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宇宙はどこまで行けるか ロケットエンジンの実力と未来

 宇宙関係の新書には、なかなか面白い本があります。この本も。


宇宙はどこまで行けるか ロケットエンジンの実力と未来
小泉宏之/中央公論新社、中公新書/2019


 筆者の小泉さんは小惑星探査機 初代「はやぶさ」のイオンエンジン運用に携わり、その後、「はやぶさ2」に相乗りで打ち上げられた小型探査機「プロキオン」小型イオンエンジンの開発メンバー。

 この本は宇宙開発でもエンジンに的を絞って書いてあります。ロケットを打ち上げる、人工衛星を軌道に載せ運用する、探査機を飛ばす…どれにも欠かせないのがエンジン。エンジンがないと宇宙に行けない。でも、ロケットや宇宙機のことはよく知っていても、そのエンジンについてはある程度しか知らなかったりします。「はやぶさ/はやぶさ2」のイオンエンジンの仕組みや、「あかつき」が最初に金星周回軌道投入失敗した時、エンジンに何が起こっていたのか辺りはそれなりに知っている。H2A/H2Bのメインエンジン「LE-7A」についてもある程度は知っている。新しく開発されるH3ロケットの新しいエンジンにも興味がある。だが、宇宙機で気になるのはエンジンそのものよりもミッションについて…。今までエンジンにそこまで注目していませんでした。なくてはならないものなのに。

 この本では、現在使われているエンジンから、開発中の未来のエンジン、SFの世界のエンジンも出てきます。代表的なロケットや宇宙機を例に、エンジンに焦点を当てて解説しています。「はやぶさ」も、ミッションではなくイオンエンジンについて。

 面白いと思ったのが、この箇所。「プロキオン」の小型イオンエンジンの開発の箇所です。
 人工衛星の研究者と一口に言っても、「推進機屋」「衛星屋」など、いくつかのグループがある。小型エンジンを衛星に載せる際に課題となったのが、これらのあいだにある"溝"の存在だ。
 イオンエンジンは、それだけでは当然動かない。エンジンに電気やガスを送って制御する必要がある。直列4気筒の立派なエンジンだけを作って、さあドライブに行こう、とならないのと同じである。ただ、大学や研究所で人工衛星のエンジンを研究している我々、推進機屋の興味は、一般的に「直列4気筒のエンジン」のところだけだ。エンジンを動かすための電気やガスを送るローテクな装置は研究対象とは見なされない。
 一方、小型衛星を研究している衛星屋からしてみれば、「得体の知れないイオンエンジンを動かす専用の電気とガスを送って制御する装置」など、さらに得体の知れない代物だ。手が出るような物ではない。
(132ページ)
 イオンエンジンの研究者はエンジンだけを作って、エンジンを動かす装置は作らないのか!と驚いた。一方で、衛星屋からしてみれば新しく開発したイオンエンジンを動かす装置を作れと言われても困るだろうなぁ…と気持ちがわかるような気がした。宇宙機開発ではこういうところでチームワークが大事になってくるんだろうなぁ、両者の間に入ってうまく結びつけるリーダーの存在が重要なんだろうなと思いました。エンジンがないと宇宙には行けないけど、エンジンが動かなかったら宇宙には行けない。エンジンができて、そのエンジンが動く。しかも計画通りに、うまく制御できるのは並大抵のことではないのだなと思いました。今なら、「はやぶさ2」がリュウグウまで順調にイオンエンジンで飛行し到着し、リュウグウでも今度は姿勢制御のためのスラスタを使ってタッチダウンしたり、カメラで撮影したり…どれも順調に進んでよかったよかったと喜んでいた。が、そのためには打ち上げ前に初代の反省を生かしたエンジンとエンジンを動かす装置を作り、組み立て、何度も試験をして、打ち上げ後は気が抜けない状態だったんだろうなと思い知りました。

 有人火星探査のための計画を立ててみる第6章も面白い。ここでも、私は現実を思い知りました。今、無人の火星探査が進んでいて、そのうち有人も…と思っている。火星に行くのは月に行く以上に大変だ。時間も、費用も、開発しなければならないものも。必要なものの計算が書いてあるが、それを見て愕然とした。本当に人類は火星に行けるのだろうか、と。予算もとんでもない額だ。有人なので安全にも気をつけなければならないが、絶対100%はない。現実の宇宙開発はとても厳しい物なのだなと実感した。

 それでも、有人火星探査の計画を考えている研究者はいるし、無人だけどももっと向こう…木星や土星、更に遠くの惑星、太陽系の外の探査もできる。ボイジャー1・2号やカッシーニ、ニューホライズンズはよくやったなぁと思う。
 外惑星探査でソーラーセイルも登場します。「イカロス」は元気かなぁ。

 そして、太陽系外…。SFの世界のようにしか思えないが、それは私の考え方が今現在の人類の時間と距離の感覚に縛られているからだろうかと感じた。30年前、昭和から平成になった時、まだ携帯電話は分厚くて大きな辞書みたいだったが、今では電話機能だけではない高性能のコンピュータが手のひらサイズで、多くの人が利用している。30年で技術は随分と進歩した。次の30年で更に進んでいるのでは…と思いたい。

 宇宙開発の現実、現時点を知るのにちょうどよい本でした。思っているよりも甘くはないし、簡単にいかないけれども、エンジンが次はどんな宇宙に連れて行ってくれるのだろうかと楽しみになります。私は研究者ではないので他力本願ですが…。
by halca-kaukana057 | 2019-10-28 21:53 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


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