2009年 06月 07日
バロック期ヨーロッパのはかなさと躍動感 「静物画の秘密展」
現在青森県立美術館で開催中の「ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展」を観に行ってきました。青森県立美術館はこれまで何度か行って、お気に入りの美術館なのですが記事に書くのは初めてです(タイミングなどを逃して書けずにいたのです)。
◇青森県立美術館:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展
青森県立美術館はその建築が印象的な美術館です。以前行った同じ青森県の十和田市現代美術館もそうだった。
真っ白な外壁の建物。この美術館を設計した青木淳さんのコメントによると、隣の三内丸山遺跡の発掘現場から発想したのだそう。三内丸山遺跡までは遊歩道があって歩いて行けます。
建物の下に位置する、不思議な通路。この建築のお気に入りの場所のひとつです。
さて、ウィーン美術史美術館は、ハプスブルク家のコレクションを集めた美術館。17世紀…音楽で言ったらバッハと同じ時代。バロック期の画家、ルーベンスやヤン・ブリューゲル(父)、ベラスケスなどの作品が展示されています。目玉はチラシやポスターにも印刷されているディエゴ・ベラスケスの「薔薇色の衣装のマルガリータ王女」。日本初公開です。
全体的に面白く鑑賞したのですが、特に興味を持った点が2つ。まず、「ヴァニタス(虚栄)」の静物画。「ヴァニタス」とは、ラテン語で「虚栄、むなしさ」という意味。展示されている作品を描いた画家の多くが住んでいた17世紀のオランダは、バブル絶頂期で儲かりまくっていた。沢山の珍しい花や果物が出回り(ただし貴族の間だけ)、東洋からも様々なものが輸入された。その繁栄の一方で、繁栄も長くは続かないという考えもあった。英華もしょせんむなしい…。そのはかなさ、むなしさの象徴としてどくろやろうそく、時計や倒れたグラスなどが描かれる。西欧にもはかなさ、むなしさという概念があったのか。意外だ。西欧文化というと、死後も神の御前で永遠を求めるものだと思っていた。日本のわび・さびに繋がるものがあるのかもしれない。いや、はかなさ・むなしさを感じたあと、その後どう感じるかが東西の違いなのかも。西洋はそのむなしさを越えた存在を求める。一方東洋は諦観して、物事は常に変わるものと捉える。とても興味深かったです。
そのヴァニタスを象徴する絵で特に気に入ったのがアントニオ・デ・ペレダの「静物:虚栄(ヴァニタス)」。繁栄の裏にあるむなしさ・はかなさを象徴する静物が多く描かれています。どんな作品かは、昨年国立新美術館で開催された東京展での東京新聞の特集に詳しく書かれていますので以下をどうぞ。
・東京新聞:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展:この一点<3>
もうひとつ興味を持った点は、絵に躍動感があり、とても活き活きしているという点。静物画というと置物や花など動かないものをそのまま描いたものだと思っていた。しかし、そんなモノたちも鮮やかに、その場に実際にあるかのように描かれている。繊細なタッチで、色彩も豊か。ヤン・ブリューゲル(父)の「青い花瓶の花束」も花々が鮮やかに、活き活きと描かれていました。
東京新聞:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展:この一点<8>
また、ヴァイオリンやリュートなどの楽器を描いた作品も多かった。楽器、つまり音楽もはかなさの象徴として描かれていたようです。気に入ったのがイタリアの画家・エヴァリスト・バスケニスの「静物:楽器、地球儀、天球儀」。裏返しになったリュートにホコリが付いている様も描かれているのですが、実際に絵にホコリがかぶっているのかと思ってしまった。リアルです。
・東京新聞:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展:この一点<6>
