2018年 07月 16日
秘密の花園 /『秘密の花園』ノート
プロムス開催中(読み終えたのは開幕前ですが)だからというわけではないのですが、イギリス文学が読みたくなります。
秘密の花園 (新訳)
フランシス・ホジソン・バーネット:著/畔柳和代:訳/新潮社、新潮文庫/2016
インドで生まれ育ったメアリ・レノックスは、痩せていて不機嫌そうな10歳になる少女。両親はメアリのことは乳母(アーヤ)やインド人の召使いに任せっきり。メアリもアーヤに何でもやってもらっていた。そんな中、屋敷でコレラが流行し、両親も、アーヤも、数多くの召使いたちも死んでしまった。メアリは部屋に閉じこもっていたところを発見される。メアリは叔父のアーチボルト・クレイヴンに引き取られる。本国イギリスに渡ったメアリは、クレイヴンの家政婦のミセス・メドロックに連れられ、ムアにあるクレイヴンの屋敷・ミセルスウェイト邸にやって来る。メアリには女中のマーサがつくことになった。ヨークシャ訛りで、インドのアーヤや召使いたちとは全く性格も態度も異なるマーサに悪態をつくが、次第に心を開いていく。メアリは天気のいい日は屋敷の庭で遊ぶようになる。庭には老庭師のベン・ウェザースタッフがいて、口数は少ないが、メアリに植物のことを教えてくれた。さらに、マーサの弟・ディコンは動植物が大好きな少年で、メアリの友達になった。メアリは、屋敷に10年も閉ざされた庭があることを知る。更に、屋敷の中を歩いていると、どこからか子どもの泣き声がする。メアリは閉ざされた庭の鍵と入り口を見つけ、その泣いていた少年、クレイヴンの息子、メアリの従兄弟のコリンと仲良くなる。コリンは身体が弱く、ミセス・メドロックやマーサもその存在を隠していた。メアリはディコンと閉ざされた庭の手入れをこっそり始め、コリンもメアリと話すようになってから精神的に落ち着いてくる…
訳は沢山ありますが、今回は新訳の新潮文庫版で。岩波少年文庫版も持っています。
昔、NHKで「秘密の花園」がアニメ化されたことがありました(あの「ふしぎの海のナディア」の後番組)。その頃は原作を読んだことはありませんでしたが、アニメの内容をおぼろげに覚えています。メアリはおてんばな娘というイメージがあったのですが、原作を読んでみると記憶違いかも?と思いました。
メアリは「偏屈者」と呼ばれるほど、すぐに機嫌が悪くなる。ミセルスウェイト邸に来るまでのメアリは、正直に言って本当に可愛くない。でも、メアリは両親に育児放棄され、アーヤに身の回りのことは何でもやってもらい、召使いたちは恭順で何でも従う。愛情を注がれることもなく、友達もいない。メアリはとても孤独だ。人との心地よいコミュニケーションを学ぶ場は全くない。更に、その両親もアーヤも召使いたちもコレラで死んでしまう。ますます孤独になってしまった。
そんなメアリにも救いはある。クレイヴンに引き取られ、イギリスにやって来る。ミセルスウェイト邸は大きなお屋敷で、クレイヴン氏は普段は屋敷にいない。またもメアリは孤独か…と思いきや、マーサやディコンがいる。庭にはベンがいて、メアリはその庭で遊び始め、鍵のかかった忘れられた庭を見つける。その庭を再生させる作業をディコンとするうちに、メアリはどんどん元気になっていく。よく食べるようになる。偏屈者と言われていたが、その不機嫌も徐々に収まっていく。
一方、屋敷にはメアリと同じように身体が弱く、事あるごとに癇癪を起こし、泣きわめき、屋敷の者たちからは存在を隠されていた少年、コリンがいた。コリンを見つけ出したメアリは、インドの話などをして、コリンと仲良くなる。コリンも、メアリと会い、メアリから外の話を聞く度に、元気になっていく。
この2人の回復していく様が、とても心に響く。この本を読んだ時、私も元気が無かった。私もこんな風に元気になれたらなと思いながら読んでいた。その2人の回復の糧になったのが、「秘密の花園」、10年鍵をかけられ、誰にも手をつけられなかった庭。メアリはディコンとこっそり庭の手入れを始め、そのことをコリンに話す。コリンもその庭に行ってみたいと、屋敷の外に出ることを目標とする。この庭の由来、何故鍵をかけられることになったのか…重く、かなしい10年だった。寂しく、暗く、心細い。孤独や病弱の辛さを知っているからこそ、再生や回復の過程の喜びは輝かしいものになる。喜びという感情が芽生えていくメアリやコリンは、本当にいきいきしている。2人は自立もしていく。途中、メアリとコリンが衝突する箇所があるのだが、そこもまた回復や再生の過程で通らなければならないものに思える。2人のやり取りが、実に2人らしい。この衝突で、2人は偏屈者の自分と別れることができたのだと思う。
