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ヴァイオリン職人の探求と推理

 アマゾンを見ていたら、この本のシリーズ第3作をおすすめされた。シリーズ第1作は?とあらすじを読んでみたら面白そう。早速第1作を読みました。アマゾンのおすすめも時にはいいものを薦めてくる。


ヴァイオリン職人の探求と推理
ポール・アダム:著、青木悦子:訳/東京創元社、創元推理文庫/2014


 イタリア、クレモナ。初老のジャンニはヴァイオリン職人。ジャンニの幼なじみのヴァイオリン職人のトマソ・ライナルディ、神父のアリーギ、クレモナ警察の刑事のアントニオ・グァスタフェステの4人で弦楽四重奏を結成していた。いつもの練習の後、トマソの妻・クラーラからトマソがまだ帰ってきていないと電話がかかってくる。トマソのことをとても心配しているクラーラ。ジャンニとグァスタフェステはトマソを探しに行く。トマソの工房に行くと、中でトマソが殺されていた。弦楽四重奏の練習の時、何かを探していると言っていたトマソ。クラーラの話では、「救世主(メシア)の姉妹」という幻のヴァイオリンを探していると言っていた。それを探しにイギリスまで行ったという。ジャンニはヴァイオリンの専門家としてグァスタフェステの捜査をサポートすることになる。トマソが行った場所、会った人に会いに行く2人。2人はヴェネツィアのヴァイオリンのコレクター、エンリーコ・フォルラーニにも会うが、彼も自宅で殺され、コレクションのひとつのマッジーニがなくなっていた。ジャンニとグァスタフェステはヴァイオリンの歴史を紐解きながら、トマソが探していたヴァイオリンと犯人を捜す…。


 私はクラシック音楽は好きだが、ヴァイオリンについてはそんなに詳しくない。私はヴァイオリンを弾いたことはないし、触ったこともない。ストラディヴァリウス、グァルネリ、アマティぐらいしか知らないし、その何年に作られた云々…と聞いてもよくわからない。ストラディヴァリウスやグァルネリのどこがどう違っていて、音色にどんな特徴があるのかは知らない。よくヴァイオリンのソリストが使っている楽器についてプロフィールに書かれているが、それを読んでも由緒あるすごい楽器なんだろうな程度にしか思っていない。どうすごいのかはわからない。そんなヴァイオリンに疎い私も、ジャンニの語る偉大なヴァイオリン職人たちのこと、それぞれの特徴と違い、たどってきた歴史を読んで興味を持った。ヴァイオリン奏者たちが名器に憧れ、名器とともに名演が生まれる理由が少しわかったような気がする。

 偉大なヴァイオリン職人たちは、数々の名器を創った。しかし、それらが全て記録され、現代に残っている訳ではない。失われてしまったものもあるし、ちゃんと記録を取っておかなかったせいで行方不明のものもある。貴重なものなのだからしっかり管理しろと言いたいが、長い年月と様々な人に渡っていった途中であやふやになるのは仕方ないのか。更に、創った職人や制作年がわかっていても、それが本物かどうか確かではないことがある。この作品では贋作についても触れている。そのヴァイオリンが本当に本物であるか証明するのは確実ではないことに驚いた。

 また、名器と呼ばれるヴァイオリンも、実際に演奏するには手を加えないとならないことにも驚いた。ヴァイオリン職人はヴァイオリンを創ったり、修理するだけではない。それぞれの名器の個性を知り尽くしていて、そのよさをより発揮するためにはどうしたらいいかを知っている。そのための作業ができる。ヴァイオリン職人は過去と現在をつないで、楽器を活かすことができる。並大抵の仕事ではないのだなと思った。

 トマソの足取りをたどっていく途中で、ジャンニはあるヴァイオリンと出会う。ジャンニのある過去。ヴァイオリンをめぐる業界は一筋縄ではいかない。現代も過去もヴァイオリンのディーラー、コレクターたちは曲者ばかり。ディーラーだけでなく、ヴァイオリンに関わる人たちは個性的な人が多い。それはいい意味の場合もあるし、悪い意味の場合もある。トマソがイギリスに行って、あるものを探すために訪ねたミセス・コフーンはいいキャラしています。

 ジャンニはとても優しくて誠実な紳士。ジャンニよりもずっと若いグァスタフェステもしっかりした刑事。ジャンニはヴァイオリンの専門家でもあるが、人脈がとても広い。仕事だけの付き合いだったとしても、ジャンニは誠実。登場人物は多いですが、その分深みもあって面白い。

 とにかくヴァイオリンにまつわる歴史がとても重く、面白い。これからヴァイオリン作品を聴く時は、もっとヴァイオリンの楽器そのものにも注目して聴かねばなと思う。使っているヴァイオリンの製作者がわかるなら、それにも注目したい。

 昔も今も人々を惑わすヴァイオリンの歴史ある名器。ヴァイオリンそのものが謎が多いのだから、それをミステリーにしたら面白い。「ヴァイオリン職人」シリーズ、続きも楽しみです。


by halca-kaukana057 | 2019-12-01 23:04 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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