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白夜の国のヴァイオリン弾き

 以前紹介したフィンランド語本「フィンランド語のしくみ」の巻末で、「白夜の国のヴァイオリン弾き」という本が紹介されていた。80年代にフィンランドでの生活について書かれていた本と言えば「フィンランド語は猫の言葉」(稲垣美晴、講談社)。この本の他にもあったんだ、知らなかった。

「白夜の国のヴァイオリン弾き」
(小野寺誠、新潮社、1986)

 フィンランドには「ペリマンニ(Pelimanni)」と呼ばれる民族音楽師がいる。農民の暮らしの中でヴァイオリンやフィドル(北欧のヴァイオリンに似た民族楽器)、カンテレ(フィンランドのハープに似た民族楽器)、アコーディオンやのこぎりなどを演奏する音楽家のことで、主に世襲制でその音楽は受け継がれる。楽譜はあまり使わず、独学で耳と習練で覚えるのが基本らしい。筆者の小野寺さんはただ一人の日本人ペリマンニ。日本人はおろか外国人ペリマンニもいない。フィンランドの田舎町・イーサルミでペリマンニとして暮らし、音楽漬けの日々を送った小野寺さんのエッセイです。

 フィンランドに渡った小野寺さんはフィンランド人の妻と結婚し、子どもも生まれたが定職に就くことが出来ない日々を送っていた。子どもの頃に習ったヴァイオリンを独り黙々と弾くうちに、ペリマンニたちと出会う。フィンランドの民族音楽など全く分からなかったがペリマンニたちの演奏を聴き、共に演奏するようになる。

 庶民の暮らしに息づくペリマンニの音楽は、クラシックを学んだ者からは嫌われていることも。このエッセイの中でも、町一番のヴァイオリニストのインキネン教授はペリマンニ音楽を単純で演奏スタイルもめちゃくちゃなものだと批判していた。ペリマンニたちもクラシックなんか堅苦しくてやっていられないと敬遠する。または、演奏技術ではクラシックに敵うことは無いと羨む。私はこれまでフィンランドのクラシック音楽を中心に聴いてきた。しかし、そこにはもうひとつのフィンランド音楽、ペリマンニの音楽があったのだ。下手な演奏家は淘汰されてしまうクラシック音楽の一方で、ペリマンニ音楽は誰でも受け入れてくれるのだ、と。だが後に、ペリマンニ音楽とクラシック音楽という相反するものも、だんだんお互いに近づいてゆく。それぞれのよいところから学び、より高いものへ向かってゆく。

 ペリマンニとしての音楽漬けの生活、個性豊かなペリマンニたち。威勢よく、魂から叫ぶ想いで楽器をかき鳴らす。その熱い姿に、少しでも楽器を演奏したことがある人・音楽が好きな人なら何か感じずにはいられない。ペリマンニたちは後にいくつもの村や町から集まって練習会を開く。そこでは年配のベテランペリマンニたちが、その経験豊かな腕前を披露する。楽譜が読めない上に地域によって演奏スタイルもバラバラのため、集会では曲の解釈で揉める事はあるが、皆音楽に全身全霊をかけている。生きること=演奏することであるペリマンニたち。そんなペリマンニの世界に飛び込んでいった小野寺さんは、音楽を通じて自分自身を振り返り、生きるとは何かと考える。その問いかけ・思考が、そしてペリマンニたちの言葉がとても深くて心に染みた。

 5年間のペリマンニ生活の後、小野寺さんは妻子をフィンランドに残し帰国する。その後の小野寺さんはどうなったのだろう。もう一度フィンランドを訪れたのだろうか。何とも切ない最後でした。

 楽器の種類は違えど、楽器を演奏するものとして深く心に残った言葉を最後に引用させていただきます。本の冒頭、小野寺さんがフィンランドに住むジプシーと音楽の話をしているシーンで、そのジプシーの青年が言った言葉。
「楽器を弾けるっていうのは、きみ、神様の与え給うた<恩恵>というべきなんだぜ。<恩恵>を断わるっていう法はない。人生の<幸運>を逃しちゃいけない。いつも手元に置いておくべきなんだ。」(22ページより)

 フィンランドの民族音楽の本ですが、私は楽器を演奏する(どんな楽器であれ、どんなに下手だとしても)全ての人にこの本をお薦めいたします。
by halca-kaukana057 | 2007-03-31 22:12 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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