イギリスだより カレル・チャペック旅行記コレクション

 前回、カレル・チャペックのデンマーク、スウェーデン、ノルウェー旅行記「北欧の旅」を読んだのが2014年。思ったより前だった。この本を読んでいたのは去年ではあるのだが。チャペックの旅行記、今度はイギリスです。



ギリスだより カレル・チャペック旅行記コレクション
カレル・チャペック:著、飯島周:訳 / 筑摩書房 ちくま文庫 / 2007

1924年5月から7月まで、イギリスを旅行したチャペックは、イギリスに魅了される。大都市ロンドンに圧倒され、公園の緑の美しさに惹かれる。博覧会や博物館を観て、"大英帝国"のことを考える。スコットランドではイングランドとは違う風景や文化に触れ、さらに北ウェールズ、アイルランドへ。「北欧の旅」と同じように、チャペック自身によるイラストも満載です。

 冒頭の「あいさつ」に興味深い文章があったので引用します。
 人は、それぞれの民族について、さまざまなことを考える。それらは、その民族が型にはめてみずからに与え、こうだと思い込んでいるようなものとは限らない。それでも、もはや強い習慣とさえなっているが、人は国や民族を、その政治、体制、政府、世論、またはそれについて一般に言われるものと、なんとなく同一視する。
 しかし、なにかちがうものを、その民族はある程度はっきりと示す。それは決して人が自分で考え出したり意図したりできないものだ。自分自身の見たもの、まったく偶然で日常的なものの思い出が、おのずから心の中に浮かんでくるものだ。
 なぜ、まさにその、ほかならぬ小さな経験がこんなにも強く記憶に残っているのかは、神のみぞ知る。ただ、たとえばイギリスのことを思い出すだけでも十分である。その瞬間に目に見えるのは――
 今ここで、あなたの目に何が見えるか、いったい何を想像されるかどうか、それはわたしにはわからない。わたしが思い浮かべるのは、ただ、ケントにある一軒の赤い小さな家である。なんの変哲もない家だった。(7~8ページ)
 どこかへ旅行に行く時、大体はガイドブックなどで現地の情報を得てから行く。何が有名か、どんな観光名所があるのか、どんな街か。行きたいところがあれば、交通機関を調べて行く。そんな風に事前に情報を得てから行っても、実際にその地に足を踏み入れて、歩いて旅をして、何が一番印象に残ったか…それは人それぞれだ。事前に調べて行った通りの印象を持つかもしれないし、このチャペックのように全く予想もしなかったものに惹かれることもある。どんな観光名所よりも、何の変哲もない一軒の家が、イギリスらしさを表現していた。素敵だなと思った。自分だけの、そういう景色、思い出を見つけたい。

 この本を読んで、私は異文化に身をおきたいと強く思うようになった。海外旅行の経験はないし、いつ行けるかもわからない。普通の国内旅行でもそんなに機会はない。実際に行かなくても、このように本を読んだり、テレビやネットで異文化に触れることは出来る。NHK「世界ふれあい街歩き」などの紀行番組は大好きだ。観る度に、更に、余計、実際に異文化に触れたいと思ってしまう。
 クラシック音楽を聴くのも異文化に触れることだ。でも、日本で聴くのと、現地で聴くのとは全然違うだろう。来日公演は、やはり「よそ行き」なのだろうから。

 チャペックがイギリスを訪れたのは1924年。その頃でも、ロンドンは大都市で、チェコからやって来たチャペックを大いに驚かせた。交通、街地、博物館。博物館では、大英帝国が支配した地域・国のものが飾られている。が、彼ら支配された人々が、ヨーロッパのためではなく、自分自身たちのために何をしているのかは展示されない。「最大の植民帝国が、ほんとうの民族学博物館を持たないとは……」(89ページ)これには鋭いと思った。

 厳しいことを書いているところもあるが、チャペックはイギリス、イギリス人を愛している。イギリスの皮肉なジョークのように、愛情は裏返しだ。チャペックがよく書いているのは、イギリス人の無口さ。ロンドンの閉鎖的な高級クラブでは、誰一人何も話さない。「シャーロック・ホームズ」に出てくる「ディオゲネス・クラブ」は本当に存在するんじゃないかと思った。その他の場所でも、イギリス人は無口で、自らのことを話そうとしない。話すのは当たり障りのないお天気のこと。イギリスで色んなゲームがあるのは、ゲームをしていれば話さなくていいから…。無口だが親切でもある。チェコ人はおしゃべりな方ではないと思うが、イギリスのこんなところは、同じく話すのが苦手な日本人の私にとって興味深い。フィンランド人も内向的で無口(「マッティは今日も憂鬱(Finnish Nightmares)」シリーズより)だが、それとはまた違う気がする。

 また、ロンドンを離れ、地方の田舎の風景にも惹かれる。スコットランドのヒースの荒野。湖水地方の牧場の牛、羊、馬たち。チャペックの賛辞がかわいらしい。イラストにも、イギリスへの愛情が込められていると思う。

 「シャーロック・ホームズ」好きとして、ホームズ関連のことが書いてあるのは興味深い。が、ロンドンのベイカー・ストリートにはホームズの面影もなかったそうだ。「バスカヴィル家の犬」の舞台となるダートモアも登場する。ダートモアは、惹かれる場所だ。

 最後に、チャペックがイギリスのことを一番褒めていると思われる箇所を引用します。
 イギリスでいちばん美しいのは、しかし、樹木、家畜の群れ、そして人びとである。それから、船もそうだ。古いイギリスは、あのばら色の肌をしたイギリスの老紳士たちで、この人たちは春から灰色のシルクハットをかぶり、夏にはゴルフ場で小さな球を追い、とても生き生きとして感じがよいので、私が八歳だったら、いっしょに遊びたいぐらいである。そして老婦人たちは、いつでも手に編み物を持ち、ばら色で美しく、そして親切で、熱いお湯を飲み、自分の病気のことはなにも話さないでいる。
 要するに、もっとも美しい子供と、もっとも生き生きした老人たちを作り出すことができた国は、涙の谷である現世の中で、もっともよいものを確かに持っているのだ。(195~197ページ)

 旅の間、所々でチャペックはチェコのことを思い出す。チェコと比べてみる。どちらがいいとは書いていない。チェコはこうで、イギリスはこう。自分の国を再発見するためにも、やはり異文化に触れたい。

・北欧編:北欧の旅 カレル・チャペック旅行記コレクション
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by halca-kaukana057 | 2018-01-10 22:26 | 本・読書

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