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耳の渚

 読むクラシック音楽もいいものです。クラシック音楽エッセイを読みました。

耳の渚
池辺晋一郎/中央公論新社/2015

 かつての「N響アワー」、クラシック音楽ダジャレでお馴染みの作曲家・池辺晋一郎先生によるエッセイです。読売新聞夕刊に月一で掲載していたものをまとめた本です。2000年に始めて、2015年の分まで収録。15年。15年でクラシック音楽界も随分と変わりました。その変化も思い出しながら読みました。

 聴いた音楽のこと、知り合った音楽家とのこと、作曲・作曲作品の演奏会でのこと、日本国内や海外のクラシック音楽事情、観た舞台や映画のこと…話題は多岐にわたります。でも、どれも音楽と繋がっている。音楽は様々なもの、この世にあるあらゆるものと繋がっている。それを実感します。

 また、音楽の懐の広さも実感します。朝比奈隆先生が「楽譜に忠実に」指揮することを信条としておられたのに、実際の演奏では楽譜と違う演奏をしていたことに関して、楽譜というものがどんなものか、そして音楽は生もの(なまもの・いきもの)なんだなと思う。「楽譜は絶対の答えではない」。浜松国際ピアノコンクールを聴いた話でも、そんな楽譜をどれだけ読み込んで演奏に反映できるか。
楽譜という不完全なものを超えて、そこに自分の音楽を確立させ、説得力ある主張を貫徹させる(233ページ)

クラシック音楽というと、何かと堅苦しいイメージがあるが、このあたりを読むと、やわらかく懐の広く深いものなのだなと思う。「音楽の父」と呼ばれるJ.S.バッハも、"神格化"されて迷惑だったのではないか、とも。オペラも大きなものだけでなく、小さな「人民のオペラ=フォルクスオパー」をやりたい、と。池辺先生の代名詞「N響アワー」についても語られていて、クラシック音楽はこうあるべき、コンサートには音楽だけがあるべき、という概念を捨て、アットホームな雰囲気を目指した。
棚の上に鎮座している「音楽」をこたつに持ち込んでしまえ。(173ページ)
現役の作曲家の先生がおっしゃるのだから心強い。

 海外のクラシック音楽事情では、ベネズエラのエル・システマとグスターボ・ドゥダメル、フィンランドの指揮者・作曲家、シベリウス音楽院やフィンランドのオーケストラの取り組みも紹介されている。フィンランドクラシック好きとして嬉しい(シベリウスがフィンランドから年金を貰って、晩年作曲をしなかった…と書かれていたのは残念。自己批判が強くなり過ぎて書けなくなってしまった)。そのフィンランドで演奏会を聴きに行った時のエピソードも興味深い。客席には様々な人がいるが、皆聴くことに集中している。「集中の相乗」「芸術の享受」「同じ時、同じ場所に居る者の連帯」(151ページ)…フィンランドの聴衆の音楽の受け止め方が、フィンランドのクラシック界の盛況に繋がっているのかもしれない。

 池辺先生の作曲の話も面白い。同時進行で作品を仕上げるのがいいのかどうなのか。エジプトのオーケストラのために作曲した話。オペラ「鹿鳴館」の作曲。「鹿鳴館」は作曲者の手を離れ、意図を超えて成長しているというのも面白い。作曲家ならではの視点。大河ドラマでも音楽を手がけていた池辺先生。ドラマの音楽の話、そして「音楽にも注目して欲しい」と。大河ドラマの音楽は私もとても重要だと思っています。また池辺先生が音楽担当にならないだろうか。なって欲しい。

 音楽を様々な方向から楽しめるエッセイです。最後に、エッセイではダジャレはあまり出さないのかな…(寂しい)。
by halca-kaukana057 | 2016-03-25 22:23 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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