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恐るべき旅路 火星探査機「のぞみ」のたどった12年

 1998年に打ち上げられた、日本初の火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」。火星の大気を調べる探査機として注目されていたが、火星へ向かう軌道へ投入する際にトラブルが起き、持ち直すも更なるトラブルで火星周回軌道に乗せることが出来ないままミッションを終了することになってしまった。その「のぞみ」のドキュメント・ノンフィクションであるのがこの本、「恐るべき旅路」です。以前紹介した「宇宙へのパスポート3」の著者の一人、宇宙開発ジャーナリスト・松浦晋也氏によるものです。おお、期待。


恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―
松浦晋也/朝日ソノラマ/2005

 日本初の惑星探査機開発を目指し、PLANET-Bの構想が動き出したのが1975年。その時は、火星ではなく金星探査機としての構想だった。その後、調査内容の変更により目標は金星から火星にシフトする。火星を目指す探査機の開発と共に、宇宙科学研究所(ISAS)はそれに見合ったロケット「M-V」を開発し…と道のりは長い。さらにロケットの推進力に合わせて探査機を極限までダイエットさせたり、ロケット開発の遅れと火星の動きに合わせて複雑な軌道を計算したり…と困難は尽きない。「のぞみ」に関わった多くの研究者・技術者の話が、その困難な状況をリアルに物語る。私はこんな話が大好きだ。ハードなメカニックの陰にある、ソフトな人間の思考と感情と、そのメカニックに託している想い。その息遣いが蘇ってくるようで、科学者・技術者はカッコイイと心から思わずにはいられない。さすがは松浦晋也氏。


 そして、この「のぞみ」にはもうひとつ重要なミッションがあった。それが、27万人の名前が刻印されたプレートを火星へ運ぶことだ。今まさに地球へ帰還中の小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」や、この夏に打ち上げられる月探査衛星「セレーネ(SELENE)」でも、衛星に募集した人々の名前を載せるということをしているが、「のぞみ」はその最初の試みだった。集まった署名は27万件。今はネットで募集もしたが、「のぞみ」の時はハガキのみ。そのハガキに名前と共に書かれた人々の想いについても、この本で取り上げている。家族や恋人、友人、クラスメイト、亡くなった家族や両親・親友の思い出や宇宙への夢などなど、「のぞみ」は「宇宙灯篭流し」という役割も担うことになった。間章にある、名前と共に送られてきたメッセージを読んでいたら、思わず涙があふれてきた。ひとつの探査機の小さなプレートに、27万もの人々の想いが詰まっている。そのメッセージがあまりにもストレートにその人の人生を物語っていて、そしてその27万の全ての想いは火星へ向かっている。こんなに多くの人々が、この「のぞみ」の企画をきっかけに火星に、「のぞみ」に関心を寄せている。そして、科学主任である山本達人氏の訃報。探査機の開発に尽力していた途中病に倒れ、打ち上げ前にこの世を去ってしまったのだ。そんなことを読みながら考えていたら、涙が止まらなくなってしまった。

 

 そして打ち上げ、「のぞみ」は火星へ向かう。順調な飛行だったが、火星へ向かう軌道変更時にトラブル発生。軌道は修正できたが、燃料不足のため火星周回軌道に乗せることが困難になる。そのトラブルの原因が、軽量化や部品のひとつや、順調すぎた飛行を楽観視しすぎたことなど、しっかりと分析している。一言で言ってしまえば「失敗」。メディアもその「失敗」した結果だけを大きく報じるけれども、何が不十分だったのか、どんな対策を打てばよかったのか。プロジェクトチームもしっかりと分析・反省している。その部分はなかなか報道されない。そこをじっくり考える上でも、この本はとても重要なところをついていると思う。また、JAXAは「のぞみが遺したもの」で、探査によって得られたこととトラブルのことについてまとめている。

 現在、「のぞみ」は、火星と似た軌道で太陽を回る人工惑星になった。27万件の名前は火星には届かなかったが、宇宙を飛び続けている。
by halca-kaukana057 | 2007-05-17 21:26 | 本・読書

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