回復していったのはメアリとコリンだけではない。庭も、ミセルスウェイト邸そのものも、屋敷の人々も、ベンも、クレイヴン氏も、それぞれの「回復」「再生」をしていく。庭や屋敷は人ではないが、人と同じように元の有様を取り戻し、新鮮な空気が入ってきて、暗かった部分に光が当たる。子どもの再生や回復よりも、大人のほうは面倒臭い。なかなか変われず、現実を悲観し、感情に蓋をしてしまう。クレイヴン氏の場合、マーサの母が橋渡し役になって、クレイヴン氏の再生、回復に繋げていくのもとてもよかった。大人も再生、回復していくことができる希望。この辺りは大人の視点で読めます。
徐々にマーサやミセルスウェイト邸の自然を好きになっていくメアリではありませんが、本当に好きな物語です。
この「秘密の花園」の読解本があります。著者は梨木香歩さん。
物語の隠された背景や、伏線に「そうだったのか!」と物語を読み直しながら読めます。インドというキーワード、屋敷の中と外の生き物、人物像…。イギリス文学が専門で、イギリスにも住んでいた梨木さんだからこその豆知識も。最後の箇所は、読書だけでなく、他のことでも当てはまると思う。「秘密の花園」を更に面白く読めます。
記事の冒頭で、イギリス文学が読みたいと書いた。イギリス文学の特徴、個性を掴んでいるわけではないけれど、これまでも多く読んできた。庭を手入れしていくように、開拓していきたい。「ドリトル先生」シリーズもイギリス文学ですし、最近読んでいるカズオ・イシグロ作品もイギリス文学ですよね?「シャーロック・ホームズ」シリーズもそうですよね?文学だけでなく、音楽も開拓したい。
イギリスだけでなく、北欧も…。こっちは音楽は開拓していっているけど、文学はなかなか進まない…(以上独り言)
秘密の花園 (新訳)
フランシス・ホジソン・バーネット:著/畔柳和代:訳/新潮社、新潮文庫/2016
インドで生まれ育ったメアリ・レノックスは、痩せていて不機嫌そうな10歳になる少女。両親はメアリのことは乳母(アーヤ)やインド人の召使いに任せっきり。メアリもアーヤに何でもやってもらっていた。そんな中、屋敷でコレラが流行し、両親も、アーヤも、数多くの召使いたちも死んでしまった。メアリは部屋に閉じこもっていたところを発見される。メアリは叔父のアーチボルト・クレイヴンに引き取られる。本国イギリスに渡ったメアリは、クレイヴンの家政婦のミセス・メドロックに連れられ、ムアにあるクレイヴンの屋敷・ミセルスウェイト邸にやって来る。メアリには女中のマーサがつくことになった。ヨークシャ訛りで、インドのアーヤや召使いたちとは全く性格も態度も異なるマーサに悪態をつくが、次第に心を開いていく。メアリは天気のいい日は屋敷の庭で遊ぶようになる。庭には老庭師のベン・ウェザースタッフがいて、口数は少ないが、メアリに植物のことを教えてくれた。さらに、マーサの弟・ディコンは動植物が大好きな少年で、メアリの友達になった。メアリは、屋敷に10年も閉ざされた庭があることを知る。更に、屋敷の中を歩いていると、どこからか子どもの泣き声がする。メアリは閉ざされた庭の鍵と入り口を見つけ、その泣いていた少年、クレイヴンの息子、メアリの従兄弟のコリンと仲良くなる。コリンは身体が弱く、ミセス・メドロックやマーサもその存在を隠していた。メアリはディコンと閉ざされた庭の手入れをこっそり始め、コリンもメアリと話すようになってから精神的に落ち着いてくる…
訳は沢山ありますが、今回は新訳の新潮文庫版で。岩波少年文庫版も持っています。
昔、NHKで「秘密の花園」がアニメ化されたことがありました(あの「ふしぎの海のナディア」の後番組)。その頃は原作を読んだことはありませんでしたが、アニメの内容をおぼろげに覚えています。メアリはおてんばな娘というイメージがあったのですが、原作を読んでみると記憶違いかも?と思いました。
