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青い海の宇宙港 春夏篇 秋冬篇

 久しぶりに川端裕人さんの作品を読みました。最新作でいいんだっけ?しかも、宇宙ものです。


青い海の宇宙港 春夏篇
川端裕人 / 早川書房 / 2016










青い海の宇宙港 秋冬篇
川端裕人 / 早川書房 / 2016










 時は2020年代。小学6年生の天羽駆(あもう・かける)は「宇宙遊学生」として、東京を離れ宇宙港のある多根島で1年間暮らすことになった。「宇宙遊学生」と言っても、駆はあまり宇宙には興味が無く、生き物が好きで、島の生き物に興味を持っていた。同じく「宇宙遊学生」の小学6年、北海道出身の本郷周太は宇宙が大好き。小学5年の「宇宙遊学生」橘ルノートル萌奈美は母親がフランス人、父が日本人で、フランスからやって来た。そして地元の小学6年大日向希実の4人で、「宇宙探検隊」を結成。ロケットの打ち上げを見たり、夏休みに小型のロケットを作って飛ばすロケット競技会に参加したり…。さらに、島の自然、島の大人たちに囲まれて、駆たちは成長してゆく…


 川端裕人さん知ったのは、小説「夏のロケット」。この本を読んだ時のワクワク、興奮を、今も覚えています。前代未聞のロケット作り、ロケット開発の光と影。ロケットについて、よりよく知った本でもありました。この「青い海の宇宙港」は、その「夏のロケット」の後の時代のお話。多根島は、名前の通り種子島をモデルとした想像上の島。現在は、種子島宇宙センターはJAXAの、国の施設ですが、この物語、2020年代では打ち上げ施設は民間宇宙港となり、民間のロケットもここから打ち上げられる。実在の民間の宇宙ベンチャー企業をモデルとした企業も登場します。実在する人工衛星・探査機をモデルにしたものも。私が気に入ったのは、宇宙マイクロ波背景放射探査機。実在する宇宙機では「WMAP」「プランク」を引き継いでいる。日本もそんな観測のできる探査機を上げている未来が来るといいなと思う。それだけじゃなくて、この作品に出てくる宇宙機がある、宇宙港がある、そんな未来にあと10年、20年後になっていればいいなと思った。

 駆、周太、希実、萌奈美の4人が、学校の授業・行事や、放課後や休みの活動で、宇宙、宇宙開発を学び、主体的に関わっていく。最初は宇宙はそれほど興味のなかった駆も、徐々に宇宙に興味を持っていく。周太は大の宇宙好き、とりわけ深宇宙が大好きというだけでなく、宇宙工学に詳しい父の影響で、父が開発したプログラムで軌道計算もこなしてしまうツワモノ。萌奈美が「宇宙遊学生」になって日本、多根島に来たのには、ある理由があった。地元民の希実は、これまで当たり前のように宇宙港がある島で宇宙に接し、暮らしてきたけれど、駆たちが来たことで、自分の将来に真剣に向き合い、やりたいことを形にしていく。
 1年の間に、かなしい出来事、辛い出来事もある。それでも、4人はロケットのように道を切り拓いてゆく。周太が言い出した「宇宙探検隊」は秋冬篇で、あるプロジェクトを立ち上げる。それぞれの願い、想いを胸に、島の人たちを巻き込んで、大プロジェクトはどうなるのか…読んでのお楽しみです。

 島の大人たちもいい。「宇宙遊学生」は島の家庭に預けられ、生活する。「里親さん」だが本当の家族同然だ。学校の先生、宇宙機関の職員・エンジニアたち。島に住み着いた外国人もいる。彼らがあたたかく、時には厳しく、変に子ども扱いしていないのがいい。守るべき時は守るけれども、子どもだからと見下さない。怒る時はちゃんと理由があるし、教え諭す時もある。大人が子どもたちに引っ張られることもある。川端裕人さんは学校と地域が連携して教育に携わることや、PTAについても以前から詳しく取材し、著書もあります。川端さんだからこそ、多根島の地域社会、コミュニティが活きている作品になっていると思う。

 島では、宇宙だけでなく、歴史や民俗・風習についても触れられます。駆は島の自然、生き物にも魅せられる。その代表が、「ガオウ」と呼ばれる神聖な場所。神様が降りてきた場所と言われているが、謎は多い。その謎も、徐々に明かされていくのが興味深い。

 私は、常々、宇宙がもっと身近になればいいと考えている。地上の延長線に宇宙があって、その延長線がどんどん短く、宇宙を身近に感じられるものになればいいと思っている。多根島は、宇宙港があるだけでなはく、様々な面で宇宙を身近に感じられる場所だ。地上と宇宙の延長線が短い。それに駆が気づくところがいい。学校の標語に、「ガッカチチウ(学校・家庭・地域・地球・宇宙の略)」と出てくるが、まさにすべてが宇宙と繋がっていると感じられる。多根島だからだろうか。多根島はより強く、より身近に感じられるだろうが、日本のどこでも、身近に感じられるようになればいいと思った。

 読んでいて、こんな未来が来ればいいのに。こんな未来を作ることができればいいのにと何度も思った。私も何か出来るだろうか。日本の宇宙開発の未来が明るいものであるように…。

 「夏のロケット」に影響を受けた、あさりよしとお先生の漫画「なつのロケット」も少し関連してきます。そのシーンを使うとは…卑怯です…!

