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月のうた

 先日読んだ「夜明けのカノープス」に続いて、穂高明さんの作品を。これがデビュー作なのかな。
夜明けのカノープス

月のうた
穂高 明/ポプラ社/2007
※文庫版も出ています

 中学3年の民子は、小学生の時に母・美智子をガンで亡くした。祥子の母の”婆ば”は、料理も裁縫も家事もきちんとこなしていた。そして小学6年の時、父・亮太はまだ若い宏子と結婚。しかし、宏子は天真爛漫な性格で、料理もあまり出来ない。再婚後、祖母は老人ホームに入りそこで死んだ。母は自分がガンであること、長くは生きられないことをずっと民子に言わないまま、死んでしまった。何故病気のことを話してくれなかったのか…そのことを根に持ち、母や”婆ば”とは正反対の継母・宏子とも親しくなれず、民子は受験を控えていた…。


 民子、宏子、美智子の親友で息子の陽一は民子の幼馴染の祥子、そして父の亮太と、それぞれの視点で語られます。1章の民子の「星月夜」を読み始めた時には、この物語にあまり親しめないように感じた。
 幼い頃に母を亡くし、思春期に継母ができて、でも母や祖母とは正反対の性格・思考・雰囲気で馴染めていない。寧ろ反感を抱いている。特に食事・料理に関して、丁寧な料理を作っていた祖母や母とは全く異なる感覚を持っていることに関しては許せない、怒りも抱いていた。学校では成績は良いほう、教養もある。合唱部で部活に邁進している。部活でも、中学の部活でよくある厳しい上下関係の”規律”に納得せず自分の意見をしっかり持ち実行している。”規律”は守るべしと思っている同期にもはっきりと自分の意見を言い、物怖じしない。一方で繊細な心の持ち主でもある。そして、何故母が自分の病気や死にゆくことを娘に話さないまま死んでしまったのか、母を責める気持ちもあった。

 こんな民子や、民子の母と”婆ば”から見れば、私は宏子と同じ許せない人間だろう。料理は出来合いのもので済ましてしまうことが多い…料理が嫌いではないのだが、手間をかけても、現在あまりものを食べられない体調なので、丁寧につくったものでも出来たものでも同じ、と思えてしまう。ただ勉強ができるわけではない、教養が深い、人間が深い。幼い頃に母を亡くしたこともあるだろうし、元々そんな教養や人間性の深さを生み出しやすい家庭環境にあったのもあるだろう。物怖じせずはっきりとものを言い、自分が信じた正しい道を進む姿も凛々しい。2章「アフアの花祭り」で宏子から見た民子が語られるように、民子が完璧過ぎて、参ってしまった。でも、読み進めるうちに、民子の頑なな部分がほどけてゆく。

 私が中学生・高校生の頃、一部のクラスメイトに反感・苦手意識を抱いていたことがあった。明るくて、男女分け隔てなく会話が出来て、ちょっと校則から外れているところはあるけれどおしゃれでスタイルも良くかっこいい・可愛くて、勉強以外のことも色々知っていそうな人。そんな人が苦手だった。苦手なら付き合わなければいい。でも私にも話しかけてくることはあるし、嫌いなわけではない。自分に足りないものを豊かに持っていて、羨ましい気持ちもあった。そんな時、どう話したら、どう付き合ったらいいのか、悩むことがよくあった。

 民子に対しても、そんな気持ちだ。こんな子が身近にいたら、私は苦手意識を持つだろう。でも、嫌いじゃない。寧ろ、読み進めていくと、だんだん「いい子だな」と思えてくる。民子自身も変わっていっているし、読んでいる間に私も変わっていっているのだろう。少しの読書で自分が成長するかどうか、それがどの程度のものなのかわからないけれど、変わっていっているというのは確かだ。

 宏子に対しても、最初はやっぱり苦手意識を持つだろう。天真爛漫。けろっとした性格。でも、いわゆる「憎めない」。民子も、宏子も、死んだ美智子に対して様々な想いを持っている。3章「月の裏側」の、美智子の親友・祥子も、4章「真昼の月」の夫・亮太も。

