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音楽のたのしみ 4 オペラ

 全4巻のシリーズ「音楽のたのしみ」。3巻まで読んで、4巻は読まずにいた。10年間も。10年越しで読みます。
【これまでのシリーズ】
音楽のたのしみ 1 音楽とはなんだろう
音楽のたのしみ 2 音楽のあゆみ ― ベートーヴェンまで
音楽のたのしみ3 音楽のあゆみ ― ベートーヴェン以降


音楽のたのしみ 4 オペラ
ロラン=マニュエル/吉田秀和:訳/白水社・白水Uブックス/2008

 作曲家・音楽評論家のロラン・マニュエル氏と、若手ピアニストのナディア・タグリーヌ嬢が音楽について語り合う同名のラジオ番組が元になったこのシリーズ。最終巻の第4巻はオペラがテーマ。オペラの始まりから発展、多様化を経て現代に至るまで、そしてこれからを語ります。

 オペラは私にとってまだまだ未開拓の世界。数年前に声楽を習い始め、古いオペラアリアなどを集めた「イタリア歌曲集」を歌ってきたが、課題となった歌を声楽的に美しく歌うことで精一杯な状態で、そのアリアがどんなオペラのどんな場面で歌われるアリアなのか、調べきれていないものも多い。「イタリア歌曲集」に収められているアリアは、アリアは残っていてもオペラそのものは失われてしまったか、残っていても滅多に演奏されないものも少なくないからだ。でも、歌詞の意味だけは必ず頭に入れて、感情も込めるようにしている。

 声楽レッスンで歌っている範囲以外のオペラについて少しずつ聴いて勉強していたが、今は止まってしまっている。なので、この本を読んでも、さっぱりわからないことが多い。作曲家の名前や、具体的なオペラのタイトルは知っていても、どんな曲だっけ?どんな物語だっけ?と思ってしまう。勉強不足を実感。

 それでも、ロラン=マニュエル氏とナディア嬢のやりとりは面白い。ナディア嬢はこれまで通り、わからないことがあれば遠慮なくロラン=マニュエル氏に質問する。ナディア嬢なりの考えを話してみる。ロラン=マニュエル氏から教えられることもあるし、その考えが合っていてロラン=マニュエル氏を驚かせることもある。知らないこと、わからないことは恥ずかしいことではない。これから勉強していけばいいんだ。ただ鵜呑みにするのではなく、自分なりに考えること、疑問を持つことも大事。10年経ってしまったがまた原点に戻ることができたようで嬉しい。

 フランスのラジオ番組が元になっていて、2人ともフランス人。なので、イタリアから生まれたオペラが、フランスでバレエが加えられ、歌以外の台詞を含むオペラ・コミークとなっていく。イタリアとフランスのオペラ論争、オペラに対する考え方の違いは読んでいて面白かった。この本の半分ぐらいは、古楽のオペラを扱っている。モンテヴェルディやアレッサンドロ・スカルラッティ、リュリ、ラモー、パーセルなど。この辺りは作曲家もタイトルも名前は知っているけど聴いたことがないオペラが多い。ぜひ聴いてみようと思う。

 モーツァルトが登場し、ドイツ語のオペラが誕生するが、モーツァルトのオペライタリア・オペラの流れがあるというのは面白かった。また、モーツァルトのオペラ論も。
「オペラでは、詩は音楽の従順な僕であるべきだ」
「最も恐ろしい状況でも、音楽は耳を満足させなければなりません。ひと言でいえば、音楽はいつも音楽でいなければなりません」
(第14話、164、165ページ)
 私が以前(正直に言うと今も)オペラをとっつきがたいものと感じるのは、音楽だけじゃない、という理由がある。物語があり、台詞があり、アリアや重唱、合唱があり、演出・演技があり、舞台装置があり…芝居である。同じオペラでも演出が違えば、見方が全然変わってしまう。そこが難しいと感じる。オペラをテレビや生で観ると、歌や歌声に圧倒されると同時に、物語を追う。台詞や歌詞の内容を追う。オペラを観た後の感想は、歌や歌声、音楽よりも、物語について思うことが多いかもしれない。なので、音声だけ、CDでオペラを聴くとよくわからないことが多い。対訳をずっと自分で読み続けていないと歌詞の意味がわからないからだ。オペラにとって大事なのは、音楽なのか、物語なのか。第29話「あたらしいオペラへの展望」、第30話「音楽的表現の価値に関する省察」で詳しく語られる。第29話のゲスト、アンリ・バロ氏はこう語っている。
「ところが、わたしの望んでいる密度の高い活気は、たとえ言葉がわからなくても理解できるくらい、簡単な動きを前提としているんです」(349ページ)
さらに、第30話では2人はこう語っている。
N(ナディア):でも、いいですか、わたしが自分の好きなオペラをきく場合、音楽は言葉や状況に結びついています。音楽は劇の感動にその反響をつけ加え、それを敷衍拡大します。
R-M(ロラン=マニュエル):どうしてあなたは、いってみれば、旋律にのせられた色褪せた言葉のおかげで、無意識のうちに、もともと音楽のものじゃなくて言葉から借用したにすぎない表現を音楽に付属するものと考えさせてしまうんだってことに、気がつかないのかな。
N:ああ、うまいことを考えましたわ。イタリア・オペラのグランド・アリアを原型どおりにきかせていただきましょう。わたしはイタリア人じゃなくて、言葉の意味はわからない。それでも、いまきいたアリアが喚起する状況とか、それが表現する人物の性格や感情を、思いちがいしないのじゃないかと思うのですけど。
(中略)
R-M:お望みなら、音楽の表現の可能性は、テンポの性格を示すのに使われるイタリア語の形容詞の術語集の中に、正確に包括されていると申し上げましょう。この種の術語を翻訳すれば、とりちがえることなく、ある音楽が快速だとか、活発だとか、軽妙なおしゃべりだとか、よく流れるとか、楽々としているとか、荘厳だとか、厳粛だとか、いえます。
N:そうすると、音楽が感情自体を表出しているような幻覚を与えるのは、何かの感情にぴったりするリズム、歩きぶり、性格などを組合わせているからだ、というわけですか?
(356~358ページ)
 よく考えると私も同じことをしている。声楽のいつものレッスンでは先生と1対1だが、発表会となると様々な人が聴きに来る。私が歌う歌を聴いたことがない人もいる。そんな人にも、どんな内容の歌なのか伝わるように歌いたい。発表会は勿論だが、聴く人が先生しかいないいつものレッスンでも、歌う時に欠かせないものがある。強弱や速さ、軽さや重さ、明るさや暗さ、クレッシェンド、デクレシェンド、だんだん速くなるのか遅くなるのか、なめらかなのか、一音ずつ切るのか、音を保つのかなどを示す演奏記号だ。発想記号も。発音や発声による、声楽的な美しさに合わせて、これらのことを元に歌っていく。歌ではないが、ピアノを弾いていた時も同じだ。歌詞がつこうとつかなくとも、やっぱり第一に「音楽」なのだ。

 この本を読むと、「音楽」の広さと深さを実感する。途方もない広大な、どこまでも深く、どこまでも空高い世界なのだと。自分には大き過ぎてつかめないと感じる。でも、何十年かかっても、少しずつ聴いて、「音楽のたのしみ」を味わえる瞬間を大事にしたいと思う。途中ブランクが空いて時間はかかったが、やっぱり読みきってよかった。オペラも、この本に登場したものを聴いていこう。
by halca-kaukana057 | 2019-02-02 23:05 | 本・読書

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