 1年間を描いていますが、やはりロケットは夏のイメージがあります。夏の読書に是非どうぞ。

【過去関連記事】
夏のロケット(川端裕人)
なつのロケット(あさりよしとお)
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by halca-kaukana057 | 2017-07-10 22:58 | 本・読書

雲の王

 NHKのアニメ「銀河へキックオフ!!」原作「銀河のワールドカップ」・「風のダンデライオン 銀河のワールドカップ・ガールズ」の川端裕人さん最新作です。今度のテーマは気象。


雲の王
川端 裕人/集英社/2012

 南雲(なぐも)美晴は高層気象台に勤める一児・小学6年の楓大(ふうた)の母。毎日観測気球を上げ、高層の大気の状態を観測する。また、美晴は天気の変わり目…雨や雷などを「匂い」で捉え、予測することも出来た。その美晴のもとに、唯一の肉親である行方知れず・放浪中の兄から手紙が届く。手紙に書かれていたのはある知名。兄の居場所がわかるかもしれないと向かった先には、小さな小屋に老女が2人。何故か美晴のことを知っていて、不思議なことを話している。風を見る、外番のお務めを果たせ、と。帰ろうとしたその時、小屋の外で山から流れ落ちる光…風を「見た」。気象台の仕事に戻った美晴を待っていたのは、ゲリラ豪雨を予測すると言うプロジェクトに参加しろ、という要請だった。美晴は、隣の研究所に勤める”気象オタク”黒木とともにゲリラ豪雨の予測を始めることになる。外部からの専門家「外番」として…。


 川端さんの自然・科学を題材とした作品が好きです。最初に読んだ「夏のロケット」、「竜とわれらの時代」、「川の名前」などなど。気象は私も好きです。高校の時、理科は地学を選択して気象分野も好きでしたし、毎日の天気予報で気象図や気象衛星からの観測画像も面白いなぁと思って見ています。台風が出来ると、何よりまず中心気圧を気にします。気象予報士に合格できるほどの知識は無いのですが、高気圧や低気圧、前線、台風などが様々な要因で動いていく様はとても興味深い。大気も様々な要因によって変わってゆく。元は同じ大気なのに。不思議です。以前、気象予報士の試験にチャレンジしてみようかな、なんて思ったこともありました。

 川端さんの自然・科学を題材とした作品では、とんでもない天才が出てくる。大体、主人公は一般的で、その天才の凄さをそばで目の当たりにする。そして、今ここにいる場所が、広く遠い世界へ繋がっている、ということも。この「雲の王」でもとんでもない天才が出てくるのですが、あれ?と思った。主人公の美晴がそれなのです。気象の変わり目を匂いで感じることが出来、同じく気象関係の仕事に就き事故で亡くなった両親の出身は風や温度を「見る」ことが出来る一族で、美晴は特に強い能力を持っている。その能力に目覚め、力の使い方に苦労し、そして一族の歴史を紐解き、さらに大きなプロジェクトに関わりながら徐々に驚くほどの能力を開花させてゆく。ファンタジー色も強い作品です。

 でも、美晴だけが”天才”ではない。一族の”郷”にいて、美晴を導くリク婆・ユキ婆。美晴の能力を科学的じゃない、「意味わかんない」と言う”気象オタク”の黒木も、気象に関しては物凄い情熱と知識を持っている。そして、行方知れずの兄・由宇(ゆう)。気象が専門ではないのに、とある研究施設で気象に関する研究を行っている。楓大も、美晴の血を引いて、能力を身につけてゆく。彼らは特異な能力がある・無いに関わらず、遠くを、広い世界を常に目指している。一方で、美晴は普通の毎日、いつもの日常を大事にしている。息子・楓大と暮らし、空を見上げ、気象台で観測をする。能力によって、その日常からかけ離れていってしまうのを嫌がるが、同じように能力を持っていたであろう亡き両親や祖母、「外番」たちの足跡に触れる「旅」も始める。能力のことを厄介だと感じ、能力に「支配」され過ぎずにいる美晴の感覚は、空を見ていても地に足がついている。その姿勢がいいなと思う。

 近年多くなったゲリラ豪雨、ダウンバースト、世界各地の水不足問題を取り上げながら、狭い地域での気象予報、人工降雨、そして気象をコントロールすること。近い将来実現するのではないかとされる技術も後半では鍵となってきます。気象は、人間の活動で変わってしまうこともある。代表的なのが地球温暖化だが、それだけじゃない。それらに関わってくる、アーチーという男。謎も散りばめられていて、早く続きを読みたいと読んだら止まらなくなってしまった。気象をコントロールするなんて、夢のような話でもあるが、いつかは出来るのかもしれない。でも、気象は、地球全体の大気の動きはそんな単純じゃない。様々な要因が重なって、とても複雑だ。まずは、この地球の大気のこと、気象のことをもっと知りたい、解き明かしたいと思う。気性の本が読みたくなります。天気予報を詳しく見たくなります。

