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天空の約束

 川端裕人さんの本は久しぶりです。以前読んだ「雲の王」の続編が出ていました。
雲の王


天空の約束
川端裕人/集英社、集英社文庫/2017(単行本は2015)

 微気候を制御し屋内環境を整える研究をしている八雲助壱(やぐも・すけいち)。大学教授をしていた頃の教え子で新聞記者の蓮見可奈に連れられ、雲の芸術家がいるというクラブ・「雲の倶楽部」へやってきた。ある条件を満たしていないと店に入ることができないらしい。そのクラブには、人工の雲がアートとして展示されていた。クラウド・ジョッキー(CJ)という雲の芸術家が作るものらしい。CJのプレゼンテーションを見て驚く2人。その後、バーテンダーの女性から、あるカクテルを差し出された八雲は、そのカクテルに不思議なものを見る。それにも驚いていると、バーテンダーの女性は八雲に小さな小瓶を差し出し、受け取った。


 「雲の王」の続編ですが、登場人物は異なります。しかし、「雲の王」の美晴たちと同じく、風や気温を「見る」ことができる能力を持つ者たちの物語です。川端さんの作品では、とんでもない天才が一般的な主人公を導き、また主人公も巻き込まれつつも個性を発揮していく。彼らのいる「今ここ」が、大きな世界に繋がっている。この「天空の約束」はちょっと違う感じがする。まず、主人公が誰なのか決められない。八雲はそのひとり。主要人物が何人も出てくる。高校の頃、よく眠っていて「眠り姫」と呼ばれていた日向早樹。早樹は、高校時代の写真部の先輩だったある女性のことをうっすらと覚えていたが、誰なのか思い出せずにいた。その女性、椿かすみ。かすみは早樹の夢をノートに記録していた。早樹は写真部の仲間たちと再会し、かすみのことを思い出していく。不思議なメッセージを残して転校して行ったかすみ。ばらばらだった3人がどんどん繋がっていく。不思議な物語です。

 八雲も早樹も自分の「能力」には気づいていない。いや、この2人はちょっと違う。八雲は何も知らない。一方の早樹は「能力」があるとわかっていたが、ある理由から「蓋」をすることになってしまった。そして、かすみが語る過去の話「分教場の子ら、空を奏でる」とても重く、読んでいて辛かった。人と異なる「能力」を持つことは、いいことばかりではない。恐ろしい存在と拒絶される。また、その「能力」を利用しようという者も出てくる。「能力」を持つ者が幼ければ幼い程、そんな大人たちの身勝手さの餌食になってしまう。「能力」を理解されないどころか、誤解されていた。早樹も辛い経験をした。今回の本では、「能力」の暗い部分が描かれている。この暗さが、作品全体に今にも降り出しそうな雨を持った雲のように立ち込めている。

 そんな「能力」をどう扱ったらいいのか。動きだしているかすみ。今回の物語では、「今ここ」から大きな世界へ、というよりも、「今ここ」に至るまでに何があったのか、そして大きな世界へ向かうにはどうしたらいいのか。その過程が描かれていると感じます。結果がどうなるかわからない。もっとこの物語の先、未来を読みたいと思うが、あるところにたどり着き、そこが大きな世界へのスタートラインになって終わっている。「雲の王」が続編なのか、この「天空の約束」の方が先なのかわからなくなってきた。でも、この「天空の約束」を読めてよかった。「雲の王」が2012年。その後、日本や世界の気象現象はまた変化した。大きな災害が頻繁に起こるようになった。気候の差が激しく、それによって様々な被害が出るようになった。数年のうちに変化した気象現象に基づいた、新しい物語が生まれた。それを読めてよかった。

 この作品をどう説明したらいいか、実際のところ難しくて困ってしまっている。とても面白く、胸にズシンと、じんわりともする物語だ。しかし、かすみが自分の「能力」について、一般人にどう説明したらいいかわからないように、私もこの作品をどう語ったらいいかわからないままこの記事を書いてしまった。扱っているテーマの暗さ、重さゆえだろうか。でも、本当に面白い。最近はスマートフォンの雨が降る通知や、リアルタイムの警報通知で随分と便利になった。しかし、その便利さに頼ってばかりいないで、自分で空や雲を見て、気温や風の向きや強さ、湿気などを感じて、気象の動きに気を配れたらいいなと思った。そして、災害への意識を高めつつも、危険性がないなら、毎日の天候を楽しみつつ受け入れられたらいいなと思う。晴れの日も、雨の日も。


by halca-kaukana057 | 2019-04-22 22:02 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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