人気ブログランキング | 話題のタグを見る

虹の岬の喫茶店

 「津軽百年食堂」「青森ドロップキッカーズ」「ライアの祈り」の「青森三部作」の森沢明夫さんの小説です。「青森三部作」以外も読んでみたいと思っていました。


虹の岬の喫茶店
森沢明夫/幻冬舎/2013(単行本は2011)

 病気で妻を亡くした克彦は、4歳の愛娘・希美と妻のいない日々のさみしさをかみ締めていた。ゴールデンウィークの連休中、2人は家の窓から見事な虹を見る。希美の虹についての素朴な疑問から、克彦は車で「虹さがしの冒険」に出かける。海沿いの道を走っていると、小さな立て看板が目に付いた。「岬カフェ」…本当にこんなところに喫茶店などあるのだろうかと疑いながら進むと、小さな岬に小さな喫茶店があった。中に入ると、初老の店主の女性・悦子が迎えてくれた。注文と一緒に「何かお好きな音楽のジャンルはありますか?」と…。

 各章は季節と、曲名が副題になっています(最終章を除く)。物語は、「青森三部作」と同じように、人間の心の弱さと強さ、しなやかさ、あたたかさに触れられます。「岬カフェ」の店主・悦子と、悦子の甥の浩司、やって来るお客さんたち。悦子の美味しいコーヒーと、岬の美しい風景、音楽、悦子の人柄に心を開いてゆく。美味しいコーヒーと音楽でホッと一息つき、自然体でいられる。音楽にこめられたものもまたいい。森沢さんの物語だなぁと感じました。

 章ごとに主人公・語り手が変わっていくのですが、最初は偶然やってきた客だったのが、徐々に悦子に近い存在になってゆく。悦子の内面に迫るように。悦子が何故こんな辺鄙なところでカフェを営んでいるのか。悦子はどんな客もあたたかく迎え、美味しいコーヒーとその人にぴったりの音楽でもてなすのだが、その理由。それがどんどん明らかになってゆく。
 物語全体はあたたかいのだが、第4章と最終章・第6章の雰囲気がちょっと異なっている。コーヒーは美味しいけれども、苦い。その苦さがぐっと感じられる。第4章だけでも苦味があるのだが、その第4章でのことを振り返る第6章もまた苦い。苦いけれども、奥深いというのだろうなぁ…。いや、それにしては切ない。「苦い」も「苦しい」も同じ漢字を書くが、まさに、苦くて、苦しい。苦しいけれども、その選択をした悦子の心の奥がまた苦しい。

 物語全体も、最初から最後までは数年経っている。時は過ぎ、カフェを訪れた客はそれぞれの道へ進んでいったことが物語から読み取れる。しかし、悦子は変わらず、岬カフェでコーヒーを淹れている。その変化してゆくものと、変化しないものの対比は、コーヒーの奥深さ、コクなんだろうか。物語で出てくる音楽も、往年の名曲ばかり(残念ながらクラシックは出てこない)。時が経っても色褪せないもの。第2章で出てくる健は就職活動中の大学生なのに、少し古めの曲。私も聴いたことがある曲もあるし、ない曲もある。そんな時間の流れの違いも、この喫茶店では味わえる。その味は甘いだけじゃないけれど。いいなぁ。

 ちなみに、この「岬カフェ」は、実在する喫茶店がモデルなんだそう。そうなんだ!いいなぁ。
 さらに、映画化も決定。
映画『ふしぎな岬の物語』公式サイト
東映:ふしぎな岬の物語
 あらすじを読むと、物語は原作とは変えてくるみたいです。

 …その前に、「津軽百年食堂」の映画、まだ観てませんでした…。
 あと、オリンピックでカーリングに興味を持った方は、カーリング小説「青森ドロップキッカーズ」を是非どうぞ。ルールやシートの作り方など、カーリングにもっと魅了されます。

【過去記事:森沢明夫・青森三部作】
・1作目:津軽百年食堂
・2作目:青森ドロップキッカーズ
・3作目:ライアの祈り
by halca-kaukana057 | 2014-02-21 22:14 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31