2019年 11月 28日
ライヴなら伝え合える BBC Proms ( プロムス ) ラスト・ナイト 2019 まとめ
今年も無事にテレビで放送されました、BBC Proms (プロムス)、Last Night of the Proms(ラストナイトコンサート)。ロンドンの御本家様です。音声だけでも楽しいけど、映像を観ればもっと楽しい!ロイヤルアルバートホールの熱気や盛り上がりがより強く伝わってくる!今年も楽しみました。感想など。
◇プロムス ラストナイト 公式サイト:BBC Proms: Prom 75: Last Night of the Proms
◇BBC Radio3 ラストナイトのページ:BBC Radio3: BBC Proms 2019: Prom 75: Last Night of the Proms
・BBC Proms ( プロムス ) 2019 私選リスト その4 [9月] (随時追記中)
プログラムは以下。NHKの日本語訳も参考にしています。
今年の指揮はBBC響首席指揮者のサカリ・オラモ。このラストナイトで40回目のプロムス出演だそうです。調べてみたら、確かにその通り(2018年のファーストナイト前日の「Five Telegrams」プロジェクション・マッピングイベントも含まれています)。初登場は1999年バーミンガム市交響楽団と。その後もバーミンガム市響、時々フィンランド放送響やロイヤル・ストックホルム・フィル、2012年以降は主にBBC響を指揮。2014年には室内楽回でヴァイオリン演奏もありました(ジャニーヌ・ヤンセンと共演)。ラストナイトは4回目。もう常連です。
声楽ソロはメゾソプラノのジェイミー・バートンさん。満面の笑顔を絶やさない方だと感じました。登場した際、テレビ放送案内のケーティー・ダーハムさんが「ファビュラス(fabulous)」と表現していましたが、ぴったりの言葉です。深みのある歌声に、これはメゾソプラノの醍醐味だと感じました。私自身声楽をやっていて、声域が同じなので、理想のメゾソプラノと思いました。深い低音から、鋭い高音まで幅が広い。歌ったアリアも、「カルメン」のハバネラ、「サムソンとデリラ」のデリラ、「ドン・カルロ」のエボリ公女とタイプの異なる3人の女性。その時々の気ままな恋を楽しむカルメンの奔放さ、デリラの恋の誘惑、エボリ公女の感情むき出しの心の叫び。カルメンも誘惑しているけれども、デリラとはまた違う。「サムソンとデリラ」全曲を聴いたことがないのでこれだけでの感想なのだが、そんなに誘惑という感じがしなかった。でも、こう熱心に語りかけ歌い続けられたら誘われてしまうだろうか。音楽が雄弁で、歌を盛り上げていると感じました。また全曲聴きたいオペラが増えた。「ドン・カルロ」はヴェルディらしいドラマティックな歌。自分の美しさを呪うって…すごいな。
後半ではミュージカルソングを2曲。元々はミュージカル歌手になりたかったというバートンさん。でもダンスが嫌いでオペラに。ミュージカルも素敵です。「虹の彼方に」は希望を、澄んだ声で伸びやかに。「アイ・ガット・リズム」はラジオで聴いた時も思ったのですがとてもかっこよかった。BBC響もいい演奏でした。金管もドラムもかっこいい。
声楽ソロのラストナイトでの使命は、「ルール・ブリタニア」を歌うこと。こちらも深く、力強い声で、歌詞にとても合っていました。バイセクシャルのバートンさん、最後にレインボーフラッグを振っていました。歌詞は英国の繁栄ですが、会場では万国旗が振られるし、どんな人…ベテランのプロマー(プロムス常連客)から普段クラシックをあまり聴かない人も皆大歓迎。人種も国籍も性別も関係なし。多様性を認められる場所なんだなと思いました。
「威風堂々第1番」の後で、テレビ放送案内のケーティー・ダーハムさんが
オラモさんの指揮者スピーチの内容が、まさにラストナイトだなと思いました。ネット社会は物事に集中しづらい、でも人と繋がる機会は増えた。情報も共有できる。ならば、何故プロムスの演奏会に来たのか?ライヴ中継を聴いているのか?