 この本を読んだ後、空の雲を見るのが楽しい。美晴は彼女の感覚で、独特の呼び方で雲を表現する。積雲とか巻雲などの正式な呼び名はあるけど、自分なりの雲の呼び名を考えてみるのも楽しいなと思う。空は、見上げればそこにある。今ここの天気が晴れでも雨でも、それは地球をめぐる大きな大気の動きの中の一部分、と考えるとこれまた面白い。

雲の王 川端裕人:集英社
 ↑「雲の王」特設サイト。川端さんと気象予報士・天達武史さんの対談、川端さんの撮影した面白い雲画像など。
 私も空・雲の画像を色々撮ってみようかな。
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by halca-kaukana057 | 2012-11-06 23:33 | 本・読書

星と半月の海

 久々に川端裕人さんの作品を。

星と半月の海
川端裕人/講談社・講談社文庫/2010(単行本は2006)

 生き物・動物に関わる短編が6作品収録されています。動物園でペンギンの飼育員をしている「ぼく」が、ある一枚の古い写真から絶滅した"本物のペンギン"オオウミガラスの最後をたどる「みっともないけど本物のペンギン」。獣医でジンベイザメを専門に診ているリョウコが、オーストラリアの海でかつて水族館で飼育していたジンベエザメのことを想い、とある光景を目にする「星と半月の海」。古生物学者である野火止が、恐竜展でティラノサウルスの名前にまつわる複雑な歴史と、研究対象である古生物・恐竜に対する想いに揺れ動く「ティラノサウルスの名前」など、動物の魅力とそれに関わる人々の想いが伺える短編集です。

 読んで、一言。面白かった。前にも書いたが、私は、あまり動物には詳しくない。動物園や水族館では、彼らの生態にも興味を持つが、やっぱり「可愛い」が先に口に出てしまう。そんな私にとって、動物たちの様々な面を見せてくれたこの作品は、素直に面白かった。

 「みっともないけど本物のペンギン」では「川の名前」、動物園でのパンダの飼育に関する「パンダが街にやってくる」では「動物園にできること」、「ティラノサウルスの名前」では「竜とわれらの時代」など、川端さんの以前の作品とのつながりも見えて面白い。それらつながりのある作品では、以前に読んだ時に感じたことを思い出しながら読み、動物園の展示や飼育などについてまた考える機会になった。また、6作品は個々に異なる作品ではなく、主人公が同じだったり、別の作品で脇役だった人物が主人公になったり、他の作品の登場人物が出てきたりと6作品が関連性を持っているのも面白い。生き物たちが、自然の中(生態系)でつながりを保って命を、種を保っているのと同じような。特に、最後の「墓の中に生きている」では、それまでの5作品と合わせて、生命のつながりを感じずにはいられなかった。

 生き物を見つめることで、自分自身も、生命全体も見つめることになる。生き物(自分自身も含めて)って不思議なものだなぁと感じます。

 ちなみに、川端さんの最新作「算数宇宙の冒険」も読んだのですが、途中でギブアップしてしまいました…。展開の速さと話の複雑さに、頭がクラクラ…。機会をみて、再挑戦したいと思います。


【関連過去記事】
竜とわれらの時代
川の名前
動物園にできること
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by halca-kaukana057 | 2010-05-08 22:42 | 本・読書

銀河のワールドカップ

 久々に川端裕人の作品を読みました。


銀河のワールドカップ
川端 裕人/集英社/2006

 若くして現役を引退し、ある理由で少年サッカーのコーチを辞めさせられてしまった元Jリーガー・花島勝。就職先も決まらないまま公園で酒を飲んでいた花島は、目の前の小学生が始めたミニサッカーゲームに見入ってしまう。そこでプレーしていた三つ子の少年たちのあまりに上手さに驚いてしまう花島。さらに、そのゲームをしていた少年たちの一人・翼から少年サッカーチームのコーチになってほしいと頼まれてしまう。翼は今のチームでサッカーを続けたいのだが、メンバーも足りず更に三つ子も前のコーチと合わずにサッカーを辞めてしまったのだそうだ。三つ子の虎太(こた)・竜持(りゅうじ)・凰壮(おうぞう)をなんとかチームに引き戻し、花島はコーチとして彼らとサッカーをすることになった。

 サッカーは好きなスポーツだ。でもドリブルもリフティングもロクに出来ないし自分でプレーしたことはないから、イマイチわからないことも多い。でも、この作品は面白い。三つ子の小学生とは思えないテクニック、花島の迫力のあるシュートにゾクゾクしてしまう。

 花島がコーチとなる少年サッカーチーム「桃山プレデター」のメンバーも個性的だ。恐ろしいテクニックを持つ三つ子、あまり上手くはないが試合の流れを読んで的確な指示を出す翼、足が速くすばしっこい攻撃が得意な少女・エリカ、ダイエットが目的でサッカーを始めただけだったが、だんだんサッカーの面白さに魅了されてゆく玲華。さらに中盤から登場する三つ子もライバル視する「おれ、ゴール決めるだけだから」が口癖のテクニシャン・青砥(あおと)、一度はサッカーを辞めてしまったが花島に出会って再開したGK・多義(たぎ)。8人制サッカーの大会での大暴れっぷりが爽快。そして花島。前のチームのコーチを辞めさせられた理由、サッカーにかける想い、そして得意技。子供たちと共に花島も成長してゆく過程が見える。

