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ルチアさん

 気になっていた本です。児童文学、ですが、読んでみると…

ルチアさん
高楼 方子:作/出久根 育:絵/フレーベル館/2003

 「たそがれ屋敷」と呼ばれる家に、奥さまと2人の娘、2人のお手伝いさんが暮らしていた。屋敷は鬱蒼と茂った木で暗く、奥さまも痩せてうつむき憂鬱そうに見える。旦那様は外国航路の船乗りで、滅多に家には帰ってこなかった。2人の娘は上の子がスゥ、下の子がルゥルゥ。そんな「たそがれ屋敷」に、もうひとりお手伝いさんがやってきた。名前はルチアさん。スゥとルゥルゥは、ルチアさんを見て、ルチアさんが水色に光っているように見えるのが不思議だった。それは、お父様が海の向こうから帰ってきた時にお土産にくれた、きらきら輝く水色の玉の「宝石」に良く似ていた。そして、ルチアさんは特別おしゃべりと言うわけでは無いのに、周囲の雰囲気が明るくなるようで、またルチアさん自身も、事件に巻き込まれても動じず朗らかに仕事を続けた。そんなルチアさんの秘密を探ろうと、スゥとルゥルゥはこっそり夜道を帰るルチアさんの後を追う。隣町の、ルチアさんの家と思われる家の前で、ルチアさんの娘のボビーと出会い、ルチアさんが何故水色の「宝石」のように光っているのか尋ねるが…

 不思議なお手伝いさん・ルチアさん。
 鍵となるのが、スゥとルゥルゥの「宝物」の水色の玉。その「宝物」と、ルチアさんの秘密と、ルチアさんのおじさんが大切にしていたあるものの関係。それを知ったボビーは、これまで何とも思わなかった母・ルチアさんや、その他関係のありそうなことについて考え始める…。

 ここまであらすじばかり書いてしまった。ルチアさんが本当に不思議で、私も惹かれていった。私なら「今日こんなことがあった、最悪だ…」と何日も愚痴を言いそうなことにも、穏やかに動じない。その一方で、「今日こんなラッキーなことがあった。すごい、嬉しい!!」と満面の笑みで喜びそうなことでも、やっぱりいつも通り。いつも朗らかで、噂(多分ゴシップネタも好きかもしれない)お手伝いさんのエルダさんとヤンガさんも、ルチアさんがやってきてから変わりだす。憂鬱そうな奥さまも。心の中にある、憧れやきらきらした思いを打ち明けたくなる。


 「心の中にしまったなにかしら輝くような思い」。その一方で、日々の暮らしの細々としたこと。水色の「宝石」、ルチアさん自身が表しているもの…「どこか遠くのきらきらしたところ」を思い、満たされながら、「ここ」にいるけど、同時に「どこか」にもいる。

 私は、よく「こんな毎日から抜け出したい」と思っている。日々の暮らしや仕事の細々としたことに悩み、苦痛に思い、そんな毎日が続いてゆくことも苦痛に思う。退屈に思え、嫌なことも多い毎日にも、小さな幸せはある、見つけようと思えば見つけられる…同感、そう思うこともあるけど、その「幸せ」で心が満たされる時間は短い。またすぐ現実に引き戻され、ため息をつく。だから、こんな毎日を抜け出したい、と思う。そして、ここじゃない遠くには、憧れるものや強い幸せを感じるものがある。憧れのフィンランドに行ってみたい、シベリウスの家”アイノラ”に行きたいとか、星がきれいに見えるところで思う存分星見・天体観測したいとか、大好きな演奏家のコンサートに行きまくりたいとか、読みたい本を思う存分読みふけりたいとか…。お金に困らない暮らしがしたい。もっとやりがいのある仕事がしたい。行動力と体力が欲しい。抱えている体調不良が治り消えれば、どこへだって行けるのに…。いつも何かに縛られている気がして、自由になれない。その縛っているものがなくなればいいのに…。こんな風に、「どこか」に憧れる、が、手は届かず、「ここ」には不満ばかり持っている。

 だから、「どこか遠くのきらきらしたところ」が心を満たし、「ここ」で毎日勤勉に働き暮らしながらも、同時に「どこか」にもいる。「どこか」と「ここ」がひとつになる。そんな幸せがあるのなら…そうなりたいと思った。そうなるにはどうしたらいいだろう?でも、それが本当に幸せなのだろうか?読みながら考えていました。

 「どこか」と「ここ」がひとつになる。それはとても難しいことだ。毎日の「ここ」での暮らし・仕事が精一杯、「ここ」が全ての人。「どこか」を捜し求める人。どちらの暮らしがいい・悪いとは言えない。「どこか」と「ここ」がひとつになる暮らしも。理想と思うけれど、完全によいとも言えない。ネガティヴなことをネガティヴと思えないのもどうなのだろう…と。
 私はどちらでもない。「どこか」を捜し求めたくても、「ここ」に”縛られている”と感じている。これもまた、自分は悪い・辛いと思うけれども、そうとは限らないかもしれない。”縛られている”という意識が消えれば、心は楽になれるんじゃないか。

 とても不思議で、深く、心の奥底に後からじんじんと響いてくる物語。高楼方子(たかどの・ほうこ)さんの作品は初めて読んだのですが、他の作品も読みたくなりました。絵の出久根育さんは、梨木香歩さんの絵本「ペンキや」の絵も描かれた方。表紙にちょっと不気味なものを感じたのですが、中のイラストはきれいで幻想的です。

ペンキや

ペンキや

梨木 香歩:作/出久根 育:絵/理論社/2002


 この本ももう一度読みたい。この「ルチアさん」と共通する部分もある。
by halca-kaukana057 | 2013-07-17 22:54 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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