第2部の最初の曲「天国と地獄(地獄のオルフェウス)」序曲のフレンチカンカンの部分で、観客は自然と手拍子を始めました。それに気づいたオラモさん、もっと盛り上げるような指揮をしていました(ちなみに少しつま先を上げるステップを踏んでたw)。BBC響の楽団員さんも、笑顔の人も。
何よりラストナイトには観客が参加する曲が何曲もあります。「イギリスの海の歌による幻想曲」の「トム・ボウリング」の泣き真似や「ホーンパイプ」の手拍子。「ルール・ブリタニア」、「威風堂々第1番(Land of Hope and Glory)」、「エルサレム」「イギリス国歌(God Save The Queen)」「Auld Lang Syne」は一緒に歌う。
その会場の雰囲気や空気が演奏に影響するということは時折ある。ロックやポップスなら普通だけど、クラシックだと違ってくる。全くないわけではない。演奏者が演奏し、それを聴いた観客の反応(拍手とか)や雰囲気がいい意味で演奏者に伝わり、演奏に反映される。無言だけれども、演奏者と観客がコミュニケーションしている。ライヴなら伝え合えるものがある。
ラストナイトは無言ではなくダイレクトに声や手拍子などでもっと強く伝え合える。生で聴く音楽がいいなと思う理由を再確認しました。
もうひとつ、自分のことを話すと、このラストナイトの当日、日本では早朝でしたが、私はこの日友人たちと旅行の予定を入れてしまっていました。普段ならラストナイトは家で生中継を聴いて、一緒に歌っちゃったりするのに…。でも私は、皆が寝静まっている朝早く起きて、布団の中でスマートフォンで生中継を静かに聴いていました。BBC Radio3は放送後30日間オンデマンド配信がある。後日のテレビ放送を観た方がわかりやすい。なのに、何故そこまでして生で聴きたかったのか。離れてはいるけれど、ロイヤル・アルバート・ホールのお客さんたちと同じように、一緒に演奏を聴きたかったから。世界中の人がこの生中継を観たり聴いたりしている。それに参加したかったから。リアルタイムの演奏を聴きたかったから。それが楽しいことだと思っている、知っているから。これも、「素晴らしい体験」なんだと思います。それを叶えてくれるラストナイト。叶えてくれる便利なスマホにも感謝です。
プログラムの各曲について少し。最初の世界初演、キダン「Woke」は、アフリカ系アメリカ人への差別、社会の不平等を意識する「目覚め」。短い音が連続して、パルスのよう。それが曲になる。霧の中から音がはっきりとしてくるような印象を受けました。古代の楽器という「うなり木」。他にも小さなシンバルを並べたような「クロテイル」はエジプトで生まれた楽器なんだとか。こんな所にもアフリカが。
「アイーダ」の「凱旋行進曲」の合唱の歌詞はまさにエジプト。今年の合唱もよかった。ヴェルディが使った特殊なチューバ「チンバッソ」。面白いなぁと見ていました。
アカペラで歌われた、ローラ・マヴーラ「月に歌えば」はとても気に入りました。寂しい、落ち込んだ心に寄り添ってくれる優しい歌詞と歌。語りかけてくるようです。「月に歌えば」はマヴーラさんが歌う原曲があります。
◇Laura Mvula - Sing To The Moon
◇2013年プロムスバージョン:Laura Mvula: Sing to the Moon - Urban Classic Prom 2013
ポップだけどしっとりした、素敵な歌です。
エルガー「ため息(ソスピーリ)」はとても美しかった。この曲は弦楽とハープ、オルガンのための作品。オルガンと言うと、教会で聴くような響きだったり、ラストナイトを盛り上げるのに欠かせない楽器。それとは違う印象。
「天国と地獄」は結構長い。各パートのソロが活躍する。ヴァイオリンのソロがきれいだったなぁ。フレンチカンカンの部分は、管楽器は大変だし、弦楽器は刻みが多いし、大変なんだなこの曲…。
グレインジャー「民主主義の進軍歌」は、植民地支配されていたオーストラリアの民主制のための曲…それってイギリスに対抗するという意味じゃないですか。それをイギリスの音楽祭で演奏するのか…。合唱は意味のない言葉。意味がないのに、最後は美しくまとまるのだからすごい。
今年も楽しかったです。最後、「Auld Lang Syne」を歌っていて、今年のプロムスも終わりなのかと寂しい気持ちになりました。また来年!!
