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白鳥異伝


「白鳥異伝」(萩原規子、福武書店、1996)


 「空色勾玉」の続編、「勾玉」シリーズ第2作。


 三野の地の大巫女の一族である橘の氏族に生まれた遠子と、生まれてすぐ捨てられ遠子の家に引き取られた少年・小倶那(おぐな)は、双子のように育った。新年、大巫女の占いに橘の後継者である明姫(あかるひめ)が大王の妃になると出て、一族の者はみな驚く。そして新年恒例の弓の大会で優勝したのは、三野の者ではなく大王の皇子である大碓皇子(おおうすのみこ)であり、明姫を大王の妃にするために迎えに来たのだ。その大碓皇子と知り合った遠子と小倶那は、なぜか小倶那と大碓皇子がそっくりであることに気付く。それが縁で、大碓は小倶那を引き取って都で育て、自分の御影人にならないかと小倶那を誘う。小倶那も学問と武芸を身につけたいと都行きを希望し、強くなって遠子に会いに帰ってくると約束する。

 小倶那は都で懸命に勉強し、学問も山歩きも武芸もしっかりと身につけ、皇子の御影人と呼ばれるに相応しいものになっていった。ある日、宮のまかない所で働く明姫と再会する。その後皇子と再会した明姫は、橘の一族に伝わる秘伝の勾玉を働かすことに失敗し、大王の魂を鎮め命をのばすことが出来なかったために罰を受けているのだった。明姫が皇子に恋してしまったため、大王のために勾玉を動かすことが出来なかったのだ。皇子は明姫を連れ出し、大王に対して兵を挙げる。小倶那も皇子について行くが、皇子の身代わりになって大王の軍に捕らえられてしまう。そこで小倶那は自分が大王の息子であることを知り、大王の継承者であることを証明する「鏡の剣」を手にし、大王側に付く。そして、その剣で大碓皇子を倒し、三野を焼き滅ぼしてしまう。それを知った遠子は大巫女に会い、各地に散らばっている橘の一族が持つ勾玉を集め、その力は剣の力に立ち向かうことが出来ると聞かされる。橘の勾玉を明姫の妹・象子(きさこ)と共に集めに行くことになった遠子。自らの手で小倶那を殺そうと決心して。



 物語のベースになっているのはヤマトタケルの物語。「空色勾玉」の後の時代の設定になっていて、物語のあちこちに水の乙女(つまり狭也)の伝説が出てくる。さらに前作では明かされなかった勾玉の由来と秘密が明かされる。そして遠子の勾玉集めの冒険。ファンタジーの王道を突っ走ってます。日本にもこんなに面白いファンタジーがあったなんて。しかも日本神話の。ヤマトタケルの物語を思い出すために、家にあって子どもの頃よく読んだ日本歴史人物まんがを引っ張り出してきた。

 人物描写が前作以上に読み応えがある。運命に翻弄される小倶那。愛しさと憎しみに揺れる遠子。今作は恋愛物語色が濃く、その2人のすれ違いにハラハラする。勾玉が縁で遠子は菅流(すがる)という人物と出会うのだが、なんとも個性的な人物。奔放だけれども頼りになる、肝の据わった存在。この菅流が2人の間でどう動くかが読みどころ。


 男勝りで思い切りのいい遠子の性格が好きだ。小倶那の感情をなかなか表すことができず、内向的な部分も。旅先で多くの人と出会い、成長してゆく2人の姿が読んでいて快い。たとえ自分自身、またはお互いに対して葛藤を抱いていても、その細やかな心の動きに釘付けになってしまう。

 読み始めたら止まらない。この勢いで次作「薄紅天女」も読むぞ。

 前作の感想:「空色勾玉」
by halca-kaukana057 | 2006-12-10 21:19 | 本・読書

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by 遼 (はるか)
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