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哀愁的東京

 しばらく読んでなかった重松清の作品です。

哀愁的東京
重松 清/角川書店・角川文庫/2006

 絵本作家の進藤宏は、ひとつの作品を境に新作が書けなくなっていまい、フリーライターの仕事で生計を立てている。進藤はフリーライターの仕事を通して、様々な人々と出会う。事業が破綻寸前の起業家、閉園する遊園地のピエロ、かつては人気があったアイドル歌手、週刊誌の担当を外された編集長とその元妻、全盛期を過ぎた歌謡曲作曲家…。進藤の絵本の大ファンである出版社の児童書担当・シマちゃんと共に彼らの過去と今、そしてこれからを見つめてゆく。


 進藤が出会う全ての人に共通するのが、かつてはその分野の一線で活躍し、時代を引っ張り輝ける人生を送っていたこと。そして、今はその栄光も過ぎ去ってしまい、陰に隠れてしまっていること。多くのものを失い、周囲からも忘れられつつある。そんな彼らを追う進藤もまた、陰に隠れてしまっている絵本作家。進藤が絵本を書けなくなった理由。それに関わる忘れられない心の傷。取材で出会った人々とその傷・過去が共鳴しているように私は感じた。

 だた、この物語に出てくる進藤や取材で出会った人々は、良かった昔にすがり付こうとしていない。皆苦しくても、もどかしくても現在を生きている。前に進めなくても、現状が全く良くならなくても、昔に還ろうとはしない。哀愁を感じながらも今を生きる。その姿に静かな強さを感じた。心と身体から溢れ出る頑強さではなく、不器用だけれども優しくひたむきな強さ。そんな強さが現代の都会には似合うんだろうな(地方在住者が言うのもなんですが)。こういう見方をすると、進藤の過去の作品にこだわっているシマちゃんの方が寂しげに見えてくるから不思議だ。いや、シマちゃんは本当にイイ奴なんです、ほんとに。

 進藤はフリーライターとして、様々な仕事を引き受ける。ゴーストライターとしてゴシップ記事を書くこともあれば、週刊誌のスキャンダル記事も担当する。そういう記事をいくつも担当して、失ってしまったものを取り戻す最後のシーンに胸を打たれる。進藤も、取材で出会った人々に関しても、詳しいその後は語られていない。彼らは前に進めたのだろうか、進藤は絵本が書けたのだろうか。そんな余韻がじんわりと読後に残っている。寂しいことに変わりは無いのだけれども。

 これまでの重松作品とは、ちょっと雰囲気が違うような気はする。でも、厳しい今を生きるささやかな強さ・ひたむきさは重松清らしい。最新作「カシオペアの丘で」も気になるところ。もうしばらく待ちます。
by halca-kaukana057 | 2007-08-04 18:13 | 本・読書

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by 遼 (はるか)
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