはわからなかった。明記されています。
 自白のシーンでも、ホームズのこの台詞が気になっていたのですが、
「ボクらは敵じゃない。あなたがどんなにくやしい思いをしたか、だいたいわかっているつもりです」
(190ページ)

この「くやしい思い」がどれほどのものか…本だとじっくりと味わえます。そして、「あなたは宝物」の本当の意味、メアリー宛の差出人不明の絵葉書の謎の解決…これは、ワトソンにとってはショックだったんじゃないのか、と思っていたのですが、本編でもワトソンは微笑んでいた。ノベライズでは更に詳しい心境が語られています。ワトソン、本当に君はいい子だ…なんて優しくて素直で寛大なんだ…!
 その後のシーンは…その余韻ぶち壊しの本編では爆笑のシーンでしたが、文章で読んでも酷かったw「もはや、暴力だ!」これを読めて嬉しいですwしかも、ワトソンがこんなところで元ラガーマンスキルを発動していたり、ホームズが本編とはちょっと違う行動をしていたり、今日も平和な?221Bな描写でした。
 あと、ジョニーが見事なテノールの持ち主、と表記されていて、声楽をやっている身としては嬉しい表記でした。

 正典の特徴がもうひとつありました。物語の冒頭では、221Bでのホームズとワトスンの何気ない会話や行動が描かれることが少なくないのですが、人形劇ノベライズでも各物語の冒頭は、221Bの何気ない情景が描かれます。ワトソンは宿題や勉強をしている。一方、ホームズは相変わらず奇妙な実験をしている。化学実験に限らないところが面白い。「愉快な四人組」冒頭の実験は、わかっていても、文章で書かれると余計どんなシーンかは想像するしか無く、怪しい雰囲気で…大丈夫です。児童書ですから、すぐにネタばらしされます。

 ノベライズのお楽しみはイラスト。パペットのキャラデザを周到しつつ、アニメ調で子どもたちや若い子たちにも親しみやすく。レストレード、シャーマン、メアリーのイラストは見たかった。ベインズ、マイクロフト、ショルトー兄弟はどうなるかなと思っていましたが、うまいことアレンジしているなぁ。ロイロット先生も。
 2巻までにはあった巻末の人形劇本編の説明は無くなりました。井上文太さんのスケッチ画も載っていたのですが、3巻からはそれも無くなってしまった。残念です。

 ちなみに、この3巻は発売日は1月5日だったのですが、年末年始の書店の入荷の関係で、12月末に入手することが出来ました。twitter経由で教えていただきました。ありがとうございます。
 4巻は来月、2月5日発売です!

少年シャーロック ホームズ こわい先生たちのヒミツ (集英社みらい文庫)

コナン・ドイル / 集英社


 月一発売ですかwもう表紙も公開されています。メアリーとアガサが可愛い!
10話「失礼な似顔絵」、11話「まだらのひも」、12・13話「バスカーヴィル君と犬」の3話を収録とのこと。おお、4巻も前後編のバスカヴィル回を入れてくれるのか。嬉しいなぁ。ノベライズはおそらく全6巻になりそうです。
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by halca-kaukana057 | 2015-01-15 22:24 | 本・読書

冬虫夏草

 久しぶりに梨木香歩さんの小説を。昨年出版されたのをようやく読めました。


冬虫夏草
梨木香歩/新潮社/2013

 駆け出しの物書き・綿貫征四郎は、亡き友・高堂の家に住んでいる。その家や家の周りには、様々な動植物が生き、棲み、それらに囲まれて綿貫は仕事をしていた。
 飼い犬のゴローが、何日もの間帰ってこない。綿貫は学生時代の友人で菌類の研究者である南川に相談する。また、編集者の山内から、ゴロー探しに行こうと思っていた山・鈴鹿の山にイワナの夫婦が宿屋を営んでいるという話を聞く。興味を持った綿貫は、ゴローを探しに山への旅に出る。

 以前書かれた「家守綺譚」の続編です。連載されているという話は聞いていて、書籍化されないかなぁと待っていました。よかった、単行本化されて。綿貫と、亡き友・高堂、そして綿貫の身の回りの自然が静かに、でも活き活きと描かれるのは変わらず。「家守綺譚」の続編なので、ここ数年の梨木さんの作品は様々な方向に広がっていてそれも面白かったのですが、初期の雰囲気に戻った感じがして、これも梨木作品の面白さだなぁと思いながら読んでいました。

 ただ、今回は綿貫が旅に出ます。旅先でも、やはり綿貫の周りには不思議なものが集まってくる。山の中ということで、「家守綺譚」よりももっと深い自然を感じます。その自然を尊び、崇める山の人々。植物にも、水・川にも、生き物にも…全てのものに「生命」を見出し、慈しむ。その慈しみ方はちょっと奇妙なところもあり、綿貫の視点を通すと滑稽でもある。でも、自分も含めて全てが自然、「生命」である、という見方なんだろうなぁ。「家守綺譚」は、「村田エフェンディ滞土録」と繋がっている物語なのですが、この「冬虫夏草」でも、「村田エフェンディ~」で出てきたあるものが出てきて、ああ、ここに繋がるのか!と納得しました。

 それにしても、ゴローも不思議な存在だ。様々な生き物や不思議な存在たちを結びつけたり、現実と非現実の境目のようなところにいて、行き来しているような。この物語は、綿貫がゴローを探しているというよりも、ゴローが綿貫を不思議な世界に導いている、と読んだほうが面白いかもしれない。

 「冬虫夏草」というタイトルも不思議だ。幼虫のうちに菌糸に感染し、内部で増殖、冬場は虫として活動しているが、サナギになる夏になると体表を破って菌糸が外に現れる。動物だったものが、植物になる。ただ、「生命」であって、動物か植物かの分類が通用しないこともある。梨木作品の、この境界の曖昧さがとても好きです。ただ、ラストの綿貫が感じたことはわかる。大自然の中にいて、私もその自然を満喫しているけれども、自分は「その向こう」には行けない。ただ、感じることしかできない。それが、自然への畏敬なのかなぁ。

 「家守綺譚」、「村田エフェンディ滞土録」を読んでない方は、まずこの2作を読んでからどうぞ。
【過去感想記事】
家守綺譚
村田エフェンディ滞土録
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by halca-kaukana057 | 2014-10-15 22:26 | 本・読書


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