 昨年出版されたため、ワールドカップの話題も多い。プレデターの試合の前、少年少女たちの保護者たちがワールドカップでの日本代表の試合に関して雑談しているシーンがある。その雑談に対して花島が感じた憤りに「おお」と思ってしまった。サッカーは「観る」ものではなく「やる」もの。日本代表がどうのこうの…と言うよりも、自分でボールを蹴ればいいじゃないか。遠くのW杯よりも近くのボール。その花島の考えがこの作品では貫かれている。日本一よりも世界一、そして宇宙一(?!)を目指して勝ち上がってゆくプレデター。自分の足元にある一個のボールが、世界のファンタジスタの世界につながっている。

 そう言えば、川端さんの作品ってそういう雰囲気のものが多い気がする。「夏のロケット」も、「竜とわれらの時代」も。「川の名前」「てのひらの中の宇宙」なんてまさにそんな作品だと思う。自分たちの足元は必ず、広い世界につながっている。そしてその広い世界を目指す。決して手の届かないものではなく、果てしないことに変わりは無いのだけれども少しずつ近づいていける世界。そこにあるドキドキ感。それが川端さんの作品の面白さの要素のひとつなのかもしれない。

 この作品のキーポイントのひとつ「ブラインド・サッカー」、つまり視覚障害者サッカーは実際に見てみたい。音だけでどうやって走り、ボールを追いかけるのか。かなり難しそうだ。

 ラストの怒涛の展開もドキドキしっぱなし。サッカーってやっぱり面白い!ということで、明日のオシムジャパンのカメルーン戦、U-22ベトナム戦はこの作品のことを思い出しつつ観ることにします。やっぱり観るだけな自分が悲しい…。

 それから、読書感想文の課題図書になっているせいか、「てのひらの中の宇宙」で検索がかなり来るようになりました。サッカー部員、サッカー好きならこの作品もオススメしておきます。
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by halca-kaukana057 | 2007-08-21 22:31 | 本・読書

てのひらの中の宇宙


「てのひらの中の宇宙」(川端裕人、角川書店、2006)


 川端さんの最新作を図書館で見つけたので読んでみた。…最近川端さんの作品の感想が多い気もするが気にしない。時には一人の作家を読み深めてゆくのもいいじゃないか。それほど長い作品ではないが、密度が濃い。ありとあらゆるものが一杯詰まっている。


 二児の父である「ぼく」は、ガンで入院している妻・今日子の不在の間「ぼく」の母であるたーちゃんと共に子どもの面倒を見ている。5歳の長男・ミライと遊んで帰る途中、公園の池で不思議な少年を見かけたがすぐに見失ってしまう。かわりに、池の豊かな生態系に気付いた「ぼく」とミライは、生き物を捕って家で飼うことにする。メダカやヤゴなどの捕って来た生き物に興味津々のミライ。それをきっかけに「ぼく」はミライに様々なものを見せ、ミライも多くのものを学んでゆく。ミクロの生物、恐竜と化石、物質の成り立ち、数学、宇宙…。死が迫っているかもしれない今日子のことも関連付け、ミライは様々なことを考える。


 こんなあらすじを書いてはみたが、説明しきれない。勿論ネタバレしないように書くつもりだが、とにかく扱っている分野の幅が広すぎてどれをどう書いたらいいかわからなくなってしまった…。一言で言うならば、科学少年による全ての科学好きのための本…と言ったらいいのだろうか。科学が好きな人ならきっとワクワクするはず。

 今日子のガン治療、死ぬかもしれない現実からミライが考えることが深い。科学を知ることは、子どもにとっては酷な現実を突きつけられることにもつながる。それでもミライは知ることをやめない。そこに強く共感した。ガンでなくても、生きているものはいつか死ぬ。手に負えないほど広く、膨大な時間の中にある宇宙を思うと自分の存在が小さすぎて不安になる。でも、宇宙の謎や生命の不思議を知ることは楽しい。その不安を忘れさせてくれる。何故そうなのかは私も分からない。矛盾した、でもその矛盾をそのまま納得できてしまう不思議な気持ちにさせてくれる話です。


 作中で、「ぼく」はある物語を書く。内容は書かないことにするが、これまた深くてびっくりした。実際に絵本として出版したら面白いかも。もう一つ、私のツボはアスカ(ミライの妹)の「ちゅとろーまい!あんもない!」。可愛すぎる。



 なんだか「天体観測」(BUMP OF CHICKEN)聴きたくなる話、とも言えるかも。
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by halca-kaukana057 | 2006-11-02 20:07 | 本・読書

動物園にできること




 「動物園にできること 『種の箱舟』のゆくえ」(川端裕人、文藝春秋社・文春文庫、2006)


 これまで川端さんの小説は読んできたが、動物関連のルポルタージュはまだ読んでいなかった。ちょうど本屋で文庫版を見つけたのでこの「動物園にできること」から読んでみました。私には馴染みのない話題ばかりで、読み進めるのにかなり時間がかかった。でも、知らないことを知る楽しみをくすぐられた本でした。


