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物語 フィンランドの歴史 北欧先進国「バルト海の乙女」の800年

 100年目のフィンランド独立記念日に、ぴったりの本を読みました。こういう本が読みたかった。


物語 フィンランドの歴史 北欧先進国「バルト海の乙女」の800年
石野 裕子/中央公論新社・中公新書/2017
 フィンランドは帝政ロシアから独立して100年。しかし、その前にも歴史があり、独立後、現代に至るまで苦難も多々あった。人口500万人、ロシアとスウェーデンに挟まれた小さな国。それでも、しっかりとした存在感を示し、特徴ある文化などで世界に注目されてきた。そんなフィンランドはどのように生まれ、どんな道を辿ってきたのか。

 フィンランドの歴史というと、私もよくわかっていなかった。スウェーデンに支配された後、帝政ロシアに支配される。独立しようというナショナリズムが興り、「カレワラ」といったフィンランド固有の文化が注目される。ロシア革命のドサクサにまぎれて独立し、その後白衛隊と赤衛隊で内戦が起きる。ようやく国が統一されたと思ったら、冬戦争に継続戦争。敗戦国となったが、戦後は産業、経済面での復興を遂げ、その中からフィンランドデザインの製品が生まれた。トーヴェ・ヤンソンの「ムーミン」シリーズが人気となり、今では様々な面で世界から注目される国である…ぐらい。ざっくりと。

 この本は、フィンランドの起源から始まります。紀元前、フィンランドに人が住み始め、鉄器時代には定住、貿易も始まっていた。スウェーデンにどのように統治されていたのか。その時代に、戦争も三度あった。その後、知識人も生まれたが、ロシアとスウェーデンが対立。フィンランドはロシアに渡ってしまう。

 独立100年と聞くと、新しい国なんだなと思う。でもそれは、フィンランド共和国となってから。独立前にも、他の国に組み込まれていてもフィンランドはあった。そこで暮らしている人たちがいた。フィンランドは小さいながらたくましい国と言われる。そのルーツは、独立のずっと前から育まれていたのだろう。

 帝政ロシアの支配化での状況、独立までの経緯も詳しく書かれています。そして独立はしても、内戦が起きる。他国と戦うならまだしも、同じフィンランド人同士なのに、戦わなければならない状況というのはどんな状況だろう…胸が痛む。

 この本で初めて知ったのが「大フィンランド」構想。カレリア地方も広くフィンランドに組み込もう、領土を拡大しようという動きだ。これが、継続戦争で目指すものとなる。冬戦争は独立を保つために巻き込まれて戦争することになったが、現在、継続戦争は領土拡大の意図があったことがわかっているそうだ。また、スウェーデン語系フィンランド人やサーミの人々などに対して、フィンランドへの「同化」政策もあった。今でこそ福祉国家と呼ばれるフィンランドでも、そんな歴史があったのだ。だからこそ、今のフィンランドがあるのかもしれない。

 大戦後も、ソ連に翻弄されつつも、したたかに、たくましく冷戦下をしのいでいく。資源がないので産業を興そうと、マリメッコやアルテック、イッタラ、ノキアなどが躍進し始める。「ムーミン」もこの頃生まれた。資源のなさは、教育の充実にも繋がった。100年は短いように思えるが、たくさんのことがあった。

 今も、フィンランドからは新しいものが生まれ続けている。アップルの躍進でノキアは下火になっても、また新しい分野で伸び始めた。IT分野での、ベンチャー企業の躍進もめざましい。柔軟さや多様性も、フィンランドにはある。

 この本は主に政治、経済の面を中心に書かれているが、フィンランドはどの時代でも興味深い国だ。面白いことをやっている。芸術や文化面に関しても、コラムがある。フィンランド語とスウェーデン語。サウナにムーミンにサンタクロース。この本には書ききれなかった魅力もある。どんな切り口から見ても、フィンランドは面白い。そんなフィンランドを支えてきたのは、フィンランドの人々のたくましさとしたたかさなのだろう。「sisu(シス)」と呼ばれる、「フィンランド人魂」なのだろうか。

 フィンランドの歴史(特に政治経済面)について知りたいと思ったら、この本をオススメします。政治経済が苦手でも、新書なのでそんなに分厚い本でもないので、ゆっくりと読んでいけると思います。いい本が出ました。

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by halca-kaukana057 | 2017-12-06 23:17 | 本・読書

Im ~イム~ 8

 11月はツタンカーメン王墓発掘月間(4日が最初の階段を見つけた、26日に最後の壁に穴を開けて王墓の中に入った)のためか、BSプレミアムで古代エジプト関連番組が続いています。面白い。盛り上がっているところで、先日、エジプトではかなしい事件がありました…。かなしいです。
 そんなエジプトのことを思いながら、エジプトが舞台のファンタジー「イム」8巻です。発売から2~3ヶ月…まだ許容範囲のはずw6巻と7巻は一緒に感想を書いてしまい、まとまりに欠けたので今度は8巻だけで書きます。