最後、細かすぎて伝わらないことを箇条書き。
・ラストナイトは風船の割れる音を気にしてはいけないと思いました。
・ダーハムさん、今年はバルコニーから。音楽通の皆さんがゲスト。曲解説などのVTRは減りました。
・BBCシンフォニーコーラスのターバンの方。第1部はターバンしてなかった?(ちゃんと確認できてない)第2部はユニオンジャックのターバンしてました。
・フルート首席のコックスさんのお髭が進化しているような。お隣は日本人楽団員の向井知香さん。
・第2部、指揮台が例年通り大変なことにwあのビーチボールはどこから出てきた?初登場のBBC響新副リーダー:Igor Yuzefovich(「イゴール・ユゼフォヴィチ」で合ってるかな?)さんがボールをキック。何だかかっこよかった。
・第2部の、男性陣のカラフルなタイを見るのが楽しみです。ティンパニさんは黄色。後は大体国旗柄。
・ティンパニさんのマレットの数が多い。それぞれ形状が違う。打楽器は奥が深い。
・指揮台にネコのぬいぐるみ。これはネコ好きなバートンさんへのものかな?
・「虹の彼方に」の「悩みなんてレモンのしずくのように消えている」素敵な表現。
・「アイ・ガット・リズム」の歌詞がいいな。こんな気持ちで生きられたら楽、幸せだろうな。
・「イギリスの海の歌による幻想曲」の前、オラモさんのMC.各野外会場へ「Hello!!」と挨拶するのが好きだったのに、今年はない…いや、ラジオ放送を録音したのを聞き直したらありました。何故カットした(BBCが既にカットしているのか、NHKがカットしたのか…?)。盛り上がっている各会場の雰囲気が伝わるシーンなのに。
・「トム・ボウリング」のチェロ首席モンクスさん。今年も泣かす演奏です。
・「ホーンパイプ」のYuzefovichさんのアドリブがいい。毎回リーダーのアドリブは楽しみです。今年はヴァイオリン全員を巻き込んだwそのメロディー、もしかして、「We will rock you」?
・「ホーンパイプ」、ヴァイオリンの皆さんがニヤニヤしてて楽しそうだったw
・今年も「ダニーボーイ(ロンドンデリーの歌)」にうるうるする…。「スカイ・ボート・ソング」は大好きです。
・「ホーム・スウィート・ホーム」、オーボエさん素晴らしいです。その後、「見よ、勇者は帰る」の冒頭でオラモさんがサムアップ。これは誰にあてたものだろう?オーボエさん?ホルンセクション?
・「エルサレム」聴けば聴くほどいい曲です。まだ歌えないので歌えるようになりたい。
・ラグビーW杯で、イギリスの4地域のチームを見て各野外会場のことを連想していました。イングランドの国歌「God Save The Queen」を歌えたのはプロムスのおかげです。
・だからNHKさん、「Auld Lang Syne」と「蛍の光」は違うものって言ってるでしょう。以前は「昔なじみ」のタイトルで訳してくれたのに。
・エンドロールは「1分で振り返るラストナイト」のあの動画。やっぱり編集うまい。
・昨年、来年のラストナイトの時にはイギリスはEU離脱しているんだろうなと書きました。まだ離脱してなかった。離脱そのものも行き先不透明。来年にはどうなっているんでしょう。でも、プロムスはプロムス。プロムスは楽しめるように。
【追記 191213】
年末年始恒例、プロムス再放送の予定が出ました。
◇BBC Proms: 2019 Repeats
「Christmas repeats」をクリック。
大晦日の年越し前(グリニッジ標準時)にはラストナイトを放送します。毎年思うのだが、年越し直前の「Auld Lang Syne」…紅白かとw
この再放送も全て、放送後30日間はオンデマンド配信があるので、お正月休みにゆっくりどうぞ。
Proms公式による、ラストナイトのまとめ。
◇BBC Proms 2019:What happened at Last Night of the Proms 2019