 動物園は一体何のための施設だろう?読みはじめてまずその疑問が出てきた。動物を見せるだけ?命の大切さを学ぶ所?考えてみて答えが出なかった。動物園・水族館に行って私が思ってきたことと言えば、その動物の大きさや習性をただ眺めて「可愛い」、「きれい」ぐらい。先日行ってきた沖縄美ら海水族館でも、確かに何を学んだのだろうと思う。1~2時間そこそこの見学で全ての展示をじっくり見るのも難しいが、でも記憶に残っているものと言えばジンベエザメの大きさ、カラフルな魚たち…そのくらいだ。この本を読んでから行けばよかったと後悔。

 アメリカは動物園先進国なのだそうだ。そのアメリカ各地の動物園で取材し、それぞれの動物園で行っていることは本当に面白い。熱帯雨林やアフリカの森など、その動物の生息地を再現した「イマージョン」。野生とはかけ離れた人工の空間で、動物を退屈させずに生き生きと見せる「エンリッチメント」。さらには絶滅しそうな動物を繁殖させたり、野生復帰を試みたり、教育プログラムを組んだり…と様々な試みを続けている。その事例を読むだけでも動物園に対する見方が変わると感じる。

 私が興味を持ったのが小さな動物園の取り組み。動物園先進国のアメリカでも、画期的な試みを行うことが出来るのはいくつかの大きな動物園だけだ。小さな動物園は沢山ある。その小さな動物園が大きな動物園にはない魅力を押し出している姿が興味深い。動物園と言うとゾウやパンダ、ライオンにゴリラと遠くの珍しい動物を展示するものと思われがちだがそうでもない。小さな動物園はその地域に棲んでいる動物を集め、地域に密着した動物園になることができる。地域の人々がピクニック感覚で頻繁に訪れ、スタッフとも顔なじみになれるほどフレンドリーで身近な動物園を目指す。何度も何度も来ることで園内の動物について学ぶことも増えるだろう。地方の小さな動物園が出来ることもある。そんな動物園に行ってみたいと思う項目だった。

 文庫のために加筆された新章では旭山動物園他日本の動物園の取り組みも紹介している。そこで取り上げられたレッサーパンダの「風太君」騒動の項目も面白かった。動物園の動物は「可愛い」見せ物でしかないのか。動物園が発するメッセージとは何か、今度どこかの動物園に行ったならこの本のことを思いだしてゆっくり歩きたい。
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by halca-kaukana057 | 2006-10-05 22:37 | 本・読書

川の名前

「川の名前」(川端裕人、早川書房・ハヤカワ文庫、2006、単行本は2004)


 川端裕人再読第3弾。先日文庫化したばっかりの「川の名前」。夏休みにぴったりな作品です。


 菊野脩は小学5年生。お調子者で、漫画を描くのが好きでオリジナルの恐竜の漫画を描いていた。著名な自然写真家である父の仕事柄ゆえに転校を繰り返し、この春この学校に転校してきた。夏休みになると毎年父と北米やアマゾンの大自然の中を駆け回っていたが、この夏休みは父について行かずこの土地で過ごすことに決めていた。
 夏休み、自由研究の宿題のテーマを友達の「ゴム丸」亀丸拓哉と「河童」河邑浩童と決めることになった。先日、河童が変な生き物を町を流れる桜川で目撃したと言うのだ。怪物か、はたまた恐竜か。それを自由研究のテーマにすると言うゴム丸。調査を続けていくうち、脩はそれが怪物でも恐竜でもなく鳥のような生き物…ペンギンだと知る。そのペンギンは保護区となっている「鳳凰池」につがいで巣をつくり、卵まで産んでいたのだ。普通の川にペンギンがいる。そのペンギンを観察し自由研究のテーマにした脩とゴム丸。エキサイティングな夏休みが始まった。

*****

 川にペンギンが棲みついてしまったら…という奇想天外な物語です。読み進めていくと多摩川のアザラシ・タマちゃん騒動を思い出した。この作品の場合、ただ川に棲むとは思えない動物にまつわる騒動を語りたいんじゃない。ペンギンや棲みついた川や周囲の自然を通して成長していく少年たち。川端裕人らしい爽快感がたまりません。

 登場人物も本当にバラエティに富んでいて活き活きしている。お調子者の脩も様々な側面を見せる。体は大きく太っちょだけど弱虫のゴム丸。クールで賢い河童。この3人だけではない。脩がライバル視している優等生の手嶋、ラッパを吹きつつ不思議な事を話す喇叭爺、脩のクラス担任で熱血教師の「デビル」鬼澤…。それぞれの語ること、思うことに深さがある。話が進むにつれてその深さが増していく。特に手嶋と河童の「深さ」に感嘆。

