飛行士と東京の雨の森

 以前から気になっていた本です。

飛行士と東京の雨の森
西崎 憲/筑摩書房/2012

 音楽制作をしている「わたし」の元に、自殺した娘が遺した10の好きだったものから、娘のために音楽を創って欲しいという「理想的な月の写真」。ウェールズから日本にやってきた少女の軌跡を描いた「飛行士と東京の雨の森」。他全7作を収めた短編集です。

 どれも、不思議な雰囲気、空気の漂う物語です。私は今までこんな物語・小説を読んだことが無い。小説・物語を読む時、過程を読みながら最終的にどこにたどり着くのか、どうなるのかと思いながら読んでいる。しかし、この短編集のどの作品も、「どこにたどり着くのか」というのが無い。そして、どの物語も、暗さ、静けさ、もの悲しさ、さみしさ、切なさ…そんな感情が漂っている。表題作に「雨の森」とあるが、まさに雨が降っている森のような雰囲気。どこか現実で無いような、幻想的な感じでもある。不思議な、でも惹かれる物語です。

 「理想的な月の写真」や、「淋しい場所」、「紐」では、死や自殺も描かれる。でも、絶望的な話ではなくて、哲学的、内省的な話。人間の心の中のどこかにあるであろう、死や死を選ぶ気持ちを、そっと手で包み込んでいるような。遠い先のようで、身近な人の死に触れると身近に思う。自殺も、身近な人や、「理想的な~」では自殺したという娘の話で身近になる。でも、身近な人の死はかなしい、死ぬことは怖いとも感じるから、できるだけ身近にあってほしくない…自分はそう思いつつも、生と死は共に存在しているのだな、と感じる。

 「飛行士と東京の雨の森」と「淋しい場所」の終わりが好きだ。何のためなのかはわからない。でも、どこかに行けば、何か見つかるのだろうかという自分自身への問いは、私もよくする。

 物語や小説を読んでいて、「よくできた物語だなぁ」「いい話だなぁ」と思うけれども、「こんなうまくはいかないよね」「小説だもんね、現実じゃない」と醒めた目で見てしまうことがある。絶望から、希望に満ちた未来へ。広がる可能性。読んでいて清々しい気持ちになるが、読んでいる間だけ。本から目を離せば、厳しい現実が待っている。だからこそ、本を読んでいる間だけでも、非現実に浸りたいとも思う。

 その一方で、厳しい現実、絶望、日々感じる孤独やさみしさ、心の中にある暗さやかなしさ、目を背けているけどどこかで向き合うことになる死…これらをそっと受け止めてくれるのが、この「飛行士と東京の雨の森」に収められた物語たちだと思った。「理想的な月の写真」で、「世界はこわいものではないということ」という言葉が鍵になる部分があるのだが、この本全体が、そのことについて語っているのかもしれない。

 現実でないようで、現実を映しているようでもある。やっぱり不思議な、でも惹かれる物語です。
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by halca-kaukana057 | 2013-04-11 22:12 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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