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心の深みへ 「うつ社会」脱出のために

 河合隼雄先生の本は、対談本を読んでいることが多いなと気がつきました。


心の深みへ 「うつ社会」脱出のために
河合隼雄・柳田邦男/新潮社・新潮文庫/2013(単行本は2002年・講談社)

 心理学・心理療法の河合隼雄先生と、ノンフィクション作家の柳田邦男さんの対談集。別々に雑誌に掲載されたものをまとめた本(第7話は書き下ろし)。驚くのが、最初の対談は1985年(雑誌掲載は1986年)、単行本として出版されたのが2002年。もう10年以上前の本だ。内容はノンフィクション。ノンフィクションで10年前となると、「古い」と感じてしまう。それだけ時代の、社会の流れがとても速いから。それなのに、読んでいて古さを感じさせない。わかるなぁ、そうだよなぁ、と思ってしまう。10年だろうが20年経とうが、人間社会や人の心が抱えている問題は変わっていない…解決されていないということだろうか。そして、もうこの世に河合隼雄先生がいらっしゃらないことも、何だか信じられなくなってくる。

 この本で、柳田さんのご子息が心の病を患い、自殺を図り脳死に至ってしまった…という話を初めて読んだ。このことに関しては、柳田さんは「犠牲(サクリファイス)」という本に書かれているそうなので、読んでみたいと思う。このご子息の死・脳死や、死にゆく患者たちの心の様子を追ったキューブラー=ロスのことを挙げながら、死と心にも迫る。「いかに生きるか」ではなく「いかに死ぬか」…死ぬのは自分がどうなるのかわからないから怖い、身近な人の死もつらい、死のことは出来るなら考えたくない、と思っているので読むのがつらかった。ましてや、柳田さんはノンフィクション作家として飛行機の墜落事故や殺人事件を追い、そして家族の自殺と脳死に向き合った…そんな状況に立たされたら、自分は受け入れられない、気が狂ってしまうのではないかと思う。

 それでも、死や死にゆく患者を取り巻く医療について語る河合先生と柳田さんの対談を読んでいて、「救いがある」と感じた。現代の医療は、昔では治せなかった病気も治せるようになった。脳死判定で臓器移植をして、移植でしか助けられない人を助けることも出来るようになった。でも、そこに患者本人や家族の「心」はあるのだろうか、医療は「心」に寄り添っているのだろうかと話す2人。読んで、同感だと思った。

 この本では末期ガンや脳死といった、医療の側では「もう治らない」ものを取り上げている。でも、ちょっとした風邪でも、日帰りで出来るような手術でも、病気の時は心細い。たいしたことない、すぐ治ると言われても、誰かにそばにいて欲しい、手術はやっぱり怖い、痛いのは嫌だ、などの不安や心配を抱えてしまう。これが「治らない」病気だったらどうなるだろう。残された時間を、不安なまま過ごしたくはない。あたたかい、幸せな気持ちで過ごしたい。家族や身近な人も、どう接したらいいかわからない。でも、残された時間を出来る限り長く一緒にいたいと思うだろう。そんな「心」に寄り添う医療…柳田さんの仰る「2.5人称の視点」を持つ。こんな視点を持って、提唱している柳田さんと、心理学者として「心」を見つめ続けてきた河合先生が語り合ったことが本になっている。これが「救い」だと思った。

 10年前も、そして今も、きっとこれからも、「心」は見えないけれども大事なものであり、人間にとって課題になると思う。キューブラー=ロスのところで出てきた「私の現実」などの、科学では割り切れない「心」のこと。科学ではわからないからこそ、個々人がそれぞれで向き合う…には難しすぎる現代に、この本があってよかったと思う。「心」をおろそかにしない。読みながら、私もモノやお金が無いと生活できない、と「心」をないがしろにしてきたと気づき、省みている。
by halca-kaukana057 | 2013-09-05 23:08 | 本・読書

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