人気ブログランキング |

旅人 ある物理学者の回想

 ノーベル賞発表の季節が来ましたね。というわけ…ではないのですが、日本人で初めてノーベル賞(物理学賞)を受賞した湯川秀樹のエッセイが文庫で出ているのを知ったので、読まずにはいられなかった。科学者のエッセイが大好きです。


旅人 ある物理学者の回想
湯川 秀樹/角川書店・角川文庫ソフィア

 この本は、湯川博士が朝日新聞に自身の生い立ちなどについての連載エッセイをまとめたもの。生まれてから生い立ちや両親、兄弟のこと、住んでいた京都の街のこと、学校のこと、学友たち、そして学問のこと…。淡々と、しかし当時の湯川博士が見ていたであろう風景や人々の様子が鮮やかに語られている。

 ノーベル物理学賞を受賞した物理学者のエッセイといえば、リチャード・ファインマンの「ご冗談でしょう、ファインマンさん」「困ります、ファインマンさん」を思い出す。ファインマン博士のエッセイは(と言っても、これらの本はファインマン博士自身が書いたわけではないのだが)、とても愉快痛快で面白い。好奇心旺盛で何にでも挑戦し、ユニークな発想とユーモアで周りを驚かせる。(「ご冗談でしょう~」の下巻に、ファインマン博士が来日した際のエピソードがあり、そこに湯川博士も登場する。)

 一方、こちら湯川博士の回想は、とても静かでもの寂しい。言葉のひとつひとつに、静けさが漂っている。科学や自身の中間子論についても書かれているが、専門的な用語の羅列ではなく、湯川博士自身が感じたことや中間子論を思いつくまでの苦悩が淡々と書かれている。しかし、淡々としている=つまらない、ではない。とても思慮深く、哲学的な文章の世界に引き込まれる。この回想では、湯川博士がどんな本を読んできたかについても書かれているが、科学書よりは古典文学や哲学書の方が多いような気がする。子どもの頃から読んできた文学や、心の中で育ててきた哲学的考え方を糧に、量子物理学という未知の世界への旅へ挑む。学問というものは、どこでどうつながっているか分からないと感じることがある。意外なつながりを見つけて驚くこともあるし、わき道にそれたつもりがアイディアの元になった…ということもある。湯川博士の探究心、洞察力はものすごいものだと感じた。

 湯川博士は、自分自身のことを孤独で我執の強い人間だと書いている。孤独であっても、その目線は自分自身の心、そして周囲の人々へ向けられている。より深く、より優しく。湯川博士のことはこの本を読むまではあまり知らなかったが、学問と人間を静かに、穏やかに愛した人なのだろうと感じた。

 とにかく文章が美しく、生き方についても考えさせられる本なので、科学は苦手と感じている方にもおススメします。湯川博士のエッセイは他にもないのかしら。もっと読んでみたくなった。
by halca-kaukana057 | 2009-10-06 21:13 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31