ツイッターで映像もツイートされていて、少し観ることができます。この他にもBBC Proms公式アカウントには映像付きのツイートがあるので見てみてください。
バートンさんの「ルール・ブリタニア」
◇Rule, Britannia! (excerpt) with Jamie Barton and rainbow flag (BBC Proms 2019)
1分で振り返る今年のラストナイト。編集上手い。
◇Best moments from Last Night of the Proms 2019
ラストナイトの舞台裏写真集。かっこいいなぁ。
◇BBC Proms 2019:Backstage at the Royal Albert Hall during Last Night of the Proms 2019
ジェイミー・バートンさんのインタビュー。プロムスのことも書かれています。
◇Newsweek 日本版:「カルメンはパンセクシュアルだと思う」 バイセクシャルのオペラ歌手ジェイミー・バートンに聞く
【過去記事】
・2014年:こんなクラシックコンサート観たことない! 「Proms(プロムス)」ラストナイトコンサート2014
・2015年はNHKが放送しなかったのでなし。
・2016年:一緒に音楽を楽しもう Proms(プロムス)2016 ラスト・ナイト・コンサート
・2017年:クラシック音楽の最前線で BBC Proms(プロムス) ラスト・ナイト 2017 まとめ
・2018年:18年ぶりの最終夜で BBC Proms(プロムス) ラスト・ナイト 2018
・2018年3月のBBC響来日公演:これがプロムスオーケストラ! オラモ & BBC交響楽団 @仙台
◇プロムス ラストナイト 公式サイト:BBC Proms: Prom 75: Last Night of the Proms
◇BBC Radio3 ラストナイトのページ:BBC Radio3: BBC Proms 2019: Prom 75: Last Night of the Proms
・BBC Proms ( プロムス ) 2019 私選リスト その4 [9月] (随時追記中)
プログラムは以下。NHKの日本語訳も参考にしています。
・ダニエル・キダン Daniel Kidane:目覚め Woke (世界初演)
・ファリャ:バレエ組曲「三角帽子」第2組曲(近所の人たち、粉屋の踊り、終幕の踊り)
・ローラ・マヴーラ Laura Mvula:月に歌えば Sing to the Moon
・マコンキー:誇り高きテムズ
・エルガー:ソスピーリ(ため息) op.70
・ビゼー:歌劇「カルメン」 より 「恋は野の鳥」(ハバネラ)
・サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」 より 「あなたの声に私の心も開く」('Mon coeur s'ouvre à ta voix')
・ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」 より「むごい運命よ」(O don fatale)
:歌劇「アイーダ」 より 凱旋行進曲
・オッフェンバック:喜歌劇「天国と地獄(地獄のオルフェウス)」序曲
・グレインジャー:民主主義の進軍歌
・ハロルド・アーレン:「オズの魔法使い」 より 「虹の彼方に(Over the Rainbow)」
・ガーシュイン:アイ・ガット・リズム(ミュージカル「ガール・クレイジー」より)
・ヘンリー・ウッド:イギリスの海の歌による幻想曲
(小粋なアレトゥーザ/トム・ボウリング/ホーンパイプ/ロンドンデリーの歌/スカイ・ボート・ソング/海辺には/ホーム・スウィート・ホーム/見よ、勇者は帰る)
・アーン(サージェント:編曲):ルール・ブリタニア!