メアリは「偏屈者」と呼ばれるほど、すぐに機嫌が悪くなる。ミセルスウェイト邸に来るまでのメアリは、正直に言って本当に可愛くない。でも、メアリは両親に育児放棄され、アーヤに身の回りのことは何でもやってもらい、召使いたちは恭順で何でも従う。愛情を注がれることもなく、友達もいない。メアリはとても孤独だ。人との心地よいコミュニケーションを学ぶ場は全くない。更に、その両親もアーヤも召使いたちもコレラで死んでしまう。ますます孤独になってしまった。
そんなメアリにも救いはある。クレイヴンに引き取られ、イギリスにやって来る。ミセルスウェイト邸は大きなお屋敷で、クレイヴン氏は普段は屋敷にいない。またもメアリは孤独か…と思いきや、マーサやディコンがいる。庭にはベンがいて、メアリはその庭で遊び始め、鍵のかかった忘れられた庭を見つける。その庭を再生させる作業をディコンとするうちに、メアリはどんどん元気になっていく。よく食べるようになる。偏屈者と言われていたが、その不機嫌も徐々に収まっていく。
一方、屋敷にはメアリと同じように身体が弱く、事あるごとに癇癪を起こし、泣きわめき、屋敷の者たちからは存在を隠されていた少年、コリンがいた。コリンを見つけ出したメアリは、インドの話などをして、コリンと仲良くなる。コリンも、メアリと会い、メアリから外の話を聞く度に、元気になっていく。
この2人の回復していく様が、とても心に響く。この本を読んだ時、私も元気が無かった。私もこんな風に元気になれたらなと思いながら読んでいた。その2人の回復の糧になったのが、「秘密の花園」、10年鍵をかけられ、誰にも手をつけられなかった庭。メアリはディコンとこっそり庭の手入れを始め、そのことをコリンに話す。コリンもその庭に行ってみたいと、屋敷の外に出ることを目標とする。この庭の由来、何故鍵をかけられることになったのか…重く、かなしい10年だった。寂しく、暗く、心細い。孤独や病弱の辛さを知っているからこそ、再生や回復の過程の喜びは輝かしいものになる。喜びという感情が芽生えていくメアリやコリンは、本当にいきいきしている。2人は自立もしていく。途中、メアリとコリンが衝突する箇所があるのだが、そこもまた回復や再生の過程で通らなければならないものに思える。2人のやり取りが、実に2人らしい。この衝突で、2人は偏屈者の自分と別れることができたのだと思う。
回復していったのはメアリとコリンだけではない。庭も、ミセルスウェイト邸そのものも、屋敷の人々も、ベンも、クレイヴン氏も、それぞれの「回復」「再生」をしていく。庭や屋敷は人ではないが、人と同じように元の有様を取り戻し、新鮮な空気が入ってきて、暗かった部分に光が当たる。子どもの再生や回復よりも、大人のほうは面倒臭い。なかなか変われず、現実を悲観し、感情に蓋をしてしまう。クレイヴン氏の場合、マーサの母が橋渡し役になって、クレイヴン氏の再生、回復に繋げていくのもとてもよかった。大人も再生、回復していくことができる希望。この辺りは大人の視点で読めます。
徐々にマーサやミセルスウェイト邸の自然を好きになっていくメアリではありませんが、本当に好きな物語です。
この「秘密の花園」の読解本があります。著者は梨木香歩さん。
物語の隠された背景や、伏線に「そうだったのか!」と物語を読み直しながら読めます。インドというキーワード、屋敷の中と外の生き物、人物像…。イギリス文学が専門で、イギリスにも住んでいた梨木さんだからこその豆知識も。最後の箇所は、読書だけでなく、他のことでも当てはまると思う。「秘密の花園」を更に面白く読めます。
記事の冒頭で、イギリス文学が読みたいと書いた。イギリス文学の特徴、個性を掴んでいるわけではないけれど、これまでも多く読んできた。庭を手入れしていくように、開拓していきたい。「ドリトル先生」シリーズもイギリス文学ですし、最近読んでいるカズオ・イシグロ作品もイギリス文学ですよね?「シャーロック・ホームズ」シリーズもそうですよね?文学だけでなく、音楽も開拓したい。
イギリスだけでなく、北欧も…。こっちは音楽は開拓していっているけど、文学はなかなか進まない…(以上独り言)
by halca-kaukana057
| 2018-07-16 22:57
| 本・読書