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女神のタクト

 以前書店で見かけて、タイトル、表紙イラストで気になってた本。ようやく読めた。

女神のタクト
塩田武士/講談社/2011

 30歳の明菜は、職と交際相手を同時に無くし、放浪の旅の途中、神戸の舞子の浜辺に立ち寄った。そこで、とある老人・白石麟太郎と出会う。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を聴いているその白石と話をしているうちに、明菜はアルバイトをしないかと言われる。京都にいる一宮拓斗という指揮者を、神戸にある「オルケストラ神戸」に連れて来る、という。指揮者の仕事から離れている拓斗を強引に連れてきて、オルケストラ神戸の事務局スタッフやメンバーと会う。オケは財政面などで瀕死の状態。何とか定期演奏会をしたい…。明菜も拓斗を連れて来るだけのアルバイトだったが、オケのために奮闘を始める…

 オーケストラが舞台の小説となると、ちょっと期待して読んでしまう。男勝りで豪快、痛快な明菜の性格・言動のおかげで、物語もテンポよく進みます。そして、拓斗やオケに関わる人物がやはり個性的です。

 この小説は、オーケストラの裏方・事務局の仕事に焦点を当てています。オケの指揮者・演奏家に焦点を当てる作品が多いですが、こちらは裏方。事務局員となってしまった明菜や事務局長の別府、ステージマネージャーの松浦、HPなどの広報の辻の裏方の動きを追うのが面白い。企画や広報も一筋縄ではいかない。また、財政面で問題があるので、何とか低予算でやりくりしようとする。ここで明菜の性格が活きるのですが、明菜の思い切りのいい言動を読んでいると、こんなに自分の思っていることをズバッと言ってちょっと羨ましいなと思ってしまう。

 一方のオケの演奏の方。音楽は、癒しや元気を与える力も持っているけれど、現実を冷たく突きつける力もある。世界的に活躍していたのに、あることで指揮台から降りた拓斗。明菜も、取り返しのつかない過去を抱え、それと同時に音楽も失っていた。音楽は、ある意味「正直」だと思う。自分が演奏している時は、その技量や解釈を問いかけてくる。聴いている時は、様々な感情を抱かせる。そして、その人の未来をも変えてしまうことがある。音楽そのものはそこにあるだけなのに、動かされる人間。音楽を作り出したのは人間なのに(だからこそ、かな?)。拓斗や明菜、そして白石と音楽という存在。私もピアノを細々と弾いていましたが(今はほぼ触っていない)、拓斗や明菜の思いががわかる…と感じました。

 それでも、また音楽をやりたい…いや、やらなければならない、向き合わねばならない時がある人はあるのだと思う。嫌々引き受けた指揮だが、ひとつの目標が出来て突き進む拓斗。しかし、オケがなかなかついていけない。明菜も、拓斗の音楽で、過去と向き合い始める。やっぱり、音楽は「正直」だ。人を正直、隠していたり目を向けようとしなかった過去も抱えているものも、目の前に提示してしまう。

 演奏会のシーンでは、生の音楽はいいな、二度と同じ音楽は出来ない、だからこそいいんだと感じました。過去ももう取り返せない。二度と同じことは出来ない。でも、先に進むためにゆるすことは出来る、と。

 明菜たちがぶっ飛び過ぎて、雑なところもあると感じましたが、それはラストの演奏会での演奏そのものなのかもしれないなんて感じました。
 音楽ものの小説で気になるのは、出てくる楽曲。この作品ではそう多くはありません。まとまっています。
by halca-kaukana057 | 2012-09-17 21:58 | 本・読書

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by 遼 (はるか)
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