・エルガー:威風堂々 第1番 ニ長調 「希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)」
・パリー(エルガー:編曲):エルサレム
・ブリテン:編曲:イギリス国歌
・スコットランド民謡(Paul Campbell:編曲):Auld Lang Syne
/ ジェイミー・バートン(メゾソプラノ)、BBCシンガーズ、BBCシンフォニーコーラス
サカリ・オラモ:指揮、BBC交響楽団
今年の指揮はBBC響首席指揮者のサカリ・オラモ。このラストナイトで40回目のプロムス出演だそうです。調べてみたら、確かにその通り(2018年のファーストナイト前日の「Five Telegrams」プロジェクション・マッピングイベントも含まれています)。初登場は1999年バーミンガム市交響楽団と。その後もバーミンガム市響、時々フィンランド放送響やロイヤル・ストックホルム・フィル、2012年以降は主にBBC響を指揮。2014年には室内楽回でヴァイオリン演奏もありました(ジャニーヌ・ヤンセンと共演)。ラストナイトは4回目。もう常連です。
声楽ソロはメゾソプラノのジェイミー・バートンさん。満面の笑顔を絶やさない方だと感じました。登場した際、テレビ放送案内のケーティー・ダーハムさんが「ファビュラス(fabulous)」と表現していましたが、ぴったりの言葉です。深みのある歌声に、これはメゾソプラノの醍醐味だと感じました。私自身声楽をやっていて、声域が同じなので、理想のメゾソプラノと思いました。深い低音から、鋭い高音まで幅が広い。歌ったアリアも、「カルメン」のハバネラ、「サムソンとデリラ」のデリラ、「ドン・カルロ」のエボリ公女とタイプの異なる3人の女性。その時々の気ままな恋を楽しむカルメンの奔放さ、デリラの恋の誘惑、エボリ公女の感情むき出しの心の叫び。カルメンも誘惑しているけれども、デリラとはまた違う。「サムソンとデリラ」全曲を聴いたことがないのでこれだけでの感想なのだが、そんなに誘惑という感じがしなかった。でも、こう熱心に語りかけ歌い続けられたら誘われてしまうだろうか。音楽が雄弁で、歌を盛り上げていると感じました。また全曲聴きたいオペラが増えた。「ドン・カルロ」はヴェルディらしいドラマティックな歌。自分の美しさを呪うって…すごいな。
後半ではミュージカルソングを2曲。元々はミュージカル歌手になりたかったというバートンさん。でもダンスが嫌いでオペラに。ミュージカルも素敵です。「虹の彼方に」は希望を、澄んだ声で伸びやかに。「アイ・ガット・リズム」はラジオで聴いた時も思ったのですがとてもかっこよかった。BBC響もいい演奏でした。金管もドラムもかっこいい。
声楽ソロのラストナイトでの使命は、「ルール・ブリタニア」を歌うこと。こちらも深く、力強い声で、歌詞にとても合っていました。バイセクシャルのバートンさん、最後にレインボーフラッグを振っていました。歌詞は英国の繁栄ですが、会場では万国旗が振られるし、どんな人…ベテランのプロマー(プロムス常連客)から普段クラシックをあまり聴かない人も皆大歓迎。人種も国籍も性別も関係なし。多様性を認められる場所なんだなと思いました。
「威風堂々第1番」の後で、テレビ放送案内のケーティー・ダーハムさんが
「万国旗と大合唱と幸せ気分。これぞラストナイト」とおっしゃっていましたがその通りだなと感じました。
オラモさんの指揮者スピーチの内容が、まさにラストナイトだなと思いました。ネット社会は物事に集中しづらい、でも人と繋がる機会は増えた。情報も共有できる。ならば、何故プロムスの演奏会に来たのか?ライヴ中継を聴いているのか?
演奏会に出かけ集中して生の演奏を聴くことが
素晴らしい体験だとご存じだからでは?
どの曲も作曲家が何か月もかけて書いたものです。
演奏家たちは人生最良の時を、音楽の勉強に捧げています。
我々の使命はあらゆる世代の人に、生の演奏の喜びを知ってもらうこと。
第2部の最初の曲「天国と地獄(地獄のオルフェウス)」序曲のフレンチカンカンの部分で、観客は自然と手拍子を始めました。それに気づいたオラモさん、もっと盛り上げるような指揮をしていました(ちなみに少しつま先を上げるステップを踏んでたw)。BBC響の楽団員さんも、笑顔の人も。
何よりラストナイトには観客が参加する曲が何曲もあります。「イギリスの海の歌による幻想曲」の「トム・ボウリング」の泣き真似や「ホーンパイプ」の手拍子。「ルール・ブリタニア」、「威風堂々第1番(Land of Hope and Glory)」、「エルサレム」「イギリス国歌(God Save The Queen)」「Auld Lang Syne」は一緒に歌う。