バロック期って、思っていたよりも活き活きしていたのだなと思う。貴族も民衆も。市場や酒場の民衆を描いた絵もあったのだが、どれも躍動感に溢れていた。その当時の生活の様子が、息づかいと共に伝わってくるようだった。特に気に入ったのが、ドイツの画家マルティーン・ディヒトルの「台所道具を磨く女」という作品。なべを磨く女性が、とても活き活きしているんです。日常のありふれたひとコマなのだけれども、そのひとコマを印象的に切り取って描いている。これらの作品を観て思ったのは、絵画だけでなく、バロック音楽ももっと活き活きしているものなのかもしれないということ。バロック音楽というとフーガの形式だとか対位法だとか、そういう"型"に目(耳?)がいってしまい、堅苦しいという見方も生んでしまう。でも、主に現代の演奏家による現代楽器での演奏だけれども、その演奏をじっくり聴いてみると旋律ひとつ取っても躍動感に溢れている。以前、ペツォールトのメヌエット(バッハのメヌエットと呼ばれている、BWV Anh.114,115のメヌエット)を演奏した時、指が踊っているように感じた。そんな躍動感が、バロック期の絵画にも音楽にもある。絵画を観に行ったはずなのに、バロック期の芸術文化全体について考えが深まった。
最後に目玉の「マルガリータ王女」。とても美しい。ピンク色の頬と、柔らかで温かな色合いのピンクのドレスがとても可愛らしい。しばらくの間見入ってしまいました。
静物画展を観た後は常設展へ。青森県立美術館の目玉と言えば、シャガール「アレコ」背景画。いつ観ても迫力があります。静物画の秘密展を鑑賞して、ちょっと疲れたので「アレコ」を観ながらソファに座って一休み(アレコホールにはソファが置いてあるんです)。何とも満ち足りた気分です。それと、奈良美智の「あおもり犬」。少し前からそばに近づいて、写真撮影もOKになったんです。近くで観ると、結構大きい。写真撮影OKと言うことで、バシバシ撮りました。
「静物画の秘密展」に関して詳しくは、前述の東京新聞のページと、兵庫県立美術館のページが充実しているので、参考にリンクを貼っておきます。
◇東京新聞:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展
◇兵庫県立美術館「芸術の森」:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展
◇青森県立美術館:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展
青森県立美術館はその建築が印象的な美術館です。以前行った同じ青森県の十和田市現代美術館もそうだった。
真っ白な外壁の建物。この美術館を設計した青木淳さんのコメントによると、隣の三内丸山遺跡の発掘現場から発想したのだそう。三内丸山遺跡までは遊歩道があって歩いて行けます。
建物の下に位置する、不思議な通路。この建築のお気に入りの場所のひとつです。
さて、ウィーン美術史美術館は、ハプスブルク家のコレクションを集めた美術館。17世紀…音楽で言ったらバッハと同じ時代。バロック期の画家、ルーベンスやヤン・ブリューゲル(父)、ベラスケスなどの作品が展示されています。目玉はチラシやポスターにも印刷されているディエゴ・ベラスケスの「薔薇色の衣装のマルガリータ王女」。日本初公開です。
全体的に面白く鑑賞したのですが、特に興味を持った点が2つ。まず、「ヴァニタス(虚栄)」の静物画。「ヴァニタス」とは、ラテン語で「虚栄、むなしさ」という意味。展示されている作品を描いた画家の多くが住んでいた17世紀のオランダは、バブル絶頂期で儲かりまくっていた。沢山の珍しい花や果物が出回り(ただし貴族の間だけ)、東洋からも様々なものが輸入された。その繁栄の一方で、繁栄も長くは続かないという考えもあった。英華もしょせんむなしい…。そのはかなさ、むなしさの象徴としてどくろやろうそく、時計や倒れたグラスなどが描かれる。西欧にもはかなさ、むなしさという概念があったのか。意外だ。西欧文化というと、死後も神の御前で永遠を求めるものだと思っていた。日本のわび・さびに繋がるものがあるのかもしれない。いや、はかなさ・むなしさを感じたあと、その後どう感じるかが東西の違いなのかも。西洋はそのむなしさを越えた存在を求める。一方東洋は諦観して、物事は常に変わるものと捉える。とても興味深かったです。
