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日日平安

 久しぶりに山本周五郎を読みました。時代物をしばらく読んでいなかったので、最初は時代物の雰囲気や言葉遣いに慣れませんでしたが、やはり山本周五郎、物語、人間の生きる世界に引き込んでくれます。


日日平安
山本周五郎/新潮社・新潮文庫

 井坂十郎太は江戸に行く途中、切腹しようとしている菅野平野という男に出会う。菅野の切腹しようとした理由に呆れつつも、何故か井坂は抱えていた藩の騒動を菅野に話す。そして、井坂と菅野はある作戦を立て、藩を救おうとする…「日日平安」他、橋本佐内に死罪を言い渡した井伊直弼と佐内の家族を描いた「城中の霜」、徳川光圀と彼の元にやって来た貧しげな浪人を描いた「水戸梅譜」、他全11編の短編集。

 「城中の霜」、「水戸梅譜」、「日日平安」などの歴史上の武家もの、「嘘アつかねえ」「しじみ河岸」「橋の下」などの人情もの、「屏風はたたまれた」の不思議もの。「末っ子」は下町もので実に滑稽でうまい。どれも読ませます。どんな身分の人も、人間である、ということをしっかりと描く山本周五郎の文章、物語には感服します。「若き日の摂津守」は武家もので不思議ものにも読める。光辰(みつとき)の戦略の巧みさに圧倒されました。

 江戸時代を描いた作品なのですが、どこか現代に通じるものがあるとも感じました。「しじみ河岸」のお絹の嘆きは、介護に疲れた現代人の嘆きと変わらない。胸が締め付けられる。「嘘アつかねえ」の信吉は下流社会に生きる者のような。「橋の下」も。"理由あり"で、橋の下でしか生きられなくなった男。その男の言葉は、現実にあるものだと思う。
「この橋の下には、人間の生活はありません」
「こういうところで寝起きするようになってからの私は、死んだも同然です、橋の上とこことはまったく世界が違いますが、それでも私には橋の上の出来事を見たり聞いたりすることはできます、世間の人たちは乞食に気をかけたりしませんし、もうこちらにも世間的な欲やみえはない、ですからどんなこともそのままに見、そのままに聞くことができます、いいものです、ここから見るけしきは、恋もあやまちも、誇りや怒りや、悲しみや苦しみさえも、いいものにみえます」
(355ページ)


 そしてどの話も、ラストが何とも言えない。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない。まだこれから、その人の人生は続いていくのだと思う。たとえ何が起こったとしても。確かにそうだ。生きるということは、ハッピーエンドの小説のようになることはまずない。バッドエンドだったとしても、そこが本当に終わりだろうか。「ほたる放生」のような切ない一区切りはあっても、そこからどうなるのかはわからない。生きるということのひとコマを切り抜いて凝縮させた小説の数々。ひとコマだけだから、小説になるのかもしれない。そのひとコマをうまく見極める山本周五郎。うまい。本当にうまい。

 木村久邇典氏の解説の冒頭で、山本周五郎の言葉が記載されています。
「もし君があと数年たって、私の作品を読返してくれるならば、きっと現在読んで感じたものとは別な広がりを発見してくれるだろう。私の作品にはそれだけのものは含まれていると思うんだ」

 山本周五郎も他の作家の作品を読んでそう感じていたのだろうか。そんな作品を書きたいと常々思っていたのだろうか。何年も前に読んだ作品、そしてこの「日日平安」もまた読み返したい。その時、私はどう感じるだろうか。
 ちなみにこの解説、昭和40年(1965年)のもの。初版の解説から変わっていないのが嬉しい。「本当は単行本で買いたいのだが、私のサラリーではイタいので廉価版の出るまで待ちます」という読者の声も記載されている。全く同じです。私も単行本だと高いし、加筆修正もあると思うので文庫本を待つことが多い。50年前から変わってない!リアルタイムで山本周五郎の作品を読んでいた人々の声も読めて嬉しいです。50年前というと結構前のようで、最近のようで…不思議です。
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by halca-kaukana057 | 2016-02-10 23:39 | 本・読書