その会場の雰囲気や空気が演奏に影響するということは時折ある。ロックやポップスなら普通だけど、クラシックだと違ってくる。全くないわけではない。演奏者が演奏し、それを聴いた観客の反応(拍手とか)や雰囲気がいい意味で演奏者に伝わり、演奏に反映される。無言だけれども、演奏者と観客がコミュニケーションしている。ライヴなら伝え合えるものがある。
ラストナイトは無言ではなくダイレクトに声や手拍子などでもっと強く伝え合える。生で聴く音楽がいいなと思う理由を再確認しました。
もうひとつ、自分のことを話すと、このラストナイトの当日、日本では早朝でしたが、私はこの日友人たちと旅行の予定を入れてしまっていました。普段ならラストナイトは家で生中継を聴いて、一緒に歌っちゃったりするのに…。でも私は、皆が寝静まっている朝早く起きて、布団の中でスマートフォンで生中継を静かに聴いていました。BBC Radio3は放送後30日間オンデマンド配信がある。後日のテレビ放送を観た方がわかりやすい。なのに、何故そこまでして生で聴きたかったのか。離れてはいるけれど、ロイヤル・アルバート・ホールのお客さんたちと同じように、一緒に演奏を聴きたかったから。世界中の人がこの生中継を観たり聴いたりしている。それに参加したかったから。リアルタイムの演奏を聴きたかったから。それが楽しいことだと思っている、知っているから。これも、「素晴らしい体験」なんだと思います。それを叶えてくれるラストナイト。叶えてくれる便利なスマホにも感謝です。
プログラムの各曲について少し。最初の世界初演、キダン「Woke」は、アフリカ系アメリカ人への差別、社会の不平等を意識する「目覚め」。短い音が連続して、パルスのよう。それが曲になる。霧の中から音がはっきりとしてくるような印象を受けました。古代の楽器という「うなり木」。他にも小さなシンバルを並べたような「クロテイル」はエジプトで生まれた楽器なんだとか。こんな所にもアフリカが。
「アイーダ」の「凱旋行進曲」の合唱の歌詞はまさにエジプト。今年の合唱もよかった。ヴェルディが使った特殊なチューバ「チンバッソ」。面白いなぁと見ていました。
アカペラで歌われた、ローラ・マヴーラ「月に歌えば」はとても気に入りました。寂しい、落ち込んだ心に寄り添ってくれる優しい歌詞と歌。語りかけてくるようです。「月に歌えば」はマヴーラさんが歌う原曲があります。
◇Laura Mvula - Sing To The Moon
◇2013年プロムスバージョン:Laura Mvula: Sing to the Moon - Urban Classic Prom 2013
ポップだけどしっとりした、素敵な歌です。
エルガー「ため息(ソスピーリ)」はとても美しかった。この曲は弦楽とハープ、オルガンのための作品。オルガンと言うと、教会で聴くような響きだったり、ラストナイトを盛り上げるのに欠かせない楽器。それとは違う印象。
「天国と地獄」は結構長い。各パートのソロが活躍する。ヴァイオリンのソロがきれいだったなぁ。フレンチカンカンの部分は、管楽器は大変だし、弦楽器は刻みが多いし、大変なんだなこの曲…。
グレインジャー「民主主義の進軍歌」は、植民地支配されていたオーストラリアの民主制のための曲…それってイギリスに対抗するという意味じゃないですか。それをイギリスの音楽祭で演奏するのか…。合唱は意味のない言葉。意味がないのに、最後は美しくまとまるのだからすごい。
今年も楽しかったです。最後、「Auld Lang Syne」を歌っていて、今年のプロムスも終わりなのかと寂しい気持ちになりました。また来年!!
最後、細かすぎて伝わらないことを箇条書き。
・ラストナイトは風船の割れる音を気にしてはいけないと思いました。
・ダーハムさん、今年はバルコニーから。音楽通の皆さんがゲスト。曲解説などのVTRは減りました。
・BBCシンフォニーコーラスのターバンの方。第1部はターバンしてなかった?(ちゃんと確認できてない)第2部はユニオンジャックのターバンしてました。
・フルート首席のコックスさんのお髭が進化しているような。お隣は日本人楽団員の向井知香さん。
・第2部、指揮台が例年通り大変なことにwあのビーチボールはどこから出てきた?初登場のBBC響新副リーダー:Igor Yuzefovich(「イゴール・ユゼフォヴィチ」で合ってるかな?)さんがボールをキック。何だかかっこよかった。
・第2部の、男性陣のカラフルなタイを見るのが楽しみです。ティンパニさんは黄色。後は大体国旗柄。
・ティンパニさんのマレットの数が多い。それぞれ形状が違う。打楽器は奥が深い。
・指揮台にネコのぬいぐるみ。これはネコ好きなバートンさんへのものかな?
