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幸田文 季節の手帖

 再び、幸田文のエッセイ選集です。
・前回の記事:幸田文 旅の手帖


幸田文 季節の手帖
幸田 文:著/青木 玉:編/平凡社/2010

 前回は旅に関するエッセイ選集でしたが、今回は季節に関するものを集めています。季節によって移り変わる気候、自然。それに合わせて変化する人間の暮らし。季節と自然と人間の暮らしのかかわり。文さんはその変化を、敏感に感じ取って、繊細な、細やかな言葉で表現している。文さんは本当に季節の変化を、身の回りのこと…天候・自然から、町の様子、人々の暮らしまでをじっくりと見つめていたのだろう。そして、発見したこと、感じたことを流すことなく文章にしてきた。文さんが生きこれらのエッセイを書いた時代から40年ほど経っているが、季節の変化を大事にする気持ちを、私達は忘れてはならない、後世へ日本の文化として伝えなければならないと強く感じた。

 特にそう感じたのが、「秋ぐちに」という一遍にある、座布団の話。座布団は縦と横の寸法が微妙(1寸か1寸5分)に異なる。縦が少しだけ長い。縦長にしく座布団のことを知らない人がいて、残念だと書いている。私もこの一遍を読むまで知らず、思わず家の座布団で確認してしまった。その座布団の縦長の違いを
「これはいわば先祖の残した美しさである。日常生活の道具でしかない座布団にも、一寸という幽かなところで、美しさを出さないではおかなかった先祖たちなのである。滅茶苦茶にしてしまっては、愛が足りないことだ。忙しい生活がやさしさを奪うので、人間がわるくなったとか、美しさがわからなくなったとか、悪く解釈してはいけまい。ただ、時世がかわるとか、様式がうつるとかいう大きなことは、こうした座布団の寸法、縦横、といったごく小さい美しさから、崩れ失われていくのだろうか、と考えさせられるのである。」
(113~114ページ)

 と書いているのを読んで、申し訳ない気持ちになった。座布団のわずかな寸法の違いは季節には関係はないけれども、そのわずかな違い・変化に気づかず通り過ぎてしまう、または、当たり前のものだと思ってないがしろにしてしまうことは、季節の変化に関しても同じなのではないか、と思ってしまった。

 この選集にも、父である露伴との思い出が綴られている。露伴も季節の変化を敏感に感じ、楽しんでいた。また、これは小説かと思うような、夢か現かわからないような文章もある。春の竹を描いた「いのち」、「藤の花ぶさ」、「風の記憶」、「緑蔭小話」など。季節は、自然は時に、不思議なものを見せてくれる。人間の想像を超えるような。

 最後に、今の季節に合う一遍を。「雪 ―クリスマス」。文さんの母の発案で、週に一度近所の子どもたちのために牧師さんを招いて集まりをしていた。そのクリスマスで、か弱い身体つきの幼い姉弟がいた。2人は静かな歌を歌うことになったが、歌声もか弱く、小さくて通らない。他の子たちがやじを飛ばしたりしていたが、2人は声は小さかったが、生き生きとした表情で歌っている。騒いでいた子たちも大人しくなり、2人の澄んだ歌声が響いた。歌が終わった後は拍手喝采だった。
「大勢のなかにいて自分の声を失わないのは強い。」
(164ページ)

 この姉弟のような姿勢でいたいと思う一遍だった。
by halca-kaukana057 | 2010-12-13 22:53 | 本・読書

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