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雲の王

 NHKのアニメ「銀河へキックオフ!!」原作「銀河のワールドカップ」・「風のダンデライオン 銀河のワールドカップ・ガールズ」の川端裕人さん最新作です。今度のテーマは気象。


雲の王
川端 裕人/集英社/2012

 南雲(なぐも)美晴は高層気象台に勤める一児・小学6年の楓大(ふうた)の母。毎日観測気球を上げ、高層の大気の状態を観測する。また、美晴は天気の変わり目…雨や雷などを「匂い」で捉え、予測することも出来た。その美晴のもとに、唯一の肉親である行方知れず・放浪中の兄から手紙が届く。手紙に書かれていたのはある地名。兄の居場所がわかるかもしれないと向かった先には、小さな小屋に老女が2人。何故か美晴のことを知っていて、不思議なことを話している。風を見る、外番のお務めを果たせ、と。帰ろうとしたその時、小屋の外で山から流れ落ちる光…風を「見た」。気象台の仕事に戻った美晴を待っていたのは、ゲリラ豪雨を予測すると言うプロジェクトに参加しろ、という要請だった。美晴は、隣の研究所に勤める”気象オタク”黒木とともにゲリラ豪雨の予測を始めることになる。外部からの専門家「外番」として…。


 川端さんの自然・科学を題材とした作品が好きです。最初に読んだ「夏のロケット」、「竜とわれらの時代」、「川の名前」などなど。気象は私も好きです。高校の時、理科は地学を選択して気象分野も好きでしたし、毎日の天気予報で気象図や気象衛星からの観測画像も面白いなぁと思って見ています。台風が出来ると、何よりまず中心気圧を気にします。気象予報士に合格できるほどの知識は無いのですが、高気圧や低気圧、前線、台風などが様々な要因で動いていく様はとても興味深い。大気も様々な要因によって変わってゆく。元は同じ大気なのに。不思議です。以前、気象予報士の試験にチャレンジしてみようかな、なんて思ったこともありました。

 川端さんの自然・科学を題材とした作品では、とんでもない天才が出てくる。大体、主人公は一般的で、その天才の凄さをそばで目の当たりにする。そして、今ここにいる場所が、広く遠い世界へ繋がっている、ということも。この「雲の王」でもとんでもない天才が出てくるのですが、あれ?と思った。主人公の美晴がそれなのです。気象の変わり目を匂いで感じることが出来、同じく気象関係の仕事に就き事故で亡くなった両親の出身は風や温度を「見る」ことが出来る一族で、美晴は特に強い能力を持っている。その能力に目覚め、力の使い方に苦労し、そして一族の歴史を紐解き、さらに大きなプロジェクトに関わりながら徐々に驚くほどの能力を開花させてゆく。ファンタジー色も強い作品です。

 でも、美晴だけが”天才”ではない。一族の”郷”にいて、美晴を導くリク婆・ユキ婆。美晴の能力を科学的じゃない、「意味わかんない」と言う”気象オタク”の黒木も、気象に関しては物凄い情熱と知識を持っている。そして、行方知れずの兄・由宇(ゆう)。気象が専門ではないのに、とある研究施設で気象に関する研究を行っている。楓大も、美晴の血を引いて、能力を身につけてゆく。彼らは特異な能力がある・無いに関わらず、遠くを、広い世界を常に目指している。一方で、美晴は普通の毎日、いつもの日常を大事にしている。息子・楓大と暮らし、空を見上げ、気象台で観測をする。能力によって、その日常からかけ離れていってしまうのを嫌がるが、同じように能力を持っていたであろう亡き両親や祖母、「外番」たちの足跡に触れる「旅」も始める。能力のことを厄介だと感じ、能力に「支配」され過ぎずにいる美晴の感覚は、空を見ていても地に足がついている。その姿勢がいいなと思う。

 近年多くなったゲリラ豪雨、ダウンバースト、世界各地の水不足問題を取り上げながら、狭い地域での気象予報、人工降雨、そして気象をコントロールすること。近い将来実現するのではないかとされる技術も後半では鍵となってきます。気象は、人間の活動で変わってしまうこともある。代表的なのが地球温暖化だが、それだけじゃない。それらに関わってくる、アーチーという男。謎も散りばめられていて、早く続きを読みたいと読んだら止まらなくなってしまった。気象をコントロールするなんて、夢のような話でもあるが、いつかは出来るのかもしれない。でも、気象は、地球全体の大気の動きはそんな単純じゃない。様々な要因が重なって、とても複雑だ。まずは、この地球の大気のこと、気象のことをもっと知りたい、解き明かしたいと思う。気象の本が読みたくなります。天気予報を詳しく見たくなります。

 この本を読んだ後、空の雲を見るのが楽しい。美晴は彼女の感覚で、独特の呼び方で雲を表現する。積雲とか巻雲などの正式な呼び名はあるけど、自分なりの雲の呼び名を考えてみるのも楽しいなと思う。空は、見上げればそこにある。今ここの天気が晴れでも雨でも、それは地球をめぐる大きな大気の動きの中の一部分、と考えるとこれまた面白い。

雲の王 川端裕人:集英社
 ↑「雲の王」特設サイト。川端さんと気象予報士・天達武史さんの対談、川端さんの撮影した面白い雲画像など。
 私も空・雲の画像を色々撮ってみようかな。
by halca-kaukana057 | 2012-11-06 23:33 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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