小説 日本婦道記

 山本周五郎作品は、入院中も読んでました。


小説 日本婦道記
山本周五郎/新潮社・新潮文庫

 千石の食録をとる武家の藤右衛門。彼の妻であるやす女は病に伏せ、息を引き取った。通夜は半通夜にして、夜は仏間には息子たちしかいないはずなのに、読経の声が聞こえてきた。読経をしていたのは…。そして、藤右衛門が知った妻の生活ぶりとは…を描いた「松の花」他11編が収められています。

 どの作品も、武家で暮らす娘や妻、姑など女性たちを描いています。武家の暮らしは、上級であっても厳しい。城主の死などで突然仕えていた藩が取り潰しになり、行き場を失ってしまったり、武士同士のいざこざに巻き込まれることもある。大きな事件が無くても、定めの多い武家で暮らすのは容易ではない。そんな武家で、夫や子ども、主君のために力強く、優しく、りりしく生きる女性たちが美しい。

 自害した夫の遺志を継ぐため、そして息子を立派な武士に育てるため懸命に働く「みよ」を描いた「箭竹(やたけ)」。突然離縁されたものの、離縁されても嫁ぎ先が自分の家であることには変わりは無い。正体を隠し姑を見守る「不断草」。そして最後に収められた「二十三年」には、誰かを慕い自身を捧げることへの想いの強さと哀しさを感じずにはいられませんでした。

 どれも、歴史の表舞台には立たない女性たちの、いつもの暮らしを描いています。何か困難があっても、信念を貫いて乗り越えてゆくのも日常であるかのよう。日常なのだと思います。男性だから…女性だから…という言葉を耳にすることがよくありますが、この作品を読んでいると性別は関係ないと思った。性別は身体的・社会的・精神的に与えられた役割であって、人はその役割の中で何を信念とするか、何を成し遂げたいのか、どう生きていたいのかを貫くことが、本当に大事なことなのではないかと。そして、その生き方を貫いている人は、時代が異なっていても美しく、カッコイイ。この本のどの女性たちも凛としていて、現代的に言うと「カッコイイ」です。

 ちなみにこの作品、第17回直木賞に推されるも、周五郎が辞退したことで有名です。直木賞を辞退したのは、後にも先にも周五郎だけ。選考委員の菊池寛と仲が悪かったからという説もあるらしいですが、読者の声こそが賞だという内容のことを言って辞退したのは、周五郎らしいと感じます。
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by halca-kaukana057 | 2010-05-04 22:51 | 本・読書

悩みは同じ…?

 エキサイトブログには、簡易なアクセス解析が付いています。しっかりとしたアクセス解析ではないのですが、詳しい解析にはあまり興味がないのでこの程度でいいかなと思っています。検索ワードも、月ごとにトップ10まで集計・表示されます。(検索ワードは30位ぐらいまで表示してほしいとは思う)月ごとの集計なので、月初めにはちょっと珍しい検索ワードが集計されます。見ていると結構楽しいです。

 で、今月の月初め検索ワードで、こんな言葉で来た方がいらっしゃいました。

弾きたい曲がない


 しかも3件も。弾きたい曲がない…。悩みは皆同じか…。私の場合、弾きたい曲はあるけどまだレベルが高く、その弾きたい曲にたどりつくための足がかりとなる弾きたい曲がないのですが。皆悩んで、迷って、それでも鍵盤の前に座って楽譜を見つめる。自分の音を聴く。同じなんだなぁ。どこの誰だかわからないけれども、またこのブログを訪れてくれるかわからないけれども、もしこの記事を見たら一言言いたい。一歩一歩進んで行こうよ。ピアノの道は長くて険しくて、私もつまづいて立ち止まって後ろを見てばっかりだけど、やっぱりピアノは好き。音楽が好き。それぞれ目標は違うけれども、ゆっくり進んで行こうよ。

