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[映画版]風が強く吹いている

 小説「風が強く吹いている」(三浦しをん:原作)の映画版をようやく観ました。DVDが出るのを待っていたんです。

風が強く吹いている [DVD]
出演:小出恵介,林遣都,中村優一,川村陽介, ダンテ・カーヴァー,橋本淳,森廉/監督・脚本:大森寿美男/バンダイビジュアル/2010

 あらすじは原作とだいたい同じです。ただ、ハイジと走(カケル)が出会うシーンや、葉菜子の家が八百屋ではなく食堂である点など、原作と異なる部分はあります。

 最初観た時は、正直「原作のダイジェストムービー…?」と思いました。しかし、もう一度観直してみると、細かい所まで丁寧に描いているように感じました。例えば、カケルがひとり走るシーンでの、風の音。アオタケに入った時は速く走ることだけに価値を置き、アオタケの住人たちと心を通わすことのなかったカケルが、徐々にアオタケに馴染み走っているメンバーを応援したり、走り終わった後で労ったりするシーン。これはアオタケメンバー全員にも言える。ひとりひとりの走るフォームだけ見ていても、その人の個性が表れている。また、住人が鍋を囲むシーンで、神童がお皿を手渡したり、野菜を鍋に入れたりと、細かい気配りを欠かさない"ちょっとした動作"にもその人の個性や性格、アオタケでの立ち位置が伺える。原作を読んでいて、文章には表されなかったちょっとした動作や部分が映像となって表されたのは嬉しい。

 ボロいアオタケの床がきしむ音や、王子の部屋の積み重なった漫画も、映像として観られて嬉しい。この作品は文章そのものも面白いのだけれども、どんな場面か、どんな情景かと思い浮かべるのが楽しい作品だと感じています。アオタケ、走るメンバーたち、その走りのフォームや速さの違い、表情や顔つき、口調、走っている時の周りの風景…。思い浮かべたシーンが、映像で再現…いや、再現と言うよりも、また新しい切り口の「風が強く吹いている」になった。特に、カケルの走るフォームには度肝を抜かれました。全く無駄のない、スマートで軽快、力強い、スピード感溢れる走り。林遣都さんが、まさにカケルのイメージにピッタリだった。俳優さんの演技力、演技・役に対する情熱と役作りの努力に感服しました。

 また、ハイジもアオタケメンバーを支え、走りのコーチングをし、住人たちに信頼されている様が、まさにハイジさんでした。何か指示を出す時の「パンパン!」と手を打つシーンとその音が好きです。アオタケメンバーと同じように、やる気になって体が動くようです。そして、故障を越えて、走ることとはどういうことなのかを問い続ける。ただ「速い」だけじゃない、「強く」ありたい。その問いに、カケルだけでなくアオタケ全員が一丸となって走り、自らを鍛え、各々の目標に向かって走る姿が静かに胸に響きました。カケルが王子を責め、ハイジがカケルに掴み掛かるシーンは圧巻です。

 あまり細かくは描かれなかったのが残念ですが(特に箱根本戦での)、アオタケメンバーそれぞれの走ることへの想い、自己に対して抱えていることを語るシーンはどれも印象的です。細かい説明はなくても、その言葉の合間にあるものに深さを感じます。特に、神童が抱えていることと、実家との電話のシーン。いいカタルシスでした。

 カケルにとって、ハイジと同じく影響を与えることになる藤岡さんの出番が少なく、圧倒的な強さや凄みが感じられなかったのは残念。もっと思慮深い、禅僧のようなキャラを想像していたのだが…。箱根10区の演出も、残念です。抱えていることに打ち克ち、完走したことを印象付けるための演出だったと思いますが…。その後の結果はオマケの奇跡みたいになってしまったのが残念。あと、寛政大学は「箱根駅伝初出場」と大学に掲示してあったのに対して、スポーツ新聞では「35年ぶり」と書かれていた。これもどうなっているのでしょう?

 残念な点や疑問点もありましたが、楽しめました。箱根駅伝の映画なんて、よくロケができたなぁと思います。走ることを通して、生きることを問い続ける。私も、答えは出せていません。でも、「強くなりたい」。そう感じました。

「風が強く吹いている」公式サイト

【関連過去記事】
風が強く吹いている
 原作感想。今でも時々読み返します。
[コミック版]風が強く吹いている 1
 漫画版1巻感想。漫画は漫画で面白かった。全6巻で完結しました。
コミック版2巻
コミック版3巻
コミック版4巻
コミック版5巻
コミック版6巻(最終巻)

 最後にいくつか。
・王子役の中村優一さんはドラマ版「ふたつのスピカ」の秋役の人だったのね。気がつかなかった。
・キングは原作通り雑学王の設定になっていてよかった。帽子つき早押しボタンがいいwピコーン!って音がw
・ユキは音楽好きという設定がなくなってる。クールで秀才なイメージには合う。
・ニコちゃん先輩の呪いの「針金人形」が出てきて吹いたw襷のお守りにも、針金人形がモチーフの人形がついてるしw
・葉菜子ちゃんはマネージャーではなく、ボランティア…?
・特別協力に上武大学が。上武大学が箱根初出場を果たした時、「リアル寛政大学か!」と思ったのは私だけではあるまい。ユニフォームもそっくりだしwでも、何十年ぶりに出場して…なら、青山学院大の方が寛政大に近いのかも。
・最後のアオタケの前で再会するシーン、よかったなぁ。もっとじっくり会話を聞きたかった。
by halca-kaukana057 | 2010-05-13 23:06 | 興味を持ったものいろいろ

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


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