Im ~イム~ 8
森下真/スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2017

 エジプトにあるアメン神官団の本部内で、人々が次々とマガイ化し、アメン神官団は大混乱。アメン神官団本部の結界の中に入りこみ、イムと会っているジェゼル…アポフィスは本部内のマガイ化した人々と陽乃芽、どちらを選ぶか迫るが、イムはどちらも助ける、そしてアポフィスを倒してジェゼルを助けると言い切る。「お祓い箱」魔水晶を使ってマガイを回収するイム。それを見た本部の神官たちは、イムがあの大罪人のイムホテプだと気づき、イムを攻撃、罵る。そこへ助けに来たのは…。神官たちに必死に説明するイムだが…。
 一方、陽乃芽は、ハピに連れ去られ、アゥシルに捕らえられていた。アゥシルはオシリス家の嫡男。神官団の中心となる一族で、死を恐れない思想で危険視されている。アゥシルとハピは、かつて失敗した「セクメト計画」を陽乃芽を使って実行しようとしていた。抵抗する陽乃芽。そこにやって来たのは…。


 7巻のラストで、今の悪者になっているジェゼルはジェゼル本人ではなく、地獄にいる原初の邪神アポフィスに乗っ取られていることがわかりました。7巻、8巻と、これまでの謎、伏線が一気に回収されていくのでついていくのに大変です。読み応えあります。

 まず、イム側。これまでイムは大罪人とされながらも、人間性やその力などで晴吾たちから信頼され、友と認められるようになった。それまでには衝突や誤解もあった。日本からエジプトに戻ってきて、アメン神官団の本部では…最初からやり直し。やはりイムは大罪人のイムホテプで、神官たちからは危険視されている。神官たちから憎まれ、罵られ、石を投げられる…。そんなイムを助けたのは晴吾。イムの過去と現在を知っている晴吾。
「三千年前とは違うだろ もう失敗したくないんじゃねぇのか!?頼れよ!!!」(21,22ページ)
イムも、マガイ化のシステムと課題を理解。7巻で出てきたヘシレさんと同じく、マガイ化してしまった人たちを救いたい、守りたい。それが出来るのはイムの「お払い箱」だけ。神官たちは何をすべきか。それを神官たちに熱弁。ひとりでなんとかしようとしてパニックになっていたイムと、晴吾が来てからのイムの落ち着きが違う。イムは今も昔も大神官だけど、支える人がいてこその大神官なのだと(かつてはジェゼルがイムを支える立場だった)。

 一方の陽乃芽、アゥシル側。アゥシルは7巻で少し出てきていました。アメン神官団の中でも最高位の一族のひとつ、オシリス家の嫡男。ハピはアゥシルの部下。セクメトの力を使えるようになった陽乃芽を利用して、「セクメト計画」を実行しようとしていた。
 ここでやってきたのがラトさん、ユート君。2人はオシリス家の者であり、アゥシルの妹・弟。オシリス家と、アゥシルと、ラトさん、ユート君の過去が語られます。オシリス家の「伝統」に対して、疑問を持たず素直に育ったアゥシル。疑問を持ち出て行ったラト。オシリス家の本当の嫡男の印を授かったユート。アゥシルの葛藤、憎しみと、その反動。オシリス家のやり方、アゥシルのやり方には同意共感できないけど、アゥシルは置かれた環境、置かれた立場でやることをやって来たんだな…と切なくなります。
 アゥシルのやり方に対して、徹底的に反抗する陽乃芽ちゃんが男前。かっこいい。陽乃芽ちゃん、本当に強い子。

 8巻は、それぞれ全員が持てる力を振り絞って、誰かのために出来ることをしています。アヌビスも。あのかわいいアヌビスにこんな力があったなんて。アヌビスも神様なんだな、と。成長して、凛々しくなったアヌビスを想像するのはちょっと難しいですが…。

 イムも、力を使い…ここでハプニングが。イムが大変なことになってしまった。8巻、情報が多過ぎます…(面白いよ!)。一体何が起こったのかよくわからないまま、ラストも大変なことに…。イムがどうしてそうなった!?9巻はまた波乱が起きそう。イムがラストで言った通りになればよいのですが…。9巻を待ちます。

 最後に、アポフィス側。クレオパトラが復活してました。あまり登場しませんが、クレオパトラがアポフィスに聞いた言葉が気になりました。もしそうだとしたら…。何かの可能性も…。
 あと、コンスについての情報もまた増えました。コンスにフラグを立てないで…!!

Im ~イム~ 6・7
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by halca-kaukana057 | 2017-11-28 22:39 | 本・読書

ヴィンランド・サガ 19

 今日、11月22日、20巻が発売になったそうです(私の地域は何日か遅れるのでまだ本屋にはない)。19巻の感想をまだ書いてない…19巻の話をしないと20巻に進めないので、20巻の発売の日に19巻の感想を書きます。


ヴィンランド・サガ 19
幸村 誠 / 講談社・アフタヌーンコミックス / 2017


 トルフィンの暗殺に失敗したフローキ。フローキは孫のバルドルを次期団長にしたいと思っている。バルドル以上のよい血統を持ち、強さも申し分ないトルフィンを亡き者にしたかったが…。そのフローキのそばには、ある男がいた。
 一方のトルフィン。フローキと対立するヴァグンの駐屯地に連れて来られていた。ヴァグンは、トルフィンの父・トールズを殺した黒幕はフローキだと明かす。フローキがアシェラッドに命じて、トールズを殺したのだ。ヴァグンはトールズの仇を討てと言い、怒りに支配されそうになるトルフィン。何とか平静を取り戻し、戦わないことを決意する。そのヴァグンの駐屯地へ、トルケルが率いるフローキの一軍がやってきた。あることがきっかけで、トルフィンとヒルドはヴァグンの元から逃げ出す。その途中、トルフィンはある男と出会う…。