 ソナチネ7番第1楽章は、自分用に動画を撮って観直しつつ、練習中。丁寧に落ち着いて弾いたつもりでも、動画を観直してみるとバタバタ落ち着かない演奏になっていてがっかり。ロマン派とは異なる、古典の音の長さや雰囲気はだんだん理解出来てきたので、指がもっと回るようになればなぁ。出来ることから少しずつ。

 そんな中、ブルグミュラー25おさらい「清い流れ」をスローで弾くと癒されます。ゆったりと流れる小川のよう。実際はかなりの速度なのですが、速度を上げると大変なことになるのでまだゆっくり、美しく演奏できるように練習中です。

 さて、私の弾きたい曲はどうしよう。あることはあるんだけど、挑戦できるかな、していいのかなと思って決断出来ずにいる。ゆっくり決めようっと。



 ちなみに、そのほかの検索ワード。
寺田寅彦 顔文字 手紙

 寺田寅彦の随筆については書いたけど、顔文字?寺田寅彦のAA(アスキーアート)でも探しているのか?(ずいぶんマニアックなAAだなぁ…)そして手紙って何だろう?

山本周五郎 おすすめ

 おお!山本周五郎を読みたいのですな。周五郎はいいですよ~。周五郎作品をそんなにたくさん読んだわけではないですが、私のおすすめは、「ながい坂」。何があってもしぶとく生きる主人公がカッコいいです。男前です。「樅ノ木は残った」もいいですね。「寝ぼけ署長」も現代ものですが、周五郎作品のよさがギュッと詰まっています。
 短編なら「松風の門」収録の「鼓くらべ」。音楽をやっている人なら是非是非。
 周五郎作品を初めて読む方なら、「さぶ」「赤ひげ診療譚」を。
 名言集「泣き言はいわない」で気になった言葉から、読みたい作品を探すのもいいと思います。私もその最中です。
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by halca-kaukana057 | 2009-10-02 20:07 | 奏でること・うたうこと

雨のみちのく・独居のたのしみ

 これまで山本周五郎は小説ばかりを読んできましたが、たまにはエッセイも読んでみたくなった。

雨のみちのく・独居のたのしみ
山本 周五郎/新潮社・新潮文庫

 「樅ノ木は残った」の取材のために宮城・山形を旅した「雨のみちのく」や、「青べか物語」の舞台である浦粕を30年ぶりに訪れた「三十年後の青べか」、日常のことや食事のこと、家族と離れての独り暮らしのこと、世相・社会・町に生きる人々のことなどが描かれている。既に読んだ「樅ノ木は残った」「青べか物語」といった山本周五郎の小説にはこんな背景があったのだなぁと感心しつつ読みました。まだ読んでいない「虚空遍歴」や「季節のない街」に関する文章もあったので、これを手掛かりに読んでみようと思う。

 山本周五郎の日常生活について読めるのも興味深かった。家族は居るけれども独り暮らしをしていた周五郎。独り暮らしの気楽さや、自炊生活のこと、好きな酒のことがユーモアも交えて語られる。これまで読んだ小説が、どんな環境で生まれたのか、どんな想いで執筆していたのかがうかがい知れて興味深い。「曲軒」とあだ名されたこともあり、私は周五郎はもっと堅い人だと思っていた。ところが、エッセイにはユーモアも溢れているし、「旅館について」では、旅館で迷い自分の部屋へ戻れないまま大部屋でのんだくれた話まで。周五郎の作品が人間味に溢れているように、周五郎自身も厳しくも人間味に溢れる人だったのだろう。

