目に見えないもの

 ノーベル賞受賞式あたりにこの記事を書きたかったのだが、大幅に遅れてしまった。


目に見えないもの
湯川秀樹/講談社・講談社学術文庫/1976

 今年のノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章先生。ニュートリノ振動、ニュートリノに質量がある、という研究。素粒子物理学は日本のお家芸とも言われる分野。それを切り拓き、日本人初のノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士。湯川博士の本を読むのは「旅人 ある物理学者の回想」以来です。

 前半は、湯川博士の物理学講座のような、物質とは何か、原子、分子、そして中間子とは何かという話。今読むと、ここから更に素粒子物理学に繋がっていって…と思えるのですが、書かれたのは昭和18年、20年…まだ戦時中。そんな時代に、湯川博士は「目に見えない」物質の根源の理論を考え、研究していた。もし、現代の理論物理学、素粒子物理学の最先端の話を湯川博士が聞いたら、どんな反応をするだろう…。今回の梶田先生のノーベル物理学賞の受賞に何を思うだろう。喜ぶだろうか。そんなことを思いながら読みました。

 後半は、湯川博士の生い立ちや、科学や自然などに関するエッセイ。エッセイというより、「随筆」「随想」と言った方がぴったりくる。二人の父、研究生活。中間子理論の研究については、日本の素粒子物理学黎明期をリードした坂田昌一博士の名前も出てくる。2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠先生、益川敏英先生も坂田博士の弟子であることを真っ先に思い出した。湯川博士や坂田博士がいたからこそ、今の素粒子物理学があるのだな、と実感する。

 以前「旅人~」を読んだ時、静かで物寂しいと感じ、そう書いた。第3部の随筆・随想の部分は、詩人のような趣もある。ひとつの事柄に対して、静かに、深く、考えをめぐらせる。静謐な言葉に、湯川博士だけでなく、寺田寅彦や中谷宇吉郎など優れた科学者は文章も美しいと感じる。特に、「未来」と「日食」という短い文章が気に入った。感情という科学では捉えきれないもの、記憶、そして未来という不確かなものを、じっと見つめている。その中で、「科学」は何ができるか。可能性であり、希望である、と。科学に対して、研究することに対して、そして人間に対してとても真摯な方だったのだなと思う。

 時々、今の科学の礎を築いてきた科学者たちの言葉に触れたくなる。そんな本のひとつに、この「目に見えないもの」も入れたい。

・過去関連記事:旅人 ある物理学者の回想
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by halca-kaukana057 | 2015-12-27 22:16 | 本・読書

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by 遼 (はるか)
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