 ここで物語とは離れて自分の話になってしまうのだが、私は水辺、特に大きな川が好きだ。地元の小川も好きで、時々眺めに行っている。また旅行先で大きな川を見ると間近で見てみたいとそわそわし始める。高校の修学旅行で京都を訪れた時、旅館から近かったこともあって朝早く起きて鴨川を散歩した程だ。たとえ人の力で流れが変えられていようと、海に向かっていつまでも流れ続ける様を見ているのが好きなのだ。そこで、脩のライバルであり物語の後半から活躍する手嶋がこんなことを言う。
「桜川は別の川と合流して海に注いで、その海にはもっとたくさんの川が注いでいる。というか世界中のすべての川がが海に注いでいるから、世界につながっているんだ。で、世界はまあるい地球で、その外側にはまだまだ人が行ったことがない宇宙が広がっててって考えると、自分がなんだか滑走路に立っている気がしてきたんだよ。そう、川って滑走路なんだよ」(216ページ)
納得した言葉だ。世界につながる川を見ているとすっきりした気持ちになる理由がわかったかもしれない。

 川とペンギンがきっかけで、少年たちは大きな世界に目を向けることになる。少年たちにも不安はある。学校のない夏休みだからこそ、余計にその不安に直面してしまう。川やペンギン、自然はそれを直接解決してくれるわけではない。でも、川に向き合って考えたことが少年たちの日常に活きてくる。悩んでいても始まらない。何だかそんな感じがしてきた。


 今まで読んだ川端裕人作品はここまで。あとはまだ読んでいない。川端氏は作家としてデビューする前に「ペンギン、日本人と出会う」(文藝春秋)など自然や動物に関するノンフィクションを出している。その辺も読みたいぞ。
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by halca-kaukana057 | 2006-07-24 21:10 | 本・読書

夏のロケット

「夏のロケット」(川端裕人、文春文庫、2002 単行本は文藝春秋社刊、1998)


 北朝鮮がミサイルを打ったその日、アメリカではスペースシャトル・ディスカバリーが打ち上げられた。ミサイルとロケット。構造は同じだけれどもその利用の目的は全く違う。そんなことを考えていたらこの本ことを思い出した。川端裕人再読第2弾はデビュー作ともなった「夏のロケット」。もうね、面白くて面白くて。

*****

 科学担当の新聞記者・高野は宇宙オタクで、宇宙関連の記事になると熱を入れて記事を書くため、公正中立・客観報道を求める部長とはしょっちゅうケンカになっていた。そんな中、高野は過激派によるミサイル製造・爆発事件の取材を手伝うため社会部の同期・純子のもとを訪れる。その製造されていたミサイルは、なんと実際にロケットに使われているコンポジット燃料やレーザー・ジャイロを搭載したとても高度なものだった。高野は爆発現場の写真に写っていた噴射板の奇妙な形に見覚えがあり、心当たりを取材しようとする。それは高野が高校生の頃、「天文部ロケット班」で活動していた時にさかのぼる。

 高校に入学してから少しして、火星マニアである高野は隣のクラスの北見祐一に天文部に入らないかと誘われる。北見も含めロケットに興味があるメンバーがいるので、モデルロケットを作って飛ばすつもりでいるのだそうだ。部の予算を使って作る予定のため、県の作文コンクールで入賞したこともある高野の文才を見込んで広報係になって欲しいとのことだった。北見の話術に乗せられて入部した天文部ロケット班には奇妙なメンバーがそろっていた。「教授」と呼ばれている日高紀夫は、ロケットの原理にとても詳しくロケットの設計を担当した。いつも薄汚れた白衣を着ていることで変な奴と学年で噂になっていた清水剛太は手先が非常に器用で学校の壊れたいる物を次々と直すことが出来た。彼はロケットの組み立てを担当した。医者の息子である氷川京介はSF小説好きの秀才。しかし、遅刻や欠席ばかりしている。そんなメンバーと(実は非合法な)モデルロケットを作っているうち、教授の提案で本物のロケットを作ることになった。マーズと名づけられたそのロケットシリーズは失敗ばかりしていたが、メンバーたちは宇宙への夢を捨てることなく高校を卒業した。

 そして今、メンバーはそれぞれの道を進んでいる。教授・日高はロケット工学を学び宇宙開発授業団へ、剛太は材料工学を学び大手金属メーカーの研究室にいた。北見は大手総合商社に勤め宇宙開発関係の取引をしている。氷川は売れっ子ミュージシャンとなり、モデルロケット普及教会を設立していた。高野は爆発したミサイルの噴射板が教授オリジナルのものであることに気付き、ロケット班のメンバーのことを調べ始める。そして、ロケット班がかつて金属加工を頼んでいた製作所でメンバーと再会し、新しいマーズロケット・マーズ18号を作っていることを知る。それは高校生の時に作ったロケットとは桁違いの、宇宙まで飛ぶロケットだった。教授がミサイルの製造に関わっている疑惑が晴れないまま、さらに高野の後をつけてきた純子も巻き込んで高野もロケットの製造・打ち上げに加わることになるのだが…。

*****


 個人がロケットを手作りするというとんでもない物語だけれども、ロケットの原理や構造はしっかりと現実のものに基づいている。確かに教授や剛太の天才的能力は現実的かどうかはわからないけれども、ロケットがだんだんと出来ていく過程が目に見えるように活き活きと描かれている。ロケットというと国家プロジェクトでないと取り組むことが出来ないハイテクで最先端のイメージがあるけれども、実はきわめてローテクだったのだ。燃料を燃やしその力で飛んでいく。それだけの原理。もちろんそれだけなのだが難所がいくつもあり、試作品は失敗が続く。メンバーがそれぞれの専門の知識を出し合って改良していくその試行錯誤の過程は、かつてロケットを開発した研究者たちの姿につながっている。その過程にどんどん引き込まれた。

