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カレワラ物語 フィンランドの神々

カレワラ物語―フィンランドの神々
小泉 保・編訳/岩波書店・岩波少年文庫/2008

 フィンランドの叙事詩・「カレワラ」の新しい本が出ました。岩波文庫で「カレワラ」をフィンランド語から日本語に訳した小泉保先生による、岩波少年文庫版。岩波少年文庫で神話・叙事詩と言えば、以前取り上げた「北欧神話」もある。これが読みやすく、北欧神話の雰囲気が伝わってきてよかった。これは期待。

 「カレワラ」の原詩日本語訳を所々に入れ、物語風になっています。物語風の「カレワラ」と言えば、以前読んだ「カレワラ物語」(キルスティ・マキネン著/荒牧和子訳/春風社)もある。しかしこちらは完全に物語。原詩はどこにも出てこない。私が今まで原詩を読んだのは、シベリウスの「カレワラ」に基づく作品…「クレルヴォ」や交響詩「ルオンノタール」などの日本語訳歌詞のみ。ようやく原詩を味わえた。読んで、とても美しく躍動感があると感じた。大気の乙女・イルマタル(ルオンノタール)が天地を創造し、老賢人ワイナミョイネンが生まれる。ワイナミョイネンや荒くれ者・レンミンカイネンの呪文や歌は原詩でその想いの強さや躍動感がより引き出される。「カレワラ」の活き活きとした面白さを、たっぷりと味わえる本を出してくれた岩波書店さん、本当にありがとう。

 この本の解説には、「カレワラ」に出てくる呪術師である登場人物たちは神々として信仰されていたと書かれてある。以前、「人」か「神」か論争になったこともあるそうだ。「カレワラ」に出てくる神は"ウッコ"ただひとり。この本の中でも、ワイナミョイネンがウッコに願うシーンがよく登場する。だが、ワイナミョイネンも老賢人であり、フィンランドの伝統的な楽器・カンテレを演奏して歌い人々を魅了する詩歌の神とされている。鍛冶屋のイルマリネンは、フィンランドに恵みをもたらす"サンポ"や天空を鍛造した神と崇められている。北欧神話でも神々は神様なのに人間臭いところが合って失敗もする。完全、絶対的な存在ではない。スカンディナヴィア諸国の北欧神話と、フィンランドの「カレワラ」は全くの別物だけれども、神様だけど完全でなく、より人間に近いところは似ていると感じた。

 そんな人間臭い神々の一方で、両親の仇を討つ「クッレルボ」のお話には引き込まれます。シベリウスの「クレルヴォ」も、CDを何枚か持っているので聴き直そう。シベリウスは好きだけど、「クレルヴォ」は近づきがたい存在だと感じていた。クッレルボの深い深い哀しみを、もっと味わってみよう。


 ところで、「カレワラ」にはいくつか疑問を感じるところがある。ワイナミョイネンがサーミの乙女・アイノに出会った時、アイノはその求婚の言葉に対して「あなたのために十字架はつけません」と言って拒絶した。「カレワラ」はキリスト教がフィンランドに入ってくる前からあるのに、何故十字架?これはフィンランドが舞台のアニメ「牧場の少女カトリ」でも、主人公カトリに「カレワラ」を読むことを薦めた青年・アッキが、カトリに出会ったシーンでワイネミョイネンの言葉を引用するのだが、その時から疑問だった。まだ疑問は解決せず。口頭伝承しているうちに変化したのだろうか。
*「牧場の少女カトリ」のそのアッキのシーンについて: 牧場の少女カトリ 2・3巻それぞれの感想まとめ
 3話で出てきます。

 それと、"サンポ"って結局なんだったのだろうか。形もよくわからない。ワイナミョイネンたちがサンポをポポヨラの女主人・ロウヒから奪い返そうとするよりも、作った本人・イルマリネンがいるんだからもう1回作ったらどうかと思ったのだが、そういうわけにもいかないのか。この辺もまだよくわからない。

 読み込めばもっと面白いと思う「カレワラ」。岩波文庫の小泉先生による訳は絶版ですが、もう一度図書館などを探してみよう。
by halca-kaukana057 | 2009-01-18 22:18 | フィンランド・Suomi/北欧

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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