 19巻の表紙に、見慣れないキャラクターが。初登場のガルムです。19巻のキーパーソンのひとりです。18巻の感想でも書いたのですが、捨てたい、消したい過去がある、新しい自分に生まれ変わりたいと思っても、周りが許さない。そんなジレンマがトルフィンをまだまだ悩ませます。戦うこと、戦って死んだらヴァルハラに行く…と信じているヴァイキング、ヨーム戦士団の戦士たち。そこから一旦離れ、戦士とは異なる生活をしたトルフィンはヴァイキング、ヨーム戦士団とは違う考え方を持った。かつてアシェラッドの軍団にいて生き延び、ヴァグンに捕らえられ、トールズが殺された顛末について話したアトリも、家族のもとへ返して欲しいと言っていた。離れてわかることがある。どっちが正しいわけではない。ヨーム戦士団には独自のルールや考え方がある(とても残忍ではある、推奨できるものではないが)。トルフィンもアシェラッドと別れた後、独自の道を進むことになった。ただ、その違いをお互いが受け入れられない。トルフィンは何とか違う道を見つけ出したいと思っているが…。

 そんなトルフィンを阻むのがガルム。トルフィン並み、トルフィン以上に強い。やることに全く隙がない。頭もいい。徹底的に残忍。とにかく強いやつと戦いたい、という点はトルケルに似ているかもしれない。ガルムに追い詰められていくトルフィン。本当にトルフィンたちがこのヨーム戦士団から逃れて、ギリシアまで行けるのかますます心配になってきました。

 トルフィンが、ついに父・トールズの死の真相を知ることになりました。18巻の最後のようなことはしなかった。でも、自分は元はヴァイキングの戦士で、戦うことが日常だった。この過去を消すというよりは、受け入れて乗り越えるのでしょうか。

 トルケルが、相変らずのトルケルですw理由は何でもいい、戦えるならそれでいい…本当にトルケルも残忍なヤツなのに、どこか憎めないのはこのキャラのせいでしょうか…?

 続きは20巻、発売したばっかりです。早く読みたい!

・18巻:ヴィンランド・サガ 18

【関連リンク】
 幸村誠先生のインタビューがあったので、リンクを貼っておきます。「プラネテス」「ヴィンランド・サガ」の誕生物語、裏話など。
コミックDAYS 編集部ブログ:『プラネテス』は「原稿をなくしたから」生まれた!? 幸村誠インタビュー(1)
コミックDAYS 編集部ブログ:原稿の遅さが「売り」!? 幸村誠インタビュー(2)
コミックDAYS 編集部ブログ:お前の漫画を読みたい人なんて誰ひとりいない!? 幸村誠インタビュー(3)


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by halca-kaukana057 | 2017-11-22 22:56 | 本・読書

西洋文化に触れた驚き 「遥かなるルネサンス」展

 あちこち出かけているのですが、その記事を書かず…。印象に残ったことを記録しようと思います。

 先日、行ってきたのは、青森県立美術館。このブログでも時々登場する、お気に入りの美術館です。現在開催中の特別展「遥かなるルネサンス展」に行ってきました。

青森県立美術館:遥かなるルネサンス展

 時は信長や秀吉の時代。各地のキリシタン大名のもとで暮らしていた4人のキリシタンの少年たち。1582年、宣教師ヴァリニャーノは、日本人自身の中から、ヨーロッパ文明の語り部となる人物を育成する必要があると考え、その4人の少年たちをイタリアに送り出しました。「天正遣欧少年使節」です。ようやく着いたイタリアで、少年たちが出会った人々、見たであろう風景を、絵画や様々な美術品で辿ります。


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ああこの建築たまりませんねぇ。
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目玉の「ビア・デ・メディチの肖像」と「伊東マンショの肖像」がでかでかと。「ビア~」は日本初公開、「伊東マンショ~」は長らく行方不明でしたが、2014年に発見された作品。今回もすごいのが来ましたね。

 今、現代、旅行に行って、旅の記録はデジカメや携帯のカメラで簡単に撮影できます。しかし、この時代は絵を描くしかない。日本の芸術とは全く異なる西洋の芸術。南蛮文化は少しは入ってきただろうけど、実際に西洋に行って、その風景や文化、現地の人々に会い話をするのは想像以上のものだったろう。本場の西洋文化、キリスト教のことを学んで、日本に帰ったらそれを伝えるという使命を持ちつつも、初めて触れる西洋文化に、4人の少年たちは何を思っただろう。現代でも、テレビや本、ネットなどで、簡単に海外情報を手に入れることはできるけど、実際に行って観るのとでは違う(海外に行ったことないですが(涙)。それが、この時代だったらどうだろうか…。そんなことを思いながら展覧会を観ました。