 このマーズ18号の打ち上げにはある目的があった。それは今の宇宙開発の現状から考えると目からうろこだ。予算やら国家プロジェクトとしての安全性やら、面倒くさいことが沢山あってそれがロケット・宇宙開発を阻んでいる。その面倒くさいことを蹴飛ばしてしまったらどうなるのか。それがこの物語だと思う。教授と剛太の並外れた能力、北見の取引の巧さ、氷川の経済支援、そして高野の世界各国の宇宙開発に関する豊富な知識と人脈があってマーズ18号が出来た。そしてそれぞれの役割や目的は異なるけれども、ロケットを飛ばしたいという情熱。小説であることはわかっているのだけれども、もしかしたら、やろうと思えば出来るかも…と思ってしまった。とんでもない騒動が巻き起こるのは確実だろうけど。

 教授のミサイル疑惑も物語の大きな核になっている。ロケットとミサイルは紙一重。メンバーのその疑惑に対する思いも様々だ。信頼しつつも複雑な思いの北見、ジャーナリストとしての見方をする高野、そんなことはどうでもいいと思う剛太、己の潔癖を証明しつつも揺れ動く教授。科学者の倫理や信念に関して考えさせられた。教授だけの問題じゃない。歴史上でも月ロケットを開発したがナチスによってミサイルに転用されてしまったフォン・ブラウン、ツィオルコフスキーよりも先にロケットの設計の論文を書いていたが手榴弾でアレクサンドル2世を暗殺したキバリチッチの例が挙げられている。ロケット開発の明るい部分だけでなく、影の部分にも考察してあるのが興味深い。

 マーズ18号の打ち上げに向かってノンストップで駆け抜ける爽快感がたまらない。ところで、個人がロケットを作るという話は他にもある。あさりよしとお作の漫画「なつのロケット」がその一つ。まだ読んではないのだけれども(そのうち読みます)、私が子どものころ「学研の科学」で連載されていた「まんがサイエンス・ロケットの作り方教えます」は大好きで夢中で読んでいた。本当にわかりやすくて面白かった。あと、映画「明日があるさ THE MOVIE」も。これも途中までしか見ていないのだけれども…。
 ああそれから「プラネテス」でもハチマキの弟九太郎君もロケットを作って飛ばしていた。宇宙まで飛ぶ自作ロケットなんてゴロゴロしている、という感じの台詞があったっけ。そんな時代がいつか来るのだろうか。


trackback for:「本だけ読んで暮らせたら:『夏のロケット』」
「Star Gazer`s Cafe:ロケッティア」
作中にも出てきますが、「ロケッティア」とは「ロケット狂」という意味。社会的に見れば「狂っている」高野たちの行動も、本人たちから見れば真剣。分かりやすい言葉だと思います。
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by halca-kaukana057 | 2006-07-10 21:35 | 本・読書

せちやん

「せちやん―星を聴く人―」(川端裕人、講談社、2003)



 先日「竜とわれらの時代」で紹介した川端裕人。再読第1弾は宇宙がテーマの「せちやん」。以前一度読んで圧倒されてしまった。よく分からなかったところもあったので何度か読み返してみた。


 1970年代、中学生の「ぼく」(とおる)は膝を痛めて野球部を辞め、友達のクボキ、やっちゃんと放課後を過ごしていた。それぞれ家庭の中では息苦しさを感じ、なるべく家に帰る時間を遅らそうと学校の裏山で時間をつぶしていたのだった。その裏山で、ある日3人は不思議な家屋を見つける。パラボラアンテナに銀色のドームがある日本家屋。「摂知庵」と看板がかけられてあるその家の秘密を暴くべく、「ばく」たちはその家を見張り出す。何のための施設なのか想像をめぐらす中、ついに3人は家屋の主人と出会う。彼は摂津知雄、通称「せちあん」と名乗り3人に「せちやん」と呼ばれることになる。ある事情により仕事を辞めその家にひとり住んでいるせちやんは銀色のドームの中にプラネタリウムを作り、パラボラアンテナを電波望遠鏡にして「SETI」と呼ばれる異性人からの信号を探しをしていたのだった。一見冴えない中年男だが宇宙への夢を熱く語るせちやんにすっかり夢中になった3人は、学校が終わると「摂知庵」に入り浸るようになった。豊富な蔵書を読みふけり文学に夢中になったやっちゃん、大量のレコードを聴いてクラシックに興味を持ちせちやんが弾かなくなってしまったバイオリンを練習するクボキ、そして「ぼく」はプラネタリウムや異性人探しに夢中になった。ところが、ある事件をきっかけに3人は「摂知庵」に行くのを辞め、それぞれの道を歩むべく高校に進学。文学や音楽に夢中になっているやっちゃんやクボキと違い「ぼく」は再び野球を始めたが、それでもせちやんが教えてくれたことは色濃く頭の中に残っていた。そして「ぼく」の人生の様々なシーンでせちやんのことが思い出される。