 タイトルにも、各章の副題にも、そして作中でも月の話が頻繁に出てくる。月は変化することなく、地球の周りをまわっている。自転と公転の周期が同じなので、地球から月の裏側を見ることは出来ない。そして、地球から見ると月は満ち欠けをする。死んだ美智子や”婆ば”、そしてこの物語で語られる命そのものは、月のように思えた。変わらずにそこにあるけれども、いつどこから見るかで、見え方が変わる。満ちたり欠けたり。欠けたままでもないし、満ちたままでもない。それは、民子も宏子も、祥子も亮太も同じ。その変化が、とても爽やかに語られていて、読後には民子にも宏子にも苦手意識が無くなった。特に、民子のそれまでの考えに変化が起こる「星月夜」の最後あたりはとても清々しかった。母と祖母の死、宏子の登場で頑なになっていた思春期の少女の心が開く瞬間。祥子や、祥子の息子で幼馴染の陽一の存在もあって、民子は心を開けた。「アフアの花祭り」の最後も、宏子と民子の更なる変化がまた清々しい。月の満ち欠けのように、変化を自然に受け入れる・受け入れられる時は、誰にでもきっとめぐってくるのだろう。

 「夜明けのカノープス」でも、カノープス他天文のことが詳しく語られていたが、この「月のうた」でも月や天文、プラネタリウムのことも詳しく語られる部分がある。穂高さんは天文好きなのだろうか。だとしたら、天文好きとして嬉しい。他の作品もまた読みたくなった。
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by halca-kaukana057 | 2013-12-02 20:50 | 本・読書

夜明けのカノープス

 本のタイトルが気になって、手にとって見たら更に気になったので、読みました。


夜明けのカノープス
穂高明/実業之日本社/2013

 映子は小さな教育系出版者の契約社員。雑用のような仕事を何でも任される日々を送っていた。かつては中学校の国語の教員を目指して、教員採用試験を受けていたが毎年落ち続け、4回目に落ちて教師の道を諦めた。中学生の時、吹奏楽部で出会った先輩・若田は音楽の道に進み、スタジオミュージシャンとして活躍している。憧れて続けているが、その想いは叶いそうにも無い。
 そんな中、映子は副編集長の太田とともに、小学生向けの歴史の教材の企画に関わることになった。その教材の執筆を依頼しようとした歴史の大学教授・安川のもとを2人で訪ねる。その安川は、離婚して14年も会っていなかった映子の父親だった…。


 教員になる夢・目標を諦め、正社員にもなれず、主な仕事は雑用の契約社員。正社員には雑用扱い。映子の友達のトマちゃんは、教師の夢を諦めきれず採用試験を受け続けている。映子の置かれている状況に、自分を重ねてしまいそう…重ねて読みました。どうにかしたいけれども、どうにも変えられない閉塞した状況…仕事もプライベートも。冒頭の、映子の子どもの頃からの、ちょっとしたことだけれども心に引っかかる出来事にも、わかるなぁ…と感じながら読みました。そして性格も考えも異なる父と母。歴史の研究をしたいと大学の講師の仕事を引き受けようとした父。歴史も文化も芸術も、お金にならないものは役に立たないと、父を批判した母。そして離婚へ。
 ちなみに、私が立つとしたら、絶対に映子の父の側だ。

 そんな映子が、仕事を通して父・安川と再会する。離婚して、映子の母は安川に関係のあるものを嫌ったが、映子は父の影響か、教員になりたかったし、父がかつて話してくれた歴史の話が好きだった。

 また、映子は中学の先輩である若田に憧れている。中学生の頃からチェロの腕前は全国レベル。水泳部で活躍していたが、吹奏楽部のコントラバス(弦バス)の助っ人として部にやってきたことで、吹奏楽部に入っていた映子と出会った。大人になってから再会し、若田はCDのレコーディングや、音楽番組の演奏など、スタジオミュージシャンとしての道を歩んでいた。そんな若田に憧れを抱いていても、叶いそうにも無い。若田は華やかな世界にいて、映子からどんどん遠い存在になってゆく。遠いものに憧れること…それはポジティヴにもなれるけれども、自分からの距離の遠さを実感するとどんどん落ち込んでゆく。どうやっても届かない、と。