 読みどころはⅢ章。年末の町の様子、人々の様子を描いた歳末随想。さすがは周五郎。暮れの庶民の様子を事細かに描いている。年末は新しい年への希望もあるけれども、借金の取り立てなど、苦しい面もある。この随想が書かれた昭和30年代は戦後の高度成長の時代。景気は良くなり、人々は豊かになっていったが、それが全てではない。苦しむ人もいるし、豊かになれない人もいる。そしてその後の不況。そんな人々への視点は、周五郎ならではだと思う。この本の最後に収められた「人生の冬・自然の冬」は、大不況と呼ばれる今に通じるものがあると思う。少し引用します。
 いまさらのようだが、人間の生活には波があって、好況があれば必ず不況がある。好況のときにはスポーツ・カーなどを買って乗り廻したり、キャバレーで金をばらまいたりする。そして不況、倒産となると、すぐに一家心中とか自殺にはしってしまう。もちろん、そこに至る経過は単純ではなく、多くの複雑な因果関係が絡みあっていることだろうが、自分が苦しいときは他人も苦しいということ。その苦境は永久的なものではなく、いつか好転するということをなぜ考えられないのだろう。
(212ページ)

どんなに産業がマンモス化しマスプロ化し、ボタン作業が発達しても、人間の力がまったく不要になることはないだろう。社会はつねにあなたがたを求めているのだ。事業の失敗や失業は経験であって、絶対なものでもないし、社会関係との断絶でもない。時に離合があり対立があるかもしれないが、しかもあなたはまぎれもなく社会の一員であり、社会はあなたを求めているのです。
(212ページ)

 つまづいて転んだままのびてしまう人を見ると、見ている者までが脱力感におそわれる。これに反して、転んでも転んでも起きあがってゆく人を見ると、こちらまで勇気づけられる。これはどんな状態になっても人間はひとりではなく、いつも人間どうしの相互関係でつながれている、ということだろう。子供っぽいことをいうようだが、人間感情の本質的な面に触れようとすれば、哲学的であるより、子供っぽいすなおさをおそれてはなるまい。不況はなおも続くもようである。苦しいときほど人間がもっとも人間らしくなるときはない。お互いにがん張ってゆきましょう
(213~214ページ)


 苦しい時を生き抜くのは、たやすいことではない。この苦しみが他人にわかるものか…そう思い塞ぐこともあるだろう。でも、貧しい人々や豊かになれない人々を見つめ、時にともに暮らした周五郎は、彼らの暮らしが苦しみばかりではないことを実感している、それを文章にしている。引用した文章は少し厳しい内容かもしれない。私自身、はじめ読んだ時は厳しい言葉だなと感じた。弱気な時にはあまり読みたくない文章だとも感じた。でも、皆でいつか好転する日を信じて、起きあがって歩いてゆこう。そんな励ましの言葉と受け取りました。

 エッセイを読んで、山本周五郎の作品をもっと楽しめると感じました。
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by halca-kaukana057 | 2009-09-16 20:27 | 本・読書

松風の門

 以前ニコニコ動画にアップされていた山本周五郎名言集を観て、読んでみたいと思った本。
・以前の記事:山本周五郎のことばをそばに


松風の門
山本周五郎/新潮社・新潮文庫

 表題作の「松風の門」他、13の短編が収められています。武家もの、下町もの、滑稽もの、切なく哀しい恋物語、さらには現代ものまで幅広い。山本周五郎と言えば武家もの、下町ものというイメージがあったのだが、それだけではない。物語の幅がこんなに広かったのかと思い知った。

 13の作品の中で最も心に響いたのが、以前観た動画でも気になっていた「鼓くらべ」。
 江戸時代、小鼓の打ち手であるお留伊はある老人と出会う。旅の絵師だというその老人は、お留伊の鼓を聴きに彼女の家へやってくるようになった。その頃、お留伊はお城で催される鼓のくらべ打ちに出るつもりであった。そのお留伊に、老人は鼓くらべに関するある話をするのだが…。
 音楽とは、芸術とは何なのか。何のために存在するのか。そして、芸術家はそれをどう扱うべきなのか。とても考えさせられる。動画でも引用されていた、この部分。
すべて芸術は人の心をたのしませ、清くし、高めるために役立つべきもので、そのために誰かを負かそうとしたり、人を押退けて自分だけの欲を満足させたりする道具にすべきではない。鼓を打つにも、絵を描くにも、清浄な温かい心がない限りなんの値打ちもない。(中略)音楽はもっと美しいものでございます、人の世で最も美しいものでございます
(41~42ページ)