 美術品の他に、手紙も展示されています。少年たちが書き残した日本語と、外国語(ラテン語かな?)の手紙も。外国語だって、今でも学ぶのは大変なのに、辞書も少なかっただろうし、勉強は大変だったろう。それでも、手紙はとても達筆で…そんなところからも、この旅路の厳しさを思い知ります。

 当時、イタリアでは、メディチ家が勢力を振るっていました。「ビア~」に描かれている少女・ビアもメディチ家の人。小さいうちに亡くなってしまったそう…。このあたりは、世界史を思い出しながら、でも思い出せずに何だったっけ…と思いながら観ていました。勉強になります。キリスト教に関係するものだけではなく、ギリシア・ローマ神話に関係するものも。このあたりは、星座の神話でもお馴染みなので、興味深く観ました。

 異文化に触れ、異文化を理解するということ。その意味の深さを考えました。
 8年もの長旅の後、少年たちは旅で見たものを、日本の人々に伝えます。そして、キリスト教をさらに学ぶのですが…キリシタン弾圧が強まり、殉教した者、教会から離れその後の足取りがわからなくなった者も。この最後に、旅の厳しさと、この時代の厳しさを感じました。

 久々の大型の展覧会でしたが、いい展覧会でした。

 お土産で、これが気に入りました。
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少年たちが訪れたフィレンツェの、トスカーナ大公の工房で作られた、テーブルの天板。とても豪華なモザイクです。それをマスキングテープにしました。ノートに貼ってみましたが、雰囲気が変わります。

青森県立美術館:シャガール「アレコ」全4作品完全展示
 青森県立美術館と言えば、シャガール「アレコ」背景画。4幕のうち、1,2,4幕は青森にあります。3幕を保管しているアメリカのフィラデルフィア美術館が長期の改修工事に入ったため、残りの3幕も借用中。2021年までと、まだまだ観られます。「アレコ」背景画は、青森県立美術館が開館した際、全4幕を揃えて展示していました。その迫力に圧倒されたのですが、再び、全4幕を観られて、やっぱり圧倒されました。「アレコ」のドラマティックで悲劇のラストの物語を思いながら、全4幕をひとつずつ追って観られるのは素晴らしいです。まだ観たことのない方は是非とも。

 青森県立美術館は、少し前に「ぼのぼの」展をやっていて、それも観に行きました。普通の特別展とは違う形です。「ぼのぼの」の漫画やアニメは大好きなので、観ていてとても楽しかったです。いがらしみきお先生の「ぼのぼの」を描くメイキング動画もよかった。
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by halca-kaukana057 | 2017-09-03 23:01 | 旅・お出かけ

四人の交差点

 前回もフィンランド発の本について書きましたが、今回もフィンランドでベストセラーになった小説の日本語版を。フィンランド文学が次々と日本語に翻訳され、日本に紹介され読めるようになるのは嬉しいです。


四人の交差点
トンミ・キンヌネン:著、古市真由美:訳 / 新潮社、新潮クレスト・ブックス / 2016

 フィンランドの北部のある村で、マリアは助産師をしていた。その娘のラハヤは写真技師。ラハヤの息子のヨハンネスの嫁のカーリナはその家に漂う重い空気を変えたかった。ラハヤの夫のオンニは大工で、家を建て大きくしていった。その家には100年の歴史と、暮らしと、重さと、秘密があった。


 この本のあらすじを書けと言われても、ちょっと難しいです。マリアは19世紀末からこの家に住み、助産師として働いていた。それから20世紀末までの、一家・一族、この家にまつわる物語が始まる。4人の視点で物語が語られる。それはどこにでもありそうな家族の姿でもあるし、この家にしかない秘密でもある。

 読んでいて、シベリウスの後期の交響曲(4番以降)を聴いているような気持ちになった。静かで、美しく儚くもあり、重く暗い。家族に何かが起こり、怒ったり怒鳴ったりもするが、その声もそこに残らず、すぐに消えてしまう。楽しいことがあっても、楽天的ではない。根底にあるのは静けさで、森のような、日照時間の短い冬の夜のような暗さである。

 そして、閉鎖的でもある。この家はどんどん建て増しをして大きくなるが、外に開かれていない。この家族だけで終わってしまう。孤独で、何かあっても助けも何もない。フィンランドというと福祉国家で、子育てや介護などが充実しているイメージがあるが、それは明るい部分、いい部分だけを見ていたのかもしれないと思ってしまう。ヘルシンキから遠く離れているのも鍵かもしれない。この作品で描かれる喜びも悲しみも、嘆きもこの家族だけで完結してしまう。奔放に見えるようなラハヤも、やはり閉鎖的な苦しみを抱いている。

 でも、描かれる日常は、どこにでもある日常だ。料理…パンケーキやスープ、サウナ、サマーハウスなど、フィンランドの日常にあるものが、リアリティをもって描かれている。詳しくて、その部分は鮮やかだ。鮮やかなのに、根底はモノクロの雰囲気。

 この家に嫁いできて、家の空気を何とか変えたいと思うヨハンネスの嫁のカーリナ。頑固な姑のラハヤに抵抗し、自分の思い描く"家"を作ろうするが…。カーリナとラハヤの関係に、胸が痛む。

