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川の名前

「川の名前」(川端裕人、早川書房・ハヤカワ文庫、2006、単行本は2004)


 川端裕人再読第3弾。先日文庫化したばっかりの「川の名前」。夏休みにぴったりな作品です。


 菊野脩は小学5年生。お調子者で、漫画を描くのが好きでオリジナルの恐竜の漫画を描いていた。著名な自然写真家である父の仕事柄ゆえに転校を繰り返し、この春この学校に転校してきた。夏休みになると毎年父と北米やアマゾンの大自然の中を駆け回っていたが、この夏休みは父について行かずこの土地で過ごすことに決めていた。
 夏休み、自由研究の宿題のテーマを友達の「ゴム丸」亀丸拓哉と「河童」河邑浩童と決めることになった。先日、河童が変な生き物を町を流れる桜川で目撃したと言うのだ。怪物か、はたまた恐竜か。それを自由研究のテーマにすると言うゴム丸。調査を続けていくうち、脩はそれが怪物でも恐竜でもなく鳥のような生き物…ペンギンだと知る。そのペンギンは保護区となっている「鳳凰池」につがいで巣をつくり、卵まで産んでいたのだ。普通の川にペンギンがいる。そのペンギンを観察し自由研究のテーマにした脩とゴム丸。エキサイティングな夏休みが始まった。

*****

 川にペンギンが棲みついてしまったら…という奇想天外な物語です。読み進めていくと多摩川のアザラシ・タマちゃん騒動を思い出した。この作品の場合、ただ川に棲むとは思えない動物にまつわる騒動を語りたいんじゃない。ペンギンや棲みついた川や周囲の自然を通して成長していく少年たち。川端裕人らしい爽快感がたまりません。

 登場人物も本当にバラエティに富んでいて活き活きしている。お調子者の脩も様々な側面を見せる。体は大きく太っちょだけど弱虫のゴム丸。クールで賢い河童。この3人だけではない。脩がライバル視している優等生の手嶋、ラッパを吹きつつ不思議な事を話す喇叭爺、脩のクラス担任で熱血教師の「デビル」鬼澤…。それぞれの語ること、思うことに深さがある。話が進むにつれてその深さが増していく。特に手嶋と河童の「深さ」に感嘆。

 ここで物語とは離れて自分の話になってしまうのだが、私は水辺、特に大きな川が好きだ。地元の小川も好きで、時々眺めに行っている。また旅行先で大きな川を見ると間近で見てみたいとそわそわし始める。高校の修学旅行で京都を訪れた時、旅館から近かったこともあって朝早く起きて鴨川を散歩した程だ。たとえ人の力で流れが変えられていようと、海に向かっていつまでも流れ続ける様を見ているのが好きなのだ。そこで、脩のライバルであり物語の後半から活躍する手嶋がこんなことを言う。
「桜川は別の川と合流して海に注いで、その海にはもっとたくさんの川が注いでいる。というか世界中のすべての川がが海に注いでいるから、世界につながっているんだ。で、世界はまあるい地球で、その外側にはまだまだ人が行ったことがない宇宙が広がっててって考えると、自分がなんだか滑走路に立っている気がしてきたんだよ。そう、川って滑走路なんだよ」(216ページ)
納得した言葉だ。世界につながる川を見ているとすっきりした気持ちになる理由がわかったかもしれない。

 川とペンギンがきっかけで、少年たちは大きな世界に目を向けることになる。少年たちにも不安はある。学校のない夏休みだからこそ、余計にその不安に直面してしまう。川やペンギン、自然はそれを直接解決してくれるわけではない。でも、川に向き合って考えたことが少年たちの日常に活きてくる。悩んでいても始まらない。何だかそんな感じがしてきた。


 今まで読んだ川端裕人作品はここまで。あとはまだ読んでいない。川端氏は作家としてデビューする前に「ペンギン、日本人と出会う」(文藝春秋)など自然や動物に関するノンフィクションを出している。その辺も読みたいぞ。
by halca-kaukana057 | 2006-07-24 21:10 | 本・読書

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by 遼 (はるか)
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