 趣味で細々とピアノを弾く自分にとって、とても重い言葉だ。演奏する側だけへの言葉ではない。聴く側に対しても、この言葉は重く響くと思う。鼓くらべに出たお留伊が、もう1人の打ち手の表情を見てこの老人の言葉を思い出したシーンが印象的だ。音楽や芸術は、勿論作品そのものが美しいから、人々を魅了するのだと思う。しかし、それだけでは足りない気がする。作曲家であれ演奏家であれ、芸術家たちのその作品に込めた想いや、作品に対する謙虚で、真剣で真摯な姿勢があってこそ、より美しい、人々を魅了するものになるのではないかと思う。演奏家が「音楽と一体になっている」という言葉があるが、まさにそのような。芸術を追求することの楽しさや喜びを感じられるような演奏をしたい…とこの作品を読んで強く思う。

 「鼓くらべ」のほかにも、魅力的な作品ばかり揃っている。「失恋第五番」はこの短編集唯一の現代もの。戦後間もない時代を舞台に、男たちのハードボイルドな生き方がとてもカッコよく描かれている。でも、主人公の千田二郎は仕事は出来ないし、ふられてばかりだし…。どこか人間臭いところがまた魅力的だ。「砦山の十七日」は極限状況に置かれた者たちがどうなるのか、サスペンス風に描かれていてドキドキする。一方、「湯治」は下町の家族の想いが細やかに描かれていて、最後のシーンではとても切ない気持ちになってしまった。

 山本周五郎の短編には、人々の生き様と感情がぎゅっと詰まっている。そう感じた13作品でした。
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by halca-kaukana057 | 2009-08-05 22:39 | 本・読書

山本周五郎のことばをそばに

 ニコニコ動画で、こんな動画を見つけた。

ニコニコ動画:山本周五郎名言集
*ニコニコのアカウントがない方ははてな経由で→こちらから

 山本周五郎の作品から、名言を集めた動画。動画作成者さんに感謝感謝。山本周五郎はもっと読まれていいと思うんだ。

 山本周五郎の言葉は、悩んでいる時に読むとグッと来る。生きることを長い目で見よう、今は辛いかも知れないけど耐えてみよう。諦めないでいれば、きっと、道は道は開けるから。そんな声が聞こえてくるようだ。
 今、私がまさにそんな状態にいて、少し前まで悩みの無限スパイラルに落ちこんでいた。山本周五郎が描く人間たちは、皆大きな困難を背負っている。それでも、人間を信じ、諦めたり自暴自棄にならずに、一歩一歩を大事にして歩んでいく。周五郎が描く人間たちの姿を見ていると、まだ大丈夫だと思える。

 この動画で取り上げられた言葉は、この本に収録されているものだそうです。そういえば私もまだ買ってなかった。山本周五郎作品のガイドにもなりそうなので買っておこうか。

泣き言はいわない
山本周五郎/新潮社・新潮文庫








 あと、山本周五郎名言集と言えばこれも。
山本周五郎のことば
清原康正/新潮社・新潮新書








 さらに、山本周五郎入門ならこの本をどうぞ。とってもわかりやすいです。
文豪ナビ 山本周五郎
新潮社/新潮文庫








 山本周五郎の作品は、まだまだ読みたいものが沢山ある。「虚空遍歴」あたり読んでみるかな。「松風の門」に収録されている「鼓くらべ」も気になる。長編だけでなく、短編にもいい作品が多いから、どれから読んだらいいか困るほど。ひとつひとつ読んでいこう。
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by halca-kaukana057 | 2009-05-30 22:23 | 本・読書

樅ノ木は残った

 久々に山本周五郎。この本は今年初めごろから読んでいたのですが、なかなか内容が飲み込めず非常にゆっくりペースで読んでいました。しかも、読了後もよくわからない箇所が幾つもある。なのでもう一度読む。二周目でようやく、この作品の深さ、面白さを味わえました。