 この物語全体に漂っている何かをつかもうとしてもつかめない虚しさ、孤独感に切なくなる。「ぼく」もやっちゃんもクボキも、そしてせちやんも登場人物それぞれ何かを追い求める。でも、それをつかめたとしても一瞬だけ。次の瞬間にはなにも残らない。まさに夢のようなはかなさ。どんなに手を伸ばしても天空の星まで手は届かない。この物語の「宇宙」はそんな位置にあると感じた。

 そして、「宇宙」に向き合う時は誰もが孤独だということ。例え分かり合っている仲間がいたとしても深いところでは結局ひとり。そこから生じる不安や淋しさ。それをごまかすかのように、人間は何かに身を委ねる…仕事や芸術、恋愛や宗教などに。私も、こんなどうしようもない不安や孤独を感じることがある。例えば、死んだら何もなくなってしまうのだろうかとか、将来に対する不安とか。そんなことに悩んでいる時、ある方がこんなことを言っていた。「趣味なんかが無かったら生きていくのは大変だよ。いつも不安と向き合っていたら辛くて辛くて生きている心地がしないよ。そんな辛さをかわすためにも、人は色々なものに夢中になるのではないかな」と。その言葉を今読んでいて思い出した。せちやんや「ぼく」はSETIによってその孤独と向き合う。それがさらに孤独を思い知らせるものだとしても。その孤独感がだんだん深くなる物語の終盤がすごかった。

 宇宙ものであるけれども哲学や人の生き方、考え方が物語の中心になっていると私は読んだ。だから同じ宇宙ものの「夏のロケット」とはかなり雰囲気が違う。宇宙への思い・見方も一つとは限らない。こういう宇宙ものもいい。
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by halca-kaukana057 | 2006-06-16 20:34 | 本・読書

竜とわれらの時代

「竜とわれらの時代」(川端裕人、徳間書店、2002、ISBN:4-19-861585-3)




 私が大好きな作家のひとりに、川端裕人という作家がいる。何年も前、「夏のロケット」という小説を読んでファンになってしまった。作家とはいえ、日本テレビの科学担当の記者だった為科学関係の小説が多い。この「竜とわれらの時代」も科学系の小説のひとつ。とにかく長かった。でも科学の面から見ても、純粋に小説として読んでも面白い。



 高校生の風見大地は恐竜の化石の発掘を夢見る「恐竜オタク」。父の実家である手取郡に引っ越してきて、弟の海也と山を歩き中生代の地層の露頭を見つけては化石を探して調査をしていた。ある日大地と海也、それに大地のクラスメイトの美子で竜脚類の歯の化石を発見する。もしかしたら恐竜の骨格の化石も見つかるかもしれない。そうなるとアマチュアではどうしようも出来ない。大地は美子の提案で、将来古生物学者になってその時に発掘することに決めた。

 数年後、大地は大学卒業後アメリカに渡り、古生物学者のクリス・マクレモア教授のもとで学んでいた。そしていよいよ教授の研究室によって、昔大地と海也が化石を発見した場所の発掘が始まろうとしていた。一方手取では、海也は大学卒業後父の実家に戻り、手取に伝わる竜神を祀る檀家のひとりである祖母・文ばあと共に住み農業を営んでいた。美子も手取に戻り、役所に勤めている。大地やマクレモア教授の研究室のメンバーたちが発掘を進め、その新種の大型竜脚類は「テトリティタン」と名づけられた。しかし、ある日そのテトリティタンの化石がごっそりと盗まれてしまう。さらにアメリカにいるマクレモア教授も小包爆弾で殺害されそうになるが、発掘の資金を援助するある科学財団に助けられる。その科学財団にはある狙いがあったのだった…。



 ストーリーに沢山の複線が張られていて、謎が謎を呼ぶミステリー状態。その科学財団の謎、マクレモア教授の命を狙う集団の謎。さらに科学と宗教の対立や国家や文化に関する問題など、社会的な課題にも深く考察してある。このスケールに圧巻。キリスト教とイスラム教の対立、また聖書に関する論議は両宗教をよく知らない私には難しい。でも、それに対して手取の竜神の話を出してくるのは面白い。竜神伝説なんて非科学的と思ったけれども、いいところで説得力を持ってくる。恐竜に対する新たな見方が出来る。

 テトリティタンに関する大地たちの研究も凄い。固定観念を見事にぶち破ってくれる。フィクションのはずなのに、しっかりとした科学的根拠を丁寧に解説してあるので本当にこうではないかと納得してしまう。(理系に憧れる)文系の私にも科学者の考え方が手に取れる。

 ちなみに、文庫版(徳間文庫刊)も出ているのですが、文庫版も分厚い。文庫なのに普通の単行本みたいだ…。読んだ後、その文庫版の表紙を見ると「ああ、なるほどね!」と思った。

これ。読んで納得してみてください。長いけれどもお薦めします。

 そう言えば、このブログで川端裕人の作品を紹介するのは初めてだった。紹介した気でいたんだが、ブログを始めてから読んでいなかったか…。そのうち他の作品も再読して感想を載せる予定にしておきます。

*nanikaさんのブログよりトラックバックをいただきましたので、リンクを貼っておきます。
「本だけ読んで暮らせたら:『竜とわれらの時代』」
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by halca-kaukana057 | 2006-06-02 13:33 | 本・読書


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