 そして、カーリナの方が後の時代だが、最後にラハヤの夫オンニの物語を語るのは理由がある。フィンランド、北欧ならずっと進んでいそうなことだが、解説を読むとそうでもなかった。オンニが、現代に生まれていたら…と思う。オンニが教会の礼拝堂で祈るシーンは、心が痛む。

 物語では、第二次大戦中の継続戦争も鍵となります。フィンランドも第二次大戦の敗戦国。継続戦争中、一般市民はどうしていたのか、出兵した男たちはどうなったのか。これもフィンランドの歴史で現実。フィンランドも紆余曲折あった国なんだなと思う。

 前回の記事の「マッティは今日も憂鬱」では、面白おかしく、自虐ジョークも入れてのフィンランド人が描かれていたが、この「四つの交差点」はもっと生々しい部分でのフィンランドの人々と暮らしと歴史を描いている。フィンランドの静けさと深さと、強さを感じられる物語です。

・過去関連記事:マッティは今日も憂鬱
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by halca-kaukana057 | 2017-07-01 22:43 | 本・読書

Im ~イム~ 6・7

 漫画を読んでも感想を書けずにいたので、何巻かたまってしまった作品もあり…。まとめて書きます。エジプト神話をモチーフにしたマンガ「イム」の6巻と7巻です。この2巻は続いている部分が多いので、まとめて書いてもいいかもしれない。

Im~イム~(6)

森下 真 / スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2017



 支部長を助け出したイムたち。羽羽方家でパーティーを開くことに。陽乃芽はイムがエジプトに帰ってしまう前の送別会だと思っていたが、パーティーで、羽羽方父がアメン神官団に事務員として入団することになったこと、それに伴い、陽乃芽も夏休みはエジプトに行くことが決まった。
 そしてエジプトにやって来た一行たち。観光している間、荷物を盗まれ、盗んだ男を追うと、晴吾の攻撃に対して人間離れした能力を使い逃げようとした。そして、蛇のような黒いアザが体中に現れ、死んでしまった。イムは、かつて大神官として"地獄の番人"をしていた時、負の感情に飲まれた者たちにそのアザが現れていたのを何度も見たことがあった。そのアザに何があるのか、コンスが本部から呼んだ、ラトの弟であるワジトユートと共に、黒アザの原因を探りに街へ出たが…

Im~イム~(7)

森下 真 / スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2017



 8年間もとり憑き、イムによって離れた"マガイ・セクメト"を、精霊(カー)として自分の中に戻した陽乃芽。イムを助けるため、その力で戦うも、魔力を制御しきれず倒れてしまう。ひとまず停戦し、去る新たな敵・ラムセス2世。陽乃芽が何故マガイ・セクメトを精霊(カー)に出来たのか。それには、陽乃芽の母・ひまわりが関係していた。羽羽方父は、ひまわりと出会った時のことをイムたちに語りだす…。


 この6・7巻で急展開です。舞台はエジプトへ。支部長誘拐事件で、浮かび上がったいくつかの謎。支部長にとり憑いていたマガイには、「創世九柱神(エネアド)」が関係している…?エネアドたちは何を考えている…?何かを隠している…?それらの謎を解きに、エジプトへ向かいます。
 エジプトに行くことに関して、イムは故郷を皆に見せられること、羽羽方パパは妻・ひまわりと出会った国を陽乃芽に見せられることを喜んでいる。そんな2人がいい感じです。

 エジプトでは、新キャラも登場。そのひとりが、ラトさんの弟というワジトユート君。上位神官です。まだ少年ながら、かなりの力を持っています(その理由は7巻で明らかになります)。そして、敵方はラムセス2世。クレオパトラの次はラムセス2世!強いけれども、ちょっと変わったところもある敵です。

 一方、ユート君の登場で、陽乃芽にある事実が発覚します。その事実をユート君に突きつけられた6巻の144ページからの陽乃芽の自分を責める気持ちが苦しい。そこからの、陽乃芽の本心が、7巻へと続きます。7巻では陽乃芽ちゃんが表紙。しかもカッコイイ!本編でも強くてカッコイイ!

 7巻では、これまでの伏線、謎が一気に解けます。展開が早くて、読み返さないと理解しきれない。古代エジプトの神々をうまく創作に当てはめていて、面白いです。7巻の読みどころは、若き羽羽方父と妻となるひまわりとの出会い。羽羽方パパがカッコイイ、なかなかのハンサムで、心意気も男前です。陽乃芽を産む時のひまわりさんの決意が、とても強くて…、陽乃芽は強い両親から、強いもの、強い心を受け継いでいるんだなと感じました。

 7巻ではついにアメン神官団の本部へ。更に新キャラが登場します。精霊(カー)を診察する医師の神官・ヘシレさんがなかなかいいキャラです。黒アザを発症するメカニズムも解明されます。エジプト神話を題材にしたファンタジーですが、普通の人間の心理に通じるものがあります。そして本部でまさかのあの人が登場。怒涛の展開でした。8巻が待ち遠しい。陽乃芽ちゃんが…どうなってしまうのか!