樅ノ木は残った
山本 周五郎/新潮社・新潮文庫
画像・リンクは上巻。上中下の全3巻。


 万治3年、仙台藩主である伊達綱宗は、幕府から不作法の儀により逼塞(ひっそく)を申し付けられる。明くる夜、伊達家の藩士4人が暗殺される。この背後には、幕府老中・酒井雅楽頭(さかい・うたのかみ)と仙台藩主の一族である伊達兵部(一ノ関)との間に62万石分与の密約があった。さらにその裏には…。この動きを読み取ったのが宿老(のちの国老)である原田甲斐。藩内の悪評をも恐れず、伊達兵部の懐に入り込み、伊達家安泰のために独り奮闘する…。


 原田甲斐は、この「伊達騒動」を題材とした歌舞伎「伽羅先代萩」などでは、伊達兵部側に付いて極悪人とみなされてきた。しかし、山本周五郎はこの解釈を退け、原田甲斐を穏やかで簡単に物事に動じない人間として描いている。伊達家を守るために、仲の良い者たちをも退け、本心を隠して兵部の与党として振舞う。兵部と雅楽頭は次々と藩内で騒動を起こし、62万石分与のきっかけを作ろうとする。それに翻弄されず、じっと耐えて闘う原田甲斐の孤独と辛さは、並大抵のものではない。

 原田甲斐は、「伊達騒動」の前は皆に好かれる、寡黙で温厚な人物であった。身分に関係なく朝食に招く「朝粥の会」を催し、人の話を黙って聞いている。「朝粥の会」に来れば、どんな者も和やかな気持ちになり、原田甲斐になら何でも話せる…そんな信頼された人物であった。その原田甲斐も、「伊達騒動」を機に変わり始める。(お家のために見せ掛けではあるが)兵部の与党に付いたことで、藩内では悪評がささやかれる。暗殺を企む者も出始める。それでも、原田は黙って伊達家安泰のために奮闘する。表向きは兵部の与党で、あまり感情を表に出さないことから「何を考えているのかわからない」と見られる原田も、真実はどうだろうか。心の奥では何を抱えていたのだろうか。ひとりの人間の本質を見て、人間としての生き様を描くことをモットーとしていた山本周五郎らしい。

 「伊達騒動」で苦しい立場に立たされるのは原田甲斐だけではない。暗殺された藩士の弟である若者・新八。父が暗殺された藩士で、母も一緒に殺されてしまった少女・宇乃。この2人の生き方も読みどころ。特に新八の生き方・成長は希望を与えてくれる。紆余曲折あっても、苦しくても耐えて生きていれば、道は開ける。道を切り開いた新八には、拍手を送りたくなる。

 この作品を読んでいると、何かを成し遂げるために辛い状況で耐えることの辛さ、孤独感の重みを感じる。それでも、辛い時こそ焦らず、その時々の状況に振り回されず、冷静に判断してじっと耐える。慌てず取り乱さず、嵐が去るのを待つ。そんなどっしりと構えることの大切さを感じた。勿論、それは簡単に出来ることではない。原田も耐えてはいても、心の中では苦しんでいる。人間の強さと弱さは、紙一重なのかもしれない。

 とても長い作品ですが、途中で挫けずに読んで本当に良かったと思える作品でした。重みを持った言葉が何箇所もあって、何度でも読み返したい。ひとりの人間の本質とは何か。考えさせられる作品でした。





 ところで、「樅ノ木」と言えば、私はやはりシベリウスのピアノ小品「樅の木」op.75-5を思い出します。この作品を読んでいたら、シベリウスの「樅の木」のイメージも、原田甲斐(と原田が好きだった樅の木)のイメージになってしまった件。凍てつく銀世界に、一本の孤独な樅の木。どんな吹雪にも耐えている。低音の深い音が、原田の心の奥底に通じているように感じられてしまう。これ以上の妄想は、自分の中だけ、「樅の木」を練習する時にします…。
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by halca-kaukana057 | 2009-04-11 22:09 | 本・読書

