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ドリトル先生 月3部作[新訳]

 アポロ11号による、人類初の月面着陸から50年。1969年7月20日(アメリカ東部夏時間)のことでした。日本時間だと21日なので、今夜は前夜祭といったところか。アポロ11号そのもののノンフィクションや、天文学としての月の本も読んでいるが、月にまつわる本、月に行くことを描いた本…この本を思い出した。せっかく新訳が出ているのだからシリーズ途中からになるが再読。


新訳 ドリトル先生と月からの使い

ヒュー・ロフティング:著、河合祥一郎:訳、patty:イラスト/アスキー・メディアワークス、角川つばさ文庫/2013



新訳 ドリトル先生の月旅行

ヒュー・ロフティング:著、河合祥一郎:訳、patty:イラスト/KADOKAWA、角川つばさ文庫/2013



新訳 ドリトル先生月から帰る

ヒュー・ロフティング:著、河合祥一郎:訳、patty:イラスト/アスキー・メディアワークス、KADOKAWA、角川つばさ文庫/2013



 イギリス文学が専門の河合祥一郎さんによる新訳。イラストもアニメ調の可愛らしいものに。以前は岩波少年文庫の井伏鱒二訳こそ「ドリトル先生」シリーズだと思っていたのですが、新訳もいいなと思いました。「月から帰る」の献呈文もちゃんと削らすに書いている。イラストは今の子どもたちに親しみやすくていいんじゃないかと思うのですが、でもロフティング自身のイラストもあるんだよと知って欲しい。訳の文章は読みやすいけど、ちょっと現代的過ぎるところもあるかなと。新訳についてはこの辺で。


 1928年から1933年にかけて発表された「月3部作」。再読してみて、やっぱり面白いと感じました。「月からの使い」は月に関係ない話で始まり、一体月からの使いはいつ出てくるんだ?と思いつつも、その前半の話が伏線になってくる。運命に導かれるように、ドリトル先生は月に向かうことになる。助手のトミーももちろん一緒に行きたいと思うが、危険だという先生の判断でトミーは地球、パドルビーに残るようにと言われてしまう。それでも先生についていきたい。先生をひとりにしてはいけない。出発の夜、トミーはこっそりと蛾に乗り込み、ドリトル先生、オウムのポリネシア、サルのチーチーと一緒に月へ向かう。旅立った後、トミーがついてきたことがばれるシーンが印象的だ。先生とトミーの絆、信頼関係の強さ。だからこそ、「月旅行(月へゆく)」でトミーがひとり帰されてしまうシーンは胸が痛くなる。でも、「月から帰る」でドリトル先生が月から帰って来るまで、帰って来た後もトミーは立派に働く。博物学者としても、獣医としても、ドリトル先生の家を守ることにしても。離れていてもドリトル先生とトミーの信頼関係は揺るぎ無いものであるし、離れていた期間があるからこそ、トミーは立派に成長していったのだと思う。

 「月からの使い」の巨大蛾が何者でどこから来たのかを調べるシーンでも、「月旅行」で月を調査するシーンでも、未知のものを科学的に、博物学的に丁寧に調べる姿がいいなと思う。自分の足で歩き、見たもの、聞こえたもの、出会ったものを観察し、記録し、事実から可能性を考える。必要なら議論もする。ドリトル先生は医師で博物学者であるが、その根底には科学もあり、また音楽にも詳しい…物事を専門的かつ総合的に観ることのできる学者だ。それだけでなく、未知の世界を探検する冒険家でもある。動植物の命を尊重し、救うことのできる人道的な人でもある。「ドリトル先生」シリーズはファンタジーのようだが、「月3部作」はSFでもあり、科学の手法にのっとったリアルさも持ち合わせた物語だと今読むと思う。

 話は少しずれるが、同じイギリス文学の、「シャーロック・ホームズ」シリーズのホームズとワトスンのいいところを足したのがドリトル先生か?と思う。井伏鱒二訳を読んだ時は「ホームズ」シリーズを読んでいなかった。「月から帰る」の、月での記録を本にまとめようとするドリトル先生は、研究を始めたら一心不乱、それ以外のことは気に留めない、常識はずれのことまでやってしまうホームズと似ているところがある。でも、研究を後回しにしても病気や怪我をした動物たちがやってくれば診察し、必要なら保護する優しさはワトスンか。

 「月3部作」で描かれる月の姿は、空想の姿だ。でも、今でも月についてはわからないことがある。地球に一番近くて、身近な天体なのに。アポロが月に行って、人類は月の上を歩いて調査もしたのに、まだわからないことがある。探査機を飛ばして、明らかになったことに驚き、そこから更に空想する。「かぐや」の探査によって見つかった月の地下の巨大な空間。様々な探査機により、月には凍った状態の水があるのではないかとわかってきた。地球から見ることのできない月の裏側の探査も始まっている。また人類は月に向かおうとしている。事実がわかっても、そこからまた謎が出てくる。それが空想を生む。アポロが月へ行く…宇宙開発もまだロケット開発が始まったばかりの時代、こんな鮮やかでワクワクする月の姿を空想した物語が生まれているんだ。人類は物理的にももっと"遠く"へ行けるだろうけど、空想の世界ならもっともっと"遠く"に行けるだろう。

 ただ、"遠く"に行くということは、地球から離れる…孤独を意味する。月の巨人がドリトル先生を帰したがらなかった理由が切ない。ドリトル先生が行った月にはまだ動植物たちがいる。でも、実際の月は荒涼とした死の世界だ。「死の空間」は宇宙空間だけではない。現実には月も「死の空間」。月には可能性もあるけれども…初めのうちは月の巨人と同じ思いをするだろうなと思う。

 それにしても、ロフティングが空想した宇宙や月が、将来を暗示するかのような表現をされていることに改めて驚いた。月は地球の一部だった(ジャイアント・インパクト説?)とか、月から帰ってきたオウムのポリネシアの飛び方やドリトル先生の身体の反応。月は地球より重力が小さくて、軽々とジャンプして移動することができる…これが理論的にわかったのはいつなのか、まだ調べられていない。

 どんな時も、月が見えると嬉しくなる。夕焼け空の三日月、青空に白い月、大きくて明るい満月。「ドリトル先生」の「月3部作」を読んで、月がもっと好きになった。そんな気持ちで、日本時間だと明日の人類月面着陸50年を祝おうと思う。

 ちなみに、ロフティングは、「月旅行」で「ドリトル先生」シリーズをやめようと思ったそうだ。ドリトル先生は月に残ったままで。しかし、読者たちの強い希望で続編「月から帰る」を書いた。なんだかこの点も「ホームズ」シリーズみたい。


【過去記事:井伏鱒二訳ドリトル先生「月3部作」】
ドリトル先生と月からの使い
ドリトル先生月へゆく
ドリトル先生月から帰る

 新訳は「航海記」も読む予定。というのは、福岡伸一訳「航海記」が文庫化したので、読み比べようと…。久々に「ドリトル先生シリーズ」タグの記事を書けて嬉しい。
by halca-kaukana057 | 2019-07-20 23:35 | 本・読書

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