 謎めいた部分を持つコンスに関しても、徐々に明らかになっていきます。あのシーンのあれはそういうことだったのか…。よくわからないところが多いけれども、コンスの言うことは筋が通っているし、人間的でもある。イムを思いやってもいる。ただ、これからコンスが無茶をしないか…心配です。

 2巻一緒に書くと、まとまりに欠けます。細かい部分も欠けます。どう書いていいかわからない。下手するとネタバレになってしまう…。漫画の感想は溜めないほうがいいね。負の感情もね。そんな6・7巻でした。

Im ~イム~ 5
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by halca-kaukana057 | 2017-06-12 22:43 | 本・読書

Im ~イム~ 5

 10月はあまりブログを書けなかったので、今月は少し増やしていきたいです。まずは読んで感想を書いてない漫画がまた増えたのでそれを…


Im ~イム~ 5
森下真/スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2016

 クレオパトラにさらわれた八咫黒烏(やた・くろう)支部長を助けるため、船に突撃するイムや晴吾たち。そんな時、コンスから連絡が入る。支部長は15年前、マガイに憑りつかれていて、そのマガイをクレオパトラやジェゼルは狙っているという。15年前…晴吾の家・御空神社での事件。支部長の中にいるのは、御空神社で祀っていたマガイだった。15年前、御空神社で本当に起こったことは何だったのか。支部長は何をして、何故そのマガイが支部長の中にいるのか。そしてそのマガイは何のマガイなのか…。


 話がどんどん壮大になっていきます。古代エジプト神話の創世神話も出てきます。古代エジプト神話をおさらいし直しました。神話と、古代エジプト史と、熱い友情とバトル。5巻はそれらが全部詰まってます。

 晴吾の過去にもようやく決着がつきました。かつての支部長と、晴吾の父の過去。15年前、本当は何が起こったのか。晴吾たちを育て見守ってきた支部長の思い、晴吾たちの思い。とにかく熱いです。これまで、こういうタイプの友情とバトルの少年マンガはあまり読んだことがないので、新鮮で面白いです。支部長に引き取られた子どもたちから浮いていた晴吾、御空神社の息子ということで敬遠してた子どもたち。でも、本当は仲良くなりたかった。そんなわだかまりが4巻で解けましたが、5巻では更に晴吾たちの友情が強くなります。熱いです。支部長の意外な過去にも驚きつつも、やっぱり優しくて強い人なんだなぁと。

 マガイ戦は迫力満点です。イムが月神トトを召喚できるのはラトさんも知らなかったのか。イムは強いけど、イムだけではこのマガイは倒せない。強いチームワークでこそ戦える。いいですね、こういうの。

 イムがクレオパトラと対峙するシーン
俺達古代人(過去の人間)が<現代>(いま)を脅かす権利はない!
(60ページ)

に対してクレオパトラ
妾にだって<現代>(いま)があった!!!
(62ページ)

 この部分が印象に残りました。イムは過去から甦った人間。所々で回想がありますが、クレオパトラの運命も辛いもので…。それ、その時を取り戻したいという気持ちは切ないです。

 マガイを倒して一件落着と思いきや…また混乱が。また話が壮大になりました。そんな相手でも、怖気づかない晴吾。強くなったというか、怖いもの知らずというか…(汗

 一方のコンス。今回の件は、支部の上層部が絡んでいたことを突き止める。支部の中には何があるんだ?倒したマガイがイムに言っていたことと、 コンスの身体にあったもの…あれは何だ?コンスは本当に何者なんだ?そしてラストシーン、え?コンスとあの人が?えええ…!?続きが気になります。

 晴吾編が終わったので、6巻からはまた新しい展開がはじまります。楽しみです。

・4巻:Im ~イム~ 4
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by halca-kaukana057 | 2016-11-08 22:08 | 本・読書

ヴィンランド・サガ 18

 読んだ漫画は早めに感想を書こう…でも1ヶ月ぐらい経ってしまいました。


ヴィンランド・サガ 18
幸村誠/講談社・アフタヌーンKC/2016

 ヒルドに弩で撃たれ負傷したトルフィン。鍋に毒は盛られておらず、皆無事だった。トルフィンの怪我が治るまで、一行はノルウェー・ベルゲンで冬を越すことにする。そして春。ヒルドも加わり、ギリシアへ向けて再び出航する一行。
 一方、デンマーク。フローキらヨーム戦士団のところへ、イングランドからトルケルがやって来た。そして、市場で、トルフィンはヨーム戦士団の一行と再会してしまう。トルケルと再会、そしてフローキとも会う。そして、ヨーム戦士団の現在の状況と、トルフィンの血縁について話をする…。



 ヒルドさんも仲間(トルフィンの監視役)に加わり、旅の再開です。ノルウェーを出て、バルト海を渡りデンマークへ。久々の北欧、嬉しくなります。が、18巻の展開は全く嬉しい、楽しいものではありません。

 久々にトルケルが登場します。8巻でアシェラッドが死んで以来ですね。再登場時は、ちょっとノイローゼ気味になっていた。その理由がなんともトルケルらしいです。ヨーム戦士団とフローキも再登場。そういえば、フローキがトルフィンに会うのは初めてでしたっけ…?トールズが殺された時、子どもの頃には少し会っていたかもしれない。成長してからは初めてですね。
 ヨーム戦士団が抱える問題…後継者探し。ヨーム戦士団の団長には、血統を重視する。かつて「ヨームの戦鬼(トロル)」と呼ばれたトールズが父、母のヘルガは2代目団長の娘。そしてイングランドでは小柄ながら、大柄のトルケルを負傷させるほどの強さで一目置かれていた「侠気のトルフィン」トルフィン・カルルセヴニ。団長にふさわしい、と言われてしまう。トルフィンは、ヴァイキングの過去を捨てたのに…。

