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[原作小説]魔女の宅急便 2 キキと新しい魔法

 引き続き読んでいる原作「魔女の宅急便」シリーズ。2作目です。
・1作目:魔女の宅急便 (原作)


魔女の宅急便 2 キキと新しい魔法
角野栄子/角川書店・角川文庫/2013(単行本は福音館書店/1993)

 キキがコリコの街にやってきて、お届けもの屋さんを始めて2年目。キキは相変わらず忙しくコリコの街を飛びまわります。帰る途中でキキと同い年ぐらいの女の子・モリさんとやんちゃな弟・ヤアくんに出会います。お届けものも、動物園のカバや不思議なかばん、森の窓に散歩まで。そんな中、一通の黒い封筒を届けることになりますが…。その時から、キキはお届けもの屋という仕事、魔女である自分自身のことに思い悩むようになります…。

 コリコの街は相変わらずユーモラスで、どこかおかしい。でも、そんなユーモラスな中に、その後のヒントが隠されていたりして、こうなるとただ「おかしい」では片付けられなくなってしまう。そして、この2作目はキキがより大人になり、仕事について、魔女である自分について思い悩むことが多い。ジブリアニメ版でも、途中でキキが飛べなくなってしまったが、原作2作目は似ているようだけれども違う。

 キキが唯一使える空を飛ぶ魔法をいかしたお届けもの屋さんの仕事を始めて、ものだけでなく人の気持ちも運んでいることに気がついた。送り主の、誰かを喜ばせたい気持ち。困って何とかして欲しい気持ち。届け先の、贈り物に喜ぶ気持ち。困っていたところに届けてもらって、助かったという気持ち。優しさや喜び、そして感謝が込められている。キキもその気持ちに応えるべく、仕事をしてきた。2作目で出会う様々な人々…遠くの島へ未知の動物を探しに行っている探検家の夫に、子どもの写真を届けたい奥さん。病院に入院していて、入院する前にいつも散歩していたコースを愛用の杖と一緒に散歩して欲しいというおじいさん。身体が弱って食べられなく区なってしまった年老いた姉に、子どもの頃食べた思い出のりんごを届けて欲しい時計台の時計屋さん。それぞれの想いがあって、その想いに応えようとするキキ。想いに触れ、お届けもの屋の使命を果たす決意を強くする。…この3つのお話は、特に心に訴えるものがあります。

 しかし、そんなキキの想いが揺らぐ仕事が舞い込む。一通の黒い封筒。その封筒に込められたある想い、届け先もポジティヴに受け取れない…。
 人間は善意だけではい。悪意もある。善意を出したいけど、悪意に裏返ってしまうこともある。お届けものも、善意だけではない…。
 そして、「魔女」であるキキ…コリコの街の人々には最初は怖がられたり関心を持ってもらえなかったものの、お届けもの屋の仕事で、知名度も好感度も上がったと思っていた。しかし、昔からの「魔女」のネガティヴなイメージも消えたわけではない。大きなコリコの街には、様々な人がいる。「魔女」としての自分。一般の人間から見れば確かに特殊かもしれないけど、キキが使える魔法は空を飛ぶことだけ。しかも、それは万能ではない。キキから見た「魔女」と、コリコの街の一般の人々から見た「魔女」のギャップ。そのギャップを埋めるには?「魔女」として、自分に他に出来ることとは?

 このキキの悩み、そしてそれが空を飛ぶことにも支障をきたしてしまった。仕事をしていて、キキと似たようなことを思う。仕事で関わる人に伝えたいことがあって、喜んでもらいたい、困っているなら手を貸して力になりたい。結果、善意やポジティヴな方に向くように仕事をしたいと思っている。感謝されると、嬉しくなり、この仕事をしていてよかったなと思う。
 しかし、仕事は楽しいことばかりじゃない。寧ろ、嫌なことの方が多い。仕事で関わる人に、自分が失敗して迷惑をかけてしまった、困らせてしまった。怒らせる・挑発するつもりは無いのに、相手が怒ってしまった。逆に私が怒りや苦しみを感じてしまった。想いがすれ違って、伝えたいことが伝わらない。本当に仕事の悩みは尽きない。仕事したくないな、もう帰りたいな、辞めたいな…何度も思う。

 「魔女」であるキキの魔法も、特別なこと、と言うよりも、人それぞれの特技・得意なこと・資格・専門分野とも読める。それを活かしたくて仕事しているはずなのに、全然違う仕事を任されてしまったり、やりたい仕事が出来なかったり…。ここも思い悩むところ。

 そんなキキが、その後の仕事を通して出した答え…サブタイトルの「新しい魔法」。自分に足りないものを、仕事している中から見つけて、挑戦してみようと思う向上心。キキの成長が本当に清々しい。

 働くことで、失うこともあるし、得られるものもある。この物語では、魔女は「もちつもたれつ」で暮らし、仕事をしても御礼はお金・代金ではないところがいいなと思う。勿論、現実の現代社会では働いてその分収入がないと生活していけないけれども、この物語で「収入」を外すことによって、働くことで得られるものはお金だけじゃないことを明確にしている。児童文学というのもあるけれど、児童文学だからこそ。大人になって働いた時、この物語のことを思い出して欲しい、と思う。…高校・大学ぐらいまでに読んでおきたかった…。今でも遅くはないですけどね…。


 文庫も第4作まで出ています。まだまだ続きます。
by halca-kaukana057 | 2013-10-08 22:58 | 本・読書

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