寝ぼけ署長

 久々に山本周五郎を。

寝ぼけ署長
山本 周五郎/新潮社・新潮文庫

 とある地方都市の警察署の署長に就任した五道三省。彼はいつも署長室の椅子でぐうぐう寝てばかりいたため、「寝ぼけ署長」というあだ名を付けられていた。のん気で頼りないと思われていた署長。しかし、署長の側にいた者は語る。署長がどんな人間で、どんな仕事をしていたのかを。




 「寝ぼけ署長」なんて可愛らしいタイトル。だからのん気でおかしな警察署長と、その平和な日々を描いた作品かと思いきや大違い。山本周五郎唯一の探偵ものであり、山本周五郎だからこそ書ける作品だった。普段探偵もの・推理・ミステリーの類は読まないので、読みながら謎解きはせずに、とにかく物語を読んでみた。タイトルに反してとてもスピード感があって、キレがある。この作品で、街の人々や新聞記者たちは次第に署長のファンになって行くのだが、私も「寝ぼけ署長」のファンになってしまった。

 署長による爽快かつ温かい謎解きを読みながら、署長の犯罪や罪、人間に対する考え方に考えさせられることが多かった。人間が何故犯罪を犯すのか、犯してしまったのか。署長はその原因をしっかりと見つめている。目の前では「犯罪」が起こっている。でも、"何故"起こってしまったのか。犯人は、起こさざるを得ない状況にいたのかもしれない。事件の謎と共に、関わった人間の内面まで鋭く、温かく見つめる署長の人間に対する姿勢に、語り手であり署長の秘書的存在である「私」と共に頭が下がる思いだった。

 署長は、事件・犯罪、それから人間を目先のことだけでは考えないのだなと感じた。目の前にあるものや、現在と近い未来のことだけで考えない。目の前には無いもの、隠れて見えないもの、遠い未来のこと。そういうものを見通して、事件に立ち向かっていったのだと。作中の人々が事件を起こす際、必ず何かの理由があった。抱えている問題があって、それを何とか打破したくて事件を思いついた。その問題を解決して思い描く未来を迎えたいと思う一方で、そこに至る為の過程に大きな壁が存在する。その壁を壊すことだけを考えて、事件を起こす。その事件を起こした際の、どうしようもない感情をわかっているからこそ、署長は出来るだけ事件を起訴させない方法をとったのだろう。勿論、極悪人に対しては容赦しない。特に社会的弱者を経済的・身分的に追い詰める者は特に。ちょっと違うけど、「遠山の金さん」や「水戸黄門」を見ている気分。現代版「金さん」「水戸黄門」と言えるかも。


 やっぱり山本周五郎はいいなぁ。
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by halca-kaukana057 | 2007-12-23 21:59 | 本・読書

ながい坂




「ながい坂」(山本周五郎、新潮文庫)

 かなり前に買っておいたのだけれども、なかなか読む気にならず「積ん読」状態でようやく手をつけた。読み出すと面白くて、もっと早く手をつけていればよかったなと。少し前に朝日新聞で話題になったらしく、本屋でも平積みにされていた。周五郎の本が話題になっているとはちょっと嬉しい。


 下級武士の家に生まれた阿部小三郎は、いつも使っていた小さな橋が権力者の都合で取り壊されるという出来事を屈辱に感じ、勉学や武芸に励み平侍の子どもはなかなか入れない一級の藩校で学ぶ。その後藩主飛騨守昌治(ひだのかみまさはる)に信頼されるようになり、元服して主水正(もんどのしょう)と改名し大火事や孤児対策で手腕を発揮し異例の出世を遂げることになる。その後、昌治が計画した大堰堤工事の責任者に命じられ、工事を進めるが藩主継承争いや藩内の利害関係の中で工事は妨害され、主水正は命をも狙われる。様々な困難、そして孤独に耐えながら主水正は人生を歩んでゆく。

 主水正の有能さは勿論だけれども、苦悩する姿がより活き活きと描かれていて好感。そして、登場人物たちそれぞれの「人間らしい」生き方に魅力を感じた。江戸家老の息子でありながら侍を辞めた津田大五の言葉をちょっと引用してみる。