そのヴァニタスを象徴する絵で特に気に入ったのがアントニオ・デ・ペレダの「静物:虚栄(ヴァニタス)」。繁栄の裏にあるむなしさ・はかなさを象徴する静物が多く描かれています。どんな作品かは、昨年国立新美術館で開催された東京展での東京新聞の特集に詳しく書かれていますので以下をどうぞ。
・東京新聞:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展:この一点<3>
もうひとつ興味を持った点は、絵に躍動感があり、とても活き活きしているという点。静物画というと置物や花など動かないものをそのまま描いたものだと思っていた。しかし、そんなモノたちも鮮やかに、その場に実際にあるかのように描かれている。繊細なタッチで、色彩も豊か。ヤン・ブリューゲル(父)の「青い花瓶の花束」も花々が鮮やかに、活き活きと描かれていました。
東京新聞:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展:この一点<8>
また、ヴァイオリンやリュートなどの楽器を描いた作品も多かった。楽器、つまり音楽もはかなさの象徴として描かれていたようです。気に入ったのがイタリアの画家・エヴァリスト・バスケニスの「静物:楽器、地球儀、天球儀」。裏返しになったリュートにホコリが付いている様も描かれているのですが、実際に絵にホコリがかぶっているのかと思ってしまった。リアルです。
・東京新聞:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展:この一点<6>
バロック期って、思っていたよりも活き活きしていたのだなと思う。貴族も民衆も。市場や酒場の民衆を描いた絵もあったのだが、どれも躍動感に溢れていた。その当時の生活の様子が、息づかいと共に伝わってくるようだった。特に気に入ったのが、ドイツの画家マルティーン・ディヒトルの「台所道具を磨く女」という作品。なべを磨く女性が、とても活き活きしているんです。日常のありふれたひとコマなのだけれども、そのひとコマを印象的に切り取って描いている。これらの作品を観て思ったのは、絵画だけでなく、バロック音楽ももっと活き活きしているものなのかもしれないということ。バロック音楽というとフーガの形式だとか対位法だとか、そういう"型"に目(耳?)がいってしまい、堅苦しいという見方も生んでしまう。でも、主に現代の演奏家による現代楽器での演奏だけれども、その演奏をじっくり聴いてみると旋律ひとつ取っても躍動感に溢れている。以前、ペツォールトのメヌエット(バッハのメヌエットと呼ばれている、BWV Anh.114,115のメヌエット)を演奏した時、指が踊っているように感じた。そんな躍動感が、バロック期の絵画にも音楽にもある。絵画を観に行ったはずなのに、バロック期の芸術文化全体について考えが深まった。
最後に目玉の「マルガリータ王女」。とても美しい。ピンク色の頬と、柔らかで温かな色合いのピンクのドレスがとても可愛らしい。しばらくの間見入ってしまいました。
静物画展を観た後は常設展へ。青森県立美術館の目玉と言えば、シャガール「アレコ」背景画。いつ観ても迫力があります。静物画の秘密展を鑑賞して、ちょっと疲れたので「アレコ」を観ながらソファに座って一休み(アレコホールにはソファが置いてあるんです)。何とも満ち足りた気分です。それと、奈良美智の「あおもり犬」。少し前からそばに近づいて、写真撮影もOKになったんです。近くで観ると、結構大きい。写真撮影OKと言うことで、バシバシ撮りました。
「静物画の秘密展」に関して詳しくは、前述の東京新聞のページと、兵庫県立美術館のページが充実しているので、参考にリンクを貼っておきます。
◇東京新聞:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展
◇兵庫県立美術館「芸術の森」:ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展
by halca-kaukana057
| 2009-06-07 22:31
| 興味を持ったものいろいろ