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君たちはどう生きるか

 先日読んだ「僕は、そして僕たちはどう生きるか」(梨木香歩:著)の元となった「君たちはどう生きるか」、読みました。岩波文庫版で。

僕は、そして僕たちはどう生きるか:(梨木香歩)

君たちはどう生きるか
吉野源三郎/岩波書店・岩波文庫

 この作品が発表されたのは1937年(昭和12年)。その後、修正はされているが、書かれている内容は今読んでも古臭いとは感じなかった。現代でも通じる、普遍の内容であると感じた。「貧しき友」の章も現代に通じるところがある…と書くと、豊かになったと思える現代でも貧困の問題を克服できていないのか…と考えてしまった。この作品の時代の貧困と、現代の貧困はまたちょっと違うけれども。

 15歳の中学生の少年・コペル君(本名は潤一だが、そうあだ名がついている)と、学校の友達、そしてコペル君が父を亡くした後、父親のような存在であるおじさんとの交流や会話、様々な出来事を通して、コペル君が成長してゆく物語として書かれている。友情や生き方について書かれている部分もあるが、メインは「社会の中で生きる」ということ。デパートの屋上から街を見ていたコペル君が、僕らは広い世界の一分子で、人間はその集まりだ…ということを考え、おじさんに話す。そして、その”分子”は「生産関係」の中で、ものを生産し、消費している。ものは世界中を駆け巡る。会ったこともない人とも、生産した何かで繋がっている。それは、遠い過去から続いている。文化や芸術も、世界中を駆け巡って伝わり、それぞれの民族によって異なる特色が加えられた。普段、生活していると自分の身の回りしか気にしない、身の回りのことだけ考えてしまう。が、コペル君とおじさんの言葉は、誰もが広い世界に人間同士何らかの関わりを持って生きているんだ、という視点を静かに、穏やかに、優しく語りかけ、気づかせてくれる。

 そんな世界・社会で生きてゆくためにも、自分が感じたことをごまかさず、正直に受け止めて考えてゆくこと。過ちを犯したら、苦しんでもそれを認め反省し、もう一度立ち上がること。歴史に学ぶこと。社会のために貢献すること。おじさんはこれらを力強く語りつつも、押し付けるようなことはせず、一文一文考え、噛み締めながら語る。おじさんの視点で読むか、コペル君の視点で読むかで、また味わいも異なる。深い本だ。

 「雪の日の出来事」から「石段の思い出」「凱旋」までの章は、結構重めの物語。友情を壊してしまったというコペル君の境遇に、自分の過去を重ね合わせて読んだ。切ない、辛い、苦しい。でも、コペル君はおじさんや母の言葉に励まされ、友情を取り戻そうとする。コペル君も、友達もとても真摯で、心優しくあたたかく、こんな友情はずっと続いていくんだろうなとちょっと羨ましくもなった。それを作るのは、読者の君たちなんだよ、と筆者は言いたかったのかもしれない。

 お茶目でいたずら好きなコペル君や、友達との無邪気な会話、更に柔らかいイラストがユーモラス。書かれている内容は濃いのに、あたたかく手を引いて物語の世界へ入れるようにしてある。80年以上も読み継がれていても不思議じゃない、と感じました。

 中学生、もしくは高校生の時に出会いたかった。でも、大人になってから読んでも遅くは無い。いい本だ。いい本に出会えて幸せだ。そして、この本は「社会の中で生きる」スタートラインなんだ。そう感じました。物語はまだまだ続きそうなところで終わっている。この先は、君たちが生きて、作ってゆくのだよ。おじさんがそう言っているような気もします。
by halca-kaukana057 | 2012-01-25 23:10 | 本・読書

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by 遼 (はるか)
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