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ウドウロク

 本屋で平積みにされているのを見かけて、この人の本が出ていたんだ!と思わず手にとってしまった本です。


ウドウロク
有働由美子/新潮社、新潮文庫/2018(単行本は2014)

 元(と書くのがちょっと寂しい)NHKアナウンサーの有働由美子さん。アナウンサーの中でも特に好きなアナウンサーです。「おはよう日本」でのニューヨークからの中継、リポートも楽しみでしたし、なんといっても「あさイチ」。番組が始まった頃は慣れずに、NHKがこんな番組を?と思ったものですが、有働さんの人生経験たっぷりの、率直なコメントや井ノ原快彦さん(いのっち)との掛け合いはだんだん好きになりました。番組の途中でニュースが入った時は、落ち着いた声と口調で対応する様はさすがNHKのトップアナウンサーと思ったものです。ちなみに、「あさイチ」は、「無線おじさん」柳澤秀夫さん(やなぎー)の愛する無線のお話(冷たくあしらわれているのが寂しい…もっと聞きたかった)、オヤジギャグの一方で、中東での特派員経験や解説委員としての現代に切り込んだ、かつ思いやりのあるコメントも好きでした。
 その有働さんがエッセイを出版していました。今なら話せることと、NHKを退職されたのが執筆、出版のきっかけかなと思いきや、元々の単行本は2014年に出ている。「おわりに」で書いてある通り、公共放送のアナウンサーがここまで書いたものを出版するのを許してくれたNHKすごい…と思ってしまいました。

 「あさイチ」での飾らないイメージが強いので、有働さんは肝の据わったお姐さんというイメージを持っている。NHKのトップアナウンサーのキャリアウーマン。かっこいいなと思う。そう思いきや、実際は小心者で自信もなくて、でも強く見られたい…そんなところもある。仕事に行きたくない…と思うこともある。「あさイチ」で取り上げられた、有働さんの弱み(と書いていいんだろうか?)と思われているところ…「わき汗」事件、未婚、恋愛下手、お酒好きゆえの失敗、ストレート過ぎて逆効果になってしまう発言などについても、決して下品になりすぎずに読みやすく経緯などが書かれている。夕方のスーパーで買い物する時のレジかごの悩みは、そうだったのか、と思った(有働さんのレジかごを見た親子の会話がかなしい、ひどい)。ニューヨーク勤務の時も、語学堪能で、摩天楼を満喫するように行ったのかと思いきや…。しかも、そのニューヨーク勤務中に心身ボロボロになってしまっていたのはとても辛い。

 誰かとの会話、誰かに助けられた話、お世話になった方のお話も多い。厳しかったお父様の話にはハラハラしたし、優しかったお母様の話にはホロリときてしまう。スタッフや友人、取材相手、共演者にも恵まれていて、それはこの本でうかがえる有働さんのお人柄が引き寄せたものなんだろうなと思った。有働さんがスタッフや後輩、友人相手に率直なことを言っても、受け入れられるのは、その人のことを思っているから。反対に、有働さんが率直なことを言われることもある。「私の個性、私が思う個性」で、「個性」と「素」をどう考えているかの話や、後輩へのアドバイスがいいなと思った。「個性」と「素」の違いは、私もごちゃ混ぜにしていた。これを読んで、自分の言動を振り返ると恥ずかしくなるものもあった。「個性」を売りに出さないとならないアナウンサーという職業だからこそ、生まれた考え方なんだろう。

 有働さんにだって下積みの時代があった。なかなか思うような、やりたい取材をさせてもらえなかったり、ニュースを読む時にデスクや先輩に叱られたり。「報道のアナウンサーには向いていない」と言われたこともある。取材をして、取材相手にとっては当たり前だけど意外な受け答えに、どう答えたらいいか分からなかったこともある。「一般的な」社会の常識だけで報道はできない。そんな苦労が、有働さんの深みを作ったのだと思う。

 有働さんの低くて落ち着いた声が好きです。でも、有働さんご本人は、もっと高くて可愛らしい声だったら良かったのに、と思っているそうだ。そうだったのか。私はいわゆる「女子アナ」の高くてきゃぴきゃぴした女子全開な声が苦手だ。ニュースは論外、バラエティーでもチャンネルを変えたいと思ってしまう。ニュースでも、「あさイチ」のようなざっくばらんな情報番組でも、その落ち着いた声だから品を保てるのだと思う。

 先日感想を書いた「獣の奏者 外伝 刹那」(上橋菜穂子)と合わせて、女性の生き方には様々あると思った本です。単行本にはなかった、NHK退職についても書いてあります。有働さんのこれからを応援したいです。
by halca-kaukana057 | 2018-07-06 23:07 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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