人気ブログランキング |

ピアノ・レッスン

 以前読んだ「すべての見えない光」についてネットで調べていた時、この本を見つけました。


ピアノ・レッスン
アリス・マンロー:著、小竹由美子:訳/新潮社、新潮クレスト・ブックス、2018年

 カナダの田舎町。訪問販売員(行商)の仕事をしている父。父が仕事に行くのについて行くことになり、一緒に車に乗る。父は様々な家を訪問し、ものを売りながら色々な人と話をしていた…(ウォーカーブラザーズ・カウボーイ)

 アリス・マンローは2013年ノーベル文学賞を受賞したカナダ人作家。全く知りませんでした。

 15の短編が収められています。どれも、カナダの田舎町を舞台にしています。そして、どの作品も物悲しい。読んだ後、しんみりとしてしまう。描かれているのは、どこにでもいそうな市井の人々のちょっとした日常。しかし、彼らにとっては忘れられない日。そんな時間を丁寧に描いています。

 好きなのは…と言っても、先述の通り読後しんみりしたり、もやもやしたり、心が痛んだりと幸せな気持ちになれる作品ではない。でも、惹かれる作品がいくつもある。「輝く家々」は、日本でもこんな問題が数多くあるのではないかと思う。「死んだ時」と「蝶の日」は本当に重い。救いがないと思ってしまう。「乗せてくれてありがとう」と「赤いワンピース ― 1946年」は苦い、でも少し甘い青春のヒトコマ。この2作は読後、少し気持ちが楽になる。物事は何も変わってはいないのだけれども。どれも、正面から見ると物悲しいが、そこにこそ人間の生き様や心があると感じさせてくれる。何かがあっても、人生は続く。描かれない続いていく日々がどうなるのだろうか、と思ってします。

 「ユトレヒト講和条約」が一番惹かれました。実家に帰った「わたし(ヘレン)」。実家には姉のマディーが住んでいる。マディーは母の面倒を死ぬまでみていた。わたしとマディーはぎこちない。そんなわたしは、おばさんの家を訪問した。アニーおばさんは、母のあるものを見せて、母のことを語りだした…。
 これも、日本でも同じような立場にある人がたくさんいるのではないかと思う。ヘレンとマディーの最後のシーンがとても印象的で、胸に突き刺さる。マディーの気持ちがよくわかる。どうにかしたい、でも変えられない。「どうしてできないのかな?」この最後の言葉の重みがのしかかってくる。「わたし(ヘレン)」のようになれば楽、だとは限らない。後から事実を知った方が辛いこともある。この「立場」から楽になるには、この「立場」にあっても自分を失わずにいるにはどうしたらいいのだろう…読んだ後、考え込んでしまう。

 表題作「ピアノ・レッスン」。原題は「Dance of the Happy Shades」.この意味は読んでからのお楽しみにしておきたい。年老いたピアノ教師の発表会のパーティーで起きたある出来事。一方から見れば、この本の紹介文にあるとおり「小さな奇跡」。でも違う面から見ると、これも物悲しくなってしまう。あの演奏をした子は幸せなのか。幸せなんて数で表せるものでもないし、絶対的なものでもない。あの子は幸せだったろう。でも、「わたし」を通して見たあの子と先生(ミス・マルサレス)の姿は…。人間のものの考え方というものに、不思議なものを感じられずにはいられなかった。

 面白いけれども、読むと辛い…。でも素敵な本です。アリス・マンローさんの他の本も読んでみたいです。
by halca-kaukana057 | 2019-03-01 20:42 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31