 映子の気持ちを表現した一節がある。少し長いけど、引用します。
 教師になれないのなら、せめて先輩への想いが叶えられたらなんて、そんな都合の良いことを考えてしまうこともある。先輩と再会する前は、教師になれるのなら、この先の願いごとなんが、そんなことはもうどうでも良いと思っていた。そもそも他の何かを願うこと自体、欲しないと思っていたから。
 それくらい本気で目指していたのに、結局、私は夢を叶えることができなかった。
 父の不在に心を苦しめて必死に過ごした先が、こんな何もない未来だなんて。夢を叶えられない未来だなんて。
 中学生の私は、こんな未来は想像していなかったはずだ。特別すばらしい未来を期待していたわけではないけれど、こんななにひとつとして確かなものを手にしていない、かわいそうな未来が待っているとは思いもしなかった。
(105~106ページより)

 ここを読んで、自分の心にちくりと何か鋭いものが刺さった感じがしました。中学生の時、どんな未来を想像していただろう。今の自分は、その中学生の自分が見たらどう思うだろう…。

 そんな映子に、もうひとつの小さな変化が。小学生の学習向けプラネタリウムの製作に関わることになったこと。天文には何も縁がなかった映子には、わからないことばかり。それでも、天文観望会では天体観測を楽しみ、そしてカノープスのことを知る。

 本のタイトルにもなっているカノープス。りゅうこつ座の一等星。全天でおおいぬ座のシリウスについで2番目に明るい星。しかし、南天の星であるカノープスは、日本からはなかなか観ることができない。冬、関東だと低く輝いている。高度が低いので、一等星なのに、暗く見えてしまう。天文好きで北国在住の私にとっては、南天の憧れの星です。

 そのカノープスを鍵に、映子と安川の距離が少しずつ変化してゆく。本当に少し、ほんの少しだ。映子の置かれている状況は、あまり変わらない。それでも、プラネタリウム製作に関わっている正社員の竹口に、強くものを言う映子はたくましいと感じた。この部分、天文に関しては全くの初心者である映子が、初心者でないとわからないこと、わかっている人は当然のものとして受け流すけれどもわからない人にはわからない…それに気づくことが出来るのは初心者だというのには頷いた。私も通ってきた道だ。
 天文観望会、そしてプラネタリウムのある科学館でガイドをしている小熊と話している部分も強く印象に残っている。
「本当に私、基本的なことすら何もわからなくて、お恥ずかしい限りです」
「でも藤井さんは、少なくとも『わかりたい』とは思っているでしょう?今よりも少しわかったらいいなあ、って」
(中略)
「その『わかりたい』って気持ちが大切なんですよ。そう思っているのなら、もう半分ぐらいは『わかってきた』状態なんです」
(151~152ページ)

 映子は、天文のこともだが、自分が置かれている状況についても『わかりたい』と思っている。『わかりたい』という気持ちを持っている映子は、映子自身が思っているほどではないのかもしれない…映子を、自分に置き換えて読んでみる。

 この本で、カノープスも歳差運動で天の南極に近づくこと、歳差運動によってカノープスの高度が少し高くなり見えやすくなったことで元号が変わったこともあった、と知りました。天文の本から天文のことを学ぶのは普通だけど、まさか小説から天文のことを知るとは思わなかった。

 カノープスは、全天で2番目の明るさなのに、日本からは高度が低くて暗めで、見るのが難しい(なので天文ファンはカノープスを観たがる…私もです)。歳差運動で、かつては観やすい時期も合った。遠い先、”南極星”になることもある。
 映子もそうだ。過去を悔やみ、現状はなかなか変わらない、変わらなくて落ち込んでばかり、心が塞ぎこんでしまってばかりいるけれど、きっと小さな希望が見えてくる時もある。過去も、振り返ってみれば後悔やかなしみ、暗さだけではないのかもしれない。大きな変化はないけれど。それでも、何も全く変わらない、なんてことはない。そんなことを思い、思わず涙が出てきてしまった読後でした。


 ちなみに、この本を手にとって、中を読んだ時、「若田」の名前に反応したのもこの本を読んだきっかけですw若田光一宇宙飛行士のことか!?と一瞬混乱しました…(この物語に出てくる若田先輩は、宇宙飛行士の若田さんとは全然違う雰囲気です…)

 天文好きとしては、参考文献に野尻抱影と「星ナビ」があるのも外せません。天文の部分も、うまく絡めているなぁ…天文好きが読んでも面白い本です。
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by halca-kaukana057 | 2013-11-15 23:27 | 本・読書


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