 捨てたい過去、自分は変わろうとしているのに、周りがそうさせてくれないことがある。過去を掘り起こしたり、引きずり込んだり、変わらないものとして扱おうとしたり。ただ駒にされているような気にもなる。トルフィンはヴァイキングだった過去を捨て、ヴィンランドで新しい国をつくり、新しい人生を歩もうとしているのに、トルケルやフローキは過去へ引きずり込んだ。何故人生はこうもうまくいかないのだろう。

 団長のことは勿論断ったが、ただではおかないフローキとヨーム戦士団。トルフィンたちを追ってくる。トルフィンはエイナルやグズリーズたちを逃がし、ヨーム戦士団の追っ手に立ち向かう(ヒルドさんは監視でついて来た)。殺気に満ち、相手を力で素早く射止めるかつてのトルフィンです。穏やかだったトルフィンが、また…。ヨーム戦士団の追っ手との対決で、蛇さんのことを思い出すトルフィン。蛇さんの方が強かったって…。トルフィンもずっと戦場から離れているのに、この動き。トルフィンは暴力と過去を捨て、その生き方を応援しているのに、戦うトルフィンもかっこよく見えてしまう。多分、以前とは戦う理由が異なるからだと思う。でも、理由は何であれ、トルフィンは暴力を捨てたのに…。

 そんなトルフィンの前に現れた2人のヨーム戦士団の戦士たち。彼らはちょっと違うようで…。そして、現実を突きつけられるトルフィン。なんとも辛い。ヴィンランドどころか、ギリシアにもたどり着けるのか…かなり不安になってきました。19巻を待ちます。月刊連載でもう20巻目前なんだな。どうなるんだろう。

 あと、シグルドたちはどうなっちゃうんでしょう…。

・前巻:ヴィンランド・サガ 17
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by halca-kaukana057 | 2016-09-25 22:09 | 本・読書

Im ~イム~ 4

 溜まってる漫画の感想です…。

Im ~イム~ 4
森下 真 / スクウェア・エニックス、ガンガン・コミックス/2016

 ラトの提案で、イムと晴吾をマガイ退治のコンビとして組ませることになった。が、やはりケンカばかり。そんな中、アメン神官団の神官が次々と失踪する事件が起きていた。家族をマガイに殺され、晴吾を引き取ったアメン神官団・日本支部長・八咫黒烏(やた・くろう)まで失踪してしまう。側近の話によると、女が同胞とともに支部長を連れ去った、と。また、鳥取砂丘の港に不審な大型船が停泊しているとの情報もあり、ラトを班長にイム、晴吾、晴吾と同じように孤児になり支部長に引き取られた稲羽、姫子が砂丘側から捜索にあたることになった。班の中はずっと険悪なムードだった…。

 4巻は神官団の内部、そして晴吾の過去が語られます。神官団がどのようにマガイを退治し、どのような組織になっているのか。そのメンバーや、どうやって神官団に入ったのかも明らかになります。

 晴吾はマガイに家族を殺され、神官団に入った晴吾。同じようにマガイによって孤児になり、支部長に引き取られて育てられた子どもたちがいた。稲羽や姫子たち。しかし、その中で晴吾は浮いていた。マガイを祀っていた御空神社は、彼らからマガイ教と呼ばれていた。そんな晴吾をかばい、謝罪するイム。何だかんだ言っても、イムは自分の罪を潔く認め、謝罪し、仲間と信じるものを守ろうとする。そして強い。口調が偉そう(元々神官)で、態度も偉そうなところが相手を怒らせてしまうことがあるが、イムのいざという時に素直な姿勢は、晴吾のこの4巻での成長に影響を与えていたと思います。

 この4巻、もうひとり鍵になるのがラトさん。コンスの護衛の上位神官。とても可愛くて強い。ラトたちが砂丘で出会ったのは…その「女」。3巻の最後で出てきた新キャラ・クレオパトラです!以前も話したとおり、古代エジプトは時代がとても広い。ジェゼルとイムホテプが出てきたのは古王国時代。クレオパトラが出てくるのは古代エジプトも末期、プトレマイオス朝。古代ローマが進出してきた時代で、美術も古王国~新王国時代のものとは違いがあります。古代ローマ文化の影響を大きく受けています。…という薀蓄はここまで。クレオパトラも名前と大まかな人物像だけ借りています。どんどんフィクションでやってくれたほうが気持ちいい。
 ラトさんに話を戻して、砂丘で出会ったはクレオパトラと、同じくコンスの護衛のセド。セドにピンチが。そんなセドを守ろうと、信頼して戦うラトさんがとてもカッコイイです。しかも、コンス、ラト、セドにはある秘密がありました。コンスも何やら不思議な動きを。この3人、一体何者なんだろう…。