・「虹の彼方に」の「悩みなんてレモンのしずくのように消えている」素敵な表現。
・「アイ・ガット・リズム」の歌詞がいいな。こんな気持ちで生きられたら楽、幸せだろうな。
・「イギリスの海の歌による幻想曲」の前、オラモさんのMC.各野外会場へ「Hello!!」と挨拶するのが好きだったのに、今年はない…いや、ラジオ放送を録音したのを聞き直したらありました。何故カットした(BBCが既にカットしているのか、NHKがカットしたのか…?)。盛り上がっている各会場の雰囲気が伝わるシーンなのに。
・「トム・ボウリング」のチェロ首席モンクスさん。今年も泣かす演奏です。
・「ホーンパイプ」のYuzefovichさんのアドリブがいい。毎回リーダーのアドリブは楽しみです。今年はヴァイオリン全員を巻き込んだwそのメロディー、もしかして、「We will rock you」?
・「ホーンパイプ」、ヴァイオリンの皆さんがニヤニヤしてて楽しそうだったw
・今年も「ダニーボーイ(ロンドンデリーの歌)」にうるうるする…。「スカイ・ボート・ソング」は大好きです。
・「ホーム・スウィート・ホーム」、オーボエさん素晴らしいです。その後、「見よ、勇者は帰る」の冒頭でオラモさんがサムアップ。これは誰にあてたものだろう?オーボエさん?ホルンセクション?
・「エルサレム」聴けば聴くほどいい曲です。まだ歌えないので歌えるようになりたい。
・ラグビーW杯で、イギリスの4地域のチームを見て各野外会場のことを連想していました。イングランドの国歌「God Save The Queen」を歌えたのはプロムスのおかげです。
・だからNHKさん、「Auld Lang Syne」と「蛍の光」は違うものって言ってるでしょう。以前は「昔なじみ」のタイトルで訳してくれたのに。
・エンドロールは「1分で振り返るラストナイト」のあの動画。やっぱり編集うまい。
・昨年、来年のラストナイトの時にはイギリスはEU離脱しているんだろうなと書きました。まだ離脱してなかった。離脱そのものも行き先不透明。来年にはどうなっているんでしょう。でも、プロムスはプロムス。プロムスは楽しめるように。
【追記 191213】
年末年始恒例、プロムス再放送の予定が出ました。
◇BBC Proms: 2019 Repeats
「Christmas repeats」をクリック。
大晦日の年越し前(グリニッジ標準時)にはラストナイトを放送します。毎年思うのだが、年越し直前の「Auld Lang Syne」…紅白かとw
この再放送も全て、放送後30日間はオンデマンド配信があるので、お正月休みにゆっくりどうぞ。
Proms公式による、ラストナイトのまとめ。
◇BBC Proms 2019:What happened at Last Night of the Proms 2019
ツイッターで映像もツイートされていて、少し観ることができます。この他にもBBC Proms公式アカウントには映像付きのツイートがあるので見てみてください。
バートンさんの「ルール・ブリタニア」
◇Rule, Britannia! (excerpt) with Jamie Barton and rainbow flag (BBC Proms 2019)
1分で振り返る今年のラストナイト。編集上手い。
◇Best moments from Last Night of the Proms 2019
ラストナイトの舞台裏写真集。かっこいいなぁ。
◇BBC Proms 2019:Backstage at the Royal Albert Hall during Last Night of the Proms 2019
ジェイミー・バートンさんのインタビュー。プロムスのことも書かれています。
◇Newsweek 日本版:「カルメンはパンセクシュアルだと思う」 バイセクシャルのオペラ歌手ジェイミー・バートンに聞く
【過去記事】
・2014年:こんなクラシックコンサート観たことない! 「Proms(プロムス)」ラストナイトコンサート2014
・2015年はNHKが放送しなかったのでなし。
・2016年:一緒に音楽を楽しもう Proms(プロムス)2016 ラスト・ナイト・コンサート
・2017年:クラシック音楽の最前線で BBC Proms(プロムス) ラスト・ナイト 2017 まとめ
・2018年:18年ぶりの最終夜で BBC Proms(プロムス) ラスト・ナイト 2018
・2018年3月のBBC響来日公演:これがプロムスオーケストラ! オラモ & BBC交響楽団 @仙台
by halca-kaukana057
| 2019-11-28 23:23
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