「善悪の問題ではありません人それぞれの性分でしょう」と大五は云った、「あなたはわが藩の中軸として、いや、云わせて下さい、あなたがどう思われようと、三浦主水正はこの藩の中軸であることには変りはない、つまり、あなたは江戸の狸店(たぬきだな)にいても、国許のこの新畠(あらはた)にいても、三浦主水正その人に些かの変りも無い、私はその枠を外れているんでしょう、侍の生活よりも町人、百姓のくらしびほうがよほど好ましいんです、人間はいちようではありませんからね」(下巻196ページより)


 また、昌治の藩の家老・滝沢主殿(とのも)の息子・兵部は、今で言うエリート教育を受けてきたにもかかわらず次期家老の暮らしなど窮屈だと感じ酒におぼれる生活を送ることになる。主水正一人に重点を置くのではなく、家族や昌治をめぐる武士たち、ライバルや主水正を支援する人々などどの人物においても彼らの生き方も否定せず理解しようという描き方がされているところに感服。主水正も武士であることに誇りを持ち、昌治の邪魔をするものや命を狙う刺客に怒りを感じ頭を悩ませる一方で、彼らの生き様や信条に思いをめぐらしたりもする。一つの考えに囚われてしまうことが私は嫌いだ。でも、よく知らない間に一つの考えに囚われてしまっている時がある。そんな時のことを思い出してはっとした。

 人生を長い坂だと考え、紆余曲折を経てより人間らしく生きようと模索する主水正たちの生き様に少し励まされたところもある。私自身、今現在物事があまりうまくいっていない状態にある。もう投げ出してしまおうとか、こんな苦労をするなら今の状態のままでもいいやと思ってしまうこともある。すぐには解決できない問題、この物語では藩主継承問題や大堰の工事などを解決するにも、途中でストップしてしまったり遠回りすることもある。でも、長い坂であるならばその混沌とした状態も時間はかかっても少しずつ解決に向かうとも思える。ちょうどいい本を読んだなと感じた。

 周五郎作品はまだまだ沢山。それを読むのも長い坂のようなもの?
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by halca-kaukana057 | 2006-05-27 21:49 | 本・読書

おごそかな渇き

「おごそかな渇き」(山本周五郎、新潮文庫)

 ようやく読み終わりました。かなり前から読んでいたのですが、なかなか進まなかった。歴史ものだからか?日本史は苦手なので。でも、日本史の知識がなくても十分楽しめるのは、山本周五郎のすごいところです。

 短編もの9作と絶筆となった表題作を収録。どの作品も、一般庶民の視点で人間の生き様を描いたもの。主君に全てをささげた武士の意思にがっちりと心をつかまれてしまった「ショウショウ十三年」(漢字が見つからなかった。申し訳ありません)。能力はあるのに不運な男とその妻の葛藤にドキドキしてしまった「雨あがる」。語り口調が楽しい「鶴は帰りぬ」。江戸時代のニート?とも言うべき主人公と彼の屋敷にいきなりやってきた謎の女との交流を描く「あだこ」。もうどれも面白い。

 一番気に入ったのは、過去に未練がある女がその未練のある相手と再会する「将藍さまの細みち」。女の「どうせ五十年前、五十年あと」という一言の言葉の意味・重さが分かった時、心をえぐられた感じがした。最後、女の決意がとても力強く、読んでいる私も勇気をもらえたような気がした。

 「おごそかな渇き」は完成されていたら物凄い作品になっていたと思う。とても残念。人間の本質を深く深く問うつもりだったのだろう。

 山本周五郎の作品を読んでいると、人間捨てたものでもないなと思う。小さな日常にも大きなドラマが潜んでいる。そこにスポットを当てるのが上手い。これからさらに読んでいくのが楽しみ。

《雑記》
 クインテットCDは明日届く模様。もう待ちくたびれました…。
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by halca-kaukana057 | 2005-12-09 20:12 | 本・読書


好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)

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