 晴吾は、神官団のメンバーたちと、真正面から向き合い始めました。勿論、それまでは大変だったのですが…。晴吾を見ていたメンバーたちの、本当の気持ち。晴吾が孤立した理由。思いのすれ違い。かなしい、さみしい、仲間になりたいけれど、どう人に伝えていいかわからない。この気持ちは、私もわかります。そんな晴吾に正面からぶつかってくる、素直になれと言い続けるイム。イムは偉い神官なだけではないのだな。人間としてもできている。やり方はまずい時もあるけれど、本当に憎めません。

 3巻でジェゼルが、今回クレオパトラが使っていた術の謎も気になります。一体、マガイは誰が仕組んだものなのか。ジェゼルとイムが元凶ではないのかもしれない…仕組まれたというだけで。

 5巻ではいよいよ仲間と本丸に乗り込みます。
 しかし、陽乃芽ちゃんの出番がないですね…名前の由来は、以前1巻感想で書いた通りでした。

・3巻感想:Im ~イム~ 3

・1巻:Im ~イム~ 1
・2巻:Im ~イム~ 2
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by halca-kaukana057 | 2016-07-08 22:02 | 本・読書

ヴィンランド・サガ 17

 この漫画を買ったのはいつだろう…またしても遅れに遅れて感想書きます。

ヴィンランド・サガ 17
幸村誠/講談社・アフタヌーンKC/2016

 ギリシアを目指すトルフィン一行。ノルウェー、ベルゲン近郊の「凪の入り江」で女猟師のヒルドに出会う。ヒルドはトルフィンたちに熊の鍋をふるまうが、トルフィンを弩(いしゆみ)で狙い撃とうとする。ヒルドは子どもの頃、村がアシェラッドたちに襲われ、父はかつてのトルフィンに殺された。トルフィンに復讐するチャンスと考えたヒルドは、トルフィンに熊の鍋に入れた毒の解毒剤が欲しければ一人で森に来い、と言う。トルフィンは言われるとおり、武器も持たず一人で森へ行く。ヒルドに過去を詫び生きて罪を償いたいと訴えるトルフィンを、ヒルドはじっと見つめていた…。

 16巻で登場した女狩人のヒルド。表紙はヒルドさんです。金髪碧眼、弩を持ってカッコイイですが、心の中はトルフィンへの復讐で燃えています。
 父は大工で、ヒルドの村は船を造っていた。ヒルドも大工・設計の才能があり、水車を動力源とした自動のこぎりも設計するほどの腕前。ヒルドも子どもの頃から普通の女の子とはちょっと違う子だった。その辺り、そのうちグズリーズと分かり合えそうな気がする。父はヒルドの才能を認め、好きなように生きろと言い、幸せな生活を送っていたのだが…アシェラッドたちの襲来で全て壊された。アシェラッドの標的はヒルドの父。そのヒルドの父を、かつてのトルフィンが殺した。「オレが狩る側で、お前らが狩られる側だ」(91ページ)という言葉を残して。かつてのトルフィンが言いそうな言葉です。その一方で、ヒルドの父は、恨みと憎しみに押しつぶされそうになったら、「人を赦しなさい。赦す心だけがお前を救ってくれる」(77ページ)とも。

 その後、ヒルドは何とか生き残り、狩人の「師匠」に助けられ、狩人になろうと狩りを学ぶ。しかし、女の力では弓を引くのは困難。破壊力のある弩も、装填するのにやはり力が要る。女の腕力でも扱いやすく、装填も素早くできる弩を設計し、造り、実用化する。ヒルドさん凄い。師匠も、ヒルドの怒りや憎しみを読み取り、それを捨てろと言っていた。その師匠も、熊に襲われてしまう…。
 このヒルドさんの回想シーンは読んでて辛かった。

 そして現在。森の中でトルフィンを「狩ろう」とするヒルド。かつてトルフィンに言われた言葉を、そっくりトルフィンに返している。これも辛い。一方で、トルフィンは武器も持たず、ヒルドに今の自分を伝えようと必死に駆け回る。トルフィンが心を入れかえたことをずっと理解しているエイナルや、トルフィンに助けられたグズリーズたちも、今のトルフィンは違うと訴える。この物語…「プラネテス」でも幸村先生の物語には「愛」がテーマとして出てきますが、トルフィンも「愛」(キリスト教においての)を持っているし、エイナルやグズリーズ、レイフのおじさんたちからも「愛」を受け取っている。かつてのトルフィンも、今のヒルドと同じように、父・トールズをアシェラッドに殺され、復讐に燃え、怒りと憎しみだけで生きていた。それだけで生きるのは苦しい。人を苦しめ、自分も苦しむ。それがヒルドに伝わればよいのだが…。ヒルドさん強いです。改良した弩が凄い。トルフィンの想像以上。それでも無抵抗で立ち向かってゆくトルフィンも強いです。

 でも、ヒルドさんも「愛」を受け取っていた。父、師匠から。ラストのシーンがよかった。奴隷をしている間、憎しみや怒りから解放されていった(それでも、今でも多くの人々を殺したことでうなされている)トルフィンのように、ヒルドさんもその怒りや憎しみが和らいでいけば…と思う。復讐相手を目の前に…ってやっぱりかつてのトルフィンと同じだ。今後のヒルドさんに注目です。

・16巻:ヴィンランド・サガ 16
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by halca-kaukana057 | 2016-05-05 21:57 | 本・読書


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